たとえ闇に落ちようと

ひたすら歩いてルーエンの街からシッカの街に到着して日も暮れてきたのでホテルに泊まることになった。

今までの通ってきた道筋を見直してこれからどうすればいいか考えていたらバスタオルを巻いた二人のルーシィがお風呂から出てきた。


「見ろよ!こいつとあたし体までまったく同じだよ!」
「だーっ!そんな格好で出てくなー!」
「エドルーシィさん!ナツさんがいるんですよー!」
「別にあたしはかまわないんだけどね」
「かまうわー!」

「にぎやかだね。W(ダブル)ーシィ」
「なの!」
「それ、うまい事言ってるつもりなの?」


ルーシィってほんとスタイルいいよね。出るとこ出てるわ。
あたしがルーシィを凝視していたらナツもじーっと見ていた。やっぱりナツも男だもんね。

面白半分でナツに見たいのかと問うルーシィにナツは吹いた。


「な、何がおかしいのよ。そっかぁ…、あたしよりエドルーシィの方がスタイルいいとかそーゆーボケかましたいのね?」
「自分同士で一緒に風呂入んなよ」
『ぶはぁっ!』
「「(言われてみれば!)」」
『あっはははは!ひーっひっ…ふう。じゃああたしもお風呂入ってくるわ』


呼吸が整ったのを確認してバスルームに向かおうとしたけどその前にナツに一言。


『ナーツっ』
「ん?」
『一緒に入ろっか』


そう言えばキラキラした目で元気よく返事が返ってきた。


「オウ!」
「オウ!じゃない!アリスも一人で入ってきなさい!」
『えー』
「それにアリスちゃんと入るのはティアなの!」
『あ、はい』


立ち上がったナツをルーシィが座らせてティアはあたしに飛びついてきた。
ナツと二人で入った方が時間短縮になると思うんだけどな。仕方ない、ティアと入ってくるか。
ナツは残念そうな顔をしていたけどそれとは逆にティアは鼻歌を歌っている。

あ、そだ。ついでにウェンディとも入ろっか。とか思ったけどウェンディはこれからの事について真剣に考えていたから誘うのはやめた。


先にお湯に浸かっているティアをあたしは横目で見ながらシャワーを浴びていたが少し気になっていたことがあったのを忘れていた。


『ねーえ、ティア』
「はいなの!」
『何かさ、エドラスに来てからシャルルの様子とか変なんだけどさ…、何があったの』
「そ、その話は、こっちでは触れないって約束したの…」
『あたしにも言えないこと?』
「い、言えるの!ただ、ティアもあんまりわからないの」
『で?』
「実は…」











『さっぱりしたー!っと』
「長いお風呂だったわね…、てあれ?ティアナ寝てるじゃない」
『ぷかぷか浮きながら寝ちゃってた。あ、死んでないよ。疲れたのかな?たぶん』
「いろんな事が一気に起こってるから仕方ないわね」
『ん、そだね』


さっきまでピーピー鳴いてたのに今では静かすぎて逆に怖いわ。
頭にリボンをつけてあげて先に布団に寝かしながらさっきの話を思い出したいた。

ティア、シャルル、ハッピーはエドラスから来て使命があるらしいけどそれはシャルルしか知らない。エドラスの魔力とする為に、強大な魔導士がたくさんいる妖精の尻尾を吸収した、それは間接的にティアたちのせい。エドラスの王国から別の使命を与えられてアースランドに送りこまれた。

そして、約束をしたことが四つ。
一つ目は、ティアたちがエドラスに帰るという事は"使命"を放棄するという事だから誰にも見つかる訳にはいかないので全員変装する事。
二つ目は、ティアたちは自分たちの使命については詮索しない事。
三つ目は、シャルルも情報以外エドラスについては何も知らないからナビゲートはできない。
そして四つ目は、ティアたちがあたしたちを裏切るような事があったらためらわずに殺す。
この四つがエドラスに連れて行く為の条件だったらしい。

でも、ごめんね、ティア。
あたし、四つ目は絶対に守れないよ。


ティアから聞いたことを頭の中で整理してから、ルーシィたちのとこに戻ったけど違和感ありまくりなんですけど。


『エドルーシィの髪の毛どこいった…!?』
「もっと違う聞き方ないの!?」
「あたしとこいつの見分けがつかないからな。切ってもらったんだ」
『も、もったいない…』


あたしなんてこの長さにするのに何年かかったことか。ショートからよく伸びたわ、ほんと。


「もったいないって…。アースランドじゃ髪の毛を大切にする習慣でもあるのか?」
「まあ、女の子はみんなそうだと思うエビ」
『(カニなのにエビ…?それに美味しそう…)』
「女の子ねぇ。こんな世界じゃ男だ女だって考えるのもバカらしくなってくるよ。生きるのに必死だからな」
「でもこっちのギルドのみんなも楽しそうだったよ」
「そりゃそうさ。無理にでも笑ってねえと心なんて簡単に折れちまう。それにこんな世界でもあたしたちを必要としてくれる人たちがいる」
『ルーシィ…』
「だから、たとえ闇に落ちようとあたしたちはギルドであり続けるんだ」


たとえ闇に落ちようと、か。
妖精の尻尾はどこに行っても変わらないね。


「けど…、それだけじゃダメなんだよな」
「え?」
「いや、何でもねーよ」


何かを決心したエドルーシィにあたしたちは気付けなかった。



翌朝…


「信じらんないっ!!何よコレー!!」
「朝からテンション高ぇーな」
「どしたの」
「エドラスのあたし逃げちゃった、の、…て………アリスーー!?」
「うお!?」
『ん…、うるさい』


せっかくぐっすり寝てたのに、ルーシィとナツのせいで目が覚めちゃったじゃない。


「あんたウェンディと一緒に寝てたんじゃないの!?」
『うん。…あれ?またやっちった?』
「またって…」


確かに布団二つしかなかったからあたしとウェンディで一緒に寝て猫たちはルーシィに任せてたけど、起きたらソファーで寝ているナツの上でした。

ナツって暖かいからね。しかたない。


「アリスさん!や、やっぱり…」
「まったく…」
「アリスちゃんの悪い癖なの…」

『んー。あ、ごめんねナツ。重かったよね』
「んなことねーけど。癖ってなんだ?」
「寝てる途中でよく違う人の布団に行っちゃうの」
『一人だと寒いじゃん』
「ナツだって布団じゃなくてソファーだったんだからよけい寒いでしょ!?」
『それもそーだね。でもナツは暖かいから』


まだあたしの下にいるナツの胸元に擦り寄ると火竜だからかやっぱり暖かい。このぬくもり落ち着くな。

だんだん眠くなってきたから目を閉じて寝ようと思ったらルーシィにハリセンで叩かれた。
………いたい。


「朝から疲れるわ」
『何で?』
「あんたのせいよ!!」


ルーシィは大きくため息をついて頭を抱えていた。

あたしはウェンディに部屋に連れ戻されて着物に着替えた。そしてナツたちがいる部屋に戻るとエドルーシィが書いたであろう置き手紙を見た。


『アリスちゃんふっかーつ!で、何々…

"王都へは東へ3日歩けば着く
あたしはギルドに戻るよ
じゃあね 幸運を!"

………あちゃー』
「あちゃーじゃないわよ!手伝ってくれるんじゃなかったのー!?もォーー!どーゆー神経してんのかしら」
「ルーシィと同じなの」
「うるさい!!」
「しょうがないですよ…。元々戦う気はないって言ってましたし」
「だな」
「あたしは許せない!同じあたしとして許せないの!!」
『いいじゃん』
「よくない!ムキーッ!」


…ん?よく見たら小さく下にあたしに向けてのメッセージがあった。

"ここ数年、姫様の姿が見えなくなってる。アリスは特に王国軍に気を付けろよ。"

お姫様だから城から出ないとかじゃないっぽい。何か訳ありかな。

なんて難しい顔をして考えていたのが数分前。
今じゃにこにこ状態のルーシィの横であたしもつられて考えるのをやめていた。てか機嫌直るの早いな。
そんなにさっき買った本が嬉しかったのね。


「あんたたちこの世界について少しは知ろうと思わないわけ?」
「別に」
『でも知って損はないよね』


あたしがそう言えばルーシィは「でしょ!」と言って語りだした。


「たとえばここね、今から100年以上前だけど…、エクシードっていう一族がいたのね」
「興味ねえって」
『まーまー。そんでそんで?』
「それでね…。!!」

ゴゴゴゴゴゴゴ!!

「何?」
「ん?」
「あそこ!」
「あれは!?」
『飛行船?』

「急げー!」
「すぐに出発するぞー!」

「王国軍だわ。隠れて!」
『ぅわっ』


飛行船を眺めていたら王国軍が飛行船に向かって走り出していた。
ルーシィに押され壁に隠れる。


「あの巨大魔水晶の魔力抽出がいよいよ明後日なんだとよー」
「乗り遅れたら世紀のイベントに間に合わねーぞ」


あの兵隊どもが言ってる巨大魔水晶っマグノリアのみんなのことだよね。
二日ってことは歩いたら間に合わないじゃん。あたしだけ先に行っちゃダメかな?ダメか。


「みんなはどーなるんだ」
「魔力抽出が始まったらもう、二度と元の姿には戻せないわよ」
『どーする?』

「あの船奪うか」


そう提案したのはナツで、みんなびっくり。もちろんあたしも。


「ナツが乗り物を提案するなんて珍しいね」
「ふふふ、ウェンディの"トロイア"があれば乗り物など「あたしたち魔法使えませんよ」
…この案は却下しよう」
「オイ!」


珍しくシャルルがツッコミしたことにあたしは驚いた。ツッコミ役はルーシィだからとっちゃ可哀想だよ。


「あたしは賛成よ!それに奪わなきゃ間に合わないじゃない」
『あたしも賛成。トロイアならあたしが使えるし』
「それならオレも賛成だっ!!」
「でもどうやって?」
「あたしの魔法で。知ってるでしょ?今のあたし最強__って」
『「…………」』


ルーシィの自身はどこからくるんだろ、とか思ってたら説明してくれた。


「ルーエンの街で戦ってみてわかったのよ。どうやら"魔法"はアースランドの方が進歩してるんじゃないかってね」
『言われてみれば…』
「確かにそうかもですね」

「まあ見てなさい!!」
「おう!」
「がんばれルーシィ!」


兵隊の元へ走って行ったルーシィを陰から見守るあたしたち。
だって戦えないウェンディたちがここにいるし誰か来たらあたしが倒すためよ。


「何者!?」
「開け!獅子宮の扉…、ロキ!!「申し訳ございません、姫」…て、あれぇーー!?」


獅子宮はロキだから出てくるのは彼のはずなのになんとバルゴだった。
理由は「お兄ちゃん(ロキ)はデート中ですので今は召喚できません」らしい。

…なんて勝手な星霊なのかしら。

なんてやってると兵隊の反撃が始まった。

バルゴを星霊界に戻したルーシィはただおろおろしてるだけだったからあたしたちが出た。


「やるしかねえな!こっちのルールで」
「もう使い方は大丈夫です!」
「いくぞ!」
「はいっ!」

『召喚!』

「あれー!?」
「いーやぁー!!」


え、ちょ、待って待って!

あたしが大鎌召喚してる間にナツもウェンディもやられてるし!
相手も相手であたしがこっちの世界の姫様だからか知らないけど攻撃してこないし。
あたしは近くにいる兵隊を峰打ち倒していくけど数が多すぎる。

こんなやつらに時間をとられるわけにはいかないのに…


『飛行船が!っくそ!』
「あれに乗らなきゃ間に合わないのに…」
「くそォオオオオオオーッ!!」


こうなったら飛行船を落とすか。でもそんな事したら乗る意味がなくなる。

兵隊にやられているナツたちを助けながら案を考えてみるが何も思いつかない。


「な、何だ!?」
『どうしたの、ナツ?…!?』


後ろから何か音が聞こえたので振り向くと妖精の尻尾のマークがついた魔導四輪が兵隊をぶっ飛ばしながらこっちへ向かって来ていた。

そして魔導四輪はあたしたちの横で止まるとそれに乗っていた人に乗るように施されたので急いで乗った。
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