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マサキくんはサッカー部に無事入部することができたみたい。葵ちゃんが嬉しそうに話していたし、家では玲央くんがマサキくんは荒っぽいプレーをするけど根はしっかりしてる奴だと言っていた。

まあ、同じディフェンダーの霧野さんにすごく迷惑をかけてるみたいだけど。
二人の間で何があったかはよくわからないけど、お互いサッカーが大好きなら分かり合える日が来るのはすぐでしょうね。


「美羽ちゃん」


ぶるっ


『…なんだマサキくんか、ちゃん付けしないでよ気持ち悪い』

「え〜?気持ち悪いって酷いなあ」


ここは教室。私以外の目を気にしてるのか、マサキくんは猫を被ってる。おかげで私は寒気が止まらないわ。


『どうしたの?』

「あ、そうだ、英語の辞書貸してもらおうと思って!」

『ん〜、ほい』


1限目が英語だったためそのまま机の中に入れた辞書を取り出し、マサキくんに渡すと笑顔でお礼を言って帰って行った。


「ずいぶんあいつと仲が良いんだな」

『剣城くん!』


きっと辞書を後ろのロッカーに戻そうとしたのだろう、私の席の横を通るときに声をかけてくれた。


『マサキくんが転校してきた初日に思いっきりぶつかっちゃって、』

「相変わらず危なっかしい奴だな」

『うっ、』


マサキくんが猫を被ってることはもしかしたら知らないかもしれないから、剣城くんがわかるまでは黙っておこうかな、て思ったけど、剣城くんにはお見通しだったみたい。


「あいつ自分からシードって霧野先輩に言って、俺に確めにきたんだ」

『へえ〜、悪戯好きなのかな?』

「まあ、一緒にサッカーすれば嘘かなんてわかるけどな」

『マサキくん根はいい人だと思うんだけどね〜。揶揄いがいあるし』

「…ほどほどにしてやれよ」


剣城くんに呆れたため息をつかれた。


私は毎日ってわけではないけど、一週間に何日かだけ輝くんにサッカーを教えていた。
少し自信がついてからサッカー部に入部しようとしているみたい。どのくらいやっていたか聞いたときは驚いた。まさかボールに触れてた、あの出会った時が一ヶ月ちょっとだったなんて。

基礎から教えるのがいいだろうと思い、まずは体を作ろうと空き地を何周か走って体力をつけさせた。それから、ドリブルをさせようとしたけど、輝くんは私みたいにリフティングがしたいみたいで、その練習をしていた。
まあ、私も本気で教えてるわけじゃないから、初めは遊び程度でいいかな、て思っていた。


『……輝くん』

「うわあ!っと、何ですか?」

『のみ込み早いね』

「え?そ、そうですか!」


私が素直に褒めると素直に喜んでくれる。

そう、この影山輝くん、天才肌だった。
体力や筋肉のつき方は普通の人と同じだけど、私が教えるとすぐそれを自分のものにする、まさに天才。

今もリフティングだって、初めは一、二回しか出来ていなかったのに、私がやっているのを見せると、最低でも十回は出来るようになっている。


『私ね、』

「はい?」

『サッカーはしないんだあ、遊び程度にしか』

「、そうなんですか?」

『うん、だからね』


私のサッカー、君に与えるよ


「美羽さんの、サッカー…」

『まあ、一般人よりは中々上手だと思うよ』


なんたって、太陽くんと一緒にやってたからね。
私なんかの何十倍、何百倍も上手だけど、サッカー部の人たちに追いつくぐらいの能力を与えることはできる。


「お!お願いします!」

『うん。…私も、男の子だったらな、』


みんなと同じフィールドに立って、同じ球を蹴って、一緒に喜んだり悲しんだり出来たのに。


『ま、私の知識よりサッカー部に入ったらその人たちのいうこと聞くのが1番ね!』

「わかりました!」

『じゃあリフティングはもう完璧に近いし、ドリブルから始めよっか』


私がそう言うと、キラキラした目を向けて力強く何度も頷く。そんなに動かしたら首を痛めそうだな。


『まずは走らないでゆっくり、初めはボールを見ながらでいいから歩きながら蹴ってテンポを掴む。遠すぎたら相手に取られるし、近すぎても中々前に進めないでしょ?』

「はい!やってみます!」

『テンポを掴めたら、ボールは見ないで前を向いて蹴ってみてね』


私は空き地の木の陰に座りながら輝くんのトレーニングを見た。やっぱり言われたことすぐに出来るようになってる。
ボールを見てたのだって、初めの10秒ぐらいで、それからは同じテンポでドリブルが出来ている。


『ドリブルができるようになったら、テンポ変えてみよっか』

「え!変えるんですか!?」

『うん。同じテンポなら相手に奪われやすいからね』


この子は本当に、教え甲斐がある。
テンポを変えるのだって難なくクリアできてる。

よし、


『私とパス練しよっか』


あとはコントロールとボール保持率を高めようかな。ボールを奪いにいくのはまだ難しそうだし。
斜めに飛んでくるボールを輝くんの足元に蹴り返し、また違うところにとぶボールを同じように返す。すると、輝くんもだんだん私の足元に返せるようになり、距離を開けてなかなかの威力で蹴っても私の足元に返ってきた。

今度は私が、輝くんの足元ではなく、全然違う方向にとばし、それをダッシュして上手くそのままドリブルに持ちこむ練習をして今日は終えた。

明日は土曜日で、雷門サッカー部は本戦の一回戦だと言ってたけど、輝くんに教える約束をしてしまったため見に行くことはできそうにないから、先に葵ちゃんや松風くん、マサキくんに剣城くんにもがんばれメッセージを送っといた。



***

『うん、もう充分だと思うよ』


私の前で息切れをしながら汗をかいているのは輝くん。
約束通り昼過ぎに空き地に行き、ブロックやボールのキープ力をあげてもらった。


「ほんとですか!?」

『うん。完璧ってわけじゃないけど、これならどこのサッカー部でもついていけると思うな』


私がボールを使いリフティングし、輝くんがそれを取る、これも何回かして輝くんは私からボールを取ることができた。

一緒にサッカーしたのは数日だけだけど、輝くんはフォワード向きかな、と思ったのでシュートの練習も何回かした。

もう私が教えるとなると、それこそもっと本格的になってくるから、それならちゃんとしたサッカー部で教わる方がいいだろう。


「ありがとうございました!」

『んーん、私も楽しかったよ、久しぶりにサッカーできて』

「美羽さんは『てか』はい!」

『いつまで他人行儀なの?名前もさん付けじゃなくていいし、敬語もいらないよ』

「でも、サッカー教えてもらってましたし…」

『じゃあもう教えることはないから、ほら!私たち友達でしょ?』

「!!っ、は!、うん!!またよろしくね美羽ちゃん!」


ちゃん付けかあ、慣れてないけど、輝くんの性格上人を呼び捨てにはしないだろう。私と同じだ。


「僕、サッカー部に入ってがんばる!」

『ん、応援してるね』


こんな純粋にサッカー好きな人には、フィフスセクターに管理されてない学校だったらいいな。

輝くんとまた会う約束をして、さよならをしてから家に帰りテレビをつけると、まだ雷門と月山国光との試合は続いていた。
しかし、時間からしてもう試合は終わる頃だろう。


あら?あらあらあら

マサキくんが一人で二人をぬき、そのままボールをキープしながら相手陣に突き進むけど、流石に三人相手には無理だと判断し、霧野さんにパスをし、そのボールはダイレクトパスで我らがエースストライカー、剣城くんに。
化身と化身のぶつかりあいで、剣城くんが貫いた。

剣城くんは安定にかっこよかったけど、マサキくんだって口ではシードだとか言ってたみたいだけど、見てたらわかる。みんなが勝ちたい、その気持ちがサッカーには現れている。

ツンデレね。また月曜にからかってあげよう。