おかえりなさいませ

魔導四輪のおかげで兵隊から逃げれたあたしたち。ナツたちは後ろに乗ってあたしは運転手に腕を引かれたから助手席に乗ったけど、ナツが心配だから後ろに乗りたかったな、なんて。

それにしてもこの人の横顔、なんか…


「助かったわ」
「ありがとうございます」
「王都へ行くんだろ?あんなオンボロ船よりこっちの方が速ェぜ」
『ほんと?よかった…』
「妖精の尻尾最速の男…、ファイアボールのナツとはオレの事だぜ」

「『ナツーーー!!?』」
「オ…、オレ!?」
「会いたかったぜ、アリス」


そうエドナツが言ったかと思えば、直後に頬に感じた感触。


『え、き、きききき、す!!』
「相変わらずアリスは純情だなァ?」
『っ!』


なんか、エドナツの色気ヤバいんですけど!!
ルーシィたちは一瞬驚いたようだったけど、あたしにキスしたことより運転しているのがエドナツ、てことに驚いていた。

あたしの純情返して!


「ナツ!?こっちの、エドラスのナツ!?」
「ルーシィが言ってた通りそっくりだな」
「お、おお…」
「で、アレがそっちのオレかよ?情けねえ」
「こっちのナツさんは乗り物が苦手なんです」
「それでも"オレ"かよ?こっちじゃオレはファイアボールって通り名の運び専門魔導士なんだぜ」


エドナツが乗り物に強い事には驚いたけど、あたしはまだ顔の熱が冷めない。

早く冷めろ冷めろ冷めろ!

なんて思っている間、他のみんなはSEプラグについて話していた。
アースランドでは人が魔力を持っているから運転手の魔力を燃料に変換することができる、SEプラグがついているけど、エドラスでは人が魔力を持ってないから魔法のみで走ってる。
車に関してはアースランドより進んでいるみたい。

そんなルーシィたちの話を聞いていると急に車が止まった。


「ちょっと何よ急に」
「そうとも言えねえな。魔力が有限である以上、燃料となる魔力もまた有限。今じゃ手に入れるのも困難。だからオレがつれてってやるのはここまでだ、降りろ」
「な…」
「そんな…」
「これ以上走ったらギルドに戻れなくなるんだ」


どうやらまたギルドが移動したみたいで、愚痴をこぼしていた。


「うおおお〜!!生き返った〜」
「もう一人の"オレ"はものわかりがいいじゃねえか。さ!降りた降りた」


まあ、送ってくれたしここからは自分たちで行くしかないか、そう思い、車から降りようとすれば腕を掴まれた。


「王国とやり合うのは勝手だけどよォ、オレたちを巻き込むんじゃねえよ。今回はルーシィ、おまえじゃねえぞ、オレの知ってる方のルーシィの頼みだから仕方なく手を貸してやった」


あの、あたしの腕を掴んだまま話さなくてもいいんじゃないかなぁ。


「だがめんどうはゴメンだ。オレはただ走り続けてえ」

「オイ、アリスを離せ」


腕、離してほしいなぁ、とか思ってたらアースランドの方のナツが引っ張ってくれた。


「おまえも降りろ!」
「バ、てめ…、何しやがる」
『ナツ、無理やりは…』


あたしの言葉も聞かず、ナツはエドナツを車から引きずり降ろした。


「同じオレとして一言いわせてもらうぞ」
「よ、よせ!やめろ!オレを降ろすな!!」
「おまえ…、何で乗り物に強え!?」
「そんな事かいー!?」

「ひ…、ご、ごめんなさい…。ボクにもわかりません」
「「……………」」
「はい?」
『ナツ…?』


目に涙を浮かべて怯えているのはまぎれもない、車を運転していたエドナツ。
こんなナツ見たことなくてみんな目が点になってる。


「お、おまえ、本当にさっきの"オレ"?」
「は、はい…。よく言われます、車に乗ると性格変わるって」
「こっちが本当のエドナツだー!」
「ひーっ、大きな声出さないでっ!こ、怖いよう」


…こっちのナツは可愛いなぁ。
そんなナツを見ながらルーシィは「鏡のモノマネ芸でもする?」と言ってにやにやしていた。


「ごめんなさいごめんなさい!で、でも、ボクには無理です!ルーシィさんの頼みだからここまで来ただけなんです」
「いえ、無理しなくてもいいですよ」
「こんなのいても役に立ちそうもないしね」
「シャルル!そんな事言わないの!でも、頼りなさそうなの」


シャルルの冷たい言葉を訂正しようとしてるけどあまり意味がないよ、ティア。


「もしかしてウェンディさんですか?うわぁ、小っちゃくてかわいい。そっちがアースランドのボクさん」
「どこにさん付けしてんだよ」
「オイラハッピー。こっちがシャルル、ティアナだよ」
「ティアナなの!」
「あたしはもう知ってると思うけど…」


ルーシィの姿が目に入った瞬間、さっと大きな岩の後ろに隠れた。


「ひー!!ごめんなさい!何でもします!」
「おまえさ、もっとオレにやさしくしてやれよ」
『同感同感。えっと、あたしはアリス』
「姫様!最近会えなかったから寂しかったんですよ…」
『あの、あたしもアースランドのアリス』
「え!?…っ、ごめんなさい!」


ナツの頬が赤くなったから、きっとさっきのキスの事を思い出したんだと思う。
え、ちょ、あたしも照れるからやめて。てかナツ可愛いな!


『謝ることないよ。…可愛いなぁ』
「オレに可愛いなんて言うなよ」
「あ、あの…」
『ん?』
「こっちのルーシィさんは、みなさんをここまで運ぶだけでいいって…、だからボク…」


ここまで…?
崖の先に見えたのは、あたしたちが目指していた王都だった。
こんなに早く着くことが出来たなんて。


「なんだよ着いたんならそう言えよ」
「うわわ〜ん、ごめんなさい」
『謝んないでよ〜!ありがとね!』


涙を流しているエドナツの頭を撫でる。ほんと、普段見てるナツと違いすぎるから可愛いなあ。

王都に着いた。つまりは魔水晶に変えられたみんながどこかにいる。
エドナツと別れを告げて、王都まで歩く。警備があるのかと思ったが、特に何もなく、普通に城下町に入れた。
しかもくたびれている街かと思っていたが、そんなことはなく、ガヤガヤしていて楽しそうな雰囲気。魔力が有限なのにこんなことをするなんて、この王都にのみ魔力を集中させ、国民の人気を得ることしか考えてないんだろう。

ワアアアアアアア!!!


「なんか、向こうの方が騒がしいですね」
「パレードとかやってんのかしら」
「ちょっと見に行ってくるか!」
『あたしもー!』


走り出したナツに続き、民衆の中を割って前線ぐらいまで行く。後ろからルーシィ達も着いてくる。
そして、目の前には、


「魔水晶…」
「まさか、これが…」
「マグノリアのみんな…」
「しかも一部分よ、切り取られた跡があるわ」
『たしかに、これで全員分は小さいね』


呆気に取られていると、高台に一人の老人が出てきた。誰だあれ、なんて思ってたら、周りの人たちが、陛下〜!と叫んでいる。この人が王様か。


「エドラスの子らよ、我が神聖なるエドラス国はアニマにより10年分の魔力を生み出した」


どの口が言ってんだよ。人の世界を滅ぼしたくせに。
それからの演説は、アースランドのあたしたちからしたらクソみたいな話で、この魔力をエドラスは共有する、エドラスの民のみが未来へ続く、さらなる魔力を手に入れる、など、あたしたちを冒涜している。
そして、最終的に、、


「これしきの魔力がゴミに思えるほどのなァ!」


そこにあった、魔水晶を持っていた杖で一部を砕いた。つまりは、アースランドの誰かを傷つけたということで、はらわたが煮えくり帰る気持ちだが、そんなこと何も知らない民衆は感激しているだけ。それはそれで確かに辛い、ずっと枯渇していた魔力がやっと手に入るわけで、何も知らなければこうなってしまうだろう。

でも、あたしたちからしたら、許せないことで。
ナツが前に出ようとしたが、止める。


「アリスっ、止めるな」
『ダメ、今は我慢して』
「でもよ!!」
『…みんなを助けるんでしょ』


身体がフルフル怒りで震えているが、あたしの言葉で何とか落ち着かせて、作戦を練るために、一旦宿屋に向かう。

静かな中、シャルルだけがひたすら何かを書き続ける。


「やっぱり我慢できねー!オレァ城に乗り込むぞー!!」
「もう少し待ってちょうだい」
「何でだよ!」
「ちゃんと作戦を立てなきゃ、みんなは元に戻せないわよ」


シャルルのド正論に、ナツが止まる。
ただ、魔水晶が見つかったのはいいが、どうやって元に戻せるのか、シャルルが言うには、王様が知ってるらしい。
それを聞いたルーシィが、閃く。

六魔との闘いで仲間になった、ジェミニ。
その能力は触れた人変身でき、その間は考えてることがわかる、つまり王様に変身したらみんなを助ける方法がわかる、というわけだ。


「問題はどうやって王様に近づくか、だね」
「さすがに護衛が多すぎて簡単には…」
『あたしこの国の姫様らしいし、囮になろうか?』
「それはだめよ!」

「王に近づく方法はあるわ」


シャルルが書き終えた図を見せる。そこにはお城からの脱出用通路の情報を描いたものが。
シャルルには不思議な力があるらしく、エドラスにきてからは、少しずう情報が頭の中に追加されるようになったらしい。ティアとハッピーは何もわからないが。

作戦が決まったことで、今は休養をとって人が少なくなる夜に動くことにした。





⚪︎





準備を済ませて、坑道の入り口に着くが、行き先が真っ暗で何も見えない。
ナツがお得意の炎で照らそうとするが、やはり魔法が使えないらしい。


「魔法を使えるのがルーシィだけじゃ、やっぱりちょっと頼りないね〜」
「悪かったわね、頼りなくて」
『あれ?それは?』


両手に持っていたのは松明。
棒の先に布を巻いて油を染み込ませてきたらしく、あとは火があれば完璧との。


「だから火は?」
「それは…」


シャルルの言葉に冷や汗を垂らし、木の枝と板を使って自力で火起こしを始めたルーシィとナツ。
改めて、魔法のありがたみがわかるわ。
ナツは力加減がわからないのか、枝を折ってしまったが、ルーシィがなんとか火を起こすことに成功した。


「やったー!」
『わあ!すごいねルーシィ!』


二本の松明に火をつける。一本をウェンディが、もう一本をナツが持つと、自分が持ってる松明の炎をジーーッと見つめるナツ。
そして予想通り、その火を食べてしまった。


「魔法、いけそう?」
『どう?』
「ここんとこが熱くなってきた」


火を飲み込んだナツは、お腹を指差しながら言う。
てことは、魔法使えんじゃね?


「それ魔法な感じ!?」
「感じ、、かもしれねえぞ!」
「いいかもいいかも!いってみよー!復活の狼煙!火竜の鉄拳!」

「うおう!!いっけー!!!」


期待を込めた目で見るが、やはり魔法は出ず。


「はあ、、ダメか」
「そういうの、悪あがきって言うのよ」
「うっ、こっちの火食ったら魔法が使えると思ったんだよ!」
「まあ今回は、あたしの松明があるから大丈夫よ!」
「よっぽど役に立てたのが嬉しかったの」


毒舌シャルルに突っ込まれ、自信満々のルーシィがるんるんで言い、それをジト目で見るティア。

さて、ナツが食べてしまったので、一本の松明は火がついていないから、あたしがつける。


『ナツそれこっち向けて』
「お?」
『ほい』


炎を出して松明に火をつける。
その様子をぽかーんとしたナツとルーシィ、ハッピーの三人が見ていた。


「初めからアリスさんに火つけてもらったらよかったですね」
「アリスも魔法使えるの忘れてたわ」
「アリスちゃん、あんまり火の魔法使わないの」
『使ってもよかったけど、二人が火起こしがんばってたから』


ナツとルーシィの方を見て言えば、ルーシィに泣きつかれた。


「もっとはやく!早く火をちょうだいよー!」
『いやあ、魔法のありがたみがわかったね〜』
「あたしの苦労がー!」

「つーかアリス!お前火の魔法使えんのか!」


ナツがなんだか嬉しそうにキラキラした目を向けてきた。


『まあ、一応?』
「一応ってなんだよー」
『うーん、なんて言えばいいかな、天にあるものは使えるから、火ってよりは太陽と似てる?て言えばいいのかな。温度調整はできるけど』
「天にあるもの…?」
『雷とか、雨とか雪とか?』


伝えるの難しいなあ、て思ってたら、ルーシィが驚いたようにあたしを見る。


「そ、それって、いろんな属性の魔法、使えるってこと…?」
『まあ、そんな感じかな?』
「す、すごい…!…て、絶対にあたしより強いじゃないー!!」
『えええ?でもメイドゴリラを100人倒して、山消し去ったルーシィには敵わないかな〜』
「全然違うし!!なんか色々大きくなってるんですけどー!?」


一人騒いでるルーシィを放置してみんな進む。真っ暗だけど、松明のおかげで見えないことはない。
壁があり行き止まりかと思ったがそこを壊すと、道が続いていた。

シャルルの言った通りで、でも何でシャルルだけなんだろう。ティアもハッピーも何もわからないのに。
この話はここではタブーなので、とりあえずシャルルが案内してくれる先に進む。

少し歩くと、開けた場所に出てきた。
王の寝室までもう少しかな、なんて話しながら足を進めると、どこからか打ってきたもちもちの拘束道具にルーシィが捕まる。
驚いてる間に、あたし、ナツ、ウェンディも捕えられてしまった。


『なにこれ気持ちわる!』
「うごけないっ」


そして聞こえてくる複数の足音。
明るいこの場所ではその正体がくっきり見える。何度かお目にかかった兵隊たちがざっと50人ぐらいに、囲まれてしまったあたしたち。

魔法、使えない、、魔封石みたいなやつかこれ、


「こいつらがアースランドの魔導士か…」


聞こえてきた、聞き覚えのある声。


「エルザ!」
『エドラスの、エルザ?』

「アースランドの姫様以外は連れて行け」


その言葉に兵士たちがナツ、ルーシィ、ウェンディを引っ張って行く。
それを追いかけようとしたシャルルたちだったが、エルザが立ち塞がった。
そして、


「おかえりなさいませ、エクシード」


エドラスのエルザと兵士たちがティアたちの前に整列して跪く。


『エクシードって、(さっき、ルーシィが読んだ本に出てた名前…?)』
「ハッピー、ティアナ、シャルル、あなたたち一体…」

「侵入者の連行、ご苦労様でした」


侵入者の連行…?
どういうこと、シャルルは使命を放棄したって、命をかけてまでその行動をとったのに、連行ってなに。
この場にいるあたしたち全員がこの状況に追いつかないまま、みんなバラバラにされてしまった。
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