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月曜日、いつも通りに学校に行き、月山国光との試合でデレたマサキくんをしっかりと揶揄い、何気ない日常を過ごしていた。
その日常の一部として、帰り際にサッカー部の練習を見るのも一環となっていた。

でも、今日は授業中に終わらせることができなかった、情報の授業の課題を終わらせないといけないため、部活に行く剣城くんにエールをおくってから情報処理室に向かった。
日が暮れるまでに終わらせて、できるだけ早く帰って家でごろごろしたい。そのためにもがんばらないと。



***

同時刻___
サッカー部では…


「入部希望者?」

「はい!サッカー部に入りたいんです!」


部員が着替える前、監督、顧問、メンバーが揃っている中、一人の男の子が円堂たちの前に立ち入部希望を伝える。


「名前は?」

「輝です!」

「輝くんね、名字は?」

「名字、それは、あの、その…、えっと、」


名字を聞かれて躊躇う輝。
目線を彷徨わせ、もごもご動く口。周りも何故名字を言わないのか不思議に思う中、輝はサッカーを教えてくれた少女を思い出し、目を閉じて真っ直ぐな瞳で円堂たちに向き直る。


「っ影山です!影山輝です!」


輝が名字を伝えたことで、影山の存在を知らないみんなはホッとした顔をする。

その反面、聞き覚えのある名字に驚きを隠せない円堂、鬼道、春奈、それに玲央。
春奈は持っていたバインダーを地面に落とした。


「か、影山!?影山って…」

「まさか…」

「…はい、影山零治は、僕の叔父です」

「…そうか」


思わぬところでまさか、影山零治の血縁者に出会うとは思っていなかったのか。しかし鬼道は過去の恩師の血縁者に出会えてどこか優しげな顔をしていた。


「ちゅーか、影山零治って誰っすか?」

「知らないド」

「昔の帝国の監督だ。勝つためにはどんな姑息な手段も使う、そんな人だった」

「っ、やっ、ぱりダメですよね…、じゃあ、お騒がせしました」


みんなが、影山を知らない中、玲央が答える。
それを聞いた輝は、居心地が悪くなったのか頭を下げて部屋から出て行こうとした。


「まて!」

「え、」


それを引き止めたのは円堂だ。
そして…


「影山輝、サッカー好きか?」

「…はい!」

「だったら迷うことはない」

「確かに影山零治が雷門サッカー部にしたことは許されることではない、だが、本当は心からサッカーを愛していた、俺たちと同じぐらいにな」


鬼道に言われた言葉が、少女の言葉と重なりわずかに目を見開く。


「何も恥じることはない。あの人が行き着けなかったところまでお前が行ってみせるんだ」

「影山輝、今日からおまえは雷門サッカー部の一員だ!」


鬼道や円堂の言葉に自信が持てた輝は嬉しそうな顔をしてお礼を言い、雷門サッカー部の方に向き自己紹介をした。


「ありがとうございます!影山輝です!よろしくお願いします!」

「こっちこそよろしく輝!」

「よろしくね!」


真っ先に声をかけたのは松風、西園、そして剣城からの一言。


「で、どのくらいサッカーできるんだ?」

「うえぇっ?どのくらい、と言われても…。ボール蹴り始めてまだ二ヶ月なので、自分じゃよくわかりません」


言いづらそうに告げた輝に、松風と西園は声を出して驚き、周りの人も意外な答えに吃驚する。


「たった二ヶ月ですか!?」

「なーんだ、初心者かよ」

「誰だって最初は初心者だぞ」


狩屋が嫌味っぽく言うが、それは慣れた霧野が上手にカバーする。
狩屋も本気ではないため、霧野に注意をされても悪い顔をして笑うだけだ。

それから一通り自己紹介をし、また輝の初心者の話に戻る。


「あ!でも、2週間ぐらい前からは僕と同い年でサッカー教えてくれる女の子に出会って、少しはできるようになりました!」

「へえ〜!女の子でサッカーしてるんだ!」

「すごく上手な人で、お願いして教えてもらったんです!その人も叔父を知ってて、鬼道コーチと同じことを言ってたのでびっくりしました」

「何?」

「影山を知ってる女の子…(まさかな)」


影山の発言に、鬼道は驚きを隠せず、玲央は影山を知っている女の子に心当たりがあるためその少女の顔を思い浮かべるが、気にしすぎか、とすぐに消した。

それからはいつも通り、着替えた後にグラウンドに出て部活が始まった。

準備運動をしてから、まずはウォーミングアップのためにグラウンドを使いゴール前から反対側のゴール前までドリブルで往復する。

しかし、輝は初めての部活で緊張もしているのか、特訓をしたことが活かせていない。
ボールが思う通りに蹴ることができず、強めに蹴ったり、コントロールが定まらなかったりしている。

転がったボールはグラウンド外から見ていた、狩屋のところに。


「すいませーん!」

「なーにやってんだよ、ドリブルの時はボールだけをしっかり見るんだよ。でないと真っ直ぐ走れねえだろ?」

「ああ、なるほど!そうですね、ありがとうございます!(あれ?でも美羽ちゃんは…、サッカー部に従えって言ってたし)」


素直に受け止めた輝とは違い、狩屋は悪い顔をしていた。
狩屋に教えられた通りボールだけを見てドリブルしていると、そのままゴールポストに直撃した。
そんな輝に三国は近付いて無事を確認する。


「大丈夫か?」

「狩屋!お前またやったな!」


狩屋の悪戯に慣れた霧野が一応は注意をするが、本人はツボに入ったのかお腹を抑えながら転がり笑ってる。


「ドリブルをする時は前を向くんだ。下を向いていたら周りが見えないだろ?」

「ああ!なるほど、そうですね!」

「教えるだけ無駄でしょ、どーせ使えねえ奴なんだし」

「もう一度やってみます!」


落ち着いて深呼吸をし、今度こそ正しいドリブルをする。言われた通りの対応ができた輝にみんなの目線は輝を自然と捉える。

そんな影山にゴール前にいる三国は構えて声をあげる。


「よし!影山!打ってこい!」

「ええ!?」

「シュートだよ、シュート!」

「シュートって、えっと…」


急なことで焦るが、いつも練習に付き合ってくれていた少女を思い浮かべる。

大丈夫、落ち着け…

少女に教えられた通りのフォームでゴールポストギリギリを狙い蹴り込むと、ネットを揺らした。

その場はしんと静まり返る。

ただ輝はシュートを決めれたことに目を輝かせ、玲央は見たことあるシュートスタイルに顔をしかめた。

そんな輝に円堂ももう一度打つように指示を出すが、三国から転がされたボールを上手く止めることが出来ず、後ろに転がって行った。

そのボールを玲央が拾い輝に渡す。


「ありがとうございます!」

「なあ輝、お前誰にサッカー教えてもらった?」

「え?誰って、えっと、美羽ちゃんって人ですけど…」

「はあ、やっぱりか」


予想通りの回答に呆れる玲央とは逆に、一年生組は聞き覚えのあるその名前に驚く。


「え、美羽って、え?」

「玲央先輩の妹の?」

「ああ、お前らが思ってる日向美羽だろうな」

「は!?え!?あいつサッカーできたのかよ!てか、日向先輩と兄妹って、ええ!?」

「あ、そっか、狩屋は知らないんだったね」


松風や西園、剣城以上に、二人が兄妹と知り二重に驚く狩屋。そして輝も目の前の先輩が自分の練習に付き合ってくれた女の子の兄だとは知らず目をかっぴらいたまま動いていない。


「ええ、でも、美羽はサッカー観るのは好きだけどするのは、て言ってたような…」

「輝の動きを見て確信したんだ。美羽に似ていたからな」

「…美羽ちゃん言ってました。遊び程度だけど、君に私のサッカーを与えるって」

「んだよあいつ!これで遊び程度だと!?あー!むかつく!!」

「どうしてサッカーしないんだろう、」


みんなが同じことを思っている中、口を開いたのは玲央だった。


「俺があいつにサッカーに関わるな、て言ったんだ」

「玲央先輩が?どうして、」

「まだお前らが入るまで、管理サッカーだっただろ?あいつサッカーはすっげえ好きなんだよ、管理サッカーなんてぶっ潰したいて言ってたしな」

「(おっかねえ)」

「だから、そんなサッカーを見せたくなかった。まあ、それもお前らのおかげで自由なサッカーが今はできてるけどな!」


ニカッと笑った玲央に周りも自然と明るくなる。

しかし、まだ疑問に感じることは残る。


「それなら」

「剣城?」

「何故あいつは今サッカーに関わろうとしない」

「確かに…」


管理されているサッカーを見せたくないだけなら、今まさに革命を起こしてる雷門サッカー部には入りたいと思うだろう。
それが出来ないのは、違う人、豪炎寺との約束があるためだが、それは玲央の口からは伝えることができないため、誤魔化す。


「まあ、あいつにも色々あんだろ……、あ」


玲央の声に反応し、一年生組は同じく視線の先を見ると、学校帰りの美羽がちょうど歩いていた。
美羽もいつもサッカー部を見ながら帰るが、いつもは自分がみんなを見るだけだったが、視線が交わり、ぽかんとした顔でその場に立ち止まる。
ただ、輝だけは嬉しそうに目を輝かせ、駆け足で美羽の元へ向かった。