クリスマスを終えると地獄の冬合宿が再開された。最終日は部員全員、気力のみで動いているのがはたから見ても分かる。見ているこっちがつらい。最後の追い込みではマネージャーも三年生と共に声を出して応援した。
こうして冬合宿は幕を閉じ、年内の練習も終了。
部員全員、「もう二度とやりたくねぇ!」と口々に言っていた。しかし一年生は来年もこの苦行が待っているが、今言うべきではないのだろう。
年末年始のオフに寮生は全員実家に帰る。電車で帰る者、バスで帰る者、様々である。中には新幹線や飛行機で帰る者もいるから驚きだ。高島先生の視野の広さには脱帽するしかない。
そんな中、徒歩で帰るのは私とテツ君のみ。
「テツ君、送らなくていいよ」
「…送る」
「疲れてるでしょ?さっきフラついてたの見てたからね?」
「……送らせてくれ」
「さっさと帰って寝て下さい」
「………」
「じゃあ良いお年を」
「………」
「テツくーん、歩きましょうね。私が送ろうか?」
「それは必要ない」
「それなら、はい、仕切り直し。良いお年を!」
「……良いお年を」
不満ですと顔に書いたままのテツ君と分かれ、帰路につく。あいかわらずの頑固っぷりに思わず頭が痛くなった。最近ますます頑固さが増した気がする。
家に帰ると誰もいなかった。確かお父さんは年始番組の収録だったはず。野球選手とはいえ広報にも力を入れないといけないらしい。メールで嘆きマークが連なっていたのを覚えている。
携帯を開くとタイミング良く、珍しい人から電話がかかって来た。
「次カーブね!ミット動かさないでよ!」
「分かったから早く投げろ!」
河川敷で雅功に球を受けてもらう。電話の主はなんと雅功だった。
久しぶりの感覚に指先だけでなく全身が痺れる。そうそうこの音、この感じ。忘れかけてた。
「次チェンジアップ!」
「…お前のチェンジアップ、取りにくいんだよな」
「えー?なにー?今取れないって言った?」
「言ってねぇよ!」
彼も今日からオフらしく一番に連絡をくれたらしい。嬉しくて会った瞬間、頭を撫でようとしたら弾かれた。まあ雅功だし仕方ない。
「次は新技!スクリュー行くよ!」
「待て、聞いてねーぞ」
「今言った!」
「テメェは…」
「ほら行くよ!構えて!逸らしたら承知しないから!」
「かかってきやがれ!」
彼はいつも私が投げたい球種を言うと何も言わずにミットを構えてくれる。言わずとも私が投げたいコースを分かっているのだ。三年間、ほぼ毎日無理やりペアを組まされキャッチボールをした賜物だろう。当時、なんであそこまで私にこだわっていたのか、それは未だに教えてもらえない。
「逸らしてんじゃん!私の目にはボールが転がってるように見えるけど?!あれーおかしいなぁ」
「うるせぇ!もう一球投げろ!」
思う存分投げ込んでいたらいつの間にか辺りは夕暮れに包まれていた。日が短くなったものだ。
吐く息が白いのに体は動かしまくっていたせいか全く寒くない。
雅功とキャッチボールでクールダウンを行う。
「毎日稲実の投手陣相手にしてんだから物足りなかったでしょ、ごめんね」
「…んな事ねぇよ」
「……あの雅功がお世辞を覚えた…っいたい!急に強いの投げないでよ」
「テメェが悪い」
「ええー…」