half&half


時系列ばらばら。夢主は龍くんの逆で幸運の子。

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だいすき

 そっと絆創膏を差し出せば、しばらく呆然とこちらを見たあとばっと勢いよく手ごとつかんでお礼を言うものだから、少しだけ面白くなった。
「龍くんは、いつも元気だね」
「うん、元気が取り柄って感じだからな! ……でも、キミといるともっと元気になるよ」
 もちろん、不運がなくなるからじゃないからな、なんていつものような太陽の笑顔じゃなくて目を細めて頬笑むものだから、頬の熱でお湯が沸かせそうだと思った。

 好きだと思ったら、いますぐにでも好きだー! って叫びたくなった。でも、前にそれをやったときに本気で引かれたから――私も、なんて言葉じゃなくても頬を赤らめてくれるとかそういう反応を期待したのに!――あわてて両手で口をふさぐ。うう、あぶない。
 俺の行動にきょとんと眼を丸くしてくすくすと笑いだすものだから、心の奥からすげー勢いで熱が全身に回った。これこそケガの功名ってやつだ!


 プロデューサーさんについて営業回りをしているとき、ふと視界の端によぎった「いつも」のように「浮かない」顔をした彼女を見つけて、思わず声をあげそうになった。じぃっと見つめていたら視線に気づいたのかこちらをむいて、ふわっと笑った。いつ、どこでみかけても浮かない顔をしているのに、俺をみつけて笑ってくれるその姿が愛しくて、やっぱり叫びだしそうで――「がんばるぞー!」うっかり叫んでしまって、「やる気なのはいいけど、もう少し静かにね」なんてプロデューサーさんに笑われてしまった。
じまんの

 うれしくっておもわず抱きつくというか、勢い余って飛びついたら、いつも飛びついているような人たちとは全然つくりが違うということを忘れていて、そのまま二人でひっくり返ってしまった。もちろん、倒れてる間にやばい! って思って俺が下敷きになったからけがはしてないと思うけど……
「大丈夫!? ごめん、ついうっかり……!」
「う、うん、大丈夫……だとおもう……」
 そっか、女の人ってやわらかいんだな、と実感したら急にカーッと全身に熱が回ってもう一度「ごめん!」と声を張り上げた。そっと俺の上からどかして、隣に座らせてから立ち上がる。
 手を差し出して、彼女を立たせるようにひっぱりあげて、頭を下げた。「大丈夫だから、」という彼女に、そでれも押し倒したようなことをしてしまったわけで反省した。

「いつも不運に見舞われているのに、いつも笑顔でいる姿が元気をくれます」
「いつも幸運なのに、いつも浮かない顔をしているキミを笑わせたい! って思うんだ」
 二人でいれば、不運も幸運もなく、普通なのに、どうして笑顔が増えるのだろうか。

 くすくす、とまさしく鈴が転がったような笑い声をこぼすキミを初めて見て、ぽっと──いや、ごおお、と心の奥のろうそくに火が灯ったことを自覚した。もっと笑ってほしい。笑わせたい。キミがそうやって笑ってくれるだけで、もっともっと頑張れそうなんだ。

「龍くん?」
 腕の中で俺を見上げるキミに、好きだって気持ちが膨れ上がって爆発しそうだった。こうやって誰かが好きだ、ってあふれるように揺さぶられるのが初めてで、これまでの恋愛が全部ひっくりかえったみたいに感じる。
 だって、こんなに叫びだしたくなる感情を、なのに秘めておきたい感情を、自慢したいのに見せなくない矛盾を、知らなかった。

 ざぁと降る雨に、ついてない、と思わずこぼした。この軒下に来るまでに、転ぶわ車に水をかけられるわで雨で濡れているよりもむしろ泥まみれだった。
 やっぱり傘は持っていない。はぁ、とため息をついたところでさっと目の前が暗くなった。雷かな?と顔をあげればびっくりしたようにこちらに駆け寄ってきた彼女の姿。
「大丈夫!?」
 タオルを取り出す姿に、一緒に軒下にいる姿に、嗚呼今日の俺はラッキーかもしれない! だなんて現金すぎるかな。

「龍くん? ……寝ちゃったかな」
 すぴすぴと寝ている龍くんにふわりと毛布を掛ける。普段上がっている髪がぺたりとおりていることで、より一層幼さが際立って、寝顔がまるで子供のそれだった。
「……かわいいなぁ」
 すきだな、という気持ちがこもったかわいいは、龍くんがくれるそれと同じくらい──それ以上の温度をもって、そっと夜の帳に溶けた。

「りゅっ、龍くん! あのね、」
 わたわたと両手を振りながら一生懸命と言葉を紡ごうとする彼女に、ああたくさん喋ってくれるようになったなぁ、とたまらなく嬉しくなる。楽しそうな様子に、なになに? とポーズでもなんでもなく本気で楽しみにその先を促した。