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「美羽ちゃん!!」


どうしてこうなったのかな、なんて抱きしめられながら考えた。
昔の印象は可愛らしい男の人だったのに、今では男らしく変化を遂げた。いや、24歳になっても王子様オーラは変わらない、甘いフェイスが少し凛々しくなったぐらいだ。



***

今日は特に居残りもなく、サッカー部の練習を教室の窓から少しだけ見て帰ろうとした。
教科書やらノートやらを詰めた鞄を肩にかけ、まだ教室に残って駄弁っている友達にばいばいをして靴箱でローファーに履き替え、最後に横目で剣城くんの練習姿を見ながら校門まで歩いた。

そうだ、これがダメだったんだ。

シュートの練習をしていた剣城くんの姿がかっこよすぎてそっちに意識を持っていかれてたら、歩いてきた人にぶつかった。


『あっ、ごめんなさい!……んん!?』

「こちらこそ…、美羽、ちゃん?」


名前を呼ばれてからはすぐに身動きが取れない状態になっていた。これ知らない人が見たら犯罪だからね。
そして冒頭に戻る感じだ。

…そうだ、私が余所見しなかったらこんなことになってなかった。
動けない体でそんなことを考えていたら、ひょいっと抱き上げられた。


『ちょ、っと!』

「あれ?少し大きくなった?」

『当たり前だよ!何年も会ってなかったんだから!それより恥ずかしいから下ろして!吹雪さん!』


中学生になったばっかりにしても、学校内で大人に抱き上げられてるのは恥ずかしすぎる。周りを見渡すが、部活をしている人以外人は見当たらない。よかった、下校時間少しずらして。
流石に暴れて蹴るなんてできないから、言葉と目線で下ろすように頼むけど、吹雪さんはすごくいい笑顔でまた私を抱きしめた。
この人、聞く気ないだろ。


「吹雪さんじゃなくて、昔みたいに、しろーくんって、さあ!」

『さあじゃないよ!ここ外だから、目立つから!そもそもなんでここにいるの!?』


おーろーしーてー!!

なんて思ってると後ろから松風くんの「あぶない!!」と危険を知らせる声が。
まさかこっちのことじゃないだろうと、首をなんとか後ろに向けると、凄まじいスピードでこっちに向かって来るサッカーボールが。


『ひっ!』

ビリリッ、トンットンッ

「「「……………」」」


…仕方ない。誰だって反射的に身を守るでしょ、
思わず力を使ってボールを止めてしまった。
そしてそのボールは落ちて跳ねた。


「…美羽ちゃん」

『っ!しー!しろーくん、しー!!』

「あ、名前で呼んでくれた…!」


気まずい空気の中、昔馴染みの呼び方でしろーくんと呼ぶと、だらしないぐらいに頬を緩めてまたまたぎゅーーーっと抱きしめてきた。


『玲央くん!助けて〜!』

「吹雪?吹雪じゃないか!」


しろーくんに抱きしめられていて振り向けないため、聞こえているかわからないけど、呼ぶだけ呼んでみる。
それと同時に、その場にいた円堂さんが吹雪さんの存在に気付いた。

円堂さんがしろーくんの名前を呼んだことで、サッカー部員たちはどよめきだす。そりゃそうだ、イナズマジャパンのメインメンバーなんだから。

そして、そんな中でも一人だけこっちに来てくれた。


「美羽!」

『玲央くん!しろーくん力強すぎ!』

「吹雪さん!離してくださいよ!」

「えぇ〜、」


とか不満をこぼしつつ、円堂さんに声をかけられたからか私をやっと開放した。長かった、半日ぐらい抱きしめられてた気分だ。

円堂さんと吹雪さんが遠目で会話してるのを確認し、ほっと一息つくと、今度は玲央くんに腕を掴まれた。なんだなんだ、


「おまえ、あれほど気をつけろって言ったよなァ?」

『ひぃっ、やっぱり玲央くんヤダー!剣城くんがいいー!!!』

「は!?おまえ剣城剣城ばっかり言いやがって!」

『だって剣城くんの方が優しいし強いしかっこいいもん!!』

「んなっ!?俺より剣城が好きか!」

『何当たり前のこと聞いてるの!?比べる対象がおかしいわ!!』

「俺は絶対認めねえからな!!」



「…だって剣城くん」

「あ?」

「玲央先輩より剣城くんが好きだって」

「………」

「(あれ?満更でもなさそう?)さーて、お望み通り行ってあげたら?」

「…なんで俺が」

「さっき使った美羽の技?みたいなのも気になるし」

「…(それは気になる)」


はあ、とため息を吐いてから足を一歩進めた剣城に、狩屋も後を追うようについていく。そしていつも通りの一年ズが二人の後を追う。


「だいたいおまえはなぁ!最近警戒心が欠けてんだよ!」

『欠けてないよ!いつも通りですー!』

「だったらさっき何で力使った!」

『仕方ないでしょ!咄嗟の判断だもん!!』

「あの力はな!「力って何ですか?」……」

『「……………』」


言い合いがヒートアップしていて、周りに気を配ってなかった。
ほら、私よりも玲央くんの方が警戒心かけてるじゃないの。無心で無表情でかたまる私とは違い、あわあわしだす玲央くん。
いける、聞いてきたのが松風くんなら誤魔化せるから、そんなにわざとらしくあたふたしないでほしい。


「力ー、力な、、力だ!」

「え?」


馬鹿すぎる。
さすがに訳がわからないのか、ますます気になっている様子で、やばい。


「美羽ちゃんの必殺技だよ」


ぎゅーっと、後ろから抱え込まれた。


「必殺技、ですか?」

「うん、DF用の雷系の必殺技。すごく強力なんだ」

「美羽ってディフェンダーなんだ!すごい!!」


よ、よかった、、
ナイスすぎるわしろーくん。

上を見上げると、しろーくんと目が合いパチンとウインクをされた。私もにぱっと微笑み返すとまたもや持ち上げられた。
だから私、ぬいぐるみでもペットでもないんだけど。


「美羽と吹雪さんってどういう関係?」


まあ、ここまで親しげにしていたら気になるのが普通だろう。
疑問に思った松風くんに、しろーくんが答える。


「美羽ちゃんは僕の妹だよ」

「妹!?」


いや、何をさらっと嘘ついてんの。松風くん目がキラキラしてるから。
嘘はだめ、血の繋がりすらないから私たち。


『違うから。…親戚の知り合い?』

「まあ、そんなとこだな」


それでも繋がりがあることに感激しているのか、羨ましそうな顔で私と玲央くんを見つめてくる剣城くん以外の一年ズ。

ちなみに私はしろーくんに持ち上げられたまま。

何やら私と玲央くんが口論してた間にしろーくんと円堂さんの簡単な挨拶が済み、更にしろーくんが監督をしていた白恋中がフィフスセクターの手に落ちたことを詳しく話すためにベンチに移動するみたい。

なのに!!!


『帰るから!私帰らなきゃ!』

「またまた〜!久しぶりなんだから、ね?」

『ね?じゃないよ!』


後ろからハグ状態で持ち上げられたしろーくんに捕まったまま連行されてます。
これはもうハグじゃない。生け捕りのようだ。

ほら!帝国戦の時は帽子かぶってたから、みんなも誰?みたいな顔で見てるし!

流石にここには監視カメラとかないだろうけど、約束したから極力関わらないようにしたいのに。


「美羽ちゃん今から大事な話するからおとなしくしててね」

『いやいや!それなら尚更うちに帰るから!』

「え〜、だ!め!」

『いい歳した大人が何言ってるの!』


私はとりあえず早く帰りたい、帰りたいのに、しろーくんが離してくれない。
サッカー部のみんなだってサッカーしたいだろうし、しろーくんの話も気になるだろうし。


「吹雪さん!とりあえず白恋のこと話してからにしてください!円堂さん!」

「おう!」

「ああっ!美羽ちゃん…」


私を抱きしめている腕を円堂さんがそっと解き、玲央くんが私の腕を引っ張った事で無事脱出。
だが、玲央くんの引っ張る力が強すぎてよろけてしまった。


「っおい、無事か?」

『…つ、剣城くん!』

「あの、美羽さん?俺も一応助けたんだけど」


右腕を玲央くん、左腕を剣城くんに引っ張られて転ぶのを阻止してもらった。

剣城くんのイケメンポイントが毎日上がっていって辛い。


余談だが、この時剣城くんに向けて無意識に飛ばしていたハートの視線により、他の人たちは私が帝国の時の人と一致したらしい。
ちなみに、玲央くんと同い年の二年ズは一度だけ昼休みに会って話したことがあるから、玲央くんの妹ということは認知済だ。


さて、話は戻るが、しろーくんがベンチに座り、その周りにみんなが集まり話を聞く体制に。
地面に座る人も居れば、立って聞く者も。

私は謎に葵ちゃんに腕を組まれながら話を聞くことに。
まあ、聞くだけなら。


「フィフスセクターのサッカーは間違っていると、僕たち白恋中も勝つことでそれを証明しようとしたんだ」


けれど、先に動いたのはフィフスセクターで。
裏から侵食して来てメンバーがフィフスセクターに取り込まれ、しろーくんは聖帝に歯向かう反乱分子として白恋中を追放、監督を辞めさせられたというわけだ。

そしてしろーくんがここに来た目的は、白恋中やその選手を救うため、雷門中のサッカー部に力を貸して欲しいと。

雷門中が目指しているサッカーもフィフスセクターに管理されないサッカーなので、しろーくんの願いは簡単に受け入れられた。
それにホッとしたのも束の間で、また難しい顔をした。


「今の雷門ではおそらく白恋中に勝つことは難しい。あの絶対障壁を破らない限り」

「絶対障壁?」


絶対障壁。
中央に選手を集中的に配置することで、極限までディフェンス力を高めた必殺タクティクスらしい。

そして、この説明は場所が変わりサッカー棟のミーティングルームで行われている。言うまでもなく、私も連れていかれた。ていうか、しろーくんにまた抱っこされたのだ。

こうなりゃやけだ。今日は付き合ってやる。


絶対障壁はディフェンス力が高く、帝国戦で使ったアルティメットサンダーも通用しないらしい。


固まってるから、左右に攻めれば勝機がある。
そのための必殺タクティクスを生み出すのが一番最適だろう。
鬼道さんが提案したが、そこで問題が出た。


「絶対障壁を振り切るほどの俊足と、突破する決定力を兼ね備えた選手が二人必要なんだ」

「それが破るための鍵というわけか」


そして倉間先輩の発言で、それに最適な人物が剣城くんと松風くんに任命された。本当に剣城くんどこでも大活躍だわ。

さてさて、またまた場所を移動して今度は早速試してみるためにサッカー棟内のグラウンドに。

剣城くんと松風くんが攻め上がり、他のメンバーが二人のボールを奪いに行く。
三人を相手に剣城くんは松風くんにパスを出し、二人に攻められた松風くんは焦ってライン外に。

それから何回も同じような練習をするが、うまくいかず。
見てる私が言うのも何だが、これじゃただのパスに変わりない。イメージをつけなきゃ。


いつの間にか私は、サッカーに見入ってしまっていたらしく、気がつく頃には下校時間をとっくに過ぎてしまっていた。
気付いた瞬間に円堂さんや一応サッカー部の方々に頭を下げて帰ることを伝え、しろーくんに捕まらないよう猛ダッシュでサッカー棟を後にした。


その日から玲央くん達は毎日必殺タクティクスの練習をしている。雨の日も外でしていたけど、サッカー棟があるから中ですればいいのに。

何日も何日も、しろーくんに捕まらず、かつ剣城くんのかっこいいところを見逃さずの下校を繰り返していた私だが、白恋中との試合が近づいてきたある日、とうとうしろーくんに捕まってしまった。


「毎日美羽ちゃんに会いたかったのに」

『私も会うだけならいいけどね、毎回持ち上げるの辞めてくれるなら』

「いや〜、なんか美羽ちゃん見ると、こう、ぎゅっとしたくなるんだよ」


だからおもちゃじゃないよ私。


『どうして連行されてるの?』

「連行だなんて、そんなことしてないよ」

『…誘拐?』

「うっ、」


否定せんのかい。
下校途中の門を抜ける直前にしろーくんに捕まり、ただ今サッカー棟に連行されている。


「ちょっとお願いがあって」

『お願い?』

「美羽ちゃんがサッカーに関わらない事は円堂くんに聞いたよ。でも、僕本当に白恋を救いたいんだ。その為に美羽ちゃんの力を貸して欲しい」

『…つまり?』

「新しい必殺タクティクスは最終的には、二人が同時に上がり、お互いが高速でパスを出しどちらにボールが渡ったかを見抜けないようにするんだ。それには二人の走るスピードや連携が重要になってくる」

『まあ、悔しいけど剣城くんと松風くんなら大丈夫だろうね』

「そこでお手本になって欲しいんだ」


、、、はい?





***

「錦かー、懐かしいなあ」

「玲央先輩、仲が良かったんですか?」

「あー、まあ、いいライバル?的な?あいつのキック力は凄かったからなあ」

「おまえら俺のキック力が一番だの毎回張り合ってたもんな」

「はっ!懐かしいな!」


必殺タクティクスの練習の休憩時、エアメールが届きそれの書き手が二年の錦龍馬であった。
彼は一年の頃からサッカー部に入部したが、才能を認められイタリア留学に行ってしまった。
玲央とはよく張り合っていたと、倉間が語るとあの玲央先輩と…!と謎の期待を寄せた。


「本当にすごい人だったんですね!錦さんって」

「あいつがいればこのタクティクスも完成したのかな〜」

「いない奴のことを言っても始まらない。休憩は終わりだ、やるぞみんな!」


神童のかけ声で全員がピッチに立つ。
そして、その近くに美羽を抱えた吹雪が来て、玲央を呼んだ。

何やら普段と違う雰囲気が漂う中、玲央の悲鳴に近い驚き声が響き渡った。

そして円堂、鬼道もグラウンドに降りて来たので、神童が代表して二人の元へ。
他の二年ズは玲央の元、一年ズは美羽の元へ。


「どうかしましたか?」

「…今回の必殺タクティクス、ちょっと他の奴で試してみることにした」

「他の奴?」


神童がチラッと吹雪の方を見ると何かを察知して玲央にさせようとしているのは理解した。が、もう一人は…?

まさか、


「えぇっ!!美羽がサッカーするの!!?」


天馬の声が先程の玲央同様、この場に響いた。