優一さんを病室までつれていき、ベットに移動するのを手伝う。
「ありがとう」
『いえ。優一さん、私剣城くんのこと知ってました。本当のこと話せなくてごめんなさい』
「…そうだったんだね」
『剣城くんはここに戻ってきます、だから、ちゃんと優一さんの気持ちを伝えてあげてください』
「美羽ちゃん、」
『私、外にいますね』
それじゃあ、と頭を下げてから病室を出る。
ちょうど剣城くんは戻ってきたので、入れ違いになる感じで中に入って行った。
きっと、優一さんなら剣城くんの背中を押すことができる。
あの事故の日から、ずっと責任を負っていた剣城くんを救えるのは、優一さん本人しかいない。
外で待っていると、病室からあの優一さんの怒鳴り声が聞こえてきた。
「お前はサッカーを裏切った、俺たちが好きだったサッカーを裏切ったんだ、でてけ!!」
優一さんは気持ちを伝えることができたんだろう。
剣城くんが病室から出てきたので、待っていた私と鉢合わせになる。
そのまま、下を向いて悩んでいるように見える。手術費か、優一さんとのサッカーを選ぶか。
『…剣城くん、いこう』
「っ、でも、俺は、」
『優一さんには、サッカーで応えよ?優一さんと剣城くん、二人のサッカーで』
手を握って言えば、剣城くんは顔を上げて頷いた。
よかった、やっと剣城くんが自分の、優一さんと二人のサッカーをできる。
優一さんは伝えて、剣城くんは応えた。
なら、私にできることは…
携帯を取り出して、電話をかける。
…私が昔からずっと頼りにしてる人。
『剣城くん、ちょっと待ってね』
「?ああ」
『…もしもし、うん、美羽だよ。久しぶりだね。今丁度試合で忙しいと思うけど、お願いがあるの。…稲妻総合病院に急いで車一台向かわせることできる?時間がないから超スピードで!…うん、ありがとう!!』
電話を切り、剣城くんに向き直る。
『いこう!』
剣城くんの手首を掴み、病院内を早歩きで急ぐ。
「お、おい、今の電話は?」
『え?あ…、その、秘密!』
「秘密って、」
剣城くんには申し訳ないけど、これは私たち、私と、修也くんの約束だから。
病院内を出て、門まで走る。
そこにはすでに黒の高級車が停まっていた。
さすがです。
「美羽ちゃん!さあ乗って!」
『(あ、虎丸さん!)ほんと、お忙しいところありがとうございます!』
状況を理解していない剣城くんの背中を押し、車に乗せ、私も横に乗る。
私たちが乗ったのを確認すると、虎丸さんはアクセルを踏み込み、猛スピードで発進した。
速すぎでしょ、これ…
『これ、スピード違反じゃないですか!?』
「大丈夫だよ。それよりしっかり捕まっといて!」
カーブの度に、体が左右に傾く。
剣城くんに何度支えてもらったか、素敵です。
数分したら、帝国学園の入り口に着いた。
『ありがとうございました!』
「他でもない美羽ちゃんの頼みだからね、気にしないで。それと、これ被っといて」
『帽子?(あ、念には念をってね)』
「俺はもう行くけど、試合がんばれよ剣城!」
「っはい」
深く頭を下げて、虎丸さんからもらった帽子を被り、剣城くんと帝国学園内に入って行く。
フィフスセクターの人達もこの試合は見てるはずだから、一応私も顔ははっきりわからないようにしないと。そのために虎丸さんは帽子くれたんだ、
試合中だからか、人が全然いない道を二人で走る。よかった、走るの得意で、おかげで剣城くんのスピードについていける。
帝国学園のグラウンドに着くと、ちょうど、前半戦が終わって、休憩の時。
剣城くんは更にスピードを上げて、雷門サッカー部の元に走った。
「俺を出せ!!」
「剣城!」
「!美羽まで、どうしてここに、」
「俺を試合に出してくれ!」
松風くんが剣城くんの名前を呼ぶ。
剣城くんの斜め後ろにいると、玲央くんに驚かれた。
剣城くんの必死な表情に、キャプテンマークをつけた人が代表して話す。
「今度は逃げないのか」
「シードじゃない、一人のサッカープレイヤーとして、頼む!」
「剣城…」
剣城くんの言葉にみんな驚く。
そりゃあ、つい先日まではサッカーを潰すやの、やっぱり本当のサッカーをするやの、はっきりしなかった剣城くんが、一人のプレイヤーとして、と言ったことにみんな驚きが隠せない。
「信用できるわけないだろう!」
褐色肌に片目が隠れた私と同じぐらいの身長の人が、反対だというように、声をあげた。
他のみんなも無言でいるが、同じ意見の人ばっかりだと思う。
「円堂監督、」
「決めるのはお前達だ」
葵ちゃんの言葉に、円堂さんが返す。
それはつまり、みんなが剣城くんを認めたら、一緒にサッカーができるということ。
誰も何も言わなさそうだったので、私が口を開いたと同時に、松風くんが剣城くんを見て言った。
「俺は剣城を信じます!」
『松風くん…!』
「剣城はいつも俺たちを苦しめてきた。前の試合で少しは信じられるかと思ったが、その後は練習にも来ない。今日の試合には遅刻する。それで信じられるか」
「思い出してください、剣城のプレーを。サッカーが好きじゃなきゃ、あんなすごいプレーができるはずないです。だから俺、信じます!」
剣城くん、君にはこんなにも、見てくれて、思ってくれている人がいるんだよ。
ここで、おもいっきりサッカーしていいんだよ。
「俺も信じる」
「キャプテン!」
松風くん、それにキャプテンさんも剣城を受け入れ、他の人たちも受け入れていく。
初めは反対していたあの褐色肌の人も。
「この試合、剣城は間違いなく必要だしな。俺も信じる」
『玲央くーん!!だいすき〜!』
「よっ、と」
みんなに認めてもらえて、受け入れてもらえて、嬉しさのあまり玲央くんに飛びついた。
まあ、慣れてる玲央くんは易々と受け止めるあたり、憎たらしい、くそう。
「ところでお前、なんで剣城と一緒なんだ?」
『……企業秘密です』
「おい、それで誤魔化せると思うなよ」
『………剣城くん!よかったね!!』
「あ、てめえ!」
玲央くんから離れて、剣城くんの元に戻る。
剣城くんの家庭事情を勝手に話すわけにはいかないし、いつから知り合いだ?とか話すことになったら、いろいろとめんどくさい。
剣城君の両手を握り、自然と笑顔になる。
「っ、ああ」
「…ところで、君は?」
はっ、
そうだ、サッカー部の人達からしたら、私は部外者じゃん。
松風くん、葵ちゃん、剣城くん、それに玲央くん以外には、誰こいつって思われてる。
でも私は、特に関わることもないし、簡単に挨拶してさっさとこの場から退却しよう。
「美羽どうしてここに?」
「天馬の知り合いか?」
『えっと、あの、私、」
玲央くんと違い、松風くんの純粋な目で見つめられたら困る。
「そうよ美羽!どういうこと!」
『いや、私…?剣城くん?』
二人プラス玲央くんに、ぐいぐい追い詰められ、どうしようと悩んでいたら、剣城くんが私の前に立った。
「こいつは、俺をここまで連れてきてくれた。それだけだ」
『!剣城くん、』
庇ってくれた?
だめだ、なんでだろう。
剣城くんを知れば知るほど、改めて惚れ直す。
そんな私の顔を見て葵ちゃんは溜め息を吐いた。
「円堂監督、この子も一緒にベンチで見ててもいいですか?(美羽ってば、ハート飛んでるし)」
「俺からもお願いします!」
『え、や、いいよ!私、観客席からみてるから』
葵ちゃんと、松風くんの誘いを丁寧に断る。
サッカー部のみんなに頭を下げて、剣城くんにエールを送ってから、観客席に行こうと背を向けたら誰かに腕を掴まれた。
『っ、円堂さん…』
「やっぱり、美羽か!久しぶりだな」
『はい、お久しぶりです』
「美羽、ここにいろ。後で話がある」
『はい…』
円堂さんが怖いです。