野球始めました

三年生になった私は近所のリトルリーグに所属した。学校から帰るとリトルの練習、それを終えればお父さんと練習。練習に明け暮れる毎日だった。

お父さんはというと完全復活を果たし、二軍落ちしたものの、来年には一軍に戻れるそうだ。ここまで回復するのには多少時間が必要だった。

私がお父さんに野球をやりたいと伝えた次の日からお父さんの瞳に僅かだが光が射した。けれど影がなくなったわけではない。

その日のうちにお父さんは私をスポーツショップに連れて行ってくれた。
余談として私が元々持っていたのはピッチャー用のグローブだとその時知った。

買ったのはキャッチャーミット、硬式ボール10ダース、金属バット、木製バット、防球ネットなど。まだまだあるが挙げだしたらキリがない。…誰もそこまでしろとは言ってないと心の中で呟いた。

キャッチャーミットをカゴに入れた時、キャッチャー防具は買わなくていいのかと聞くと「俺は球外さないから必要ない」との事。おい待て、娘に君の球を受けさせるつもりか?無理だぞ?今休んでるとはいえプロだからなあんた。これだから野球バカは…

ただお父さんは買い物している間も帰る道中も、終始楽しそうだった。そんな姿は久しぶりで見ている私も嬉しかったのを覚えている。

家に帰ってからも徹底的に用具の扱い方、手入れの仕方を教えてもらいその日は終了。

次の日、朝起きるとお父さんの姿はなく、机には書き置きがあった。メモには「朝ごはんは台所にあるからな!行ってくる!」とのこと。思わずにんまり笑ってしまった。よかったよかった。

学校から帰ってきたら、お父さんの好物であるハンバーグとプリンを作ってダメ押しをしておこう。
彼の傷は一生癒えることはないだろうけれど立ち止まっていても何も始まらない。ただ少しでも立ち直るきっかけになれた事が嬉しかった。


「世話がかかるお父さんだこと」
「…?シロどうかしたか?」
「なんでもない!」

帰り道、買い物に付き合ってもらった上、荷物持ちまでしてくれるテツ君ににっこり笑いかける。本当にこの子はまっすぐ良い子に育って…お母さん感激です!お母さんじゃないけど。

お母さんが他界してから一気に何かが一変したわけではないが、少しずつ変化はしていた。
めいちゃんは前ほど私の後ろを付いて歩かなくなった。それに最近は私に対してワガママを言う事が少ない。幼いながらに気を使っているのだろう。
テツ君は逆に前より私のそばにいる事が多くなった。野球の試合にもマサ君と共に応援に来てくれている。ただ二人とも来るたびにウズウズしているため、野球を始める日もそう遠くないだろう。