想いの力

崩れ落ちたジェラールのそばにナツとともにしゃがみ込んだ。


「おまえ!」
「オレをやるのはいつでもできる。もう、こんなにボロボロなんだ」
『ジェラール、あたしが治癒で…』
「オレはいい。それより今は奴を倒す力を」
「金色の、炎…」


残り少ない魔力でジェラールは金色に輝いている炎を出した。


「これは咎の炎。許しなんていらない、今は君に力を与えたい。オレは君を信じる。アリスが、エルザが信じる男を、オレは信じる」
『今だけはジェラールを信じて。お願いよ、ナツ』


ここで、ナツにわかってもらわないと、さすがに魔力がないナツではゼロを倒せない。記憶がなくなったから許せなんて、ジェラールも思ってないし、ナツからしたら何都合のいいこと言ってんだ、てなるかもしれない。
それでも、


『ナツ、お願い、っ』
「………」


ナツの仲間への思いは本物だ。その仲間を傷つけたジェラールの言葉を受け入れることに、抵抗もあるんだろう。
そんなナツに縋るように見上げる。少しだけ、目の奥がツンとしたけど、涙なんて流してる暇はない。

見つめ合って数秒、ナツがジェラールの手を握った。それは、この後のことはわからないけど、今はジェラールの思いを受け取ってくれることを意味した。
がぶがぶ炎を食べていくナツの横でジェラールは静かに体を休めた。


「ごちそー様」
『ナツ』


今度はあたしの番。
どうした?て顔のナツに手をかざすと、浮かび上がる紫の魔法陣。今回の任務で、あたしはそんなに魔力は使ってない。だから、今ここで全てナツに使う。
コブラやゼロと闘って出来た体の傷を治し、多少の残っていた毒も取り除く。そして、ナツの手を握り、ここにくるまでにいろんなところで、使いまくった魔力も回復。
スーッとあたしの中から魔力が無くなって、血の気が引いていくのを感じた。


『ごめんね。沢山がんばってくれてるのに、こんな事しかできなくて、ごめん、』
「んな顔すんなよ。助かってるから、な?」
『、うん』


ナツの手から自分の手を離して、あたしもジェラールの横にゆっくりと腰をおろした。


「確かに受け取ったぞ、ジェラール」
「咎の炎か、それを喰っちまったら貴様も同罪か」
「罪には慣れてんだ、妖精の尻尾の魔導士は。本当の罪は…、目をそらす事、誰も信じられなくなる事だァ!」


その場からすごいスピードでゼロのところに行き次々と攻撃していくナツ、ゼロは反撃しようと攻撃しても弾かれて相手にならないみたいだ。
ナツの周りには眩しくなるような光が出ていた。この光、あたし知ってる


『ドラゴンフォース、』
「ドラゴンフォース!?」
「この力、エーテリオンを喰った時と似てる…。スゲェ…、自分の力が二倍にも三倍にもなったみてえだ」


ドラゴンフォース、滅竜魔法の最終形態でその魔力はドラゴンの力にも等しいと言われる。すべてを破壊する力。
ゼロはそんなナツを見て嬉しそうに口角を怪しくあげた。


「面白い」
「これなら勝てる!」
「来い、ドラゴンの力よ」

「行くぞォ!!」


先程とは変わりナツもゼロもお互い五分五分な感じがするけどゼロの方がおしている。頭の中でタイムリミットが迫っていることに少し焦りながら目の前の状況を見ていた。


「どうやらその力、まだ完全には引き出せてねえようだなァ!!」
「ぐはァっ!」
「こんなモノか!?ドラゴンの力は!太古の世界を支配していたドラゴンの力はこの程度かー!!」


ナツを殴る音がリアルに伝わってきて思わず目をそらしてしまう。音が聞こえなくなりそっと見てみるとゼロが立っていてナツは倒れていた。


「オレは六魔将軍のマスターゼロ。どこかの一ギルドのたかが兵隊とは格が違う」
「うう、ぅぐ…」
「てめえごときゴミが一人で相手にできる訳がねーだろうが」

「一人じゃねえ…」
「ん?」
「伝わってくるんだ…、みんなの声、みんなの気持ち。オレ一人の力じゃねえ…。みんなの想いが、オレを支えて、オレを!今ここに!立たせている!!」
『ナツ…』
「仲間の力がオレの体中をめぐっているんだ!!」


より強い炎の光を出すナツを見ても口角はあがったままのゼロはなんだか嬉しそうだ。


「粉々にするには惜しい男だかもうよい、楽しかったよ。貴様には最高の無をくれてやろう。我が最大魔法をな」
「滅竜奥義…」

「"紅蓮爆炎刃"!!」
「ジェネシス・ゼロ!」


お互いの最高の魔法がぶつかり合った___

ぶつかり合ったお互いの魔法、ナツが闇に喰われたかと思えば金色の炎がゼロの魔法を焼き尽くした。


「全魔力解放!滅竜奥義"不知火型"紅蓮鳳凰劍!!」


そしてゼロに攻撃した状態でそのまま魔水晶に向かってぶつかりにいった。頭の中ではちょうどタイムが0になって、大きな音が聞こえたからみんなも成功したみたい。
支えるモノがなくなったニルヴァーナは、あとは壊れるだけなので早くここからでないと潰れてしまう。


『ジェラール、たてる?』
「ああ、なんとか」
『ナツ!大丈夫…、じゃない!』


ナツの方に振り返ってみるとふらふらしてて滑り落ちていってた。ゼロとの戦闘中にできた足元の大きな穴に落ちそうなナツをなんとか引っ張ってるけど、このままじゃ時間の問題だ。


『も、むりィィイ!!』


ぎゅっと目を閉じてナツとともに落ちると思ったけど、暗くなる視界の少し前にジェラールがあたしの名前を呼ぶ声と、浮遊感があった気がした。











「アリスちゃん!」
『…ん、ティア……?』
「愛は仲間を救う、デスネ!」


あたしとナツ、そしてジェラールの三人を抱えていたのは六魔将軍のホットアイだった。助けてくれたの?あたしたちをおろしてくれたホットアイをどんな目で見ればいいの?
敵じゃなかったっけ?


「ナツさん!」


えええええ。あのウェンディがナツに抱きついた!?男の免疫ないから自分から抱きつきにいったりなんてしないウェンディが。それほど嬉しかったんだろう、ギルドを守れたこと。

じゃああたしも誰かに…、と思ったけど体は前に進まなかった。おかしい。ティアもあたしの方に来ようとしたけど、こっちを見てびっくりしたようで来るのをやめた。ひどい。

ナツとウェンディは元気よくハイタッチしている。


『あたしもハイタッチしたかった』
「もう少しだけこのまま…」
『え!?ジェラール!?』
「なんだ?気付いてなかったのか」
『あ、う…、ごめん』


近い近い近い!!心臓壊れるマジでヤバい!
そういやあたしの首元にジェラールの腕があったわ。しかし!後ろから抱きつくとか心臓に悪いから!戦い終わったけどあたし死ぬかも。
表情には出さないけど内心あたふたしてたらジェラールの腕から解放された。ちょっと残念。

後ろからグレイとルーシィの「何!?」「あの人が!?」と言う声が聞こえてきた。エルザが二人に説明したみたい。そしてエルザはあたしとジェラールを見ると、ふっと笑いこっちに背を向けた。気を使ってくれたのだろうか、絶対エルザも話したいことがあったのに。


『…これからどうすんの?』
「わからない…」


あたしがジェラールの正面に立つとジェラールは消えそうな声で話した。


「怖いんだ、記憶が戻るのが…」
『…あたしがいるよ』
「!?」


ジェラールの手を握って言えば驚いたように伏せていた顔をあげた。その顔はすごく困惑してるような、寂しいような表情をしていた。


『たとえあたしのことを思い出せなくても、ジェラールへの気持ちは変わんない。今のジェラールは放っておけないよ』
「アリス…」


ジェラールに抱きしめられて胸元に寄り添った。ぎゅうぎゅう抱きしめられるからあたしも負けずと背中に手をまわしてジェラールを抱きしめた。
胸がぽかぽかする。久しぶりかもしれない、こんなに誰かを愛しく思ったことは。忘れていた感情があたしの中に戻ってくる。


『あたし、あたしね、ジェラールのことが…?』
「………」


好きなんだよ、と告げようとしたが、ジェラールに手で口を塞がれた。何故ここで止める、と思ったけど、記憶があるあたしとは違って、記憶のないジェラールからすれば、少し一緒にいるだけの人から告白されるなんて、確かに気まずいかも。


『ごめん、なんでも「好きだ」…ぇ?』


笑ってごまかそうとしたあたしは、急に口を開いて呟いた一言に、きっといや確実に間抜けな顔をしてるだろう。目をぱちくりさせて都合のいい聞き間違いじゃないだろうかと、ジッと見つめるともう一度少し微笑みながら告げた。


「記憶がなくても、心のどこかで愛しいと感じている。この数時間で、アリスという人を改めて知れて、それでも惹かれている自分がいるんだ」
『…うん、あたしもね、大好きだよ』


ジェラールの言葉が嬉しくて、たくさんの気持ちが混じっているけど、何よりもあなたが好きだと伝えたかった。
だんだんと近付いてくるジェラールの顔にあたしも応えるようにして顔を上にあげた。唇が触れ合う瞬間、一夜さんの声と何かにぶつかる音が聞こえた。
軽く唇が触れてすぐに離れた。ジェラールとちゅうしちゃった…!楽園の塔にいたときに一回だけしたけど。


「どうしたオッサン!」
「トイレの香りをと思ったら何かにぶつかった〜」
「何か地面に文字が、」
「こ、これは…」
「術式!?」


ほんの数秒前の幸せな時間を奪われるような、イヤな予感がしたんだ…。
ジェラールを離さないように服を握りしめた。


「いつの間に!?」
「閉じ込められた!?」
「誰だコラァ!!」


近付いてくる多くの足音とともに、あたしの不安も大きくなってくる。
複数の足音と術式の正体は、白い制服を見に纏った評議員の人達。


「手荒な事をするつもりはありません。しばらくの間そこを動かないでいただきたいのです。私は新生評議院第四強行検束部隊隊長、ラハールと申します」
「新生評議院!?」
「もう発足してたの!?」


法と正義を守るために生まれ変わった評議院でいかなる悪も許さない。そしてラハールは六魔将軍であるホットアイを渡せ、との事だった。ホットアイは一からやり直したいと言ってジュラさんが弟を探そうとなり、まさかのその弟はエルザの知り合いだった。
光を信じる者だけに与えられる奇跡、ありがとうと何度も行って評議院につれていかれた。


「もうよいだろ!術式を解いてくれ!もらすぞ!」
「いえ、私たちの本当の目的は六魔将軍ごときじゃありません」
「へ?」
「評議院への潜入、破壊。エーテリオンの投下。もっととんでもない大悪党がそこにいるでしょう」


そんなのに当てはまる人なんて一人しかいない。


「貴様だジェラール!来い!抵抗する場合は抹殺の許可もおりている!!」
「そんな…!」
「ちょっと待てよ!」


ほおら。
イヤな予感は的中するんだよ。


「その男は危険だ。二度とこの世界に放ってはいけない。絶対に!!」


そんなこと、言われなくてもあの楽園の塔事件を知ってる人ならみんなわかる。
でもそんなの、ニルヴァーナを止めてくれた、ナツに力を貸してくれた人を危険人物として扱うなんて、ちょっと人として、許せないものがある。

あたしの中でモヤモヤと小さな怒りが溜まって、無くなったはずの魔力が溢れてくるのが感じる。

パリンッ…


「っ術式が…!」
「壊れちゃった!?」
「ジェラール!貴様か…っ、?」


更なる敵意をジェラールに向けてくる評議員から庇うように前に立つ。


『なんでも疑うのは良くないよ、ラハール』
「アリス、おまえか…」
『関係ない人まで術式に閉じ込めんなよ。ましてや闇ギルド討伐した相手にさ』
「っ、そうだな。それに関しては申し訳ない。しかし、ジェラールを野放しにはできない。…庇うのか?」
『だったら?…あたしとやる?』


ピリピリとした殺伐な空気があたしとラハールの間に漂った。ルーシィなんてこの空気が恐ろしいのか、顔を真っ青にして泣きそうな顔をしている。
そんな中、後ろからあたしの着物が引っ張られて、闘気が薄れた。あたしの真近くにいて、後ろに庇ってる人物なんて一人しかいない。

いざとなればあたしはここのみんなと戦って、ジェラールを連れて逃げる覚悟はある。
わかってるよ、それを望まないこと。それでもどうにかしなきゃって、あたしの脳は叫んでたんだ。
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