浮かれるのも程々に

「#name4#〜教科書貸してくれ」
「いいよ」
「あ!田之倉さんの代わりに俺が貸すよ!」
「…そう?ありがとう」

「#name4#!消しゴム忘れた!」
「またー?仕方ないなあ」
「俺消しゴム二つ持ってっからやるよ!田之倉さんもその方が楽でしょ?」
「……ありがとね」

「シロ、課題写させてくれ」
「はいはい…えっとプリントは」
「これだろ?田之倉さんはわざわざ出さなくていいよ!」
「………ありがとう」

バレンタインが近づくにつれ、クラスの男の子達が露骨になってきた。ここまでされたら誰でもわかるだろう。チョコが欲しいという欲望一つでここまで彼らを動かせるのだから本当にバレンタインとは凄いイベントだ。

中には私の席近くまで来て、
「俺一つもチョコ貰えなそう!」
「あー!悲しい!」
「可愛い子から貰えたらそれだけで生きていける!」
「誰か恵んでくんねーかなあ…」
と猛烈にアピールをしていく者もいる。ある意味勇者だ。

当然、前の席に座る小湊君が放っておいてくれるわけもない。笑顔を浮かべて面白そうにしているのはいつもの事だ。

「どうすんのアレ」
「どうもしないよ」
「へえ、意外とアッサリしてるね」
「私が甘いのは野球部だけだから」

小湊君はニヤついていた笑顔を引っ込めた。
「なら心配なさそうだね」と意味深な言葉を残して前に向き直ってしまう。タイミング良く、先生が教室に入って来てしまったため問い詰めようにもできない。謀られた。

休み時間、貴子の元へ避難する。彼女もまた同じ様なアピールを受けていた。教室から連れ出し廊下に出る。

「そろそろ良い加減にして欲しいよね」
「そんなにチョコって欲しいもんなのかな」
「分かんない…」

合わせた訳でもないのに揃って深いため息を吐いた。何で作る側の私たちが気疲れしなくてはならないのか。

「結局貴子はいくつ作るの?」
「全部合わせて150個位作ることになりそう。眞白は?」
「私は110個ほど」

再び深いため息を吐く。このバレンタイン期間で幸せがどれだけ逃げていったのだろう。

「情けであげられる程余裕ないよ…」
「申し訳ないけど無理よね…」

どこまでこの子は優しいのか。あんな露骨なヤツら申し訳なさなんか露ほどにも感じない。むしろ憐れむ感情しか湧かない。

「まあ先輩のためにも頑張ろう。了承も取らずに巻き込んでごめんね」
「ううん、私も先輩の応援したかったし全然気にしないで」

貴子は優しい子…良い子…
感情が抑えきれず頭を撫で回した。