24時間耐久ロードレース

ぐっすりと、ベッドで寝ているあたしの家に突撃する音で、うっすらと目が覚める。



「アリスー!起きろー!」
「おいてっちまうぞ!」
「ふむ、、なかなか良い家ではないか」
「ちょっとー!あたしの家に入る感覚をアリスにもしちゃダメでしょー!」



すやすや心地の良い睡眠に入っていたのに、いつもの四人組に邪魔をされた。
鍵を渡した覚えもないのに、どうやって家に入ったのか、、
わちゃわちゃしている四人の声で、いやでも目を覚ますことになってしまった。



『ううう〜、うるさーい!!』

「お!やっと起きたか!」
「目覚めの遅い姫さんなこった」
「おはよアリス!」
「まったく、私たちが来なければどうなっていたか…」


布団をガバッと捲り上げて、しょぼしょぼする目を擦りながら周りを確認する。いつもと変わらない四人だけど、なんかあったっけ今日。
うーんと働かない頭で考えるが、無理だ、何も思いつかないわ。
そんなあたしを気にせずに、はやくはやく!と急かすルーシィに何かあったか聞くと頭を叩かれた。いて、



「今日は24時間耐久レースの日でしょ!」
『…あああ、忘れてたあ、』
「だから早く寝るって言って昨日早く帰ったのに…」
「早く準備をするんだ、もうすぐ時間だ」
『あーい、ふああ』


未だに働かない頭。動くのめんどくさいし、着替えるのもめんどくさいけど、遅れることが一番やばい。今日のイベントは年に一回しか行われず、しかも全員が強制参加なのだ。



『グレイ〜』
「なんだ?早く準備、」
『ん!おんぶー!』
「お、おんぶ…?」


動きたくないため、近くにいたグレイを呼び腕を伸ばして足になれと頼む。ぽかんとした顔のグレイにはやくはやくと腕を振ってアピールするとしぶしぶ背中をむけてくれたので、飛び乗る。
そのまま近くのクローゼットまで連れてってもらい、いつもより軽めの着物セットをとり、次は洗面所に連れてってもらう。ここまで一回も足をついてない、優秀だグレイ。



「おら、ちゃんと目覚めたか?」
『ん〜、ありがと。顔洗うから服持ってて』
「おう」



やっと起きて初めて地面に足をついた。
みんなが居るから着替えるために洗面所に来たけど、ちょうどよかった、顔を洗いついでに歯も磨く。



「早くしろよなあ」
『ん、ひょっとまっひぇ』
「遅れたら責任取ってもらうぞ」
『んー!へひー!』
「ケチじゃねえよ」



口をゆすぎ、スッキリ。やっと目覚めたって感じだ。
髪の毛も櫛でとかし、よし、いつものあたしだ。
鏡で確認した後に、振り返り後ろに居たグレイににぱっと笑う。



『おはよ!』
「おう、おはよ」
『よーし!ピャッと着替えて行こっか!』



覚醒した頭で、時間が迫ってきていることに気付き、今更だけど待たせている四人に申し訳なく思う。寝巻きに手をかけて脱ごうとしたら、腕をガシッと掴まれた。おっと、そうだグレイがいた。



「おっ、まえ!脱ごうとするな!!」
『…グレイに言われたくないんだけど』
「は!!」
『服着ろ』
「いつの間に!?」



ほんと、いつの間に脱いだの。
グレイがあたふたして落ちている服を拾って着ている間に、あたしも着替える。着慣れてる服だからさっと着れるため、グレイが服を着る前に着替え終えた。



「アリスもはやく、」
『もー着替えました〜!』
「はええな!!」
『みんなー!おまたせ!お迎えありがと〜!』



驚いているグレイを放置し、扉を開けて待っている部屋に行くとルーシィが肩を掴んできた。



「着替え終わってるじゃない!」
『うん?そりゃ着替えたからね』
「グレイは…?」
『そこにいるけど』



洗面所を指さすと、ぐったりとしたしたグレイがあたしの後ろから出てきた。



「なんか、変に疲れたぜ…」
「何かあったんじゃないかと思ったけど、安定にアリスに振り回されただけっぽいわね」
『あたし何もしてないけど』



ルーシィが謎にホッとしていた。
あたし達を待ってる間暇だったのか、ナツはあたしの残った温もりのあるベッドでイビキをかいて寝て、エルザは壁に貼っている写真を見ていた。
準備ができたことを伝え、みんなで家を出る。

そういえば、何でうちバレたんだろ。とか考えながらレースが開催されるスタート地点に向かう。
だんだん人が増えていき、集合場所にはすでに妖精の尻尾の魔導士が全員そろっていた。



『やっほウェンディ』
「アリスさん!おはようございます」
「おそかったわね」
「アリスちゃん遅いからティア先に来ちゃったの」
『裏切り者め』



ポニーテールにスポーツウェアを着ているウェンディ。シャルルとティアもそばにいた。ティアめ、いないと思ったら先に来てたのね。
ウェンディに挨拶を済ませて、周りを確認すると、同じく初参加のルーシィと走る直前なのに樽でお酒をがぶ飲みしているカナが。見てるこっちが吐きそうなぐらい。



「みんな気合い入ってるなあ」
「みんな罰ゲーム喰らいたくないからねえ。去年は酷かったからなあ」
「はあ?罰ゲームってなによ!」
『何それあたしも聞いてない』

「静かにせえ!!」



マスターの声でざわざわしていた魔導士の声が止む。
開会式のようなマスターの宣言が始まる。
簡単にまとめるとこんな感じかな。
・決められたコースを走る
・24時間以内にイボール山にあるワイバーンの鱗を持って帰ってくる
・脱落は認めない
・飛行魔法は禁止で他の魔法は使用無制限
・最下位には罰ゲーム

簡単そうだけど、平和に終わる訳がないんだよなあ、このギルドは。
最下位にならなければ良いだろ、と言うガジルに、後ろ向きすぎるし、優勝を目指すというエルザは、新調したスポーツウェアに着替える。これはセーフなのね。



「それではー!いよいよスタートだ!全員スタートラインについてくれーい!!」



司会なのか、ジェイソンの掛け声で全員が準備をする。あたしも走るために今日はショートブーツを履いてきた。草履だと流石にしんどいし。

毎年一位であるジェットがやる気満々で、レビィにスタート見てろよ、と告げる。それに見てる余裕がないと伝えるレビィ。



「かっこいいところ見せたいのよ」
「ルーちゃんは知らないだろうけど、スタートなんて絶対に見られないから…」
『なんとなあく、想像つくなあ』



ていうか、魔法使用いいんだよね。
てことはさ、



「よーーーい、、、ドン!!」

『時間停止』



これってセーフなのかな?アウト?
でも飛行魔法じゃないし、罰ゲームなんか怖いから喰らいたくないしなあ。
始まりと同時に時間止めたけど、どうなんだろうと思い、マスターの時間だけを動かす。



「…ぅうん?なんじゃ、これは、、」
『はーい、マスター』
「アリス、まさかお主」
『これは飛行魔法じゃないけど、ダメ?』


周りが止まっている中、マスターがあたしと二人だけが動いていることに考え、感心したように周りを見渡す。
そうでしょ、あたしの自慢の魔法すごいでしょ。



「これが時間操作の魔法か…」
『話してたけど、使うの初めてだったね』
「ふむう、、確かに聞いてた通りの魔法じゃ」
『ちょっと、てかかなりチートに近いから使うの気がひけるんだよね』



自慢の魔法だけど、ちょっとずるいなて思ったり。一人だけ違う時間を生きてる感じがしてちょっと悩んでしまったりもするし。
これであたし走ってゴールしたら一位だし、でもなあ、て感じ。



「良い魔法じゃ…。しかーし!!これだと本当に走ったのか確認ができん!!よって使用禁止じゃ!」
『やっぱり〜?』



まあそうだろうな、て感じ。しかも24時間も時間止めれる自信もないし。体力と他の魔法でがんばるか。



『みんなにはまだ内緒にしてね。時間を奪ってる、て考えたら、ちょっとね、』
「そうか、、。お主はそういう考えをするんじゃな、」
『ん?なんか言った?』
「いいや、何にも。そろそろ始めよ、この瞬間もアリスの魔力は使っているだろうに」
『そっか!魔力残さなきゃ!ありがとマスター!』


時間始動…!


魔法を使うのと同時に、ジェットが爆走する直前に時間を止めたから、それの被害が出ない位置に移動する。
周りは、何事もなかったかのように動き始めた。
予想通り、ジェットは魔法で全員を巻き込む砂埃を立てて走り出した。あたし一人、無事なところからのスタート。

ジェットの後を追うように、ナツが火竜の鉄拳ブースターで二番手で走り始めた。
それを追うように、エルザグレイガジルなどなど、優勝目指すメンバーが走り出した。
その後ろにあたしも続く。


街を抜けて、橋を渡り、山に向かう途中の道でみんながとうとう魔法を使って妨害を始めた。
ええ、そんなに罰ゲーム喰らいたくないの、てどんだけやばいんだよ…

リーダスが落とし穴を描き他の人を落としていく。その後ろからガジルがリーダスを突き飛ばし、自分が書いた落とし穴に嵌る。そしてあたしの前を走っていたグレイが氷の造形魔法で地面を凍らす。それに足を滑らせる数名の魔導士。
華麗に滑りながら抜いて行くグレイをエルフマンが殴り止める。殴られたグレイがあたしの足元に戻ってきた。



『おかえり?』
「あ、あ、、」



足元に来たグレイを放置するのもアレだし、今朝色々お世話になったので目を回しているグレイに魔法を使い魔力回復をしてあげる。グルグル目だったグレイの意識が戻ったのか、勢いよく起き上がった。



「アリス?」
『うん。元気なった?』
「おう、サンキュー!」
『今朝お世話になったお礼ね』



じゃあ上位目指してがんばってね〜、とグレイにバイバイして、慣れない氷の足場に一歩踏み出そうとしたら、あたしの体が浮いた。ちなみに飛行魔法は使っていない。



『なになに』
「しっかり掴まっとけよ」
『ふぉー!』


これはすごいありがたい!
グレイにお姫様抱っこをしてもらいながら、凍った床を進んで行く。
魔法で床を溶かすこともできたけど、滑る方が速い!



『グレイありがとー!』
「っ!ここ過ぎたらおろすからな!」
『最後まで運んでくれても良いのに』
「あほか」


嬉しくなってグレイの首に腕を回し感謝を伝える。このまま最後まで運んでくれたらすごい楽なのに。流石にせこいか。
氷の床が終わったら、言ってたとおりあたしを地面におろし、グレイは猛スピードで走り出した。
あたしも自分のペースで走り、なんとかワイバーンの鱗がある地点まで。

疲れた…

今度は山を下っていくと、登ってきたナツと出会った。



『あれ?ナツおそくない?』
「魔力切れてガジルの野郎に邪魔されちまってよ」
『あ〜、ずっと魔法使ってたらね』
「その辺にあった火食ったからマシだけどな!」



その辺に火があるわけがないから、凡そキャンプか何かしてる人の焚き火とかの火をもらったんだろう。そうだとしたらあんまり回復できてないと思うけど。
そういや、今日は朝起こしに来るのを決めたのは、ナツが第一声だと聞いた。



『ナツにも』
「お?」



グレイの時と同じく、魔法で魔力を回復する。ちょっとだけね。



「良いのか!?」
『回復した後にゆわれても』
「ありがとなー!」
『朝来てくれたでしょ、そのお礼。グレイにもさっきやったし』
「んだよ、オレだけじゃねえのか」



ツーンと拗ねてしまった。だってグレイは朝すごい足になってもらったし。
口元に指を持ってきて、シーのポーズをする。



『ナツとグレイだけだよ』



じゃあねっ、と足を進め山を下って行くと、ワイバーンの鱗を手に持ったナツが後ろから走ってきた。はや。



「アリスありがとな!!オレは先に行く!」
『ほーい!がんばれ〜』



火竜の鉄拳ブースターを再発動させて走り出したナツ。
あたしもそれに続いて走る。
24時間というだけあって、外は真っ暗で、走り続ける人もいれば、軽く仮眠を取る人もいてる。
あたしはしっかり睡眠をとったので、自分のペースで無理なく走り続ける。


朝日が登り、お昼前になる頃、後ろから猛スピードで優勝候補のジェットが走ってきた。
え、一位じゃなかったの。

前を走るみんなを吹き飛ばしながら上位に入っていく。
安定に、ジェット、エルザ、ナツ、グレイ、ガジルの五人が一位争いをしてるみたい。

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