浮つくのは男子のみ

最近、学校全体がそわそわし始めた。どこか浮ついているような、落ち着きがないような。野球部は一年はまともなのに、先輩方は練習が終わった途端様子がおかしい。

妙にマネージャーに優しいのが良い例だ。
先輩マネさんに聞くとニヤリと笑った。

「あー、あれね。バレンタイン近いからでしょ」

なるほど、と貴子と二人で納得した。確かにあと数日でバレンタインだ。
中学の頃は貰う専門で楽だった。もちろんホワイトデーに全部お返ししましたとも。

リトルやシニアでは唯一の女子だったからちゃんと作ってあげたっけ。皆ただのチョコの塊なのに異常なほど喜ぶもんだから男の子って単純だなとつくづく感じていたものである。
あの伸一郎や雅功でさえ照れながらも嬉しそうにしているのだからバレンタインというイベントの大きさを知る。

「去年、全員分作るのめんどくさくて優しくしてくれたベスト10の人しかあげなかったのよねー」

先輩、悪い顔してますよ。
ボール磨きを続けながら貴子が口を開いた。

「それはさすがに可哀想じゃ…」

ピクリと先輩の米神が動く。彼女は大きく息を吸い込んだ。

「いーのよ!彼奴らはチョコくれりゃ誰でも良いんだから!」

……何となく察した。絶対白石先輩絡みで一悶着あったんだろう。
見えないようにため息を吐く。先輩のために一肌脱ぎましょう。

「じゃあ私と貴子が全員分作りますよ。なので先輩は一つだけ作ってください」
「一つって…」

貴子はまだ理解していないようだけど、先輩は顔を真っ赤にさせた。あーらら、可愛らしい。

「べ!別に!そういうんじゃないわよ!」
「へえ?良いんですか?こないだ白石先輩、告られてましたよ?」
「っ……」
「一旦保留にしてましたけど、その子バレンタインあげるって意気込んでたなぁ…」
「分かったわよ!あげれば良いんでしょ!あげれば!」

ムキになった先輩も可愛いったらない。貴子には先輩が用具倉庫の鍵を取りに席を外した際にちゃんと説明してあげた。

ちなみにその告白は嘘ではなく本当。ネタの仕入元は小湊君である。やはりそういう噂は寮生の方が知っているらしい。

「眞白って性格悪いんだか良いんだかよく分かんないわ…」
「ありがとう?」
「褒めてないからね」

用具倉庫内を整理しつつ貴子とバレンタインの相談をする。
引退した三年生を含めた部員全員分を作ろうとしたらそれなりに時間もかかるし費用もかさむ。何とかしてコスパ良く短時間で大量に作れないものか。

「無難にチョコクッキー?」
「型抜くの面倒じゃない?ブラウニーは?」
「うーん…」
「いっそ買う?」

貴子は内心ぐらっと来ていたようだが、なんとか持ちこたえた様子。小さく首を振った。

「じゃあオニギリにチョコチップ混ぜてみる?」
「そんなの誰が食べるのよ…」
「マズイかな」
「少なくとも私は食べたくないわ」