優しくあれ

ニルヴァーナを止めるため中心部を探していたらすごい声が聞こえてきた。六魔将軍!?
じゃ、ないな…。この竜のような叫びは、


『エルザ、この声』
「ああ、ナツだ」
『やっぱり!てことは戦闘中ってことか』
「私たちも急ごう!」


ジェラールが思っているよりも魔力を消費していたので、走るわけにはいかないから少しだけ歩くスピードを速めて声が聞こえた方に向かった。


『そう言えばエルザの体の毒とれたんだ』
「ああ、ウェンディのおかげでな」
『よかった!』
「ウェンディは戦闘が苦手だと言っていたがアリスはどうなんだ?」
『あたしは両方ばっちこいだ!』
「ふ、それは頼もしいな」


今更だと思ったけどエルザの毒はキレイさっぱり消えていた。さすが天空魔法。

あ、今思えばあたしの天空魔法でジェラールの魔力を回復したらいいんじゃない?


『ね、ジェラ……!』


ドゴォォオン!!


「今の爆発は…」
「王の間の方だ」
『ビックリした…!?』

「父上も人が悪い…。ボクの楽しみを奪ってしまうんだからね」


爆発音に驚いたのもつかの間、怪しい魔力が感じて振り返ってみれば六魔将軍のずっと眠ってたヤツ、ミッドナイトだった。


「もう君たちが最後のエモノだ。楽しませてほしいな」


親子で闇ギルドとか趣味悪!!
しかもブレイン同様靴の底をつかつか音を鳴らしながら近付いてくる。
戦闘するために構えるが、横からのびてきた手によって阻止された。


『ジェラール?』
「下がっていてくれアリス、エルザ」
「ジェラール…」


ジェラールが魔法を使おうとしたけど、それよりも早くミッドナイトがジェラールを攻撃した。しかも一撃で倒れた。


「ボクはね…、君のもっと怯えた顔が見たいんだ」


あたしが倒れたジェラールの元に行くと、エルザはミッドナイトに剣を振りかざしていた。けどミッドナイトには傷一つつかずに、逆に時空で剣を曲げたかのように屈折した。何度切りかかっても同じように曲げられる。


「もうメインディッシュの時間かい?エルザ・スカーレット。いや、まだ君がいるね」
『っ…、ジェラール大丈夫?』
「あ、ああ。オレよりも、エルザ!離れろ!そいつはマズイ!!」


ミッドナイトの不気味な笑みがあたしを見ていた。すぐに目をそらしてジェラールの無事を確認してからエルザを見ると鎧で体を締め付けられていた。そして自身で鎧を壊して新しい鎧に変える。


「なるほど、そういう魔法か」
「そう、ボクの屈折(リフレクター)は全ての物をねじ曲げて歪ませる。魔法をはね返す事もできるし、光の屈折を利用して幻だって作れるんだ」
「なんという魔法だ…」


幻も、ね。
そんなに自分の魔法のこと話しちゃっていいのか。あたしも戦わなきゃ…!
バッて立ち上がり武器を出そうとしたら腕を掴まれた。


「行くな、行かないでくれ…」
『じぇ、らーる?』
「無理なんだ、あんなヤツに勝てるわけない…」
『ごめん』


ジェラールの腕をそっと振り解く。


『あたしは大切な物を守るために戦いたい』
「アリス…」


化猫の宿に向かっているこのニルヴァーナから、ギルドのみんなを守るために。六魔将軍討伐のために集まった連合軍のみんなの役に立ちたい。


「ぐあぁぁぁぁあ!!」
『エルザ!』


悲鳴じみた声に振り返ると、鎧がボロボロになって倒れているエルザ。それを見てつまらなさそうにしているミッドナイト。


「まだ死なないでよ、エルザ。化猫の宿に着くまでは遊ばせてほしいな」
「化猫の宿?」
「僕たちの最初の目的地さ」
「なぜ、そこを狙う…」

「その昔戦争を止める為にニルヴァーナ
つくった一族がいた、ニルビット族」


ニルビット族が想像した以上にニルヴァーナは危険な魔法だった。だから自分たちのつくった魔法を自らの手で封印した。悪用されるのを怖れ、彼らは何十年も何百年も封印を見守り続けた。そのニルビット族の末裔のみで形成されたギルドこそが、化猫の宿。
末裔…。


「この素晴らしい力を再び眠らせるなんておかしいだろ?この力があれば世界を混沌へといざなえるのに…。そしてこれは見せしめでもある、中立を好んだニルビット族に戦争をさせる」
『っ!くそが』
「ニルヴァーナの力で奴等の心を闇に染め殺し合いをさせてやるんだ!ゾクゾクするだろう!?」
「下劣な…」


その考えを否定したように言うジェラールを見て、ニヤリと口端をあげるミッドナイト。そしてジェラールの苦しい覚えてもいない過去を話して、闇に落とし込もうとする。

手をさしのべて、


「こっちに来なよジェラール。君なら新たな六魔にふさわしい」


ジェラールはそれに答えずに迷ったように震えている。

だからあたしはその手を強く叩いた。


『ふざけるな、何がふさわしいよ。悪いけどアンタらのギルドは今日でお終いだから』
「この状況で随分つまらないことを言うんだ」
『それに、』
「ん?」


あたしはジェラールの中の光を知っている


「……アリスの、言うとおりだ!」
「へぇ、まだ立てるのか。噂通りだね、エルザ。二人とも壊しがいがある」
『エルザ、ここはあたしにやらせて』
「な!私も共に…!」
『お願い。仲間ボロボロにされて、黙ってらんない』
「ふっ、無理をするなよ」


それに大きく頷いて目の前にいる相手を睨みつける。あたしをみてミッドナイトは嬉しそうに笑った。


「君と戦えるなんて嬉しいよ」
『そ。あたしはどうでもいいけど』


向かい合い、手を出して魔力を高める。


『召喚』


魔法陣が出てきて、思い描いた武器、双剣が出てきた。それを両手に持ち、構える。


「何をするかと思ったら。だから、ボクに攻撃はあたらないって」
『は、どうだか』


両手で剣を振ったけどやっぱり屈折でまげられてしまう。だけど、さっきのエルザとの戦いを見て、こいつの魔法はだいたいわかった。


「ホラ」
『よっと』
「な!」


ミッドナイトは剣を避けたけど、その瞬間を逃さずに足でわき腹を蹴ると、飛ばされて後ろの壁にめり込んだ。蹴られた本人はもちろんジェラールまでもが驚いていた。


『攻撃はあたらないんじゃなかったの?』
「な、ぜ…」
『この魔法の弱点だよ。さっきの戦いでアンタはエルザの鎧を狙った、体じゃなくて。つまり体は曲げることができない』
「フン、そうだとしても本気を出せば衣服で君を絞め殺すこともできるんだよ」


あたしの服を狙おうとしたけど、エルザが前に来てあたしを庇った。あたしの代わりにエルザの服がエルザを締め付けている。


『エルザ!』
「大丈夫だ、アリス」
『うん、二つ目は…、これ』


先程と同じ様に召喚魔法で武器をできるだけ多く取り出す。そしてそれをミッドナイト目掛けて投げつけた。それに反応して屈折で曲げないで避けようとしたけど、範囲が広くて避けきれなかったみたいでモロにくらう。


『アンタがエルザの鎧を曲げてる間、エルザの剣を避けてかわしたよね?つまり曲げられる空間は常に一か所ってこと』
「自分の周囲か敵の周囲のどちらか一か所だけ。私に魔法をかけてる間は自分の周囲に屈折を展開できない」
「ぬう…!」


魔法を見抜かれたからか、悔しそうに歯を食いしばり、地面を這いずるミッドナイトに対し、あたしとエルザは余裕の笑み。


「そしてこの悠遠の衣は伸縮自在の鎧、その魔法は効かん」
『だからあたしの代わりになってくれたんだ。あれ?てことはこの鎧も含めると弱点は三つってこと』


見下ろすように言うと、ミッドナイトは地面に拳を叩きつけて悔しそうにしていた。
けど、すぐに様子がおかしいことを感じる。ミッドナイトは這いつくばってる状態からあたしたちを見上げる。


「あと少し早く死んでたら、恐怖を見ずにすんだのにね」


ゴォーン、ゴォーン、とどこかで鐘が鳴った。
それを合図にミッドナイトの体がボコボコと音をたてながら変身していく。


「真夜中にボクの歪みは極限状態になるんだ」
「何だ!?」
「ああああああ!」


あたしとエルザの前に現れたのは、変身を終えたミッドナイトの影すら残さない化け物のような者。


「もうどうなっても知らないよ。うらァ!!」


大きな手に雷の魔法を発動してあたしとエルザは殴られる。急所に当たらないように体制を変えたけど、防御してもこの威力。
そして立てることができないジェラールの体を爪で貫通した。違う指の爪であたしとエルザも刺された。


『ああああああああ!』
「うわああああああ!!」
「ハハハハハハッ!!」



………………あれ、何であたしの体何ともないの?エルザとジェラールも貫通して生きていけるような状態じゃなかったのに…。

ぽかんとして、状況把握のため周りを見渡すと、片目を瞑ったエルザがミッドナイトを剣で切っていた。
なるほど、そういう事ね。


「ボ、ボクの幻覚が、効かない、のか…」
「残念だが目から受ける魔法は私には効かない」
「そ、そんな…。ボクは最強なん、だ、父上をも越える最強の、六魔。誰にも負けない、最強の、魔導士」
「人の苦しみを笑えるようではその高みへはまだまだ遠いな。誰にも負けたくなければまずは己れの弱さを知る事だ。そして、」


常に優しくあれ


ああ、これがフェアリーテイル最強の女魔道士、エルザ。
かっこよすぎるよ。
TOP