昨日の病院での告白もどきのことは、すっかり頭から離れていた。
今日の放課後、サッカー部は帝国学園からの招待で剣城くんを葵ちゃん、松風くんと西園くんと一緒に部室に向かうのを見送った。
私は玲央くんの言いつけ通り、病院へ向かった。
いつも通りの診察をし、主治医の先生にお叱りを受けた後、剣城くんの格好いいところも話した。
私のマシンガントークは止まらず、先生の助手さんが部屋を訪れるまで話し続けた。
「じゃあまたね」
『はーい、失礼します〜』
あ、そうだ。
今日は時間もあるし、太陽くんの病室に突撃しようかな。来てくれないって拗ねてたし。
でもいるかな、太陽くんよく病室抜け出して担当医の冬花さんに怒られてるから。
とりあえず、寄るだけ寄ってみようと太陽くんの病室へ行くと、なんと珍しい。ベッドに大人しく座っていた。寝てはないのね。
ノックをするが気付かない。
『太陽くーん?』
「!美羽!?」
『美羽ですよ〜』
声をかけるとこちらに顔を向け、眩しい笑顔を見せてくれる。可愛すぎる。
「やっときてくれたんだね」
『そろそろ寂しがってるかなて思ったの』
「美羽は遅すぎるんだよ」
『でも当たってた』
「え?」
『太陽くん、寂しそうな顔してたよ』
私がそう言うと、驚いたのか一瞬目を開き、少し顔を伏せた。
そんな太陽くんに近付き、近くにある椅子に座る。
『大丈夫だよ』
「美羽?」
『私、太陽くんを一人になんてさせないよ』
「っ!美羽!」
『のわっ』
急に太陽くんが抱きついてきたので、後ろに倒れそうになるがなんとか踏みとどまる。
ぎゅーっと力強いハグに少し苦しさを感じたが、それよりも甘えてくる太陽くんが可愛くて、私も抱きしめかえした。
「僕もはやくサッカーしたいな」
『私の方が上手になってたりして?』
「なら今度は僕が美羽に教えてもらわないとね」
『冗談だよ〜!太陽くんより上手になってるわけない!』
私が幼い時、この病院で太陽くんに出会った。
出会いは衝撃的だったけど、お互いすぐに仲良くなってサッカーが好きだって共通点もあり、私は太陽くんにサッカーを教えてもらった。
その彼は今じゃ十年に一人の天才と呼ばれるようになっていた。雷門中ではなく、新雲学園のサッカー部に入っているけど、体が丈夫とは言えずこうして入院してるのだ。
太陽くんが病気と戦えるのは、サッカーをしたい強い意志があるからだろう。
『あ、そろそろ帰らなくちゃ』
「えー、もう帰っちゃうの?」
『またくるね』
ほっぺたをぷくーと膨らませて渋々納得してくれた。
正直に言おう。私より女子力がある。
太陽くんにまた来ることを告げてから、帰路を急いでいると、人があまりいなさそうな小さな空き地で聞きなれた音がした。
私が小さな時から一番耳にしてる音。
サッカーボールを蹴る音。
そっと近づいてみると、同い年ぐらいの男の子が壁に向かってボールを蹴っていた。
何だか昔の太陽くんみたい。
なんて懐かしがっていたら、蹴り損ねたボールがこっちに転がってきたので、制服を着てることも忘れて思わずリフティングしてしまった。
懐かしい感覚に楽しくなってきて、ずっとリフティングしていると、すごく感じる視線。
『あ、ごめんなさい!』
すぐにやめて、ボールを手に取り彼に渡した。
「す、すごいですね!サッカーやってるんですか!?」
『え、っと、昔ちょっとだけね。今は観戦の方が好きかな。君は?』
「僕サッカーすごく好きなんです!でも、ほんとつい最近始めたばっかりで、ちゃんと蹴れなくて…」
『初めはみんなそうだよ〜』
「俺もあなたみたいに上手くなりますか!?」
『え、私みたいに?』
「はい!!」
『私ぐらいならすぐになれるよ!』
私の言葉が嬉しかったのか彼は顔がパアッと明るくなって、サッカーボールをぎゅっと握りしめた。
「あの!よかったらサッカー教えてくれませんか?」
『私が?』
「はい!」
どうしようか。サッカーには関わらないって約束してたけど、まあ、教えるぐらいなら大丈夫かな。
でも今日は時間も時間だし、
『いいよ、でも今日はもう遅いし日を改めてね』
「うわあ!ありがとうございます!」
子犬みたいだ。
連絡手段として携帯番号を交換した。
「俺、輝っていいます!影山輝です!」
か、げやま!?
いやいや、同姓とかはあるだろうし。決めつけるのはよくないよね。
私が目を見開いていることに気付いたのか、彼は気まずそうに言葉を発した。
「あの、もしかして影山零治のことご存知ですか?」
『え!?輝くん知ってるの!?』
「知ってるもなにも、俺の叔父です」
同姓じゃなかった、本人だった。
まさか影山零治の血縁者だったなんて、吃驚しちゃった。
固まったままの私を見て何か勘違いしたのか、頭を下げてた。
「叔父のことご存知だったんですね、ごめんなさい!さっきのことはもういいです」
『え?何を謝ってるの?』
「ぅえ、だって、俺の叔父が仕出かしたことを知ってるのに、その身で教えてもらうなんて、」
『バカね〜。あの人確かに酷いことをしたのかもしれない。でもね、憎む以上にサッカーのことすごく愛していたよ』
「どうしてそんなに詳しいんですか…」
『ん?…えへへ内緒!輝くんが責任を負う必要なんてないの!サッカーが好きだからサッカーする!それでいいじゃない!』
ね?と近付いて言えば、少し涙目になりながらも首を上下にぶんぶん動かした。
輝くんは私と同い年だった。今は帰宅部だけど、サッカーを少し練習して、上手くなり自信がついたら入部しようと決めているらしい。