たくさんの島や水、草木が浮いていて本当に別世界のようだ。天空魔法を使いながらゆっくりと降下した。
『エドラスに来たのはいいけどみんなどこにいるんだろ』
頼りになる鼻を使いみんなの匂いを探した。でも別世界の匂いになれていないのか誰の匂いも嗅ぎ分けられない。
『そうだ!《…ウェンディ!聞こえてる?ウェンディ!》』
心の中でテレパシーをするようにウェンディに呼びかけてみる。街がエドラスに吸い込まれる前にウェンディがあたしにやったように。
《…アリスさん!?》
《よかった。無事だったんだ》
《今どこにいるんですか?》
《よくわからないけどエドラスのどっか》
《エドラスのどっかって…。私たち今妖精の尻尾を見つけたんです!》
《え、ちょっと待ってて!あたしもすぐそこ見つけるから!》
上手くできたテレパシーを終えて場所を探す。ウェンディが私"たち"て言ったから他にも誰かいるのは間違いない。なれてきた匂いでウェンディの匂いを探すと案外近くに感じたので魔法を使って急いで移動した。
あたしがたどり着いたそこにはウェンディとナツ、ティアとシャルルとハッピーがいた。
『みつけた!』
「アリスさん!」
「アリスーっ!」
『うぎ!』
「アリスちゃぁぁん!」
妖精の尻尾を覗いている後ろから声をかけるとナツに抱きつかれてあたしは潰れた。腰の骨がボキって鳴ったような…。あ、ナツにやった顔のらくがき消えてる。よかった。
『つか何?妖精の尻尾イメチェン?それに猫ちゃんたち何か様子おかしいけどどうかした?』
「あの、それは…」
『ま、いっか。ギルドに入ってみよっか』
「だけどアリスちゃん。みんな変なの」
『変?』
隠れるようにして中に入って見てみると変の意味がわかった。
重ね着しすぎのグレイがジュビアにゾッコン。ジュビアはグレイを相手にしていない。いかにも強そうなオーラが出てるジェットとドロイが弱気なエルフマンを説教している。アルコールが苦手でお嬢様な話し方のカナ。ビスカとアルザックはラブラブしすぎ。
『確かに変!』
「だろ!?」
「おい。誰だてめーら。ここで隠れて何コソコソしてやがる」
「ルーシィ!?」
「さん!?」
「これは一体、どうなってるの?」
隠れていたあたしたちを見つけたのはいつもと雰囲気が違う怖そうなルーシィだった。みんなの視線こえェよ。
「ナツ?」
「!」
「よく見たらナツじゃねーかおまえ!」
「ぐもっ」
さっきまでの怖い雰囲気ではなくてテンションが高くなったルーシィ。ナツに抱きついた瞬間ナツの声と体から悲鳴が聞こえた。さっきのあたし同様。
「今まで、どこに行ってたんだよ。心配かけやがって…」
「ルーシィ…」
「処刑だっ!」
「んぎゃー!!」
ちょっとシリアスな雰囲気になったと思ったらルーシィの行動で壊された。男が言うにはルーシィの48の拷問技の一つ"ぐりぐりクラッシュ"らしい。すげえ名前。
怖いルーシィ、お上品なカナ、泣いてるエルフマン、ジュビアに嫌われてるグレイ。おかしすぎだろ。
「これ全部エドラスの影響なの?何から何まで全部逆になってるよ」
「ルーシィ!またナツをいじめて!ダメじゃない!ジェットとドロイもエルフ兄ちゃんをいじめないの!」
『!う、そ…』
「リサーナ…」
あたしたちの前に現れたのはまぎれもないミラとエルフマンの妹であり、死んだはずのリサーナ。
嬉し泣きをしながらリサーナに抱きつこうとしたナツとハッピー、だけど二人ともルーシィに蹴飛ばされた。ご愁傷様。
ナツを慰めようとするグレイ。ありえない、こんなのグレイじゃない。鳥肌たちそう。
「みんなが逆になってる訳じゃないって事ね。見なさい」
「ナツ〜おかえりなさーい」
シャルルに言われた方を見ると笑顔で手を振っているミラ。
「決定的なのはアレ」
「あの子少しおまえに似てね?ウェンディ」
「そう?」
「私ー!?」
ミラは普通だったけどウェンディは全然違った。大人だし巨乳だし巨乳だし巨乳だし。あたしより大きいんじゃない?
「"逆"じゃなくて"違う"のよ。この人たち私たちの探してるみんなじゃないわ」
『てことはエドラスの住人ってことか』
パラレルワールドのようなものでエドラスはエドラスとして存在していてその中にあたしたちがいるって事か。ナツとあたしはどこにいるの?
「じゃあオレたちの知ってるみんなはどこにいんだよ!?」
「知らないわよ!それをこれから見つけるんでしょ。これ以上ここにいるのも面倒ね、行くわよ」
「どこ行くの!?」
「王都よ!吸収されたギルドの手掛かりは王都にあるハズ!」
ティアがシャルルに行き先を聞くとまさかの王都、…てどこやねん。
出て行こうとしたけど扉を開けて入ってきた人が大声で叫んだ。
「妖精狩りだぁぁぁーっ!!」
その瞬間ざわつき始めるギルド。出て行こうとしたティアたちはルーシィに止められた。
大気が震えてやってきたのは巨大な怪物。
「王国が妖精の尻尾を狙ってる!?何の為に…」
「そんなの決まってるじゃない」
「(私…!)」
「王の命令で全ての魔導士ギルドは廃止された。残ってるのは世界でただ一つここだけだから」
「え?」
「知らないでナツについてきたの?つまり私たちは闇ギルドなのよ」
闇ギルド。それがこの世界の妖精の尻尾。
あたしたちとは違う。
レビィが転送魔法陣を展開して転送を開始したのであの怪物にやられずにすんだ。
転送する直前に窓から見えたのは確かに緋色の髪の毛だった。
「な、何だったんださっきの奴らは…」
「どうしちゃったの?ナツ…、久しぶりで忘れちゃった?あれは王都魔戦部隊隊長の一人、エルザ・ナイトウォーカー。又の名を妖精狩りのエルザ」
「エルザが…、敵!?」
なんとか転送に成功して、落ち着きを取り戻したギルド内では、あたしたちのことについて話をした。ここの世界のあたしたちとは別人であること、違う世界から来たこと。主にシャルルとウェンディが説明してくれた。
「つーと何か?おまえらはアースランドとかいうもう一つの世界から仲間を救う為にこの世界に来たってのか?」
「そっちの世界にも妖精の尻尾があって…」
「そっちじゃエルザは味方だって?」
「ざっくり言うとね」
「あい」
ルーシィたちにわけを話した。ざわざわしてるけどみんな信じてくれてるみたい。半信半疑ってとこだと思うけど。
「この子がそっちの世界の私…!?」
「ど、ども…」
「ぷっ!小っちゃくなったなウェンディ」
やっぱりあのグラマーな人はこっちの世界のウェンディだった(ウェンディがグラマーでもあたしはめげない…!)けど、あたしはどこだろ。
気になったからルーシィに聞いてみることにした。
『ねえ…』
「あ?…!?なっ!姫様!?」
「姫様だと!?」
「な、なんでここに!?」
…て、みんな今頃あたしに気付いたの!?
しかも姫様って何。照れるじゃない!
でも跪かんでいいっつーの。
ナツとウェンディも驚いてるけど一番驚いてるのはあたしだよ。
『あたしもアースランドのアリスなんだけど』
「…え」
『何かよくわからないけど普通にしてって』
あたしがそう言えばみんなおそるおそる立ち上がった。
あたしの事はまたいつか聞くことにして先に本題に入った。
『ナツ本題に入るぞー!』
「うお!そうだった!王都への行き方を教えてほしいんだ」
そう言うとギルド内がざわめき始めた。王都ってのそんなに恐ろしい場所なの?あたし行くの止めようかな、なんて言ってられないけど。
エドラスの妖精の尻尾のみんなが理由を話して反対する中、ナツは違った。
「頼む!道を教えてくれ。オレは仲間を助けるんだ、絶対にな」
『そーそ。あたしたち何のためにここに来たと思ってんの?』
家族を助けるために決まってんじゃん。
○
___エドラス王都、統合参謀本部
「スゲェよ!見たかエルザ、あのでけェ魔水晶」
「来るとき見たよヒューズ。キレイなモンだな」
「あれは何万ものアースランドの人間の魔力なんだぜ」
「んー。正確には魔導士100人分くらいの魔力とその他大勢の生命というべきか」
「細けェ事はいいんだぜ?シュガーボーイ。オレが言いてェのはとにかくスゲェって事さ」
紫色の髪の毛に横髪の一部に白いメッシュが入っている王国軍第三魔戦部隊隊長のヒューズ。
緋色の髪をした先ほど妖精の尻尾を襲った張本人、王国軍第二魔戦部隊隊長のエルザ。
金髪の髪の毛にピンク色の鎧を着た、王国軍第四魔戦部隊隊長のシュガーボーイ。
「いいか?オレの言うスゲェはハンパなスゲーじゃねえ!超スゲェって事」
「んー。超スゲェ」
「エルザしゃん。妖精の尻尾はまだやれんのでしゅかな?」
「バイロ」
滑舌の悪い小さな年老いた男、王国軍幕僚長のバイロ。
「ぐしゅしゅしゅ。妖精狩りの名がすたりましゅなァ。残るギルドはもはや妖精の尻尾のみ。確かに一番逃げ足の速いギルドでしゅがね、陛下はそろそろ結果を求めておいでだ」
「…無論、わかっている。だが、素晴らしい情報があるとしたら?」
冷たい目でバイロを見ていたエルザは誇らしげな目に変わった。
「アリス様は確かに幽閉されているはずだな?」
「ま、まさか…!」
「ああ。アースランドのアリス様が妖精の尻尾におられた」
「ほう」
エルザの言葉に全員が驚いた。
ヒューズはこれでもかってぐらいに目を開きすぐに嬉しそうな顔をしてニヤリと笑った。
「アリス様、か」
「んー、その情報が正しければすぐに行動に出ないといけないね」
「こちらの、エドラスのアリス様に会わせるわけにはいかないからな」
この後第一魔戦部隊隊長のパンサーリリー現れるまであと数秒。