リュウゼツランド

大魔闘演武三日目。エルザが妖精女王の名に相応しい勝ち方を決め、ウェンディがシェリア相手に引き分けまでもっていくという素晴らしい結果を残した。

宿に戻った後、ご飯を食べて自分の部屋でごろごろしていたが、喉が渇いたので、未だに宴をしているホールに行くと何やら騒がしい。


「あ!アリス!ちょうどいいところに」
『なに〜?』


ルーシィに声をかけられたのでミラに注いでもらった水を持ちながら行く。


「今呼びに行こうと思っていたの!」
『何かあった?』
「今からみんなでプールに行こうと話していてな」
『プール…!行く!』


ふぁぁあ!!
プールなんて!こんなイベント中に行けるなんて思ってもなかったし最高じゃん!
リュウゼツランドというテーマパークが近くにあるらしく、みんなでそこに行くことになったらしい。


「早く準備して行くぞ!」
『おー!!』

「エルザとアリスが一番わくわくしてるわね」


部屋に戻って準備だ!
そこから各自準備をしてリュウゼツランドに。


「ついたー!」
「広いですね!」
「んー!気持ちいいな」
『やっふーい!あたし今なら飛べる気がする!わーい!』


水着に着替えて広いプールサイドに飛び出た。
本当にすっごく広い。
ルーシィはピンク色の生地に星柄のビキニ。星霊魔導士っぽい。なんとウェンディもビキニ!緑の生地のチェック柄。そして妖精女王エルザ様は黄色に近い金色の生地のビキニ。
あたしはそこまで出せる自信がないのと、買い物に行ったときに一目惚れした水着を初めて着た。


「アリスの水着かわいいわねー!」
『ありがとー!』


くるりと見せるように回る。


「普段着物しか着てないから、水着だと見慣れない感じね」
『なんなら初めてレベル?それはないかな』
「あたしの記憶上見たことないような…」
『わー!まじか!みんなにあたしのレア姿見せびらかしてこよーっと!』
「あ、ちょっとアリスー!知らない人についてっちゃだめよー!!」


ルーシィが子供に注意をするようにあたしに言う。あたしそこまでガキじゃないぞ。

よーし!遊ぶぞおー!てことで駆け出すと、思ったよりもいろんな人が来ていた。
遠目でも確認できたのは、青い天馬や人魚の踵、四つ首の番犬の魔導士たち。
それにウェンディの元に来たシェリアだ。あの試合後から二人はすごく仲良くなった。

るんるんしながらプールサイドを歩いていると、物陰に隠れているジュビアがいた。


『ジュービアっ』
「わ!アリス様?」
『何してんのこんなとこで?…てだいたい想像つくけど』
「ジュビー!アリス様の水着姿…!ジュビア、感激っ」


ジュビアの視線の先を辿るとやはりグレイが。
あたしたちの声が聞こえたのか、こっちを向いたグレイが近付いてくる。


「ジュビア、その水着…」
「は、はい!」
「値札ついてんぞ」
『あちゃあ〜』


肝心なとこで爪が甘かったみたい。
そこは褒めなきゃ良い男じゃないよグレイ。
ジュビーンと崩れてしまったジュビアに乾いた笑みを浮かべていると、グレイからの視線が今度はあたしに。


「アリス、その水着…」
『え!あたしも値札ついてる!?ちゃんと切ったんだけどなあ』


ジュビアに声をかける時と同じセリフだったから、まさかあたしも?と思いキョロキョロ見える範囲を確認するけど、ついてない。


『どこっ、どこっ?』
「いや、そうじゃなくて」
『ん?』
「水着姿、初めて見た、な、て」


…はっはーん!さては見慣れないあたしの姿に照れてるな!
意味がわかった途端、にまにましちゃうあたしの顔。


『照れてるのグレイ、可愛いなあ』
「うっせ!照れてねえよ!」
『そーかそーかあ、ウブだねえ』


ここまで素直に態度に出されると嬉しくて、口元に手を当ててニマニマしちゃう。
グレイを揶揄っていたら、真っ赤な顔をしたまま真っ直ぐにあたしを見て、


「しょうがねえだろ!アリスは着物のイメージが強えんだから!髪もいつもと違えし、キレイで言葉が出ねえんだよ!」
『ぅ、え、あ、ありがと、、』
「…アリス?」


ヘタレのグレイにこんな真っ直ぐに伝えられるとは思ってなかったので、正直照れる。
そんなあたしをみて今度はグレイがニヤニヤし出す。


「ふぅーん?」
『な、何じゃあ』
「いやぁ?可愛いなって、アリスちゃんは」
『〜っ!うるせー!揶揄うな!』
「言われたかねーよ」


揶揄うのは好きだけど、揶揄われるのは嫌いだ。つーか、慣れてないから対応がわからない。

こんなやりとりをしていたら、立ち直ったジュビアがあたしとグレイの名前を呼び、一つのアトラクションを指差す。


「グレイ様!アリス様!あの、ラブラブスライダーなるものに一緒に乗りましょう!」
「なんなんだそのネーミングセンスは…」
『なんかやらしい雰囲気だなあ』
「抱き合った形でのスライダーなんですって」
「乗れるかア!」
『三人で滑れるもんなの』

「四人いればペアになれるぞ」


おっ、わ、びっくりした。
シェリアがいた時点で何となく察してたけど。


「リオン様!?」
「テメェ、どこから湧いてきた!」


あたしとジュビアの肩を抱いて、颯爽と現れたリオン。相変わらずジュビアにお熱で。
あたしは、めんどくせー三角関係に巻き込まれたくない。


「いきましょうグレイ様!アリス様!」
「行こうかジュビア、アリス」
「誰があんなやつ滑るかー!」
『…じゃ!あたし用事あるから!』


するりとリオンの腕の中から抜け出して、三人に手を振って超スピードでその場を去る。
後ろからジュビアとリオンの引き止める声、そしてグレイの見捨てるなあ!と言う嘆きが聞こえたが、無視だ無視。

三人から距離を取り、一人で歩いているとマスターとラクサスが。


『二人も来てたんだ〜!』
「おう、アリスか」
「初代のご所望じゃ」
「アリス!あなたも来たんですね!」


プールの中に潜っていた初代が顔を出す。びっくりした。
なんとまあ、可愛らしい初代もビキニだ。このギルドビキニ着用者多いなあ。


『初代が楽しいそうでなにより』
「アリス全然濡れてませんよ?」
『そいやあたし、一回も入ってないな』
「でしたら!一緒に入りましょう!」
『はいるー!』


初代に手で招かれたので、初プール。
ゆっくり足をつけて入るのではなく、勢いよく飛び込ませてもらった。周り誰もいないし。


「わあ!大胆ですね」
『ぷあ!気持ちい!』
「オイ、アリス…」


ん?と少し低い声のラクサスの方を見ると、マスターは無事だったが、あたしの水飛沫でびしょ濡れになったラクサスがいた。
ひくっと口端が動いている。


『ひえ』
「飛び込むな」
『ごめんなさいい!!』


お怒りのラクサス様の前まで行き、すぐに即興の風と炎を合わせた魔法でラクサスを乾かす。人間ドライヤーだあたし。
初めてこんなことしたけど、なんとかうまく出来たみたい。


「アリスはすごいですね!そんな魔法も使えるんですか?」
『いや、初めて。失敗したらどうしようかと思った〜』
「オレを練習台にしたのか?」
『ひえええ!嘘です嘘ですごめんいでででで』


こめかみをぐりぐりされる。ラクサスの力だし痛いんだよこれ!
ぐりぐりから解放され、力が抜けてそのままラクサスにもたれかかってしまった。
やべ、また濡らしてしまった。すぐさま離れようとしたが、慌てたことで後ろに倒れそうになったが、ラクサスが支えてくれていた。


『ごめんありがとう』
「…はあ」


ちらりと上目で覗き込むと、顔に手を当て呆れたようなラクサス。すみません。
つーかラクサス、筋肉すげえな。あんだけ強かったらそりゃこうなるか。
無意識にぺたぺた触ってしまったのか、ラクサスに肩を掴まれ止められてしまった。


「ベタベタ触るな」
『いやあ、鍛えられてるなあて思って、つい見惚れちゃったわ』
「………マセガキが」
『んな!ガキじゃないよ!ほら!今日のあたし可愛いでしょ!』
「はいはい、可愛いな」
『も〜!テキトー!』

「よいよい、青春じゃのう」
「うふふ、素敵ですね!」

「そんなんじゃねえよ!」
『わ!ラクサス突っ込み珍し』


ニマニマしたマスターたちにラクサスが声を上げる。珍しいが、この二人相手ならラクサスの可愛い一面も見れたりするのだろうな。

ちょっとだけ初代と遊んだら、お腹が空いてきたので売店に向かうことにした。てなわけで、ここでバイバイした。

本当になんでも揃ってて楽しいし、いいわここ。何食べよっかなあて考えてたら、桜色の髪の毛が。


『ナツみーっけ!』
「アリス!お前どこにいたんだよ」
『どこって、テキトーにぶらーっと?』
「ふーん。まあいいや、会えたしな!」
『あたしも会いたかったー!』


ハグー!しようとしたが、ナツの横にいる人物を見て、動きを止めた。


「メェーン!こんばんはアリスさん」
『わ、一夜さんこんばんは』
「なんと魅力的なパルファム!」


くんくんしながらあたしに飛びかかってきた一夜さんにびっくりして、避けることができないと思ったら、ナツが蹴飛ばした。


「メェェーーーン!!!」
『一夜さん!?』
「アリスに触んな!」


ちょっと遠くへ飛んで行ってしまった一夜さん。まあ、あの人タフだし大丈夫か。


『ありがと、ナツ』
「おう!アリスなんか、いつもと違うなァ?」
『そうなの!着物ポリシーのあたしが水着きちゃいました〜!』


当初の目的を思い出し、見てみて!とナツの前でくるりと回る。可愛いでしょこれ、お値段は可愛くないんだけどね。
どう?どう?とナツの反応を待っていると、着ていたパーカーを脱いで、あたしに着せた。


「こんなこともあるかと思って着て正解だったな」
『こんなこと?』


確かにパーカーってナツ着ないイメージ。
目をぱちくりさせてるあたしに、ナツはニカッと笑う。


「すっげえ似合ってる!可愛いけどキラキラしすぎだからこれ着てろ!」
『ナツぅ、好きー!』


素直に褒めてくれて、あたしも素直に嬉しい。キラキラしすぎの意味がわからんが、褒めてくれたナツの好意ということで、素直に着ておこう。
くそ、見せびらかし終了か…、まあ前は開けとこ。

そのままナツと一緒にご飯を食べ終え、元気になったナツは戻ってきた一夜さんと走り出してしまった。
あたしも、ルーシィとか探そうかなと思ったら、めんどくさいメンツとまた遭遇した。


「ああ!アリスさまあ!」
『げっ』
「オイコラ、アリス…、逃さねえぞ?」


おそらくラブラブスライダーに向かっているジュビア、グレイ、リオンに捕まってしまった。くそお。


「なんだこんなの羽織ってたか?」
『あ、これ?さっきナツに会って着てろって貸してくれたの』
「ナツのだと…?」


え、なに、なんかちょっと温度下がった?寒気がする。
なんてグレイを見てたら、あたしが羽織ってるパーカーに手をかけてきた。


『え、え?なに?』
「脱げ」
『え!?ちょ、グレイ、やめっ』


ずるりと肩からパーカーが脱がされかけるが、なんとか止める。だってこれせっかくナツが貸してくれたやつだし。人に借りたの大事にしたいし。
あたしの言葉に聞く耳持たずなのか、脱がそうとするグレイ。ちょっと待ってこれ、ちょっと、なかなか恥ずかしいぞ。


「んま!グレイ様大胆…」
「やめておけグレイ、無理やりすると嫌われるぞ」
「な!オレは、そんなつもりは!」

『…グレイのえっち』


二人の声に我を取り戻したのか、少し顔を赤らめて、手を離した隙にパーカーを着直す。そしてとどめの一言をぶつけてやると、ビシャア!!とその場に雷が落ちたように止まるグレイ。ちょっと揶揄いすぎたかな。まあいいや。

固まったままのグレイと共に二人に引きずられてスライダーの乗り場まで来てしまった。しかし誰もいないとは、人気ないんじゃないのこのアトラクション。


「ラブラブスライダーに乗りましょう!グレイ様!」
「こんな男は放っておいてオレと乗ろうジュビア!」
「乗るならアリスとじゃねえと嫌だ」
『え、あ、じゃああたしはリオン?』


とまあ、リオン→ジュビア→グレイ→あたし→リオン、、と一方通行みたいになってたので、それで返すと、三人が固まってしまった。


「コイツとだけはぜってぇ認めねえぞ」
「あ、アリス様がリオン様と乗るならジュビアはグレイ様と…!でもアリス様が他の殿方に取られるのは、ジュビア!許せない!」
「オレはアリスと二人でもいいぞ」
『あたしそもそも乗りたくないんだけど』


一人で滑るならまだしも、二人で抱きつきながらとか絶対窮屈だし、暑苦しそう。
なんて意見もフル無視されて、もうこれ一人で乗ろうかな、と考えてたらナツの声が聞こえてきた。しかも叫び声。

聞こえる方を見ると吹っ飛んできたナツが。
あたしとジュビアは無事だったが、その被害にあった二人が突き飛ばされて、そのままスライダーに乗ってしまった。


「馬鹿野郎、あんまくっつくんじゃねえよ」
「その笑みはオレだけに見せろよ…」

「こ、これは!噂に聞くボーイズラブ!?」
「てちょっと、何やってんの?」
『わ!ルーシィじゃん』


グレイとリオンが抱き合ってる姿を見て、変な妄想を始めてしまったジュビアに、近くにきたルーシィがツッコミを入れた。

そして、ナツはスライダーのオブジェクトの大きなハートにぶつかり、それもネジが外れてナツを乗せたまま滑り出す


「ナツさんが!」
「また壊しちゃった!」
『ナツ〜!』


ナツを追いかけて走るが、スライダーだし、スピードもあるしグネグネしてどこに行くかわからんしで、追いつかない。
とりあえず乗り物酔いをしてるナツにトロイヤをかけてあげたいのに、ナツが遠い。
知らない間に、一緒に走っていたルーシィとジュビアもアトラクションに巻き込まれてしまって、スライダーを一緒に滑っていた。
落ち着いて周りを見渡すと、グレイとリオンの他にもガジルとレビィ、シャルルとリリー、エルフマンとエバ、などなど数組ペアになって滑っていた。ほぼほぼナツに巻き込まれたみたい。

この中で一番耐えられない、グレイとリオンがお互いを凍らそうと魔力を高め魔法を使う。
すると、二人を中心にプール全体が凍ってしまったのだ。あたしはなんとか回避。しかし見事に全員氷漬けになっている。


「グレイか!何しやがんだ!うお!」


あたしだけが無事かと思ったら、凍ったおかげでハートのオブジェから落ち、酔いが覚めたナツがグレイにキレる。


「バカヤロウ!プールを凍らすヤツがあるかアー!!」

「ナツ!ダメだってばー!!」


手に炎を纏い、氷目掛けてパンチを喰らわそうとするナツにルーシィが声をかけるが時すでに遅し。

プール全体が爆発して、建物は崩壊してしまった。ちなみにあたしは防御したので無傷だ。


「だーっはっはっはっは!見たか!オレの勝ちだ!」
『あたしもいるけど』


みんながボロボロになってる中、崩壊した中心で、ナツが腰に腕を当て自慢げに言うので、あたしがそばに行くと、気付いたナツが近くに来た。


「んだよー!つーことは!アリスと勝負か!?」
『………、いや、あたしじゃなくて』


ナツの背後に見えた金髪。ラクサスがすかさずナツにゲンコツをお見舞いする。ちなみにもう片手には同じようにラクサスにボコられたグレイが首根っこを掴まれていた。
そしてナツもラクサスに捕まり、二人してマスターの前に。


「初代、じじい…、逃げないようにひっとらえておいた」
「「ごべんなさい…」」


ボロボロになりながら謝る二人。
しかしマスターはそんなことより、この騒動に駆けつけてきた評議員の一人の前で初代と一緒に大泣きしていた。


「修繕費の請求は妖精の尻尾でいいのかね?」


今のあたしたちは貧乏ギルドなため、そんな大金払えず、マスターたちはギャン泣き状態だ。


「やっぱりこうなるんだ…」
『壊すのは得意だからね』


水着がボロボロになったルーシィが呟いたので、返す。


「アリスはなんで無事なのよ、」
『自分の身は自分で守ったのでっす!』
「ちゃっかりしてるわ…」

「アリス!そうじゃアリス!」


大泣きしていたマスターが涙をとめ、あたしの名前に反応してこっちを見た。


『はーいマスター』
「アリスちゃんやあ、、頼むう、可愛いじいちゃんのお願いじゃっ」


目をキラキラさせてごますりすりしながらあたしの前に来たマスター。何人かはなんのことだ?て感じだけど、あたしの魔法を知ってる人たちも、は!と期待の眼差しを向ける。


『はあ、仕方ないなあ…』
「アリスちゃーん!わしは一生忘れんぞお!」


建物があった場所には人が来ないように避難してもらう。


『時間操作、過去』


建物が大きいので、魔法陣も自然と大きくなる。
うーん!と魔力を込めて魔法を使うとガタガタ音を立てて、ナツたちに破壊された建物が元ある形に戻った。


「す、すごい、」
『ふう、さすがに大きすぎて疲れた』
「アリスよくやった!これでまた借金をせずに済むわい」
「さすがアリス!」
『まあ、うちのギルドがやったことだし…、でも理不尽だから新しい着物買ってね!』


巨大な施設の修繕費よりは断然安いだろうし。
マスターにウインクすると、そんぐらい安いもんじゃあ!とるんるんしていた。
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