病院内では走ってはいけないので早歩き。近くから見たら変人だと思う。
剣城くんの病室を教えてもらい、そこに着くとネームプレートには"剣城"と書いてあった。しかも個室。
中にいるかもしれないので、小さく二回ノックをしたけど返事がなかった。
『やっぱり、診察中なのかな…』
「何か用かい?」
び、びっくりした。
声のした方に振り向くと、車椅子に乗っている剣城くん(?)がいた。
『えっと、剣城くん…、じゃない…』
「もしかして京介のお友達?」
『京介って剣城くんの名前。あ、私、剣城くんとは同じクラスなんです』
「そうなんだ。俺は京介の兄だよ」
『え……、お、お、お兄様!?』
な、なんて色気、じゃなかった、笑顔が素敵な人。
確かに剣城くんがこんな顔してるの見たことない。お兄様は小さく笑うと、病室を開けて「入って」と言ってくださった。
『お、おじゃまします』
「何もないけどゆっくりしていってよ」
『ありがとうございます』
車椅子に乗ったまま窓際に行き、外を眺めているお兄様の後に続いた。
入院してるのって、剣城くんのお兄様だったんだ、
それに、車椅子ってことは、まさかお兄様の足は…
「どうしてここに来たの?」
『あ、えと、剣城くんに会えると思っ…、じゃなくて!』
「京介の彼女かな?」
『そんな恐れ多い!私が勝手に剣城くんを想って…、じゃなくて!』
「京介の事想ってくれてるんだ?」
『はい!大好きです!…じゃなくて!』
「正直だね、君」
お兄様に聞かれるたびに、墓穴を掘ってしまう。恥ずかしい。
「あ、自己紹介がまだだったね。俺は剣城優一」
『わ、私は日向美羽です』
「美羽ちゃんでいいかな?」
『もちろんです!剣城さん、だとややこしいから…、優一さんでいいですか?』
「いいよ」
なんて初々しい会話。心がほかほかしてくる。
優一さんはとても優しくて、私の会話にのってくれたり、剣城くんについて教えてくれたり。
『あの、優一さん、』
「ん?どうしたの?」
『どうして、入院しているんですか…?』
「…………」
あ…、気になるとはいえなんて失礼なことを聞いてしまったんだろう。
優一さんも吃驚して口を閉じて下を向いてしまった。
「…美羽ちゃんにとって京介はどう思う?」
『運命の王子様!…じゃなくて、不器用だけど優しくてクールで素敵で、まだ知らないとこがたくさんあるけど大好きです』
もう吹っ切れてやる。
どうせ剣城くんのお兄様だし嘘は言いたくない。
「そんなに想ってもらえて京介は幸せ者だなあ」
『な、なんか、照れますね』
あははうふふな雰囲気を出しながら話していたら、急に真面目な雰囲気に変わった。
「…俺、小さい頃ちょっと事故があってね、その日から足が動かないんだ」
『え、』
「京介と俺がサッカーをしている時に、京介の蹴ったボールが木に引っかかって、京介が登って取ろうとしたんだけど、手元が滑って落ちたんだ」
『落ちた!?あれ、でもそれじゃあ剣城くんが怪我を、』
「落ちてくる京介を俺が受け止めようとしたんだけど、不運だったんだろうね」
『………』
「その日から京介はずっと責任を感じているんだ。でも今は、サッカー部に入って俺たちのサッカーをしてる京介が俺は好きなんだよ」
『(優一さん、剣城くんの事情を知らない?)…そんなことがあったんですね、どうして、私に?』
「…京介のことこんなに想ってくれてる美羽ちゃんに、聞いてほしかったのかもしれないね、」
優一さんの足が不自由になった理由はわかった。
でも、それなら、どうして剣城くんはサッカー部の敵であるシード?になってるの、
まさか、フィフスなんちゃらってのが関わってる…?
「あ、そういや美羽ちゃん、そろそろ…」
『?どうしました??』
「兄さん」
猫背になっていた背中がすぐにピンッとなった。
「京介が来る時間だったんだ」
『そうなんですか…(もっと早く言ってください!)』
それがわかっていたら髪の毛とか身だしなみを整えてたのに!
剣城くんは優一さんの前に座っている私を見て首を傾げた。ああ、その姿ですら素敵です。
『おじゃましてます』
「……あ、迷子の」
『あの時は本当にありがとうございました』
「京介が来るまで俺の話し相手になってもらってたんだ。ね?」
『え、は、はい!』
私の話し相手になってもらっていたのに、なんて優しい…。こんなところにいたら怪しまれるからよかった。
「そうか。…ありがとな」
わ、私、今、剣城くんに感謝の言葉を…!
もう感激。今の録音してアラームにしたい。
もう、なんで剣城くんってこんなに、
『かっこいい…』
あ、思わず口から出てしまった。引かれたらどうしよう!?最悪だ、いや、剣城くんがかっこよすぎるのが悪いんだよ。
剣城くんの反応は、私が優一さんのことをかっこいいと言ったと、勘違いしてる。
それに優一さんは微笑んでいる。
「美羽ちゃんが言ってるのは京介の事だよ」
「は?」
『ゆゆゆ、優一さん!?』
「美羽ちゃんには頑張ってもらいたいからね」
優しい心遣いですけど、剣城くんが放心状態です。
私も私で何とかごまかさなければという思いが出てきて焦る。
『ち、違うの!剣城くんのそんな顔見たことなくて、声が優しくて驚いたっていうか、かっこよすぎて思わず口から出てしまったっていうか…!』
墓穴掘りまくってるよ、私。
絶対変なヤツって思われた。もう私やっていけない。剣城くんに会えない。
うわあああってなって頭を抱えていたら、聞こえてきたのは小さな笑い声。
優一さんとは少し違って、
「おもしろいヤツだな、おまえ」
どうしよう、ますます惚れちゃった。
とりあえずこの真っ赤になった顔を隠すために病室から逃げた。
後ろから優一さんが、いつでもおいで〜、と言ってくれているけど、ごめんなさい今はそれどころじゃないです。
ああ、私としたことが…、せっかく仲良くなれるチャンスだったのに、無駄にしちゃった。
「美羽ちゃんすっごく足速いね」
「あ、ああ」
「また来てくれるかな、」
「(兄さん、嬉しそうだな)」