08




病院内では走ってはいけないので早歩き。近くから見たら変人だと思う。
剣城くんの病室を教えてもらい、そこに着くとネームプレートには"剣城"と書いてあった。しかも個室。

中にいるかもしれないので、小さく二回ノックをしたけど返事がなかった。


『やっぱり、診察中なのかな…』

「何か用かい?」


び、びっくりした。
声のした方に振り向くと、車椅子に乗っている剣城くん(?)がいた。


『えっと、剣城くん…、じゃない…』

「もしかして京介のお友達?」

『京介って剣城くんの名前。あ、私、剣城くんとは同じクラスなんです』

「そうなんだ。俺は京介の兄だよ」

『え……、お、お、お兄様!?』


な、なんて色気、じゃなかった、笑顔が素敵な人。
確かに剣城くんがこんな顔してるの見たことない。お兄様は小さく笑うと、病室を開けて「入って」と言ってくださった。


『お、おじゃまします』

「何もないけどゆっくりしていってよ」

『ありがとうございます』


車椅子に乗ったまま窓際に行き、外を眺めているお兄様の後に続いた。
入院してるのって、剣城くんのお兄様だったんだ、
それに、車椅子ってことは、まさかお兄様の足は…


「どうしてここに来たの?」

『あ、えと、剣城くんに会えると思っ…、じゃなくて!』

「京介の彼女かな?」

『そんな恐れ多い!私が勝手に剣城くんを想って…、じゃなくて!』

「京介の事想ってくれてるんだ?」

『はい!大好きです!…じゃなくて!』

「正直だね、君」


お兄様に聞かれるたびに、墓穴を掘ってしまう。恥ずかしい。


「あ、自己紹介がまだだったね。俺は剣城優一」

『わ、私は日向美羽です』

「美羽ちゃんでいいかな?」

『もちろんです!剣城さん、だとややこしいから…、優一さんでいいですか?』

「いいよ」


なんて初々しい会話。心がほかほかしてくる。
優一さんはとても優しくて、私の会話にのってくれたり、剣城くんについて教えてくれたり。


『あの、優一さん、』

「ん?どうしたの?」

『どうして、入院しているんですか…?』

「…………」


あ…、気になるとはいえなんて失礼なことを聞いてしまったんだろう。
優一さんも吃驚して口を閉じて下を向いてしまった。


「…美羽ちゃんにとって京介はどう思う?」

『運命の王子様!…じゃなくて、不器用だけど優しくてクールで素敵で、まだ知らないとこがたくさんあるけど大好きです』


もう吹っ切れてやる。
どうせ剣城くんのお兄様だし嘘は言いたくない。


「そんなに想ってもらえて京介は幸せ者だなあ」

『な、なんか、照れますね』


あははうふふな雰囲気を出しながら話していたら、急に真面目な雰囲気に変わった。


「…俺、小さい頃ちょっと事故があってね、その日から足が動かないんだ」

『え、』

「京介と俺がサッカーをしている時に、京介の蹴ったボールが木に引っかかって、京介が登って取ろうとしたんだけど、手元が滑って落ちたんだ」

『落ちた!?あれ、でもそれじゃあ剣城くんが怪我を、』

「落ちてくる京介を俺が受け止めようとしたんだけど、不運だったんだろうね」

『………』

「その日から京介はずっと責任を感じているんだ。でも今は、サッカー部に入って俺たちのサッカーをしてる京介が俺は好きなんだよ」

『(優一さん、剣城くんの事情を知らない?)…そんなことがあったんですね、どうして、私に?』

「…京介のことこんなに想ってくれてる美羽ちゃんに、聞いてほしかったのかもしれないね、」


優一さんの足が不自由になった理由はわかった。
でも、それなら、どうして剣城くんはサッカー部の敵であるシード?になってるの、

まさか、フィフスなんちゃらってのが関わってる…?


「あ、そういや美羽ちゃん、そろそろ…」

『?どうしました??』

「兄さん」


猫背になっていた背中がすぐにピンッとなった。


「京介が来る時間だったんだ」

『そうなんですか…(もっと早く言ってください!)』


それがわかっていたら髪の毛とか身だしなみを整えてたのに!
剣城くんは優一さんの前に座っている私を見て首を傾げた。ああ、その姿ですら素敵です。


『おじゃましてます』

「……あ、迷子の」

『あの時は本当にありがとうございました』

「京介が来るまで俺の話し相手になってもらってたんだ。ね?」

『え、は、はい!』


私の話し相手になってもらっていたのに、なんて優しい…。こんなところにいたら怪しまれるからよかった。


「そうか。…ありがとな」


わ、私、今、剣城くんに感謝の言葉を…!
もう感激。今の録音してアラームにしたい。

もう、なんで剣城くんってこんなに、

『かっこいい…』


あ、思わず口から出てしまった。引かれたらどうしよう!?最悪だ、いや、剣城くんがかっこよすぎるのが悪いんだよ。
剣城くんの反応は、私が優一さんのことをかっこいいと言ったと、勘違いしてる。
それに優一さんは微笑んでいる。


「美羽ちゃんが言ってるのは京介の事だよ」

「は?」

『ゆゆゆ、優一さん!?』

「美羽ちゃんには頑張ってもらいたいからね」


優しい心遣いですけど、剣城くんが放心状態です。
私も私で何とかごまかさなければという思いが出てきて焦る。


『ち、違うの!剣城くんのそんな顔見たことなくて、声が優しくて驚いたっていうか、かっこよすぎて思わず口から出てしまったっていうか…!』


墓穴掘りまくってるよ、私。

絶対変なヤツって思われた。もう私やっていけない。剣城くんに会えない。
うわあああってなって頭を抱えていたら、聞こえてきたのは小さな笑い声。

優一さんとは少し違って、


「おもしろいヤツだな、おまえ」


どうしよう、ますます惚れちゃった。

とりあえずこの真っ赤になった顔を隠すために病室から逃げた。
後ろから優一さんが、いつでもおいで〜、と言ってくれているけど、ごめんなさい今はそれどころじゃないです。
ああ、私としたことが…、せっかく仲良くなれるチャンスだったのに、無駄にしちゃった。



「美羽ちゃんすっごく足速いね」

「あ、ああ」

「また来てくれるかな、」

「(兄さん、嬉しそうだな)」