女子には分かるもの

バレンタイン当日。遂にこの日が来てしまった。家の中がチョコレート臭くて敵わない。しばらくチョコが嫌いになりそうだ。

大きな紙袋を持って家を出る。貴子と共に作りたかったがそんな時間に余裕はないため分担して作った。私がブラウニーで貴子はチョコチップクッキー。

部員に配るのは練習終わり。それまでは食堂に置いといてもらう事にした。もちろん部員の手が届かないところに置いてもらう。残念な事に良からぬことを考える輩がいないとは言い切れない。

貴子は友達と交換するらしく50個ほど取り出していた。私は友達いないから必要なし。寂しくない。嘘です。

「そうだ、貴子には今渡しちゃうね」

別袋に入れて置いたブルーベリーマフィンを取り出す。彼女が以前、好きだと言っていたお菓子の一つだ。手渡すと嬉しそうに微笑んでくれた。

「ありがとう!私も眞白に用意してあるの!」

そう言って彼女が取り出したのはミニチーズタルト。綺麗な出来栄えに歓声が漏れる。

「うわぁ可愛い!ありがとう」
「お互い好きなお菓子覚えてたみたいね」
「確かに」

癒しの時間はここまで。ここからは面倒な問題が待っている。貴子と目を見合わせお互い無言でエールを贈り合う。

がんばれ。そっちこそ。

まあ貴子の方は伊佐敷君がなんとかしてくれるはず。私の方は…自分でなんとかしましょう。

教室に入ると甘ったるい匂いが充満していた。女の子たちが早速交換しているのが目に入る。それは微笑ましい光景だった。そこから少し視線をズラすと面倒そうな人影がチラホラ。ああ目が合っちゃった。

「おはよう!田之倉さん」
「田之倉さん、おはよう」

曖昧に笑って返す。いつもは挨拶だけなのに席までついて来た。ちょっと気持ち悪い。小湊君も笑ってないで助けてよ。

「えっと、何か用?」
「そーいうんじゃないんだけど…」
「いやまあ、アレじゃん?」
「そうそうアレだし」

何がどうアレなんだ。ハッキリしない物言いに頬が引き攣る。

「アレってチョコの事?」

口に出すと彼らの肩が大きく揺れた。そんな分かりやすい顔してたら投手になれないよ君達。

「さすが田之倉さん!優しい!」
「女子の鑑!他の女子とはちげーわ!」

遠くの方でチョコの交換をしていた子達が思いっきりこちらを睨みつけて来た。あー彼女たちに断られたわけね。

「何を勘違いしてるのか知らないけど、あげるとは一言も言ってないよ」

そう言った途端、彼らは何故か逆ギレし始めた。こんなんだからチョコ一つも貰えないんだって。

「ふざけんなよ!思わせぶりやがって!」
「こっちは優しくしてやったのに!損したわ!」

「うるさいなぁ…」

本音が漏れた。ああもう、いっか、言っても。ピタリと固まった彼らを思いっきり睨みつける。

「あのさぁ、何様のつもり?君達はチョコ貰えるような行いを普段からしてる?してないよね?影でこそこそ女子に順位付けて悪口言ってんのバレバレ。そんな失礼な奴らにチョコなんてあげるわけないから。どうせ男子内で数でも競ってるんでしょ。貰えればステータス?何それ。その世界一どうでもいい争いに女子を巻き込まないでくれる?そんなに欲しいなら自分で作れば?」

言い切った後、クラス全員がこちらを見ている事に気がついた。