松風くん達にあんな大口を叩いてしまったけど、サッカー大好き!な松風くんなら本気で雷門を優勝へ導いてくれるだろう。もちろん松風くんだけの力ではなく、頼りになる先輩方、支えてくれる同期達が近くにいることを忘れなければ正しい道へ進むことができる。
それよりも、昨日は逃げるように帰ってしまった。サッカーをしていた、と知った時の私に声をかけようとしていた剣城くんの顔が忘れられない。
それでも私は、サッカーをしないって決めたから。全部終わるまで、何も干渉しないって約束だから。
それはそうと、私がサッカーを教えていた輝くんとは別のクラスだった。それに人前に出るのが苦手なタイプか、クラスでも1人で席に座っていることが多かったみたいで、他人との交流はなかったらしい。
昨日だけどサッカー部に入った仲間なので、松風くんが輝くんのクラスにお昼ご飯のお誘いに行った。
これからまたメンバーが増えるだろう。良いことだ。ちなみにマサキくんもちゃっかりいてたりする。みんなに猫被りがバレる前からご飯は一緒に食べていたが、バレてからも変わることなく関係は続いている。
「何ぼーっとしてるの?」
『…!』
「え、何々?」
ぼけっとしていたらお弁当を持った葵ちゃんに額を突かれた。驚いて立ち上がると葵ちゃんももともと大きな目を更に開いて驚いている。驚かすつもりはなかったんだよ。
『松風くんたちまだかな〜』
「さっきからお腹鳴ってるものね」
『言わないで』
マサキくんと剣城くんは私たちと同じく松風くんと西園くんが輝くんを連れてくるのを待っているので、葵ちゃんに聞こえたということは私の大好きな剣城くんにもお腹の音が聞こえていたかと思うと恥ずかしい。
マサキくんは別に気にしないが。
「てかさ」
『ん?何?』
私の方を向いて言ってるので、指名がなくても私に用があるのだろう。
「初めから思ってたんだけど、剣城くんの昼って美羽が作ってんの?」
『そうだけど』
「まじかよ」
何かおかしなことを言っただろうか?
あの日から私は欠かさず早起きをして三人分のお弁当を作っている。
二つと比べて少し小さめなのが私の、大きいお弁当箱が玲央くんと剣城くんの分だ。
剣城くんも見た目は細身だけど、さすがは成長期な上に運動部、食べる量は玲央くんと同じだ。そこにまた心を鷲掴みにされた。
母子家庭のような環境で育った私は、小さい頃から少しでも母親の助けになりたくて家事を手伝っていたが、まさかこんなところで生かされてくるとは。
健康面も考えて作っているので、なかなか自信作だけど、家庭の味が違うと少し不安になったりするけど初めて作ってきた日、剣城くんが少し笑みをこぼしながら「美味い」と言ってくれたので思わず涙ぐんでしまった。
「美味しい?それ」
剣城くんに怪しい目を向けながら、それ、もとい私のお弁当を指差して問う。
『失礼な。ちゃんと食べれますよ〜』
「ふーん」
「あ、天馬たちきたよ!」
葵ちゃんが向ける視線の先には、お弁当を持った三人組が教室の扉を開けて私たちが座っている席の近くまで笑顔で近付いてきた。
人数が多くなってしまい、私の机だけではスペースが足りないので、隣の人の机も借りる。了承済みだ。
「おまたせー!」
「あの、僕も一緒でいいのかな?」
「あたりまえだよ!せっかくみんなで食べてるんだから!」
松風くんと西園くんに挟まれて嬉しそうな顔をする輝くん。私の横は葵ちゃんと松風くんで、前に剣城くんとマサキくんが隣同士に座ってる。
全員揃ったところでそれぞれお昼を出しいただきますをし、食べ始める。
私のお弁当は必ず卵焼きは入っている。剣城くんに褒められたこともあるし、1番お弁当の具で大好きだから。
みんな別々で話したりしている中、マサキくんの目がキラリと光った気がした。
『マサキくん?』
「剣城くんそれちょうだい」
「は?」
それとはやはり私のお弁当のことで。いきなりのことで剣城くんもちょうど口の中の物を飲み込んだのか、ぽかんとしていた。
頂戴ってなんだ、剣城くんのために作ったお弁当だぞ。マサキくんにはあげないよ。と思っていると、剣城くんが真顔で少しずつマサキくんから距離を取り始めた。そんな行動に不思議に思ったが、それよりももし剣城くんがマサキくんにあーんなんてしたら許せない。
「剣城くん、もしかして取られたく」
『マサキくん!』
「なんむぅ!」
なんむぅ?
じゃなくて、何?と言いたかったのだろう。でも剣城くんと間接キスさせるぐらいなら私のお弁当をあげた方が断然いい。
急なことにマサキくんだけでなく、葵ちゃん、剣城くんも目をまん丸にして私たちをみていた。
『どうですか私のお手製は』
「……うまい」
私のお弁当を素直に褒めて照れているのか、少しだけ頬が赤く染まっているマサキくんに、私は大満足。
うんうん、と頷いていたら葵ちゃんにガシッとお箸を持っていない方の手首を掴まれた。
「美羽…」
『なに!?』
「あまり人にそんなことしちゃだめよ」
『そんなことって、(剣城くんへの独占欲?)』
「わかった!?」
『は!はい!!』
葵ちゃんの気迫に負けて何もわからないのに、肯定してしまった。
それにしても、せっかくのお楽しみの卵焼きをマサキくんにあげてしまったので残り一つになってしまった。
『マサキくん代わりに何かちょうだい』
「ええ…」
『理不尽!』
食い意地を張っているのか、あからさまに嫌そうな顔をするマサキくん。
もういい、諦めて食後のチョコをいつもの倍食べよう、と思っていたら聞こえてきたのはだんまりだった剣城くんの声と目の前にお箸と黄色い物体。
「ほら」
『んぅ』
私が驚く間も答える間も無く、私がマサキくんにしたみたいに、剣城くんが放心状態で少し開いた私の口に卵焼きを、て…
それはさっきまで剣城くんが使っていたお箸で、私の口に入ったお箸も同じもので。
『んんんんん!!?うっ、ごほっ』
「はいはい落ち着いて〜」
葵ちゃんに背中を撫でられ、気管に入りかけた卵焼きがちゃんと食道を通ったのを感じ、お茶で流し込み剣城くんを見つめてしまう。
『剣城くん、あの、それは、えっと』
「はっきりしなさいよ」
『何で、私に?』
正直卵焼きをくれたことより、間接キッスにドキドキバクバクだ。
剣城くんは顔色を変えることなく答えた。
「元々お前が作ってくれたし、卵焼き好きだろ?」
『剣城くん…』
きゅんきゅんポイントマックスです。
卵焼きが好きだなんて言ったことないのに、きっとお弁当にいつも入ってるから察してくれたのだろう。ちくしょう、好きだ。
『…ありがと』
ぽつりと呟いた声は聞こえたのか。
剣城くんは軽く口角が上がっていた。ニヤニヤしてるマサキくんには机の下で軽く蹴り、葵ちゃんにはジロリと睨んでおいた。