さらさは順番が来るとスタートラインに対し後ろ向きに立った。既に走り終わったクラスメイトは棒立ちでしかも進行方向と逆を向いている彼女に不思議そうな視線をぶつける。
彼女がどこか抜けていると女子更衣室の一見で見抜いた女子生徒達は皆心配そうに彼女を見た。さらさはただただ地面を食い入るように見つめている。
「よーい……どん!」
スタートの合図と共にさらさが見つめていた地面が勢いよく盛り上がった。サラサラとした大量の砂が動き出し、彼女をすくい上げるとあっという間にゴールラインまで運んで行く。
「4秒79!」
「すげーな!あれ!」
「砂使いか!いい個性持ってんなぁ!」
切島と上鳴が感心したような声を上げた。生徒は沸き立つがさらさは我関せず。両目を閉じると今まで意思があるかのように動いていた砂は地に落ちた。さらさはゆっくり瞼を開け、それを確認するとほっと息を吐いたのだった。
個性把握テストは着々と進んだ。さらさは握力、立ち幅跳び、ボール投げ、持久走では砂を操作してそこそこな好記録をマーク。反復横跳びや上体起こし、長座体前屈は個性を活かしきれず平均以下の記録となった。
その結果、最下位にならないようにと願っていたが、最下位どころかさらさの順位は6位。
最下位除籍が合理的虚偽だと相澤に言われ、騒然とする中ただ無言で立ち尽くす。 己の個性が強いものだというのは幼い頃から理解していたが、改めて数値として見るとまざまざと見せつけられた。
「お前……」
決して大きな声ではない。生徒同士の会話が飛び交っているのにその声は自然と耳に飛び込んできた。首を回すと、いつからいたのか、隣に腕を組んだ轟が佇んでいた。
「もったいねぇな」
また喧騒に紛れてしまいそうなほどの小声。しかし耳はクリアに捉えてしまった。
訝しげに眉をひそめる。こちらを少しも向いていなかった轟の瞳が横に滑り、双眼を捉えられた。全てを見透かしてしまいそうなオッドアイの瞳に囚われ、周りの騒めきが遠のいていく。
「遊砂さん!着替えに行きますわよ!」
八百万の呼び声で緊張の糸が切れ、咄嗟に視線を逸すと途端に視野が広がった。ぐるりと見渡すと授業が終わったのか、相澤は居らず生徒も散り散りになっている。
「おーい、置いてくぞー」
耳郎が半身振り返って片手を振った。見ると八百万たちが歩き始めている。慌てて彼女たちの元へ駆け寄った。
「さらさちゃん、誰かと何か話してたの?」
更衣室に向かう途中、蛙吸が横に並んだ。ゆるゆると首を振る。蛙吸が何かを言おうと口を開いた時。
「あんたすっごいじゃん!地面がザザザーってなってさぁ!何あれ!」
芦戸に勢いよく飛びつかれ、同時に肩に腕を回された。その勢いで蹌踉めくが芦戸は御構い無し。
「砂使いなの?!それとも地面動かせる系?!」
さらさは首を僅かに首を振った。周囲を歩いていた女子生徒達もさらさの個性が気になったのか耳を傾ける。
「私の個性は“分解操作”っていって、目で見えた物を分子レベルで分解してその分解した物質を動かせるの」
「ああ、だからさっきは地面を見て、分解して、動かしたわけだ」
耳郎の言葉にさらさはしっかりと頷いた。
「複合個性という物ですわね」
「いいなー遊砂!…言い難いな…さらさでいっか!すんごい強個性じゃん!」
「なんか色々と応用できそうで羨ましい!」
周りが納得しているその時、「はいはいはーい!」と葉隠が明るい声で手を挙げた。
「聞いて!さらさちゃんの武勇伝!入試の時なんだけどね!」
葉隠によるさらさの入試でいかに凄かったのか、カッコよかったのかという話を皆が聞き入る中、さらさの背中を見ていた蛙吸はポソリと呟く。
「さらさちゃん、何に怯えているのかしら」
一方さらさは先程まで己の個性を賞賛していた彼女たちを物珍しそうに眺めていたのだった。
その日の帰りのホームルームが終わった後、わいわいと生徒たちの声が賑わう中それは起こった。
「おい!テメェ!!!どこ見て歩いてんだよ!ぶつかっといて謝りもなしか?!?!あ"ぁっ?!?!」
どこぞのチンピラかと思われる怒鳴り声が教室中に響き渡った。皆がそっちを振り向くとそこにいたのは怒り心頭な爆豪といつも通り仏頂面のさらさ、そしてその後ろに慌てた様子の葉隠。
何だ何だと生徒たちは彼らを取り囲む。そんな様子に爆豪はチッと舌打ちをすると「見せもんじゃねえぞクソが!!!」と怒鳴り散らした。
「……謝った」
「あ?」
ポツリと呟いたのは今までどこ吹く風でぼーっとしていたさらさだった。目線は真っ直ぐ爆豪を射抜いている。
「もう謝った、そっちが聞いてなかっただけ」
「あぁん?!?!」
「怒鳴ってばかりいるから耳が悪いんじゃない?」
「「さらさちゃんんんんん!?!?」」
「二度も謝るつもりはない」
「「遊砂さんんんんん?!?!?!」」
意外と好戦的、否挑発的な台詞を淡々と発するさらさにクラスメイト達は目を白黒させた。
緑谷は爆豪にここまで言う女子の存在に驚き、滝のような冷や汗をかいている。
「(かっちゃんに正面から喧嘩売る女の子がこの世にいるだなんて……!さすが雄英!!!)」
少しの間静かだった爆豪は米神をヒクつかせながら挑戦的な笑みを浮かべた。
「黙って聞いてりゃベラベラベラベラ……いいぜ、そんなに言うなら今ここでてめぇをぶっ殺す!!!」
手の平からバチバチと小規模な爆発を起こし挑発する爆豪。周りが「落ち着け!」と止めるが「うるせぇ!」と一蹴されてしまうばかり。さらさはというと葉隠を一歩下がらせると自分は一歩前に出た。
「やれるもんなら」
「そこまでだ」
一瞬で爆豪とさらさは包帯のようなものでぐるぐる巻きにされていた。これは少し前に個性把握テストで生徒全員が目の当たりにしたばかり。包帯の元を視線で辿ると案の定、担任である相澤がいた。
「「相澤先生!」」
「お前ら、登校初日から何やってんだ」
その後、暴れ狂う爆豪と拘束されたまま居眠りをするさらさは職員室に連行され厳重注意と反省文を課されたのだった。
さらさが職員室から解放され教室に荷物を取りに行くと葉隠がさらさの席に座って待っていた。
「さらさちゃん遅かったねー!相澤先生にこってり絞られた?」
「あれ…待ってたの?」
「うん!さらさちゃんが心配で!ってか!さっきはビビったよー!意外と喧嘩っ早いんだね!」
「……そうかな」
「あれだけ言ってたのに自覚なし?!?!面白いねさらさちゃん!」
「ありがとう」