酒を飲む

今日も今日とて、妖精の尻尾内のギルドでは宴会のような騒ぎが起きていた。
さて、今日は、、
お酒を飲んだアリスがどうなるか知りたい。
というカナの計らいで、いつもは水やジュースばかり飲んでいるアリスの横にカナが座ったことから始まった。


「アリス〜」
『カナ飲み過ぎ、ていつものことか』
「あたしにとっては大事な恋人だからね」


大事な恋人を抱えたまま、珍しくグラスに注いで飲むカナ。
飲むことが通常運転のカナだから、酔っているのか酔ってないのかわかんない。その横であたしはミラに注いでもらった甘めのノンアルスパークリングを飲む。うまいこれ、たまらんわ。


「あんたまたノンアル〜?たまには飲みなさいよね」
『たまに飲んでるよ、カナほどじゃないけど』
「それは飲んでるって言わないの」


あたしが飲んでるグラスの中身が無くなりかけてるのを確認したカナはミラに声をかけ、あたしが飲める甘めのさっぱりしたアルコールを頼んでいた。


『ちょっと、勝手に頼まないでよ〜』
「あんたのために弱いの選んだわよ」
『…まあそれならいっか』


最後の一口を飲み終えると、新しいグラスを持ってきたミラにお礼を言ってから受け取る。
カナも頼んでたみたいで、ミラから受け取っていた。
にしても本当に、カナのほっそいお腹のどこにアルコールが入っていくのか。謎だ。
カナが選んでくれたカクテルを口に含むと、確かにあたしが飲める甘さと爽やかさ。これも美味いな。


「それいいでしょ、程よく酔えるよ〜」
『ん?どゆこと?』
「後からくるタイプの珍しいやつ」
『………騙したな』


美味しかったから、ほぼほぼ飲み干してしまった。
でも今のところ特に頭痛くもないし、気持ち悪くもないし、あたしもお酒に免疫ついてきたんじゃないか?て思ってたのに。

この数分後、あたしの意識は途絶えた。


『……………』
「お?アリスどした〜?」
『ねむい』


うとうとし出したアリスは、そのまま机に付してしまった。なるほど、酔うと眠くなるタイプか、とカナは一人で納得する。もう少し面白いものが見れるかと思ったのに、案外つまらないな、と思い、潰れてしまったアリスの面倒を押し付けようとルーシィのところに行こうとしたカナ。
だったが、、


「…アリス?」
『、どこ行くの?』


眉を下げてあからさまに寂しいです、という顔をするアリスがカナの腕を掴む。
そんなアリスを見て、女のカナでも思わずドキッとしてしまった。そのトキメキをおさえ、二つの可能性が思い浮かぶ。
一つ目は、泣き虫になって子供みたいに駄々っ子になるタイプ、もう一つは、


「ちょっと待ってて」
『ん、…早く戻ってきてね?』


これはやばいやつ!!!眠気と寂しがりやの甘えん坊になってるじゃん!!!しかも素直!
と寂しそうに腕を離したアリスを見ながら一人慌てるカナ。慌てる理由なんて簡単だ。


「カナ?どうしたの?」
「ルーシィ!いいところに!!」
「なんか、嫌な予感が…」
「アリスのこと、任せた!」


へ?と呆けてるルーシィにアリスを託し、カナは逃げた。逃げた理由は簡単で、アリスのことを大事にしているギルド最強の女魔導士、妖精女王が怖いからだ。

ぽかーんとしていたルーシィは我に帰ると、顔を伏せているアリスに声をかけた。


『、ルーシィ?』
「どうしたの?」
『カナ、行っちゃった?』
「え、ええ、ちょっと、ほんとにどうしたの?」


いつものへらへらしてるアリスからは想像もつかない、ひ弱な姿に本気で心配になるルーシィ。アリスの横に座り、肩に手を置いた瞬間、ぱっと顔を上げる。
そこには潤んだ瞳に火照った頬や身体、薄く開いた唇はぷっくら膨らんでいて、


「か、か、かわ!…て、なにアリスにときめいてるのよあたしー!!!」
『る、ルーシィ?大丈夫?』
「はわわ、アリスが優しい…、いやいつも優しいけど何か違うのよー!!」
『変なルーシィ、ふふっ』
「あああ、アリスが、アリスがああ、、可愛すぎるー!!!」


その顔面の最強の活かし方を今しているアリスに、ルーシィはときめいたり、パニックになったり、一人で騒いでいると、騒がしかったギルド内でも目立ち始め、数名がこちらに注意を向ける。


「なんだなんだあ?」
「まーたルーシィが一人で何かやってらァ」
「あたしじゃないからー!今回はあたし違うからー!」


一人叫んでいるルーシィの腕にしがみつき、うとうとしているアリス。たまにルーシィが心配そうに顔を見ると、視線を感じるのか顔を上げて、目が合うと、アリスは嬉しそうに優しく微笑むので、ルーシィのハートはさっきからドキドキしぱなしである。


「なんって、可愛いのこの子…」
「ルーシィ先ほどから騒がしいが、大丈夫か?」
『…んん、?、エルザ?』
「アリスは静かだな、どうし」
『エルザっ』


聞こえた声に、またまた伏せていた顔をあげると、姉のように慕っている緋色の髪が見えた。それがエルザだと理解すると、ルーシィの腕を離しエルザの胸元に飛び込んだ。それを驚きながらもしっかり受け止めるエルザ。
飛び込んでくるだけならたまにあることだが、首に腕を回し、何度もエルザの名前を呼び擦り寄っている。


「はあ、、アリスがすっごく可愛いのよ、、」
「確かにこれは…」
『エルザ、エルザっ、エルザがいる、えへへ、』
「うっ!」
「きゃー!あのエルザもやられちゃってるわー!!」


クールビューティのエルザだが、可愛いものは可愛いのだ。
なんとか立ちくらみをおさえ、アリスを椅子に座らせると、何で?と言いたそうに寂しそうな顔でエルザを見るため、またまたその可愛さにふらついた。が、机の上にあるグラスと微かに残っている中身の匂いを嗅ぎ、勘付いた。


「これは、アリス飲んだのか?」
『うん、美味しかったよ』
「あら、このカクテルけっこう強いやつね。まさかアリスお酒に弱いの?」
『ん〜?わかんない、』
「やだ素直可愛い」


あまりの可愛さに口元に手を当てきゅんきゅんするルーシィ。またまた眠たくなったのかうとうとするアリスに、エルザは何となく犯人がわかったのか、ため息をつき、とりあえず女子寮に連れて行こうか考えていると、ナツとグレイも気になったのか様子を見にきた。


「なんだなんだァ?」
「アリス元気ねえな」
「お酒弱かったみたいでね、この有様よ」
「お!それはいいこと聞いたなあ?」


グレイもナツもいつもアリスに揶揄われて、弄ばれてるので(本人は無自覚)、仕返しとばかりに何かしてやろうと、まずグレイが動いた。アリスの目の前に行き、声をかけようとしたら、


『、グレイ?』
「うっ、」
『グレイだっ』


ルーシィにも見せたあの誰もが落ちる顔で、名前を呼ばれ、グレイはわかりやすく固まる。そんなグレイを知らず、追い打ちをかけるように、へにゃっと笑ったアリスに今度は顔が赤くなっていく。


『グレイ?』
「っ、あー…?」
『…、あつい、、グレイ、あついの』
「…おう」
『ぎゅってして』
「んな!!?」


驚いてる本人はフル無視で、立ち上がり、倒れるようにグレイの胸元に寄りかかる。氷の魔導士であるからか、ひんやりした体温が今のアリスにはすごく心地のいいものなのだ。


『はあ、、きもちい』
「……………」
『グレイ冷たくて、今日はずっと一緒にいたい』
「なあこれ持ち帰ってもいいか?いいよな?」
『持ち帰り?』
「いいか?」
『いいよ』
「ダメに決まってるでしょ!!!」


ある一定の域を超えたのか、グレイは無になっていた。いや、男としてこれはお持ち帰りしていいものだろう、と考えるがルーシィに全力で止められる。ちなみにアリスは素直なので何でもイエスマンになっているのだ。

しかし、それを許すわけがない人がもう一人、


「アリス!そんな氷野郎の近くにいたら風邪ひいちまうぞ!!」
「熱いっつってんだからテメェよりはいいんだよ!」


そのグレイの返しに、うっ、と言葉を詰まらせるナツ。確かに火の滅竜魔導士である自分は、体温が高い。


『ナツ?』
「アリスー」


あからさまにしゅんとしたナツに気付いたアリス。グレイの胸元から離れ、ナツの元に行く。


『ナツ?大丈夫?』
「アリス、オレ体温高いから、」
『なあんだ、そんなこと。あたしナツのぬくもり好き』


コテン、と両手とおでこをナツに預け、引っ付く。そんなアリスにナツは嬉しそうに抱きしめた。


「そっか!オレのこと好きか!」
『うん、好き』
「オレもアリスが好きだ」

「ちょっと、もっとムードってのを大事にしなさいよ、、はあ」
「いいじゃないか、小さい子供を見ている気分だ」


ルーシィとエルザは呆れながらも、子供のような2人に自然と笑みが浮かぶ。グレイはただ一人、面白くなさそうに見ているが。

そんな五人の元に、たまたま通りかかったラクサスは関わると面倒なことになりそうだ、と思い通り過ぎようとしたが、ちらりと視線を移した時に、アリスと視線がぶつかった。


「げっ、」
『ラクサス…』


ナツとほのぼの、お花が咲いているような空気の中、アリスが一人ラクサスの名前を呼びふらふらしながら駆け寄るが、躓きかける。


『あっ、』
「っおい!」


目の前で転びそうになった人を見捨てるほど酷い人ではない。片腕で支えると、その腕に絡みつき、顔を上げてへにゃりと笑う。


『ありがと、ラクサス』
「…いつもこんぐらい素直ならな」


ぽんっと頭の上に手を置くと、その手をアリスが掴み、自分のほっぺに持っていき、擦り寄る。


『ラクサスの手、大きいね』
「そうか?」
『うん。たくさんの人がこの手で守られてきたのね』
TOP