夏大前、練習終わりに全員Aグラウンドに集められた。これから何が行われるのか、言われなくても分かる。背番号の受け渡しだ。高島先生が手に持っているゼッケンは誰の手に渡るのだろうか。
空気が張り詰めている中、監督の声が響き渡る。背番号と名前を呼ばれ、ゼッケンを受け取る。ただそれだけなのに、それが彼らの夏の運命を決めてしまう儀式なのだ。
「12番、滝川クリス優!」
「はい!」
控え捕手、誰が呼ばれるのかと思ったらやはりクリス君だった。彼は嬉しさと困惑が混ざった表情を、その後ろに並んでいる一年生達は嬉しさと悔しさが混ざった表情を浮かべている。
記録員は三年の先輩マネさんが呼ばれた。きっとこの役は二年後、貴子が引き受ける事になるだろう。
そしてレギュラー陣が円陣を組んで胸に手を当てた。いつものやつが始まった。
「俺たちは誰だ!」
「「王者青道!!」」
「誰より汗を流したのは!」
「「青道!!」」
「誰より涙を流したのは!」
「「青道!!」」
「戦う準備はできているか!」
「「オォォッ!!!」」
「我が校の誇りを胸に狙うはただ一つ!全国制覇あるのみ!行くぞぉお!」
「「オオオォォォッッ!!!!」」
いくつもの指先が真っ直ぐ空に向かって伸びる。これを横から見るのが青道に入学してからの幸せ。
その後、先輩達はゼッケンとユニフォームを各学年のマネージャーに渡して行く。
「あれ、ゼッケンはマネージャーが縫うんですか」
「そうよ、クリス君の分は貴子か#name4#が縫ってあげてね」
そう言われ貴子と思わず目を合わせた。こういうのは縫いたい、よね。
「じゃあ…」
「縫い方分かんないから慣れてる眞白にお願いできる?」
譲ろうとしたのに両手を合わせてお願いされたら断れない。そんな難しい物でもないのに。
任されてしまったためクリス君に駆け寄る。
「クリス君、おめでとう」
「…#name4#はもっと悔しがってると思った」
「ん?なんで?」
ゼッケンとユニフォームを受け取ろうとしたら彼は微妙な顔をしていた。まあ彼も色々思うところがあるだろう。
「#name4#は結城達と仲良いだろ」
なんだ、そんなことか。あははと思わず笑ってしまう。
「いやいや!今のテツ君達が選ばれるわけないでしょ」
「……案外ハッキリ言うんだな」
少し離れたところにいたテツ君が見るからに落ち込んでいたのには気づかないふり。
「それにクリス君は一年生の代表なんだから胸張らなきゃ」
ゼッケンとユニフォームを受け取り、ニッコリ笑いかけた。そして離れたところにいる一年生集団に向けて背中を押してやる。
「ほら、みんな待ってるよ」
あっという間にクリス君は一年生に囲まれた。そっと離れて照れ臭そうにしているクリス君を見守る。皆、なんだかんだ嬉しいんじゃん。
昔から自分の背番号を縫っているおかげでこういうのは慣れている。けれど他人のを縫うとなるとワケが違う。
持っていた12の数字を優しく撫でた。