「ぎゃわ!」
『ん…』
あたしはいつの間にか気を失っていたらしく、誰かの軽い悲鳴を聞いて目が覚めた。どこかの洞窟かな。
にしてもあのあとどうなったの?
「おいブレイン、こいつ目が覚めたぞ」
「そうか、丁度よい。そやつの横に置いておけ」
どうやらあたしはコブラに俵担ぎされてたらしい。コブラはあたしをウェンディの横に放り投げた。扱い雑。
『あ、ハッピーありがと』
「あい!」
ハッピーがあたしをギリでキャッチしてくれたので地面と衝突は免れた。
「乱暴にするな!女のコなんだぞ!…もぎゅ」
ハッピーはブレインに言ったがブレインはハッピーの顔を掴み投げた。ハッピーはきゅぅうとなって気絶した。
「ブレインこの女たちは何なんだ?」
「ニルヴァーナに関係してんのか?」
「そんなふうには見えないゾ」
「そうか!売ってお金に…」
「こやつらは天空魔法、治癒魔法の使い手だ」
なんで知ってるのよ。あたしもウェンディもあまり使わないようにしているのに。これじゃ意味ないじゃない。
「治癒魔法だと!?」
「失われた魔法…」
「これは金の臭いがしマスネ」
「こんなやつらが…!まさか!?」
「その通り、奴を復活させる」
『奴って…』
だれよ…
「わ、私!悪い人たちに手は貸しません!」
「貸すさ…、必ず。もし貸さぬとしても問題ない。主は間違いなく復活させるからな」
『え?あたしが…』
意味が分からない。
あたしだってウェンディと同じ意見でこいつらに力なんて貸さない。
ブレインはレーサーにここに奴を連れてこいと命令しレーサーは動いた。コブラ、ホットアイ、エンジェルはニルヴァーナを探す為に動いた。ミッドナイトはここに残って。
「一体、どんな魔法なの、ニルヴァーナって…」
「光と闇が入れ替わる魔法だ」
ブレインの顔は不気味に笑っていた。
○
あれからどのくらい時間がたったのか、よくわからない。長いと言えばそう思えるし、短いとも思える。
「重てぇ…。これじゃスピードがでねえぜ」
「主より速い男など存在せぬわ」
「ひっ」
「棺桶…」
『……………』
こんなの持ってこないでよ、不気味。
でも同時に胸の奥で何か、何かが騒いでいる。
よくわからない何かが。
「ウェンディ、アリス。おまえたちにはこの男を治してもらう」
バキンと棺桶を開かないようにしている鎖が壊されていく。それと同時にあたしの胸騒ぎもよりいっそう大きくなる。
「わ、私そんなの絶対やりません!」
「そーだそーだ!」
バキン…、ドクン…
「いや、お前は治す。たとえ治さないとしてもこやつがいる」
バキンと、最後の鎖が外れた。
ギィッと音を立てて開いた棺桶の中には…
『、ジェラール………』
あたしが、昔…、
「そうだ。この男はジェラール。かつて評議員に潜入していた、つまりニルヴァーナの場所を知る者」
「ジェラールって、え?え!?」
「ジェラール…」
「知り合いなの!?それにアリスも!」
「エーテルナノを大量に浴びてこのような姿になってしまったのだ。元に戻せるのはうぬらだけだ。恩人、なのだろう?そして、うぬは…」
恋した人。大好きだった人……
「ジェラールってあのジェラール?」
「ハッピー知ってるの?」
「知ってるも何もこいつはエルザを殺そうとしたし評議院を使ってエーテリオンを落としたんだ!」
『知ってるよ』
知ってる。知ってるよ。全部知ってるよ。
どんなに酷いことしたか、何をしたか全部知ってる。
「この男は亡霊に取りつかれた亡霊…。哀れな理想論者。しかし、うぬにとっては恩人だ」
「ダメだよ!絶対こんな奴復活させちゃダメだ!ウェンディ!アリス!」
「早くこの男を復活させぬか」
ブレインは魔法でナイフを取り出して、ジェラールの腕に向かって刺しつけようとした。
そんなことさせない…
カーンと金属音が響いた。
ナイフを刺そうとしたブレインは驚いている。でもすぐにニヤッと笑った。
「やはり主には治す以外の選択はないようだな」
『、っ』
「ジェラールは悪い奴なんだよ!ニルヴァーナだって奪われちゃうよ!」
「それでも私、この人に助けられた…」
たしかに酷いことをしたかもしれない。
でもこの人は、ジェラールは、あたしが、
「大好きだった…!」
え?
ウェンディがジェラールのことを知っていたのはわかっていた。でも同名の人なんてたくさんいるし、同じ人間ではないだろうとおもっていたからで、同じ事を言うとは思わなかった。
「なんか、悪い事したのは噂で聞いたけど私は信じない」
「何言ってんだ、現にオイラたちは…」
「きっと誰かに操られていたのよ!ジェラールがあんな事するハズない!!」
あたしも最初は否定してたよ。
でも最終的にはそれを認めざる得なかったけどね。
「お願いです!少し考える時間をください!」
「よかろう…。五分だ。主はどうする?」
『…もちろん』
決まってるじゃないの。ウェンディは考えるって言ったけどあたしは決まっている。
誰に何と言われようが、
『治すよ』
「!?アリスさん、」
『ごめんね』
「なら私も!」
『それはウェンディの決めた答え?』
「はい。この人は私の恩人だから…」
そんなに想ってるなんてちょっと妬いちゃうよ。
外からナツのあたしたちの名前を呼ぶ声が聞こえたけど、気にしてはいられない。
治したい、もう一度目を開けて、その綺麗な青の瞳にあたしを写してほしい。
『準備はいい?』
「は、い…」
あたしとウェンディはジェラールに手をかざし治癒の魔法を使うと魔力が回復し、傷がみるみるうちに治っていく。
そして完璧に治ってジェラールが目を覚まし立ち上がった。と、同時にティアとナツとシャルルが洞窟に入ってきた。
「な、何だこれ…?」
「そんな…」
「アリスちゃん、」
「ナツ〜」
「っ、ごめんなさい、私、」
『………』
ジェラールを見たナツの目が鬼のようになった。
「ごめん、な、さ…。この人は私の、恩、人なの…」
「ウェンディ!あんた治癒の魔法使ったの!?何やってんのよ!その魔法を無闇に使ったら…!ウェンディ!」
ウェンディは力の使いすぎで倒れた。普段治癒の魔法をあまり使わないウェンディからすると、ここまで致命傷だったジェラールを手当てするには魔力の減りが大きかったみたいだ。
ナツはジェラールの方に走って攻撃しようとした。が、ジェラールの返り討ちになった。
その次は近づいて来たブレインまでも穴の奥深くに落とした。
『ジェラール…』
そう名前を呟けばこちらに気付き、歩いてくる。何をされるかわからないから目を瞑ったけど何も衝撃はなかった。逆に何か暖かいものに包まれるような感じがした。
この暖かさ、知ってる。昔から何も変わらない。
『っジェラール…、ジェラール!!』
ジェラールの背中に腕を回しぎゅっと抱きしめかえす。ずっとずっと、会いたかった、こうしてもう一度触れたかった。
何年も流していなかった涙が少しだけ流れた。
抱きしめていた腕をジェラールはゆっくり解くと、あたしの顔を見て少しだけ泣きそうな、悲しそうな顔をした気がする。
そのまま、あたしに背を向けて、歩き出してしまった。普段だったら引き止めたり、追いかけたりしたけど、あんな表情をされたらその場で動くことができなかった。
「ジェラール!!どこだ!!!」
『、ナツ』
「…行ったわ」
ジェラールの魔法で瓦礫の下に埋れていたナツが、ジェラールの名前を叫びながら出てきた。それに答えるシャルル。
そうだ、ここにはまだシャルルもティアもハッピーもいたんだ。
「あんにゃろォー!!」
「あいつが何者か知らないけどね。今はウェンディを連れて帰ることの方が重要でしょ。それに、アリス、」
「アリスちゃん、大丈夫なの?」
シャルルとティアナに不安そうな顔で見られる。きっと、さっきのあたしとジェラールのやりとりを見ていたのだろう。
去って行ったジェラールが気になる。でも、それでも今は、コブラの連れていたキャベリオスに噛まれたエルザを助けたい。きっとまだ、治っていないだろうから。救える命は救いたい。
すぅ、と大きく空気を吸う。魔力の根源にもなる空気、洞窟内なので少し淀んでいるけど、気持ちを落ち着かせるのには十分だ。
『、うん、大丈夫』
あたしは落ち着いたが、ナツが怒りでぷるぷる震えている。あたしとは違う感情だけど、ジェラールを追いたいけど、エルザも助けたい、それは同じだ。
「エルザを助けたいんでしょ!!!」
「、わかってんよ!!!行くぞハッピー!」
「あいさー!!」
ハッピーがナツを、シャルルが気絶しているウェンディを、そしてティアナがあたしを掴み翼で飛び、洞窟から出て上空を飛ぶ。
「ナツ!!よけろォ!!!」
グレイの声がする方を向くと、六魔将軍の一人であるレーサーの姿が一瞬見えたため、防御の態勢に入る。
受け身が取れなかったナツたちは蹴落とされて、地面に真っ逆さまに落ちて行ってしまった。気絶しているウェンディを助けようとしたが、先に地面に落ちたナツが見事キャッチ。ハッピーとシャルルは今の衝撃で意識を飛ばしてしまったため、ナツが全員を抱えて走る。
「くっそー!!!」
「行かせねえって言ってんだろ!!」
「アイスメイク、城壁(ランパート)!!!」
走り出したナツを止めるために、レーサーが追いかけたが、それは森の一部を綺麗で壮大な氷の城壁により、ぶつかる。
この魔法は、
「グレイ、」
「行けよ…、こいつァオレがやるって、言ったろ、」
「けどおまえ、今ので魔力を使いすぎただろ!!」
「いいから行きやがれ!ここは死んでも通さねェ!!行け!!エルザの所に!!!」
確かに、こんなに大きな氷の造形魔法は魔力を大半使ってしまっただろう。それでも、仲間を助けるために、仲間のために立ち上がり続けることができるのが、妖精の尻尾なんだろう。
飛んだままのあたしは、一旦ティアに下ろしてもらうように頼む。
『ティア、ナツの援護に。ウェンディを運んであげて』
「アリスちゃんは、?」
『あたしは、すこーしばかり、こいつにお返ししなくちゃ気が済まないからね!』
「わかったの!」
「うおおお〜っ!必ずエルザを助けるからな!!」と言いながら走り出したナツをティアが追い、担いでるウェンディを運ぶ。急に軽くなったナツはびっくりしてこっちを見たから、笑顔で手を振っておいた。
あたしが治してあげたほうが、ウェンディの負担にはならないけど、個人的にコイツには捕獲される前のお返しをさせていただきたい。
「貴様、二度もこのオレの走りを止めたな」
「何度でも止めてやんよ。氷は命の"時"だって止められる。そしておまえは永久に追いつけねェ妖精の尻尾でも眺めてな」
時、ねぇ。あたしと魔法の相性、もしかしたらいいのかもしれないね。
ナツに手を振りながら、二人の会話を聞く。
「てめえは二回もこのオレを止めた。このままじゃオレの名がすたる。てめえは殺さねえと気がすまねえ」
シュンっと移動する気配を感じ、天空魔法を使い、風のような速さでグレイの後ろに回り、レーサーの攻撃を受け止める。
『っつー!』
「ほぉ?」
「!おまえ、」
蹴りを受け止めた腕が軽く痺れるけど、大丈夫。この程度なら受け止めれる。あとは、こいつの速さにどう追いつくか、だけど。
『アンタがグレイに個人的に執着するなら、あたしもアンタをぶっ飛ばしたいんだよね』
蹴りの体制から、あたしたちから距離を取りこちらを警戒し、見つめるレーサー。
あたしの後ろにいるグレイはこっちに振り返り、あたしの肩をぽんっと叩いた。
「サンキュ」
『ん!ちゃちゃっとぶっ飛ばしてエルザのとこに行こう!』
ニヒッと笑って言うと、呆れたように微笑んだきがする。
次は何をしてくるか、それともこちらから仕掛けようか、戦闘体制に入った瞬間、
「デッドGP開幕!!」
『は?』
急に手をあげて叫んだレーサーに思わずぽかんと気が抜けてしまった。
振り上げた手を下ろすと、どこからともなく魔道二輪が大量に襲いかかってきた。
『ちょ!なに、これ!めんどくせえ!!』
ギリギリ避けることしかできないうえに、反撃の余地がない。
どうする、一台ずつ潰してたらキリがないし、
「地獄のモーターショー、踊れ!!」
「がはっ!」
『っく!』
さすがに数が増えると避けるのも厳しくなってくる。魔道二輪に乗って攻撃してくるレーサーにグレイが閃いた。
「それ、乗れんのかよ」
ばっと一台の魔道二輪に飛び乗ったグレイ。
「SEプラグまでついてやがる。…アリス!」
『ほい!』
何となく意思疎通ができたので、グレイの運転する魔道二輪の後ろに飛び乗る。
「行くぞオラァ!!」
「面白い、オレとレースで勝負しようと?」
「ルールはねえから覚悟しとけや」
『壊しちゃったらごめーんね!』
運転しながら魔法を使いレーザーを狙うグレイだが、運転しながらだからから狙いが定まらず避けられる。あたしも召喚魔法をつかって銃をぶっ放すけど、木々を使って避けられてしまう。こうなったら、木も貫通するぐらいの魔力を込めて放つか、と考えた矢先、今度はタイヤが四方八方から飛び出してきた。
それをグレイの運転捌きで避けるが、避けた先にはレーサーが。そして、お得意の蹴りで車体を倒そうとするが、運転していないあたしがそれを天空魔法の風で上手くカバーする。
風のせいで近付けないとわかったレーサーは魔道二輪に備え付けていた銃を放ってきた。
「くそっ!」
「どうした色男!」
『グレイは運転に集中して!あたしが全部破壊する!』
チェーンを召喚し、弾き返す。全部よけられてしまったけど。
そのまま走り続けていると、木々の多い森から、少し見晴らしの良いところにくると、蛇姫の鱗のメンバーであるジュラさんを除いた二人が。
「リオン!!」
「グレイ!?」
「六魔将軍も!!それに…」
『おらおらぁ!アリス様のお通りじゃー!!』
チェーンをぶんぶん振り回しながら言うと、二人にアホそうな子、、みたいな視線を向けられた。
「いい所にいたぜ!乗れ!!」
「何だと!?」
「いいから乗れよ!!」
『もう一人ぐらいよゆーだし!!』
少し詰めてグレイの背中にぴっとりくっつくと、後ろはもう一人ギリ乗れる。
「何をやってるんだお前は。ウェンディは、お前がいるなら聞くまでもないか」
「ああ!安心しろ、ナツが助けた!それよりアイツやってくんねーかな、運転しながらじゃ上手く魔法を使えねえ」
「ほう、そういう事ならよく見ておけ。オレが造形魔法の手本を見せてやろう」
「一言余計だ」
ほほう。二人とも造形魔道士なんだ。もしかしなくても、同じ属性の造形魔道士だったり?
「アイスメイク、」
『(やっぱ一緒なんだ)』
「おまえ、両手で魔法を…」
「師匠(ウル)の教えだろ。…大鷲(イーグル)!!」
グレイの造形魔法とは少しだけ違うみたい。グレイは静の氷の造形魔導士。それに対してリオンは動の氷の造形魔導士らしい。
木々が多い森の中とは違い、見渡しがいいためリオンが放った動の造形魔法は見事にレーサーに当たり、魔道二輪を破壊することができた。
その破壊に巻き込まれる直前、持ち前のスピードで抜け出してこっちに飛び込んできた。
「遊びは終わりだ」
『天竜の、咆哮ー!!!』
「なっ!」
滅竜魔法で迎え撃ったため、避けたことで軌道が変わり、あたしたちへの直接の攻撃は防いだが、魔道二輪を壊されてしまったので、みんな咄嗟に着地する。
「よくやったアリス!アイスメイク、大猿(エイプ)!」
「(ハンマー)!!」
『うりゃあ!』
あたしの愛用大鎌で斬りかかるが、これも避けられる。どうしよ、避けられてばっかりでイライラしてきた。どうせ防御めっちゃ弱いんでしょ。
『はー!むかつく!!』
「集中すればとらえられん相手ではない!」
「集中か、よし!!行くぞリオン!!!」
「オレの合図で撃て!全力でな」
…服を脱ぐな変態か。かっこいいこと言ってるけど、格好みてくれ。辛うじて下履いてるからいいけど、それでも何故脱ぐ。
「氷欠泉(アイスゲイザー)!!」
「白竜(スノードラゴン)!!」
二人の大技は、更にスピードをあげたレーサーによって避けられて返り討ちにあってしまった。
「てめえらの攻撃なんぞ、一生かかっても当たらんよ。オレの速さには誰も追いつけん」
そろそろ仕留めてナツたちを追いかけようかとほざくレーサー。
当たればそれなりの致命傷にはなるはずなのに、コイツのスピードさえどうにかできれば、
「耳をかせグレイ、アリス。奴の弱点を見つけた」
『避けてばっかで防御がくっそ弱いじゃないの?』
「違う、奴のスピードだ。時間がない、簡潔に言うぞ。奴はスピードが速いわけではない、一定範囲内のスピードを遅くしているんだ。現に遠くを飛んでる鳥が物凄い速さで飛んでいったのを今見た」
『てことは、遠距離に弱いんだね』
「でも、アイツから距離を取るには、どうすれば」
「二人が囮になって、その隙に離れた一人が仕留めるんだ」
『…いんや、スピードを見切られたアイツはそこまで強くないから囮は二人もいらない。とりあえず、今のうちに、』
レーサーもぶつぶつこの先のことを呟いているうちに、こっちも作戦を立てる。
レーサーのスピードのことがわかれば勝利は見えた。あとは、この二人に任せてあたしはウェンディを追いかけたい。個人的に咆哮ぶっ放してすっきりしたし。
そのためにも、魔法を派手に使ったグレイが一番魔力の消耗が激しいので、先にグレイに治癒の魔法を使う。
「魔力が、溢れてくる…」
『次リオン』
「ほう、これが治癒か。一ギルドに一人は欲しいものだな」
『バカゆーな。魔力の消費激しいんだからね。あたしはウェンディを追う。エルザのことも心配だし』
治癒魔法は普通の魔法より何倍も魔力を持っていかれる。そのため少しだけ、視界が歪んだ。大丈夫、まだやれる。
リオンの回復も済ませ、二人に頼む。
『二人ならいけるでしょ。さっきの作戦でいいから、あたしの分もアイツぶん殴って』
「ふっ、オレが囮になる。上手く仕留めろよ、グレイ」
「何だと!?」
まさかのリオンが囮になる発言に、思わずグレイが本気で驚いた。
それを合図に始まる騙し合い。
「そういう事だ、お前らは必要ない」
「リオン!てめ、」
『よっと』
リオンがグレイを氷漬けにし、そのまま上空へ移動させた。あたしも氷漬けにされかけたが、視線で合図を送ってきたので、それに合わせて避ける。
「一人逃したか。グレイ、そこで見ていろ」
「仲間割れだと?」
「勘違いしないでほしいな。こいつとは仲間ではない。たまたま同じ師の下にいた、それだけだ」
『んじゃ、あたしは関係ないし、ウェンディ追いかけるわ』
何も理由を知らないリオンと同じギルドのショッキングピンク髪の女の人、シェリーは、急なあたしたちの変化にあたふたしている。
それでいい、全員が演じるには無理がある。上手く騙そう相手を、手柄を得るために仲間割れしてるように見せかけて、離れた時がチャンス。
任せたよ、グレイ。