いつもの妖精の尻尾

次の日、雨が止んで晴天の日に、リサーナが妖精の尻尾に帰還した。
初めは死んだはずのリサーナが?とみんな戸惑っていたが、本当に本物のリサーナだと知って全員が喜んだ。

ここにいるみんなは、エドラスのことを何も知らなくて、普通に日常を過ごしてる感じだったらしい。
マスターにはエルザとあたしが報告した。ミストガンのことも。

そしてそして、当然リサーナが帰還した大事なイベントがあるから、今日も今日とて、昼からみんなでどんちゃん騒ぎ。つまりは宴である。


「なんかギルドも変わってるし、ミラ姉も雰囲気変わってるけど…」
「そう?」
『ばりばり変わってるっしょ』


二階からギルドの雰囲気を眺めるリサーナと、その近くにあたしとミラとエルフマン。ミラの雰囲気が昔と全然違うけど、エドラスのミラはこんな感じだったし、リサーナからしても受け入れるのはすぐだろう。

そしてリサーナは雷神衆に声をかけられて久しぶりの挨拶を交わしていた。
なのであたしは一階に降りようとしたら、ルーシィとウェンディ、そして髪型が変わってるジュビアも。


「ジュビアどうしたのかしら?」
「元気ないみたいですね」
『またグレイ絡みじゃない?』


その予想通り、柱の陰からカナと話しているグレイをジトーと眺めていた。
ああ、なるほど、エドラスのグレイはジュビアにベタ惚れだったから、誰かからその話を聞いて羨ましくなったのか。


『ジュビアっ』
「は!アリス様あ!」


ジトーと雨が降っていた雰囲気から急に晴れた。


『髪型変えたんだ』
「はい!元々この髪型だったんですけど、妖精の尻尾に入る時にイメチェンして、」
『へ〜!どっちの髪型も似合ってるよ』
「ありがとうございますう!!」
『それに、』


ジュビアの髪の毛に手を伸ばし、巻いている毛先に触れる。


「アリス様?」
『好きな人のために変わろうとする、その行動が可愛いよ』
「はう!!」
『ジュビア!?』


目をハートにして後ろに倒れそうになったジュビアをなんとか支える。
褒められ慣れてないのかな?


「あんたほんと、無自覚タラシよね」
『・・・・・』
「アリスのことよ!」
『え!?あたしに言ってたの!?』
「他に誰がいるのよ…」


あたし別に男弄んでないんだけど、ルーシィは何を見て思ったの。
とりあえずダウンしたジュビアをルーシィに託した。目を覚ましたら何か言われそうで嫌なんですけど!!?と嘆いているが無視だ。

ギルドに戻って来れたナツは嬉しいのか、騒いでいる。いつものことか。


「ゴラァ!サラマンダー!小娘!オレのリリーと青猫桃猫白猫、勝負させろやァ!」


自分にも相棒の猫を見つけれて嬉しいのか、ガジルがいつも以上に騒いでいる。


「ああ?」
「はっはっはっはっ、そりゃあいいやァ」
「アンタもえらい奴に目つけられたわね〜」
「あう〜」
「大丈夫だよ、たぶん…」


その挑発にナツが乗り、ギルダーツが面白そうに様子を眺める。
巻き込まれたウェンディにルーシィが同情し、レビィが一応フォローはする。


「望むところだ!」
『うっしゃ、ティアぼこぼこにしたれーい!』
「ギヒッ、言っておくがオレのリリーは最強とかいて最強だぜ」
「ハッピーは、、猫と書いて猫だぞこのヤロウ!」
『ふっふっふっ!あたしには秘策があるもーん!』


「あのさ、オイラ一瞬で負けちゃうよ…」
「だらしないわね、やる前から諦めてどうすんの」
「え!?オイラ、期待されてる…!?」
「よせ、こう見えても向こうでは師団長を任されていた。無駄な喧嘩は怪我をするだけだ」
「ティアは負けないの!アリスちゃんが秘策あるって言ってたの!」


そう!あたしには秘策がある!
リリーも騎士団の一人、ということはエドラスのあたしと面識があるはず!そしてエドラスのあたしはいい人だからか周りにすごく好かれている!
つまり…!

んんっ、


『リリー』
「っ!アリスさま…?」
『たとえ猫だとしても、女性相手に手を挙げるのは私、心が痛みます。ここは自ら戦いを放棄することが、立派なナイトの選択ですよ』
「は!承知しました」


人型ではなく、猫型のままあたしの前で跪くリリー。
それを見てにんまりするあたしの顔。


『しゃー!あたしの勝ちー!』
「わーい!これが不戦勝ってやつなのー!」
「何やってんだリリー!」
「……はっ!オレとしたことが、エドラスのアリス様と重ねてしまった」


少しずるいけど、こういう勝負は勝てばいいの!
ティアといえーい!ってはしゃいでいたら、気を取り直したリリーがティアたちに向き直る。


「ま、仲良くやろうぜ、ハッピーシャルルティアナ」
「リリー!」
「ふんっ」
「なの!」


相変わらずのツンツンシャルルだけど、これが通常運転なので気にせず。
争いにならなかったことにウェンディはホッとしたが、当の戦わせようとした本人たち+αが殴り合いを始めていた。


「はげしくぶつかり合う肉体と肉体!…ジュビアも!」
「脱ぐなー!」
『わ、ジュビア復活してたの』
「アリスさまーん!」
『てかやっぱり、ジュビアの肌って白くて綺麗だね』


ケープ部分を脱ぎ、そのままワンピースもはだけさせてるジュビアの肩や鎖骨など、普段隠れている部分が見えた。元々色白だとは思ってたけどやっぱり綺麗だなあ、て思わず触れた。


「あああ、アリス様ー!?」
『あれ、また気絶した』
「アンタは何回ジュビアを仕留めるの」
『うん?』


またまたダウンしたジュビアをルーシィに託す。
あたしもわちゃわちゃしてるみんなの中に入って暴れよっかな!て思ったけど、ナツと話を終えたマスターに呼ばれた。
そこにはギルダーツも。


「アリス、確認なんじゃがの」
『なにー?』
「ギルダーツから聞いたんじゃが、この怪我を治した、とな」
『…ああ、内臓?なんとかできたよ』


ブイサインしながらニパッて笑うと、次は紙?書類?何か取り出した。


「あとは、評議員からの連絡書類にじゃな」
『げ、なんかやらかしたっけ、』
「お主、前のギルドではS級クエストや10年クエストにも行ったことがある、ということが書かれておるが、」
『なんだ、そんなことか』


あたしからしたら日常の仕事だったし、特に何も気にならない。
そんなことより、知らん間に何かやらかした始末書とかかと思ったからよかった。


『一応化猫の宿ではS級魔導士だったよ?』
「ふむう」
「マスター、そこには書いてんだろ」
「そうじゃな、認めないわけではないが、皆がなんと言うか…」
「なあに言ってんだ、このギルドの奴らは誰一人反対なんてしねえだろ?」
「…それもそうじゃな!」
『なんのこと?』


あたしが置いてけぼりの状況でなんか話終わっちゃったんだけど。
理由を聞いても、じきに話す、と言われてしまい強制終了。

しかたない、あたしも宴に戻るか。

珍しくカナとかもナツたちの喧嘩に参加し、これがまあこのギルドの余興というか日常というか。


「アリスー!オレと勝負しろォ!!」


マスターたちと話し終えたのを確認したナツが急に叫び、殴り合いから抜け出してきた。


『えー?』
「オレが勝ったら一緒に仕事に行くぞ!」
『なにそれいつも行ってんじゃん』
「二人でだ!」


確かに二人で仕事は行ったことないなあ。
でもそれぐらいなら勝負なんかしなくても行くのに。て思ってたら会話を聞いていたガヤがどよめいている。


「お!なんだなんだー!?」
「ナツとアリスの勝負か!?」
「いいぞいいぞー!!」
「ナツに負けるなよー!」


えええ、なんか周りも他人事だと思って楽しそうだし、何人かは賭けをしてるし。応援はしてくれるのに、九割ほどナツにかけてるっぽいけど。


『ちょっとあたし疲れてるから』
「関係ねえ勝負だー!」
『なんて自己中!まってまって!』


火竜の鉄拳準備をしてるナツに待ったをかけると、しぶしぶ止まる。


「んだよ〜」
『勝負内容はあたしが決める!…ナツのマフラーをあたしがとったらあたしの勝ち!』
「じゃあオレは?」
『うーん、あたしの帯?とか?』
「………!」


取られるつもりはないし、テキトーに目に入った装飾品を言えば、ポカーンとしたあとに顔を少し赤らめた。
その会話を聞いてた周り(ほぼ男性陣)は、ナツの応援ばかりになった。解せぬ。


「…でもよォ」
『よーし、はじめー!』
「て、待てよ!」


納得いかなさそうなナツを無視して開始の合図。
地面を蹴ってナツとの距離を詰めるが、慌てたナツがもちまえの反射神経で後ろに避ける。
お互い身につけているモノの取り合いなわけで、簡単に決まるわけではない。


「ウガアアア!もうオレは本気で勝ちにいくぞ!!」
『もっちろん!』


「ナツー!がんばれー!!」
「いけー!!」
「それでこそ漢だ!!」
「あーーーー(むっすうう)」
「グレイどうしたの?・・・・・!ふーん?(アリスの肌を他の男に見られたくないのねえ)」


なぜ誰もあたしの応援してくれないの悲しいぞ。
ナツが魔法を使い、あたしに飛びかかってこようとしたので、あたしも魔法を使わせてもらう。ずるいけど、もちろん、


『時間停止』


てなわけで、止まっているこの世界の中で、首に巻いているナツの大事なマフラーをそっと取る。
あ、一応証人してくれる人が欲しいから、ミラを心の中で呼びかける。


「…あら?」
『ミラ〜、あたしマフラーとったよ!』
「ああ、そういうことね。はい、ちゃんと見たわ」


二人でくすくす笑う。
そして時間停止を解除する。


「うりゃああ!…あ?」
『あたしの勝ち〜!』


ナツのマフラーをあたしが首に巻きながら告げた。


「んな!!?」

「いつの間に!?」
「何が起こった!?」
「アリスの勝ちか?」
「何やってんだよナツー!」


ミラ以外誰も状況を理解できてないのか、慌てている。ナツ本人が一番驚いているが、マフラーを取られたことがショックだったのか、あーーー!と叫びながら頭を抱えしゃがみ込んだ。


「残念ねナツ、アリスと二人で仕事」
「クソー!!つーかアリス何したんだ!?」
『あたしの魔法で奪っちゃった』


ミラに言われ、ナツはやけくそで口から火を出しながら叫んでいる。そのナツに近付いて声をかけると火を吐くのをやめてあたしを見る。
巻いているマフラーをはずして、首元が寂しくなっているナツにマフラーをつける。


『やっぱりこのマフラーはナツに似合うね』
「あー、くそォ!」
『あたしが勝ったから、あたしもナツに一つ頼もうかな』


どうしよっかな。急に何かって言われても何も思い浮かばないし。

うーん、、あ!


『じゃあナツ!あたしとデートしよ!』
「…は?」

「「「えええ〜!!!?」」」
『ええ!?』


何でそんな声があがるの!?
みんなの声にあたしの方がびっくりした。
ミラだけ一人にこにこしているけど。


「ナツとデートって本気!?」
『え、うん、だめ?』
「ダメじゃねえぞ?」


ルーシィが焦ったように声をあげる。そんな危険なことじゃないし、簡単なの言ったつもりだったんだけど。
まあナツ本人がダメじゃない言ってるし。


『うっしゃー!じゃあその時新しい着物買ってね!』
「げっ」


そりゃただ街をぶらぶらしたり、ご飯食べたりで終わるわけがない。勝負に勝ったんだし、それ相応の物は貰わないとねえ?
着物の値段がどんなか知らないナツはおそらく高いんだと悟ったのか、口端がひくついていた。想像通りでございます。


『着物はナツが選んで!で、それ着て二人で仕事行こっか!』
「二人で、?」
『うん!』
「オウ!」


ぱああと笑顔になったナツが可愛いんだけど。


「デートして自分が買ってあげた服を着て、二人で仕事って、、それって男からしたら最高に嬉しいことなんじゃ…」
「うふふ、アリスは着物新調できるし、ナツは仕事に行けるし、みんな幸せね」

「くっそ!アリス!次はオレと勝負しろ!」
「まあそれを逃さない人もいるわよねー!」


この後グレイも一対一の勝負(グレイの場合奪うものがないから、どちらかが先にギルドマークに触れたら勝ち)をし、アリスが勝利を収め、着物を買う名のデートの約束をとりつけることになった。
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