ファンタジア3

ミラ達に別れを告げてあたしはやっとゆっくりお祭りを楽しめそうだ。

ティアと2人で安らぎの一時を過ごしていたら大きな破壊音が聞こえてきた。お土産を見ていたので、店内から外に出て見てみるとカルディア大聖堂から煙が上がっている。

首は突っ込まない主義なのでこちらに危害がないことを確認してから、お店を出て違うお土産を探すことにした。
いや、突っ込まないんだけど向こうから来るのは別だ。

それにしても今日は収穫祭だから出し物たくさんあるなあ。



『ティアは何欲しい?』
「えっと…、リボンが欲しいの!」
『リボン?何に使うの?』
「頭に着けるの!」
『あっ。それ可愛いかも!あたしとおそろいか!』



ティアがリボンを着けてる姿を想像したら結構可愛かった。屋台にある雑貨屋のリボンをティアがどれにするか悩んでいるのであたしは一歩下がって決めるのを待っていると、体中が傷だらけの男が、誰かの名前を呼びながら走っていた。

さすがにそんな人を放っておくほどあたしも酷い人間じゃない。



『あのー、人探しの中悪いけど、大丈夫?』
「あ?……、おまえはミスフェアリーコンテストに出てた…」
『(げっ。覚えてやがる)その怪我』
「あぁ、っ、気にすんな」
『そんな体で無理したらダメ。動くなよ?』



治癒魔法で魔力を、時の魔法で傷を回復した。あー、やばい、今日は魔力の使いすぎでちょっとだけ目眩が。



『ん。できた』
「傷が…」
『んじゃーねー、っ、』
「っおい!」



余計な心配をさせないように、はやくこの場を立ち去ろうとしたけど、視界がぐらりと揺れて足がもつれた。倒れかけた体を支えてもらい、あたしも服をぎゅっと掴んでしまった。
おお、ありがとう黒髪垂れ目くん。



『ごめ、ありがと』
「いや、もしかして俺のせいか?」
『っ違う違う!あたしの努力不足だから』
「さっきの言葉返す」
『え?』
「そんな体で無理すんな」



グイッと両肩を掴まれて真っ直ぐな瞳で見つめられた。



『…………』
「…………」
『あの、』
「あ?」

『ち、近い、、です』
「っ!?悪りぃ!!」



肩を掴まれたままだんだん距離を縮められていた顔の近さを告げると、頬を赤くしてバッと距離をとった。
いやあたしも男の免疫ないけど、この人もだな、仲間だ。

それにしても、見ず知らずの人を心配してくれるなんて、優しい人だなあ。
お互い無言で視線をチラチラしてたけど、たまたま目線が合った時に、へらっと笑うと彼はさっきより赤くなった。あ、あたしの方が免疫あるかも。



「と、とにかく俺は急いでるからこれで!ありがとな!!」
『こっちこそ!またねー!』
「おう!」



何となく、また会える気がした。

黒髪で垂れ目くんは元気になったみたいで走って行ってしまった。あの人どっかで見たことあるような…
ま、いっか。



「アリスちゃん!このリボンがいいのー!」
『はいはーい。お、可愛いじゃん!』
「買ってほしいの!」
『おっけー』



買ってから後悔。
ティアめ。値段に驚かされたし、高いの選びやがってちくしょう。今日は特別だから我慢してやるか。

ある程度お土産を買ってから、召喚魔法の異空間に全部詰めて、気分良く歩いていると急に魔力が所々で上昇していくのを感じると、それぞれの場所から空に浮かんでいる雷の球のラクリマを攻撃した。

まあ、あたしたちに被害はないし、何で壊したんだろう、街の人が言ってるみたいに花火もどき的な?て思ったら、一つだけ壊されていないラクリマが。
あれは放置してていいのかな?とおもったけど、そのラクリマが雷をバチバチさせて街の一点に降り注ごうとしていた。



「しまった!うっ、動け、あたしの体っ!!」
「っあい〜!」



金髪のチアガールのコスプレをした女の子とティアと似てる青い猫が、体がボロボロになりながらも立ち上がろうとしている。
さっき見てたけど、あれは生体リンク魔法がかけられてて、壊すと同じ痛みが自分にもくるっぽい。



「あたしがっ、街を守らなくちゃ、っ!!」



この子は、この街が大好きなんだろうな。純粋に、羨ましいなって思った。
でも、もうラクリマは発動してしまっている、今壊しても無意味だろう。

幸いな事にこれは雷、それならあたしのモノだ。
立ち上がろうとする彼女の前に立ち、落雷を迎える準備をする。丁度いい、今のあたしは魔力を使いすぎてお腹が空いてる。



「あ、あなた、、」
『この辺かなあ?』

「っ危ない!!!」



落雷地点を予測して、そこに立つと予想通り黄色の稲妻があたし目掛けて落ちてくる。
チアガールはあたしの身の危険を知らせるために叫んでくれたけど、わざと当たりに行ったのごめんね。

空に向けて手をかざすと、そこに落雷が当たる。
でも痛みは一切ない。むしろ魔力がぐんぐん回復していくので心地よい。食べても良かったけど、雷は口の中がパチパチするから食べるより吸収があたしは好きだ。

全部吸収し終え、チアガールの方を向くとあたしが黒焦げになったと思ってるのか、両眼を手で隠して震えていた。
何だかおかしくて、くすくす笑うと恐る恐る手を退けて、体に傷一つないあたしに信じられないものを見るかのような目を向ける。



「え、え!?あなた、雷は、どこに、、」
『ふはっ、魔力切れしそうだったし、頂いちゃった』
「頂いた!?、あなた、何なの、」
『魔道士!妖精の尻尾じゃないけどね』



チアガールのあたふたする反応が面白くて、あはは!と思いっきり笑うと恥ずかしそうにほっぺを膨らませた。



「街を守ってくれてありがとうございます!」
『いーよいーよ!あたしも魔力回復できたし!』



律儀に頭を下げてお礼を言ってくれるチアガールにあたしも笑顔で返す。
んじゃ!と用もないのでその場を引き返した。





「ルーシィ!悲鳴が聞こえたが無事か!?」
「ラクリマが一つ残ったが、どうなった!?」
「街は!無事なのか!?」

「みんな!!!うん!あたしは大丈夫!街も、守ってもらったわ!」
「守ってもらった?」
「誰に!?」
「魔道士か!?」

「ちょ、テレパシーで一気に質問されても答えられないわよー!!」
「あい!」





この後、あのラクリマから街を救ったのは誰だ?という話題は、収穫祭が終わるとともに忘れさせたのだった。



観光も終わり、お土産も全部買い、お腹もいっぱいになったし、後はメインのパレードを見るだけだ。
いい感じに外も暗くなってきたし、始まるまで座りたい、足が疲れた。
そこの広場にベンチでもないかな。
ティアを腕に抱き、鼻歌を歌いながら歩いていると視界に見覚えのある3人が。



『「「「あ」」」』
「さっきぶりなのー!」
『何であんたはそんなに軽いねん』



よっ!と手を上げたティアに思わずツッコミを入れてしまった。
確かに今日は妖精の尻尾のメンバーに縁のある日だな。まあ、今回は戦闘とかしなさそうな雰囲気だし、どっちかって言ったらしんみりしてた気がする。



「え、何?あんた達も知ってるの?」
「はあ?エバこそ何で知ってんだよ?」
「まさか、お前が言ってた戦った奴ってこいつらか?」
『ビンゴ。みんな元気そうでよかった〜』



この3人はお仲間、チームを組んでたのか。なら1人がみんなに言ってくれてたらあたしは無駄に闘わずにすんだのに。



「その、今日は色々とすまなかった」
「だな」
「ま、まあ、少しは悪いと思ってなくもないわ」

『何頭冷えたのあんたら』
「キー!!やっぱムカつくわ!!」
「お、落ち着け」



こっちに殴りかかりに来ようとした妖精さんを術式遣いが抑える。事実言っただけなのに。



『あんたらのせいで魔力切れしかけたし』
「…すまない」
『まあ、あの空に浮いてたラクリマ吸収して回復したけど』
「は?何言ってんの。…まさか、最後に残ってた1つをどうにかした人って」
『あたし』
「もう嫌、この子私の石化も解いちゃうし、意味わかんないぐらい動き速いし、無敵すぎて怖いわ」



殴りかかろうとしていた妖精さんは、体の力が抜けたのかふらっとしたため、術式遣いに支えられていた。
仕方ない、あたしの魔法はそういうモノだもん、チートに近い自覚はある。



『てかパレードまだ?暇なんだけど』
「ようやく落ち着いて、立て直しているところだ」
『やっとか〜、変な事に巻き込まれるし夜にくればよかった』
「普通、魔道士はパレードだけしか見にこないから、夜に来るものだがな」
『へ?そーなの?』
「はっはっ!だから巻き込まれたんだなあ!」
『もっかいぶっ飛ばすぞ』
「おお!おっかねー!」



手にバチバチと雷を纏うと、人形遣いは笑いながら一歩だけ下がった。冗談だ。
パレードもうすぐってことは、この人達も準備があるだろうし、無駄な時間を割かない方がいいか。



『ま、あたし見やすいとこから見てるから、期待以上によろしく』
「しっかりこの私を見てなさいよ!!」
「ベイビー達もよろしくなあ!」
「ああ、見ていてくれ」



ばいばーいと手を振りながらパレードの位置を確保しにいく。ずっと付けっぱなしだったウィッグをはずし、服といつも通り着物に着替える。
始まるまでこの近くで座っとこ、今日は疲れた。

パレードは想像以上に綺麗ですごくて、疲れが吹っ飛んだ。こんなに一致団結してるギルドが羨ましいな、あたしにはウェンディがいるからいいけど。










『てわけなんだけど、』



あの時のこと、ほぼ忘れていた。
でも話し出すとだんだん思い出して、全部鮮明に思い出した。
あたし、妖精の尻尾に入る前から結構関わってた気がする。



「え!!!まって!じゃああの時ラクリマ吸収したのアリスだったの!?」
『うん』
「ミスフェアリーテイルコンテストに出てたロリータも!?」
『うん』
「雷神衆と闘ったのも!?」
『うん』
「いいい、意識のないジュビアの怪我を治してくださったのも!!?」
「あたしもか!?」
『うん』
「オレの怪我を治したのも、」
『うん』
「ちなみにミスフェアリーテイルコンテストエルザと同票で優勝だったのよ」
『うん。…え?まじ?』



初めは、ルーシィと一対一でギルドで話していたのに、いつの間に聞き耳立ててたこいつら。
ギルド内ほぼみんながあたし達の方を見ていた。
てか優勝してたなら今からでもお金くれ。



『つーか、ビッグスローが間違えたコスプレ大好き新人ってルーシィだったわけ』
「コスプレ大好きじゃないわよ!!」
『じゃあルーシィのせいで戦い持ちかけられたわけだ。ふううん?』
「あ、あたしのせいじゃないからね!!」


「ガアアアア!!!」
「何!?」
「何でオレは会えてねえんだ!!!」
「知るか!!」
「私も会えていないぞ!!!」



あたしがルーシィをジト目で見ていると、近くにいたナツとエルザがプルプル震えてどうしたのかと思ったら、そんなことかい。



「まさか、アリスを相手にしてたなんてね」
『ガキ扱いしやがって』
「まだ怒ってるのお?」
『思い出したらイライラしそう、エバ一発打たせて』
「いやよ!!」



ぴゅーっとエルフマンの後ろに隠れてしまったエバ。まああたしもあの頃はちょっとだけ短気だったかも。

ガタン、と音がして横を見るとグレイが座って、逆の隣にはジュビアが。



「ジュビア!あの時、少し意識が戻って、アリス様を感じた気がします!!」
『か、感じたって…』
「すごく暖かい光で、なんて優しい方なんだろうって」
『大袈裟だよ』
「いえ!!これは!!愛の光だったのですね!!!こうして再会もできて、ジュビア幸せ!!」



ダメだ。左隣は自分の世界に入っちゃった。
それに対して、右隣は不自然なぐらい静かだし、どうしたものかなあ、



「アリス、その、」
『ん?』
「ありがとな、あの時治してくれて」
『いいって、自己満だし!』
「…それに、六魔との闘いの時、真っ先に走ったナツに引っ張られて、オレが後追って転んだ時のこと、覚えてるか?」
『もちろん!あれはびっくりしたもん!』
「あの時とな、初めて会った収穫祭の時の…、」
『グレイ?』
「あああ!!!何でもねえ!!!(初めて見た笑顔の時と、転んで視線があった時の胸の高鳴りが一緒だったなんて言えるわけねえだろ!!!体は覚えてたんだな、同一人物だって、とか変態すぎだろオレ!!!)」



ど、どうしよ。
右隣も頭をガンガン机にぶつけ始めたし、

はあ、とため息をつくと、周りを巻き込んで八つ当たりしていたナツが戻ってきて、あたしの後ろから突進のハグ。
それを見たグレイの顔が怒りに歪み、ナツと取っ組み合いに。いつものことだ。


あんなに羨ましいな、と思ったギルドに、あたしがその一員になれるなんて、誘ってくれたエルザには感謝しきれない。



『エルザ』
「ん?どうした?」
『ありがと!』
「??」
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