ニルヴァーナ

ナツたちとだいぶ離れちゃった気がする。魔道二輪で森の中走り回ったし、どこに行けばいいんだろう。
この森、ニルヴァーナが眠ってるせいか、禍々しい魔力のせいで匂いも頼りにならない。


『あー!もー!だーれーかー!!!』
≪…聞こえるかい!アリスさん!≫
『ふぁ!?何これ!』


頭の中に直接語りかける声。この声はあれだ、青い天馬の一人、ヒビキの声だ。


≪よかった、無事だったんだね。今ナツくんとウェンディちゃんもこっちにきたよ≫
『ほんと!?よかった、』
≪君の頭の中にもこの場所をアップロードするから、向かって来てくれないか≫
『らじゃ!』


ナツのことだから、ウェンディを任せても大丈夫と思ってたけど、予想通り無事にエルザの元に辿り着いたみたい。てことは、エルザの毒もウェンディが治してくれただろうから、とりあえず合流しよう。
ヒビキの魔法であたしの頭の中には、みんながいる場所までの地図が。
ティアもいないので、一人で走っていると、ある方向から大きな黒い柱がとんでもない魔力と共に出現した。


『なに、これ』
まさか、これが



ニルヴァーナ!!


『これが…、て、あれ!?ウェンディたちの場所わかんなくなっちゃったし!!』


ニルヴァーナの凄さに気を取られていると、頭の中にインプットしてくれた地図が消えていた。これもニルヴァーナのせいなのか。仕方ない、覚えてる範囲で向かうが、お願い合流できますように。

ひたすら走り続けると、川を流れる水の音が聞こえて、さらにそこに人の気配を感じる。
進路方向を変えると、川にはイカダに乗ってバタンキューしているナツと、そのナツに向かって槍で刺そうとしてるグレイが


『ちょっ!』


仲間割れではないだろうし、グレイはさっきまでレーサーと闘っていたはず。こんな無傷で、ここにいるはずがない。
魔法で間に入ろうとしたけど、あたしとは真逆の位置にいる人が放った魔法がグレイを阻止した。


「何してんのよグレイ!」
「であるからしてもしもし」


馬だ。二足歩行で、馬の着ぐるみ着てるみたいな馬がいる。
ルーシィの腰に巻いているバンドにある鍵が見えたので、この馬は星霊なんだろうね。


「邪魔すんなよルーシィ」
「な、なによこれ。まさかグレイが闇に落ちちゃったの、?」


闇に落ちる?ニルヴァーナの影響か。どうしてルーシィが知っているのか謎だったけど、一緒にいるのはヒビキ。きっと、彼の魔法でニルヴァーナの事を知って、それを教えたのか。

乗り物酔いでバタンキューしてるナツをハッピーが助けようとしたが、グレイにより凍らされてしまう。


「ハッピーに何すんのよ!!」
「ハッピーは空を飛ぶ。運べるのは一人。戦闘力は無し。情報収集完了」


何かロボットみたいになってんなグレイ…、なんて思ってたら向こう側にいるティアと目があった。涙ぐんだと思ったら、大声であたしの名前を呼んだ。


「アリスぢゃああん、あいだがったのおお!!!」
『ほいな、アリスちゃんの登場です!』
「アリスさん!よかった、無事合流できた」


ティアたちに手を振ると、ルーシィとヒビキが心底安心した顔をしていたので、何だかむず痒くなった。


「アリスさん!無事でよかった。てかグレイ、しっかりして…」
「グレイから見たルーシィ。ギルドの新人。ルックスはかなり好み。少し気がある」
「はあ?な、なによそれ」
『とか言いながら照れるのやめてもらえますか』
「見た目によらず純情。星霊魔道士。ほう、星霊ね、」


「面白い!」と急にルーシィ目掛けて攻撃したので、それをあたしとヒビキが魔法で防ぐ。


『よっ、と!』
「君はグレイくんじゃない。何者だ」
「え?グレイじゃない!?」
「グレイから見たヒビキ。青い天馬。男前。詳しくは知らない。ちっ、情報不足か」


反対側にジャンプしてルーシィを守ったけど、ヒビキが守ってくれるなら、あたしは向こう側待機でよかった気がする。
なんだか、ずっと情報収集しているグレイもどきが不気味で怖いんですけど。てかちゃっかり男前て思ってるとか可愛いな。

そのグレイが次はあたしの方をじっと見て、


「グレイから見たアリス」
『ぱぇ?あたし?』


出会って数時間?たってないかぐらいの相手に何思ってんだ。ちょっと気になる


「化猫の宿。滅竜魔道士。可愛いのにアホ。興味がある。こっちも情報不足か」
『いや待て誰がアホじゃ。許さねえぞアイツ、本人に会ったらぶっ飛ばしてやる』


アホて失礼すぎるだろオイ。ほぼ初対面の相手に思うことか普通。てか滅竜魔道士ってなんで知って、て思ったけどそいやグレイの前で普通に使ってたしそのせいか。
プンスカしていたら、ティアに宥められた。このグレイが本人じゃないってのが気に食わない。一発打ったのに。


「(そっか、闇に落ちるのは善と悪の感情の狭間にいる人。グレイがそんな感情に揺れ動くハズがない)あんた誰?」


ニヤリと笑ったグレイがもこもこと白い煙に包まれ、次に姿を現した時、


「あたし!?」
「君、頭悪いだろ?そんな状況でルーシィさんに変身しても、騙されるハズがない」
「そうかしら?あんたみたいな男は女に弱いでしょ?」


うふ、と偽ルーシィが上の服を脱いだことで、思いっきり男子二名の前でルーシィの豊満なおっぱいが見えている。


「きゃあああああ!!!」


本人が両手で自分の胸元を押さえるけど、それ意味ないから。ルーシィと同じ行動とるわけじゃないからね。


「星霊情報収集完了。へぇ、すごい…、サジタリウス、」


お願いね、と偽ルーシィが呟くと、味方であるハズのルーシィの星霊の馬がヒビキの背中に矢を放った。


『ヒビキ!』


馬ことサジタリウスは、攻撃したくてやったわけではない、そんな顔をしている。きっと、ルーシィになったから、そのルーシィからの命令なので、所有者の言うことを体が勝手に聞いてしまった、てとこだろう。

流石にやばいと思ったルーシィはティアとシャルルにウェンディを連れて逃げるように頼む。すでに飛んで逃げていたけど。

サジタリウスをルーシィが強制閉門しても、偽ルーシィが呼び出してしまう。さらにこのサジタリウスは偽ルーシィが呼んだことになるため、ルーシィでは強制閉門が出来ないときた。
偽ルーシィがウェンディを撃ち落とそうとサジタリウスに命令する。サジタリウスはその命令をきかないように、反するが、所有者の命令は絶対なので従わざるおえない。
そんな空気のなか、現れたのは、


「もういいゾ。ニルヴァーナが見つかったって事はあのガキの役目も終わってるってことだゾ」
「そっかー!」


このクセのある喋り方。


「は〜いルーシィちゃん、エンジェルちゃん参上だゾ」


六魔将軍の一人、心がのぞける女エンジェル。
心がのぞけるのは双子宮のジェミニという星霊であり、エンジェルもルーシィと同じ星霊使いなんだ。


「運命の女神も一緒なんて、ラッキーだゾ」
『、もう用済みなんじゃなかった?』
「貴重な治癒の使い手、捕らえておいて損はないゾ」


同じ治癒魔道士なら、どうしてウェンディは逃したのか。それが顔に出ていたのかフフンと得意気そうに笑って答える。


「運命の女神って呼ばれてる理由、本人が知らないわけないでしょ?」
『っ、誰かが勝手につけたものだから。あたしはその呼び方、嫌いよ』
「ふ〜ん。ま、個人的に欲しいし、捕えちゃったらいいことだゾ」


数秒前までのおちゃらけた雰囲気とは違い、目の鋭さが増す。その雰囲気を感じ取って怖いはずだろうに、ルーシィとハッピーがあたしの前に立つ。


『ルーシィ?ハッピー?』
「ここはあたしが何とかするから、アリスは逃げて」
「あい!オイラたち、がんばるよ!」
『でも、ルーシィ一人で相手は、』
「どーゆーことかしら!?」


だってルーシィびびってたし。どっちかって言うと、ウェンディと似てるから戦闘得意そうじゃないし。


「大丈夫よ。ここ、あたしの得意な場所だから。だから早く逃げて!!」
「ティアもルーシィ守るの!」
『ティア、』


あたしの腕の中にいたティアが翼で飛び、ルーシィの横につく。
二体一で戦った方が効率が良いことは分かってる。
でも、ルーシィの、星霊魔道士同士の戦いに手を出さないで、あたしは逃げろって、真っ直ぐな強い眼差しが訴えかける。

それと同時に、あたしの心は、洞窟で別れてしまった大切な人にもう一度会いたいとずっと思ってる。

ごめんね、ありがとルーシィ、


『信じてるから』
「!!うん!」


背を向けて走り出す。
誰がどこにいるかなんてわかんないけど、ジェラールが向かった先として考えられるのは、ニルヴァーナの発生地であるあの光の根源。
ここから遠いわけでもないから、全力で走る。




「アリス!」
『エルザ…』


エルザはあたしを見て駆け寄ってくれたけどそれよりもニルヴァーナの前にいるジェラールを見て目を見開いて驚いている。
あたしはエルザの横に立ってジェラールを改めて見た。


「…ジェラール」
「エルザ…」
「お、おまえ、どうしてここに…」

「わからない」


…え?わからないって何で?


「エルザ、エル、ザ…、その言葉と君の笑顔と泣き顔しか覚えていないんだ…」
「え?」
『う、そ…』


君と言ったとき確かにジェラールはあたしの方を見た。エルザと言う言葉とあたしの笑顔と泣き顔?それが唯一、ジェラールが覚えていることって言うの?


「教えてくれないか?オレは誰なんだ?君たちはオレを知っているのか?」
『ジェラール…』
「エルザとは誰なんだ?君はオレにとってどんな人なんだ?何も思い出せないんだ…」


なんでだろう、ジェラールの思いがあたしの中に流れ込んでくるみたいに、涙があたしの目からぽろぽろと流れ出てきた。


「ジェラール…」
「く、来るな!」


ジェラールは自分に近付いてくるエルザに攻撃した。エルザの頭からは血が流れる。

あたしは涙が止まらず、ただ立ち尽くすことしかできない。


「く、来る、な…」
「ならばおまえが来い、私がエルザだ。ここまで来い」
「………」
「おまえの名はジェラール、私のかつての仲間だ。だが乱心したおまえは死者を冒涜し仲間をキズつけ、評議員さえも破壊し…、シモンを殺した」
『…………』
「それを忘れたと言うつもりなら心に剣を突き立てて刻みこんでやる!ここに来い!私の前に来いっ!」
「オレが、仲間を、そんな…。オレはなんと言う事をっ、オレは、俺はどうしたら……」


苦しいんだね、ジェラール。覚えていないけど自分がやったことを聞かされて。でもそれを受け入れてほしい。どうしたらいいのか助けてあげたい。

あたしは、ジェラールを助けられるの?


「てめえの記憶がねえのはよくわかった。どうりで心の声が聴こえねえ訳だ」
「六魔将軍!?」


岩陰に隠れていたらしくキュベリオスを連れてあたしの横まで歩いてきた。キュベリオスはあたしの体の周りをしゅるしゅる音をたてながら滑っている。
気に入られてるのかわからないけど、噛まれたトラウマはあるので感触と背に寒気が走った。


「どうやってここまで来た?で、なぜニルヴァーナの封印を解いた?」
「眠っている時に誰かの声が聞こえた、「ニルヴァーナを手に入れる」と…。かすかにその魔法と隠し場所は覚えていた。これは危険な魔法だ、誰の手にも渡してはいけない。だから、」


完全に破壊する為に封印を解いた


「な!?」
『なに、してんの、』
「ニルヴァーナを破壊する、だと?」
「自律崩壊魔法陣を既に組み込んだ。ニルヴァーナは間もなく自ら消滅するだろう」
「てめェ!何て事を!くそぉーっ!!」
「その解除コードはオレしか知らない」
「ジェラール…」


やめて、やめてよ。
今のジェラールがそんな魔法を使ったら、体が壊れちゃうよ。
お願いだから、やめて、


「なんだよ、この高度な魔法陣は…。このままじゃニルヴァーナが崩壊する!ジェラール!解除コードを吐きやがれ!」


ジェラールは吐くことはないだろうと思っていた。
でも、代わりに吐いたのは赤黒い、血。


「エルザ、その名前からは優しさを感じる。やさしくて、明るくて、あたたかさを感じる…。君からは切なさと愛しさを感じる」
『ジェラール…』
「きっと君はオレを憎しみ続ける、それは仕方ない当然の事だ。しかし憎しみは心の自由を奪い、君自身を蝕む」
「お、おまえ…」
「オレはそこまで行けない、君の前にはいけ、ない…」
「こいつ…」


ジェラールの体の中心からキキキと音を立てながら魔法陣が仕組まれていく。そして足がふらついて倒れそうになる。

その魔法陣は、


「ジェラールから解放、されるんだ。君の憎しみも悲しみ、も…、オレが、つれていく」
「自らの体にも、」
『自律崩壊魔法陣…』
「君は、君たちは自由だ…」


ドサッとジェラールは倒れた。それと同時にあたしとエルザが走り始める。ジェラールからの距離はあたしの方が遠かったはずなのに、ジェラールの元にたどり着いたときは一緒だった。

あたしはジェラールの傍に行き泣きすがりついた。


『ジェラール!ジェラール、っジェラール!!』
「許さん!このまま死ぬ事は私が許さん!おまえには罪がある!」
『思い出してよ…!』
「何も知らぬまま楽になれると思うな!それでおまえがキズつけた者たちに償えると思うな!生きてあがけっ!ジェラール!」


やっと会えたのに…、ジェラール、


「なぜ君たちが涙を、やさしいんだな」
『ジェラール!』
「しっかりしないか!」

「これは一体何事か…?」
「『!!』」
「自律崩壊魔法陣…」
「ブレイン」


こんな状況に現れたのはさっきジェラールが攻撃して穴に落とした、六魔将軍の司令塔ブレインだった。


「ジェラールが組み込みやがった!まずいぜ!このままじゃせっかくのニルヴァーナが消滅しちまう!」


あたしたちにとってはニルヴァーナが消滅してくれるのは嬉しい、逆に六魔将軍にとっては困る事になるので、このままニルヴァーナが崩壊してくれたらいい。もちろんジェラールにはそんなことさせないけど。
ニルヴァーナが崩壊されるのにコブラは慌てているけど、ブレインは不気味な笑みを浮かべる。


「あんずるなコブラよ。私がなぜ脳(ブレイン)というコードネームで呼ばれているか知っておろう?私はかつて魔法開発局にいた」


靴の底をつかつか鳴らしながら、ニルヴァーナに近付くため歩いて行く。


「その間に我が知識をもって造り出した魔法は数百にものぼる、その一つがこの自律崩壊魔法陣。私がうぬに教えたのだ。忘れたのか?ジェラール。解除コードなど無くとも…」


ブレインがバッと魔法陣に向かって手をかざすと自律崩壊魔法陣は、


「魔法陣そのものを無効化できるのだよ、私は」


パキパキになって崩れた。


「そんな…」
「おおっ!」


うそ…、せっかくジェラールがやってくれたのに。
そしてブレインはジェラールをみて驚いた。


「自らの体にも自律崩壊魔法陣だと?解除コードと共に死ぬ気だったというのか?」
「エーテルナノの影響で記憶が不安定らしい。どうやら自分が悪党だった事も知らねえみてえだし」
「なんと、滑稽な…。ふははははっ!哀れだなジェラール!ニルヴァーナは私が頂いたァ!」

「させるかァ!!」


エルザが換装で剣を出してブレインに向かって走っていった。けどニルヴァーナの封印がとけて衝撃波で吹き飛ばされた。


「ぐぁっ!」
「姿を現せェ!」
「聴こえるぞ!オレたちの未来が!光の崩れる音がァ!!」


すごい音をたてて封印されていたニルヴァーナが本来の姿を現していく。あたしたちの体が吹き飛ばされて浮いた。ヤバい…


『ジェラール!エルザ!』
「アリス!」
「エルザ!」


ジェラールとエルザに手を伸ばしジェラールの手を掴むことは出来たけどエルザに伸ばした手は空をきったけどとっさにジェラールがエルザの腕を掴んだ。よかった…。
大地がふるえてニルヴァーナがゆっくりと姿を現し始めた。まるで生き物のような足みたいなのが六本ある。


「く…」
『ジェラール、自分の体にかけた自律崩壊魔法陣をといて』
「そうだ、おまえには生きる義務がある。たとえ、醜くても、弱くても、必死に生き抜いてみせろ」

「オレは、ニルヴァーナを止められなかった」


ニルヴァーナが目覚めたせいでニルヴァーナから落ちそうになっていたけど、エルザと共に上がってジェラールも引っ張り上げた。


「もう、終わりなんだ…」

『…終わらないよ。たとえ一人になってもあたしが止める!』
「私もだ。それに見てみろ」


エルザの視線の先を追うとナツ、グレイ、ルーシィが這いつくばってニルヴァーナの足から登っていた。まるでこのままじゃ終わらせないとでも言うように。


「私たちは決してあきらめない。希望は常に繋がっている」
『生きてこの世界の未来を一緒に確かめよう?ジェラール』


そう言ったら悲しく、だけど優しく微笑んでくれた。記憶がなくてもジェラールはジェラールだ。

あ、れ。このニルヴァーナの向かってる先って…。まさか、ね、そんなはずない。


『とりあえず、ニルヴァーナを止めるための方法を見つける!』
「そうだな、中心部に向かってみるか」
『あ!そうだ!』


エルザとジェラールが歩き出したけどあたしの声で振り向いた。ジェラールの前まで行って二パッと笑って手を差し出した。そんなあたしの行動に二人とも首を傾げているけどあたしは、


『あたしアリスだよ、よろしく!』
「アリス?何を…」
『ジェラールの記憶がないなら、あたしのことを知らないなら、また初めからやり直す!』


だから、よろしくね


「…ああ」


少し戸惑いながらもジェラールは微笑んであたしの手を握ってくれた。少し…、ううん、かなり辛いけど新しく始めるしかない。


「そう言うことか、ほら行くぞ」
『うん!』


今度こそニルヴァーナを止めるために、あたしたちの始まりのために大きな一歩踏みだした。
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