あの後私は、しろーくんの縋るような、救いを求めるような目に負けてしまった。
一回だけなら、失敗してもしらないから、と約束をして。あと高級菓子も買ってもらうことに。
サッカー棟に入り、まずは玲央くんにその事を話すと悲鳴をあげた。それからニカッと笑い、私の頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。
『ちょ、と!髪の毛崩れる!』
「運動したら変わんねーだろ!」
『そうだけど!』
玲央くんの悲鳴じみた驚き声で集まったメンバーにしろーくんが説明した。
「今回の必殺タクティクスなんだけど、まずはイメージをつかんで欲しいと思ったんだ。そこで、」
「俺と美羽が手本見せてやるよ!」
「えぇっ!!美羽サッカーするの!!?」
『い、一回だけ、失敗したら終わり!』
松風くんに両手を握られ、ぐいっと引き寄せられた。そんな、期待を寄せた目を向けないで、心が痛いわ。
「ただ、美羽ちゃんはサッカー部じゃない。試合には出られないからあくまで手本として。みんなにイメージをつかんで貰おうと思ってね」
「相手は剣城くんじゃなくていいのかよ?」
『うううう、うるさい!!しゃらっぷマサキくん!!』
揶揄ってくるマサキくんの口を後ろから塞ぐ。
私だって!剣城くんと!サッカー!してみたいけど!
一度も一緒にした事ない人といきなりやっても上手くいくわけがないので、ここはお互い知り尽くしている玲央くんが最適というわけだ。
「このタクティクスは俊足と決定力を兼ね備える上に、お互いのスピードを合わせる必要があるんだ」
「確かに、俺なら美羽の事一番理解してるしな?」
『私が、玲央くんのスピードに合わせてあげるの!』
「うぐっ、」
窒息しかけてるマサキくんの口から手を離し、ドヤ顔で言ってくる玲央くんに言い返すと、何とも言えない顔で視線を背けた。
「美羽って足速いの?」
『んー、まあ自信はあるかなあ』
「何言ってるの、美羽ちゃん異様に足速いじゃないか」
「…確かに」
『剣城くん!!?』
私剣城くんの前で全力疾走した事…!
…あったわ、病院で告白もどきした時に超ダッシュで逃げたし、前もしろーくんに捕まらないように猛ダッシュで逃げた。
「とりあえずやってみる前に、一応自己紹介しようか」
『あ、そうだね。日向美羽、一年です。玲央くんとは兄妹です。よろしくお願いします』
ちょうどみんなが集まっていたので、そちらの方を向きお辞儀。面識ある方々も数名いるが一応挨拶。
玲央くんとの関係を知らなかった人達は驚いたように私たちを見つめていた。
そりゃ似ていないものね。
「おい、美羽」
『なに、玲央くん』
「ついてこれるか?もう何年かサッカーしてないんだろ」
『いける。玲央くんと一緒なら』
「だな!」
玲央くんに手を差し出され、その手を握り返す。大丈夫、私達なら。
そのまま向かい合い両手で握り、少し目を閉じて落ち着かせる。
よし、いける。
『じゃあまず、玲央くん全力でドリブルよろ。見るから』
「あいよ」
サッカー部の人たちは様子を見るために、邪魔にならない位置で各々座ったり立ったり。
玲央くんはボールをもちコートの端に置き、私に視線で合図を送ってから蹴り始める。
そのテンポを掴み頭の中で何度も再生する。この速さならついていける。
コートの端まで走った玲央くんを確認し、視線がぶつかったので頷く。
さて、私も準備運動して、と。
「あれ、美羽?着替えないの?」
『んー、まあ試合をするわけじゃないから大丈夫』
それに今日は体育もなかったし、ジャージ持ってきてないし。常ショーパンは履いているから中身が見える心配もない。
腰に巻いているカーディガンを取り葵ちゃんに託す。
「見せてよね!美羽の凄さ!」
『私、凄くないよ』
へらっと笑い、ポジションにつく。絶対障壁役のサッカー部員はいなくていい。
今回は形をみんなに見てもらいイメージして貰えばいいから。
マネージャーの茜さんは動画の撮影準備をしていつでも万端のようだ。
「じゃあ二人とも、始めて!」
しろーくんの声と共に春奈さんがホイッスルを鳴らした。
その瞬間、私と玲央くんが全く同じタイミングで走り出す。玲央くんのドリブルから、私、そしてまた玲央くん、私、これを繰り返す。
ただ、言葉にすれば簡単なことかもしれないけど。実際形にするのは難しい。
パスするときのバウンド地点をお互いのちょうど真ん中に、そして速さを落としてはならない。パスされたボールはそのままワンバウンドダイレクトにパスをし返す。
それを繰り返すことで、後は私たちの周りを数名が隠せばどちらがボールを持っているか隠すことができる。
「す、すごい…!」
「はやすぎて、見えない…」
「これが、新しい必殺タクティクス…」
最後は玲央くんにパスをし、シュートを決めてもらった。
よかった、成功した。
「っと、どうよ!」
「すごいです!!」
『ふう、久しぶりで緊張した〜』
「おつかれ!はい、カーディガン!」
『ありがとう!』
サッカー部の人たちは、今のタクティクスについてイメージできたのか、それについて話し合ったり、玲央くんや私の周りに集まって、すごいすごいと絶賛お褒め頂いている。
葵ちゃんからカーディガンを受け取り、腰に巻きながらしろーくんの言葉を聞く。
「これが、君たちにやってほしい必殺タクティクスだ。あとはこの二人を隠すために二人がそれぞれ一緒に走る感じかな」
「なるほど、それで完全に相手の目を眩ませるわけですね」
「うん、形がわかったからイメージはしやすくなったと思うよ。ありがとう美羽ちゃん」
『んー、約束通り高級菓子ね』
「あれ?吹雪さん俺は?」
「玲央くんは美羽ちゃんとサッカーできたから十分でしょ?」
解せぬ。そんな顔をしてるけど、確かに一緒にするのは何年振りだろうか。凄く楽しかった、やっぱり、他の誰とするよりも一番と言っても過言ではないくらい一緒にしやすい。
太陽くんも同じような感じだけど。
『はあ、やっぱ楽しいなあ』
ざわざわ騒ついている中、一人でボールをキープしていたら横から伸びてきた足にとられた。
「へっ、甘いなあ美羽!」
『ちょ!私一人で遊んでたの!』
「って、何で取り返しにくんだよ!」
マサキくんに取られたボールを取り返し、今度は注意しながら体をつかい地面には一切つけずキープする。
マサキくんと対決していたら、今度は違う足が伸びてきた。見たことがある白い足。
『つつつ剣城くん!?』
「ふっ」
「わ!ずりい剣城くん!」
思わずというか、まさか剣城くんがボールを取りに来るなんて思わなくて。油断したら取られてしまった。取り返そうと体が動く前に、私が行動するより、剣城くんのボール捌きを目に焼き付けたいと脳が働きかけてるのか、じっと見つめてしまう。
変態か私。
「三人だけずるい!俺も!」
「僕も僕も!」
「えっ!じゃあ俺も!」
松風くん、西園くん、そして輝くんも参戦。
いや、いつから勝負みたいになった?
剣城くんの足元にあるボールを松風くんと西園くんが二人で奪おうとし、隙ができたところをマサキくんがスライディング。せこい。
それを輝くんがなんとか取ろうとチャレンジするが、マサキくんは遊ぶようにそれに対応する。と、松風くんにボールを奪われている。
管理サッカーの時代とは反する、自由で楽しい空間だなあ。
でも、サッカーに触れたこと自体久しぶりだったのに、こうして誰かと一緒に笑いながらサッカーをするなんて、前までは考えてなかったな。
修也くん、はやく終わるといいね。
応えるように髪飾りのリボンが風で靡いた。