trust you
「で?そんな赤の他人のために僕が動くと思う?」
バ怪盗から言い渡されたのは犯罪予知的内容だった。
宝石を盗むために下調べをしていたら判明した牧さんをめぐる人々のもつれ関係。皆犯罪動機になりうる理由があるという事。特に専属ヘアメイクの酒井なつきさんが要注意との事。
けど面識のない人間がどうなろうと僕にとってどうでもいい。それを防止や阻止するために動くなんてまっぴら御免被る。
「…これがもし現実になったらオメーの大切にしてるお姫様が悲しむんじゃねーかと思ってな」
煌めく夜景をバックに彼は意地悪く笑った。
バ怪盗の言葉の通りだ。牧さんが亡くなったら蘭はとてつもなく悲しむだろうし、また落ち込んでしまうだろう。彼女の泣き顔が脳裏をかすめていった。
「あのさ、彼女の名前出せば簡単に動くと思ったら大間違いだからね?」
「いーや」
皮肉たっぷりに言ってみるが、強めのトーンでバ怪盗に阻まれる。射抜くように僕を見た。
「天音はお姫様が絡んだら絶対動く。これは予知じゃない、確信だ」
「何をバカな事を」と吐き出そうとしたが、口から何も発する事が出来なかった。
バ怪盗の真っ直ぐな視線に気まずくなって目を逸らす。
「そんな大層な事、僕には務まらないって。今あんたの手下がここに誘導している、あの名探偵の方がお似合いだと思うよ」
「…さすが…そこまでお見通しってか」
カンカンと音を響かせながらペントハウスの上から降りる。後ろから追いかけてくる気配はなかった。
さっき言ったようにバ怪盗の手下によってもう直ぐここにあの小さな名探偵がやって来るその前にこの場から立ち去りたい。居合わせたらややこしくなる事間違いなし。
「天音嬢!」
室内に通じるドアノブに手をかけた時、振って来た声に思わず振り返る。
階段の上からこっちを見下ろしているバ怪盗は自身の胸ポケットを軽くたたいて見せた。怪訝に思いながらも自分の胸ポケットに手を入れると手に触れたのは小さなカード。
取り出してみるとビオラの押し花が張り付けられており、その隣には日時と場所が示されていた。
「買いかぶり過ぎだ、バーカ」
カードをひらひら振って見せてから室内に入った。それにしてもいつの間にこれを仕込んだのだろうか。やっぱりあなどれない。
その後、コナンと入れ違いで劇場に戻ったものの哀に頼まれコナンを回収する事になり、結局舞台を一瞬も見られなかったのはまた別の話。
(※ビオラの花言葉:信頼)