姉妹の滅竜魔道士

「どうしたブレイン知り合いか?」


滅相もない。
あたしにはこんなフェイスペイントしまくりの怪しい人知り合いにいないし。


「間違いない、天空の巫女と運命の女神」

「なにそれ〜」
『ウェンディ、いつからそんなあだ名が…(それに、運命の女神って。まさか、あたしの魔法を知ってる、?)』

「これはいいものを拾った。来い」
「きゃあ!」
『ッ!ウェンディ!』


ブレインが持っている杖から、何かモワモワした魔法を使ってあたしとウェンディを捕らえようとしたけど、あたしはギリギリ避け、ウェンディが捕らえられてしまった。


「何しやがるこの…」

「金に…、上下の隔て無し!」


ナツがウェンディを助けるために立ち上がろうとしたけど、ホットアイの地面を柔らかくする魔法でみんな攻撃された。


『召喚!っと!』
「きゃあ!、あ、ありがとうございます!」


召喚魔法でよく使う鎌を取り出して、魔力を込めてウェンディを捕らえてるブレインの魔法を断ち切る。落ちたウェンディはティアがナイスキャッチした。


「私の魔法を…」
『ティアにシャルル。ウェンディをつれて早く逃げて』
「でも、アリスちゃんが、」
『あたしは大丈夫』


鎌を持ち直して六人と向き合う。
さすがに六人全員を相手にするなんて今のあたしには無理だ。易々とあたしの魔法を見せたくもない。だから少しでもウェンディを逃す時間だけでも稼げたらそれでいい。


『はやく!!』
「っ、行くの!」
「わかったわ!」


怯えてるウェンディをシャルルとティアが引っ張り連れて行こうとするが、それを見逃してくれる相手ではない。


「レーサー、コブラ」

「ああ」
「聞こえるぞ」


てっきり、レーサーとコブラがウェンディを追いかけるかと思ったのに、二人があたしに向かってきた。


『ちょ、さすがに二人はせこくない!?』


コブラの蛇があたしに牙を向け、レーサーが見えないぐらい速いスピードであたしに蹴りを入れようとしたが、感覚でなんとか避ける。


「はえーな!」
「だが、全部聞こえるぞ!」
『はっ!せこい!』


鎌ともう一つ扇を召喚して、レーサーの動きに対応するために風を起こして周りに近づけないようにする。どうする、あたし一人はキツいし、倒れてるみんなを助ける時間も、ウェンディを逃す時間も確保するなんて、さすがに無理がある。
全て聞こえているのか、動きを読むコブラ、俊足すぎるレーサー。この二人は今の状況だとあたしと相性が悪すぎる。


「きゃああ!!」
『!ウェンディ!!』

「アリスさん!、っシャルルー!」
「ウェンディー!」


ウェンディの悲鳴が聞こえ、思わずそちらを向くとブレインの魔法で再び捕らえられてしまったウェンディが。


「あれ?」

「きゃああああ」
「ナツー!うわー!」


ウェンディがシャルルに手を伸ばしたけど、咄嗟に掴んだのはハッピーの手で、ウェンディとハッピーは一瞬にして消えた。


「よそ見してんじゃねーよ!」
『っ!』


あたしがウェンディを気にしているその隙を見逃さず、キュベリオスがあたしの腕に噛み付いた。やば、これさっきエルザが噛まれたのと同じ毒じゃ。やられたクソが、っ、


『ッ、く、そヤロ』
「いいねェ、その表情。安心しろ、それは死なねーよ」


それは、って時点でエルザが心配なんだけど、頭が回らなくなり目の前が真っ暗になり、解毒の魔法を使う前に意識が遠のいた。最後に聞こえたのはティアがあたしの名前を呼ぶ声だった。











「アリス、ちゃん…」


アリスとウェンディ、ハッピーが連れ去られる前、ブレインが用済みとする他の連合軍のメンバーに魔法を放ち、立ち去った。
その魔法が当たる直前、ジュラと一夜が来てジュラの魔法で防いだ。
六魔将軍が立っていたところを見ると、誰一人姿が見えず、アリスたちを連れて何処かへ行ってしまった。


「ジュラさん、無事でよかったよ」
「いや、危ういところだった」
「そのキズ…」


ジュラの腹部には刺し傷があり、それを包帯で応急処置していた。エンジェルに不意打ちをくらった二人は一夜の痛み止めの香りで、痛みを一時的におさえているらしい。
一夜はみんなにも痛み止めの香りを使ったが、毒にやられたエルザには痛み止めが効かなかった。

エルザはルーシィのベルトを剥ぎ、腕に巻いた。


「このままでは戦えん…」


持っていた剣を前に投げ捨てた。


「斬り落とせ」
「バカなこと言ってんじゃねえよ!」


比較的女性に優しい青い天馬や、仲間である妖精の尻尾たちはエルザの提案を否定する。
そんな中、リオンが剣を拾った。


「わかったオレがやろう」
「リオンてめえ!」
「やれ」
「よせ!」


リオンが剣を手にして言えば、グレイが反対するけどエルザも斬り落とすことを望んでいる。
でもやはりグレイはそれを認めさせないように反抗する。


「いまこの女に死んでもらう訳にはいかん」
「けど…」
「どんだけ甘いんですの!?妖精さんは!」
「あんたに何がわかるって言うのよ!」


ルーシィもこの状況を受け入れられないが、シェリーもリオンに賛成のようだ。


「やるんだ!!早く!」
「やめろリオン!」


リオンが剣を振り上げてエルザの腕を斬ろうとしたが、グレイが氷を使って対抗した。


「貴様はこの女の命より腕の方が大事か?」
「他に方法あるかもしれねえだろ。短絡的に考えるなよ」

「あ…」


二人が言い合ってる間に、エルザは毒がまわったみたいで力尽きたように倒れた。

その状況を冷静に見ていた二匹が口を開いた。


「ウェンディなら助けられるわ」
「アリスちゃんも!だから今は仲間同士で争ってる場合じゃないの」
「そうよ。力を合わせてウェンディとアリスを救うの。ついでにオスネコも」
「あの娘たちが解毒の魔法を?」
「解毒だけじゃない。解熱や痛み止め、キズの治癒もできるの」
「壊されたクリスティーナも直すことができるの!」
「治癒って…、失われた魔法じゃなくて?」
「直す…、まさか天空の巫女や運命の女神ってのに関係あるの?」

「あの娘は天空の滅竜魔導士…、天竜のウェンディ」
「アリスちゃんも天竜なの!」


ティアナとシャルルからアリスとウェンディの正体が珍しい魔法である滅竜の使い手だと知り、この場にいるみんなが驚いている。
ナツにいたっては同じ滅竜魔導士だからか、誰よりも驚いているようで目を見開いている。


「今私たちに必要なのはウェンディとアリスよ」
「そして向こうもアリスちゃんたちを必要としてるの…!」

「…となれば」
「やる事は一つ」
「ウェンディちゃんたちを助けるんだ」
「エルザの為にも」
「ハッピーもね!」
「おっし!」


アリスちゃん、
この仲間なら、きっと、ううん必ず助け出せるの。
待ってて、


「「「行くぞォオ!」」」


全員で腕を掲げ、声をあげる。

ギルド別に分かれて、アリスたちの捜索を始める。エルザを一人残すことはできないため、古文書使いで司令塔にもなるヒビキと、戦いに自信のないルーシィが残ることになった。

一方、パートナーがいないティアナとシャルルはナツとグレイと行動を共にしていた。


「天空の滅竜魔道士ってさぁ、何食うの?」
「空気」
「うめえのか?」
「さあ」
「それ酸素と違うのか?」
「アリスちゃんはいっぱい(いろんなもの)食べるの〜」
「大食いなのか?」


グレイだけが会話にツッコミを入れるが、みんな真面目に答えている。ただ食い違っているだけだが。


「あのコ、あんたに会えるかもしれないってこの作戦に志願したの」
「オレ?」
「同じ滅竜魔道士でしょ。アリスがもともと一人で参加する予定だったのよ、そこで妖精の尻尾も参加するって聞いてね」
「アリスちゃんは嫌がってたの」
「アイツそーゆーキャラなのか?」


主に、ティアナが伝え忘れたため直前に言われたことに腹が立っていただけだが。
グレイの中のアリスのキャラがだんだん崩れていくのをティアナは気付かなかった。


「あのコ七年前に滅竜魔法を教えてくれたドラゴンがいなくなっちゃったんだって」
「そいや、アリスちゃんの親ドラゴンも同じ年にいなくなったの」
「二人はドラゴンがどこに行ったかわからないみたいだからね。あんたならドラゴンの居場所知ってるかもって。天竜グランディーネとか言ったかしら」
「アリスちゃんの親はセレスティーネなの」
「オイ!いなくなったのって7月7日か!?」
「なの!アリスちゃんはその日って言ってたの!」
「イグニールとガジルのドラゴンも、アリスとウェンディも七年前…。 つーか!同じ天竜とかいんのか?」
「知らないわよ。姉妹竜とか言ってたかしら」


決して足の速さを遅くせず、走りながら会話をしていたためか、シャルルとティアナの方を向いたナツが顔の高さにあった木の枝に突撃し、転んだ。


「んがっ!…そうだ!!ラクサスは!?」
「じーさん言ってたろ?あいつは滅竜魔道士じゃねえ」


ラクサス。妖精の尻尾のマスターであるマカロフの孫であり、雷の滅竜魔道士。しかし、ラクサスはアリスやナツ、ガジル、ウェンディとは違い直接ドラゴンに魔法を教わったわけではない。珍しいが、ラクリマを体に埋め込んでその魔法を得、滅竜魔道士になったのだ。
なので、親であるドラゴンはいない。


「な、何これ!木が、黒い…」


一定の距離を走ったナツたちの視界に入ったのは、森の木が黒く腐っている風景だった。


「ニルヴァーナの影響だって言ってたよな、ザトー兄さん」
「あまりにすさまじい魔法なもんで大地が死んでいくってなぁ、ガトー兄さん」
「誰だ!?」


先ほどまで人一人いなかったのに、いつのまにか周りにはたくさんの人。
そのうち、リーダー格である二人が六魔将軍の傘下である裸の包帯男のギルドであると名乗ってくれた。


「敵は、六人だけじゃなかったっていうの!?やられた、」
「こいつァ丁度いい、拠点とやらの場所をはかせてやる」
「今いくぞハッピー!アリス!ウェンディ!」
「何なのよ妖精の尻尾の魔道士は…、今の状況わかってるのかしら!!」
「アリスちゃんと近い匂いを感じるの…」


同時刻、青い天馬のレンとイブは黒い一角獣と、ジュラたち蛇姫の鱗も違う闇ギルドと対面していた。
はぐれた一夜は一人、呆気なく捕獲されていた。

それぞれが、アリスとウェンディ、ハッピーを、エルザを助けるために行動にうつしていた。
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