吸い込まれた街

「777年7月7日?」


ルーシィから聞こえてきた"7"ばかりの日。それはまぎれもない、あたしたちに滅竜魔法を教えてくれた親のような存在である竜が消えた日。
ナツとガジルの竜も同じ日にいなくなっている。

シャルルの怒鳴った声に振り向くと魚をあげようとしていたハッピーに言ったみたい。シャルルはギルドから出て行ってハッピーとウェンディも追いかけていった。


『猫にも猫の事情ってのがあんのかな』
「…アリスちゃんはティアが守るの」
『ん?何言ってんの?いつもあたしが守ってるじゃん。変なの』
「笑うんじゃないのー!」


シャルルを筆頭に、ティアも何だか様子が変。でもティアから話すまでは無理に聞き出そうなんて思わないで、気長に待ってみよう。

あ、天気が変わろうとしてる。
あたしはこんなのに敏感、天竜だからかな?
さっきまで晴れてたのに急だなー。それに天が変な感じ。


「雨やまないなぁー」
「ジュビアのせいじゃないと思う」
「誰もそんな事言ってねーよ」
「くかー」
「いつまで寝てんだナツ」
「顔にらくがきしちまおーぜ」
『さんせー!召喚』


天気のことは気にしないことにして、グレイと一緒にナツの顔にらくがきし始めた。あたしこんなのすっごい得意。


「召喚魔法って便利だな」
『まーね。どーだ!』
「ブフッ!アリスサイコーだ!」
『いやいや、グレイもなかなか!』
「団結力すごいわね」


ジュビアの視線が痛い。ごめんなさい、グレイはすぐに返すから。ルーシィに団結力をほめられて調子にのったあたしたち。

十分らくがきしたところであたしは外出準備をしているミラのところへ。


『どっか行くの?』
「え、ええ、」
『?、、(あ…)いってらっしゃい、気をつけてね』


ミラが少し気まずそうな返事に疑問を抱いたけど、その格好を見て、分かってしまった。確かにあたしに聞かれたら答え難いことだったろう。
きっと、外出先は教会。そこにはミラの妹、リサーナのお墓がある。ミラの紹介で何回かあったことがあるけど、まだ挨拶には行っていなかった。というよりは、行けなかった。

弟のエルフマンとミラが傘をさしながら、出て行くのを見送って、再度暇になったあたしはグレイとジュビアのとこに行って、ジュビアの紅茶を一口もらった。


『ひーま』
「(間接キス…!)あ、雨やみませんね」
「何かすることねえかな」


この雨じゃみんな仕事もやる気が出ないらしくてギルド内で過ごしている。


《みんなー!》

『ウェンディ…?』
「アリス様?どうしました?」
『ウェンディの声が聞こえたんだけど…』


何かあったのか、いつものほんわりした声じゃない。必死に伝えようとしてる、その声に座ったばかりの椅子から立ち上がる。周りを見てもウェンディはいない。それに、このウェンディの声、あたし以外には聞こえてないみたい。


《大変なの!!空が…!》

『ウェンディ!何があった、!?(天が変…!)』
「ウェンディならいねえけど…」
「どうしたんでしょうか?」


天の異変に気がついた瞬間グレイとジュビアの声を最後にあたしの意識は途絶えた。











『ぶふぁ!』


なになに、何なの。目が覚めたら白い地面みたいなとこに埋まってたから窒息するかと思ったし。周りを見てもさっきまで隣にいたグレイとジュビアはいないし、ティアが見あたらないし、ウェンディもいない。

そして何より妖精の尻尾がなくなっていた。
ギルドだけじゃなくて街全体も。


『あー!もう!なんなの!?夢!?これ夢!?』

「アニマに吸い込まれたんだ」
『!あなたは、?』


自暴自棄にこれは夢だと思い、目が覚めるまで好き勝手やってやる、なんて考えた時に背後から声が。
よかった。あたし以外にも残ってる人はいた。それだけで安心感が溢れてきた。
全身をローブで覆った、姿がバレないようにしてる人、あたしが妖精の尻尾にきたときに、二階から様子を伺ってた人だ。


「私はミストガン」
『ミストガン、』

彼が、妖精の尻尾最強魔道士のうちの一人と言われてる、

いや、今はそんなことよりこの状況を把握したい。何やらミストガンは訳を知っているみたいだし。


『アニマって?それに吸い込まれるってどうゆう事?』
「もう一つの世界、エドラスと繋がっているアースランドの魔力を吸収するため超亜空間魔法アニマ、それがあの空の穴だ」
『もう一つの世界?てか、え、あ、その声…』


もう一つの世界やら魔力を吸収だのわけが分からないけどあたしが驚いたのはミストガンの声。
この声、、


『じぇらーる…?』
「……すまない。私は君の知ってるジェラールではない」
『……え?』


マスクをとったミストガンはジェラールと瓜二つだった。でもあたしにはわかる。そっくりだけどジェラールではない。


「今は詳しく話している時間はない。これを」
『何それ?んぐっ!』


口の中に放り込まれたのは赤い球をした何か。急に入れられたので変なところに入りそうになった。


『エドラスとアースランドって何?みんなは無事なの?』
「エドラスは向こうの世界、アースランドはこちら側の世界だ。…無事かは、わからない」
『な、んだよそれ…。どういう事だよ!!』
「、すまない。私もできる事はする」


そうだ、落ち着けあたし。ミストガンを責めても何もない。もう二度と、仲間を失うなんてあんな虚無感、一生体験したくない。
だったらあたしがすることは一つだけ。


『エドラスってとこにみんながいるんでしょ?だったらあたしは助けにいく』
「アリス…。頼むから無理はしないでくれ」
『ん。ミストガンもね』


体が吸い込まれる感覚がした。だんだん遠くなる地面と小さくなるミストガン、何だかミストガンの表情は悲しそうに見えた。
魔法を使って高く飛び上がる。


向かうはもう一つの世界、エドラス。
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