天馬から妖精たちへ

「ジェラール!」
「エルザも一緒よ」
「アリスちゃぁぁぁん!」
『ティアにシャルル!ウェンディも無事でよかった!』


そういえばウェンディと会うのはジェラールを回復して以来のような気がする。
ティアは泣きながらあたしの胸元に顔を摺り寄せた。やめてくれー、ない胸が余計潰れる。


「君は…」
「!?(やっぱり私の事…)」
『あのね、ウェンディ。ジェラールは記憶が混乱してるの。エルザの事もウェンディの事もあたしの事も覚えてないみたいなんだ』
「オレの知り合い、だったのか?」
「え?(記憶…!?そっか。それで…)」


悲しそうな顔をしているウェンディの頭を優しくなでると少し笑顔が戻った。
よかった。ウェンディは笑ってるほうが可愛いからね。


「もしかしてアンタ、ニルヴァーナの止め方まで忘れたんじゃないでしょうね!」
「もはや自律崩壊魔法陣も効かない。これ以上打つ手がないんだ、すまない」
「そんな…」
「それじゃ、私たちのギルドはどうなるのよ!もう、すぐそこにあるのよ!!」
「お、落ち着くの」


焦っているシャルルをティアが落ち着かせるために近付いたけど、それと同時にゴゴゴゴゴと大きな音がした。


「何だ?」
『ま、まさか、ニルヴァーナを撃つつもり!?』
「やめてぇーーー!!」


思わず目を背けた。その瞬間ニルヴァーナが大きく傾く。
落ちる、と思ったけど浮遊感が。


『え?』
「大丈夫か?」
『じぇ、ジェラール。ありがとう』


お腹に腕を回してあたしを持ち上げてたらしい。いつの間にこんなに身長差ができたんだろう。くそかっこよくなりやがって。
ウェンディはエルザに支えられていたから大丈夫だった。

それよりいったい…
たしかにニルヴァーナが発射した先にはあたしたちのギルドがあったはずなのにおそるおそる見ると、もとのままだった。


「あれは…、魔導爆撃艇、天馬!」

《聞こえるかい!?誰か、無事なら返事をしてくれ!》
「ヒビキか?」
「わぁ!」
『聞こえてるよ』
《エルザさん?アリスさんにウェンディちゃんも無事なんだね!》
《私も一応無事だぞ》
《先輩!よかった!》


先輩こと、一夜さんも無事みたい。でも、ナツたちは?グレイにルーシィ、あとハッピーもさっきニルヴァーナを登っていたからどこかにいると思うけど


「どうなっている?クリスティーナは確か撃墜されて、」
《壊れた翼をリオンくんの魔法で補い、シェリーさんの人形撃とレンの空気魔法で浮かしているんだ。さっきの一撃はイヴの雪魔法さ》
「あんたたち…」
「ありがとう、みんな…」
《聞いての通り僕たちはすでに魔力の限界だ。もう船からの攻撃はできない》


ヒビキの言ったとおりクリスティーナが壊れ始める。


「クリスティーナが!」
「落ちるわ!」

《僕たちの事はいい!最後にこれだけ聞いてくれ!!時間がかかったけどようやく古文書(アーカイブ)の中から見つけたんだ!ニルヴァーナを止める方法を!》
『まじ!』


ヒビキが言うには、ニルヴァーナの六本の足のようなものは大地から魔力を吸収しているパイプのようになっていて、その魔力供給を制御する魔水晶(ラクリマ)が各足の付け根付近にある。その六つを同時に破壊する事でニルヴァーナの全機能が停止する。一つずつだと他の魔水晶が破損部分を修復してしまうらしい。


「同時にだと!?どうやって!?」
《僕がタイミングを計ってあげたいけどもう…、念話がもちそうにない。君たちの頭にタイミングをアップロードした。君たちならきっとできる!信じてるよ》


ピコーンと音をたててあたしたちの頭にタイムリミットの20分がインプットされた。


「20分!?」
《次のニルヴァーナが装填完了する直前だよ》

《無駄な事を…》

『誰このドス黒い声』
「この声…」
「ブレインって奴だっ!」


ヒビキの念話をジャックして聞こえた声は六魔将軍のブレイン。うそ、ブレインってもうちょっと冷静感がある声だった気がするんだけど。


《オレはゼロ。六魔将軍のマスターゼロだ。まずはほめてやろう、まさかブレインと同じ"古文書"を使える者がいたとはな…》


ええ、何?ブレインじゃないの。ゼロってなに。同一人物ってことでいいんだよね、とりあえず。


《聞くがいい!光の魔導士よ!オレはこれより全てのものを破壊する!!手始めに仲間を三人破壊した、滅竜魔導士に氷の造形魔導士、星霊魔導士。それと猫もか》
《ナツくんたちが…!?》
「そんなのウソよ!」
《てめえらは魔水晶を同時に破壊するとか言ったなァ?オレは今その六つの魔水晶のどれか一つの前にいる。ワハハハハハ!オレがいるかぎり同時には壊す事は不可能だ!》


ビィィンと最後に音がなってゼロとの念話が切れた。
言うことだけ言いやがって。

そしてあたしたちは肝心な事に気付かされた。
戦える魔導士が六人もいないことに。


「待って!六人もいない!?魔水晶を壊せる魔導士が六人もいないわ!」
「わ、私、破壊の魔法は使えません…。ごめんなさい!」
「こっちは、(ジェラールのことは伏せたほうがいいな、)…二人だ!他に動ける者はいないのか!?」
《私がいるではないか。縛られてるが》
「一夜さん!」
「これで三人!」
《まずい、もう、僕の魔力が…念話が、切れ…》
「あと二人だ!誰か返事をしろー!?」

『いるじゃん、まだ』
「え?」


すうぅ、と大きく息を吸いこむ。


『グレイ!ルーシィ!ナツ!!聞こえてるでしょ!あたしたちの声!あんなクズにやられたままなわけ、ないでしょ!!っねえ!ねえ!!』

《グレイ、立ち上がれ…》
お前は誇り高きウルの弟子だ。こんな奴等に負けるんじゃない。

《私、ルーシィなんて大嫌い…》
ちょっとかわいいからって調子にのっちゃってさ。バカでドジで弱っちいくせに。いつも一生懸命になっちゃってさ
死んだら嫌いになれませんわ。後味悪いから返事しなさいよ。

「ナツさん…」
「オスネコ…」
「ナツ…」
『っ、ねえ!ねえねえ!!!』
「アリスちゃん、」


喉が潰れそう、声が枯れてくる。
それでも、


『っ、ねえ、、あたしの、声、』

《聞こえてる!!》


ああ、やっぱり、


《六コの魔水晶を、同時に、壊、す…》
《運がいい奴はついでにゼロも殴れる、でしょ?》
《あと18分。急がなきゃ、シャルル達のギルドを守るんだ》


応えてくれる、それがすごく嬉しくて泣きそうになった。


《も、もうすぐ念話が、切れる。頭の中に僕が送った地図がある…。各、魔水晶に番号を、つけた。全員がバラけるように、決めて…》


ナツが1でグレイが2、ルーシィが3で一夜さんが4でエルザが5。そしてあたしとジェラールが6へ行く事になった。あたしはジェラールのお手伝い。魔力がないジェラールの補助をする。

番号を決めてから念話が消える。ヒビキも限界だったんだろう。


「おそらくゼロは"1"にいる」
「ナツさんのトコだ!」
「あいつは鼻がいい、わかってて"1"を選んだハズだ」
「だったら加勢に行こうよ!みんなで戦えば…」
「ナツを甘く見るな。あいつになら全てを任して大丈夫だ」


ウェンディはエルザの自信にしぶしぶ納得した。
エルザは5番魔水晶へと足を進めたので、あたしも進もうと思ったけどやめた。
ジェラールの様子が変だったから。


「ナツ、ドラグニル…」
『お、思い出したの?』
「ああ。」


そう言ってあたしの手を引いてウェンディの元へ向かって行く。
そんなジェラールを見て不思議そうに首を傾げた。


「ジェラール具合悪いの?」
「いや、君は確か治癒の魔法が使えたな?ゼロと戦う事になるナツの魔力をアリスとともに回復できるか?」
「それが…」
「何バカな事言ってんの!今日だけで何回治癒魔法を使ったと思ってるのよ!これ以上は無理!もともとこの子は…」
「そうか。ならばナツの回復はオレがやろう」
「え?」
「思い出したんだ、ナツという男の底知れぬ力、希望の力を。君はオレの代わりに6番魔水晶を破壊してくれ」
「でも、私…」
『大丈夫だよ』


ウェンディの身長にあわせてかがんだ。


『滅竜魔法は本来ドラゴンと戦う為の魔法、圧倒的な攻撃魔法なんだよ』
「空気、いや…、空、"天"を喰え。君にもドラゴンの力が眠っている」
『ウェンディなら大丈夫だよ!自分を信じて』
「…わかりました」
「アリスちゃん、私もウェンディについていくの!」
『よろしくね、ティア』


ティアはエーラをだしてシャルルと一緒にウェンディを運んで六番魔水晶へと向かっていった。
あたしとジェラールはナツがいるであろう一番魔水晶へ足を進めた。











できるだけ急いで一番魔水晶についたのはいいけど聞こえてきたのはゼロの嘲笑いだった。


『やっぱりいた…!』
「……………、」


無言になったジェラールを見て首を傾けたけど次の瞬間ナツに炎で攻撃した。
いや、あれは攻撃って言うより回復させようとしているの?


「ジェラー、ル…」
「貴様、記憶が戻ったのか」
「ああ」

「ジェラァアアアアゥル!!」


立ち上がって走ってこようとしたナツだけど、再びジェラールの魔法で出した炎に当たり、足が止まった。


「オレに炎は効かねえぞ」
「知ってるさ…、思い出したんだ」

"ナツ"という希望をな

「何!?」
「ア?」
「炎の滅竜魔導士、その魔力は炎の力で増幅する」


やっぱり。だからジェラールはさっきからナツに炎の攻撃ばかりしてたわけだ。


「貴様…、記憶が完全に戻ってないな」
「言った通り"ナツ"を思い出しただけだ。ニルヴァーナは止める!立ち位置は変わらんぞ、ゼロ」
「何だよ、記憶って…」
「オレにはこの地で目覚める以前の記憶がない」
「ッ!?」
「最低のクズだった事はわかったんだが自覚がないんだ、どうやら君やエルザをひどくキズつけたらしい…。だが今はアリスとウェンディのギルドを守りたい、ニルヴァーナを止めたい、君たちの力になりたいんだ」

「ふざけんなァッ!!」
『な、』


ジェラールの気持ちがナツには伝わるだろう、これで大丈夫だろうと思っていたけどそんな事はなかった。魔法を使わずに拳でジェラールを殴った。


「あの事を忘れたって言うのか!?何味方のフリしてんだテメェ!」
「頼む、ナツ…、今は炎を受け取ってくれ」
「オレは忘れねえ!エルザの涙を!お前が泣かしたんだ!!」


どんな事があったかその場にいたあたしにはわからないけど、ナツの怒りは収まらないみたい。ジェラールは無言で目を伏せていた。


「やれやれ、内輪もめなら別の所でやっえくれねーかな…。うっとうしいんだよ!」
『!危ない!』
「ッ!アリス!」


二人を庇うように腕を広げてくるはずの衝撃に目を閉じていたけど、聞こえたのはゼロが放った魔法がどこかにぶつかる音と、その少し前にあたしの名前を呼ぶジェラールの声だった。
そっと目を開けてみるとそこにいたのはボロボロになったジェラール…


『ジェラール!!』
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