泣き虫少女と春奈の暴走

久しぶりのお仕事です。
スタジオには人がちらほら集まっていて私は控え室で着替えてから行くと、もう少しで撮り始めるところだった。


『今日も頑張ります…!』


ちなみに今やっている役は主人公。恋愛の話でライバルの女の子の幼なじみと恋をするお話。元気で活発で泣くことが大嫌いで恋に不器用な女の子を私は演じる。


「それでは始めます!……5、4」


3、2、1と心で数えて0になると同時にこの話の世界へ入った。











「私は真雪のあの役好きよ」

『ほんとですか?嬉しいです!』


マネージャーさんにいつも通り雷門中まで送ってもらう車の中で、今日のことについて話していた。マネージャーさんも昔は女優で世界中でとても有名だった。


「真雪、イナズマジャパンのサポーターはどう?」

『最初は自身がなくて、すっごく不安でした。でも、みなさん優しくてやってよかったなって思ってます』

「それならよかったわ。でも、あなたは女優よ?私の跡を継いでもらうの!」

『私も、継げるように頑張りたいです…!』


マネージャーさんの口癖だ。「私の跡を継いでもらう」もちろんマネージャーさんのような…、ううん、それ以上の女優になってみせる。


「明日は朝に撮影があって夕方までミーティングよ。明後日も同じね」

『わかりました』


守くんに明後日まで帰れません、とメールを送ってから携帯を鞄の奥に入れ込んだ。別に返信するのがめんどくさかったからとかではない、決して。



少し豪華な一室をとってもらっていて、荷物を置いてベッドに飛び込んだ。すごい、これどこまで沈むんだろ。


『ふぅ…。シャワー浴びて寝ましょ』


演じる事が大好きだけど疲れるのは当たり前のことで、睡眠は私にとってとても大切。
現にあくびが止まらずにすぐにでも寝てしまいそう。今日は早めに寝ましょうか。



そして私は爆睡してしまって朝にマネージャーさんに起こされた。


「疲れてない?大丈夫かしら?」

『はい。昨日たくさん寝ましたので』

「寝過ぎも注意よ?今日の撮影内容は覚えているわね」

『クライマックスの前、でしたよね?』

「そう。そして明日にクライマックスよ。一発オッケーだといいわね」


水を飲みながら台本をチェックしていると撮影所についた。今日は公園での撮影。思いっきり遊ぼうと思います。



次々に撮っていく。一発オッケーであったり、たまに何回か撮り直しをしたり…。それを繰り返してようやく今日も終わった。ミーティングも明日のことですぐに解散となった。


「明日は自分で起きなさいよ?」

『わ、わかってます!』


何回も念押しされてマネージャーさんは隣の部屋に入って行った。それを見届けてから私も自分の泊まっている部屋に入り昨日同様すぐに寝た。











「おつかれー!」

「この作品は大きいぞ!」

『ありがとうございます!お疲れさまです』


スタッフさんたちに頭を下げてから急いでスタジオを出た。向かう先は雷門中。三日間もみなさんに会っていないのでなんだか寂しい。

車をとばしてもらい夕方について、それから食堂まで走った。


「真雪せんぱあぁぁぁぁぃいい!!」

『わっ、春奈ちゃん…?』

「もー、寂しかったです!充電させてくださいねー!」


食堂に入ったとたん夕食を作っていた秋さんたちは、私に気付くと手を止めてこっちまで来てくれた。春奈ちゃんは開けた瞬間飛び込んできたんだけど何で私が入ってくるって知ってたんだろ?


「音無さん!夕食の準備しないとみんな来ちゃうわよ!」

「はっ!そうでした!」

『私も、やりますね』


献立を見て何を作るか把握してから秋さんたちを手伝った。三日間の仕事を取り戻さないといけませんね。

夕食の時間になって秋さんと冬花さんがみなさんを呼びに行っている間、私と春奈ちゃんで食器の準備をしていた。

  
『こんなものでしょうか?』

「いい感じです!……あれ?真雪先輩、何かいい匂いする…」

『匂い?何でしょうか?』

「んー、真雪先輩いい匂い…」

『ははは、春奈ちゃん!?』


このとき春奈ちゃんに変なスイッチが入った。

近付いてきた春奈ちゃんがいつも通り抱きついてきた。のはいいのだけどそのまま床に倒れ込んだ。下になっている私は春奈ちゃんが退いてくれないと動けないから待っているとなんと、もっと密着してきた。


『ど、どうしたんですか?』

「可愛いすぎる!」

『ひぅ…、は、るな、ちゃん…』


首元に春奈ちゃんの顔がうまったと思ったら柔らかい感触がした。これは、まさかの、ちゅ、ちゅー!?これ、私、危険な状況ですか!?
退けようと押してみるが動く気配がない。


「真雪先輩、可愛い可愛い可愛い!」

『春奈ちゃん、ど、どいてください…』


何を言っても聞いてくれない春奈ちゃんにどうしようもなく目からぽろぽろと涙が出てきた。


『ううっ、ひっく、』

「真雪先輩の泣き顔…!」


止まらない涙を拭いていたらドアが開いた。


「「「!!?」」」

『!た、すけて、ください…』


ドアを開けたまま固まっていたみなさんに手を伸ばして助けを求める。


「は、春奈ぁぁぁああ!!」

「音無さん!気を確かに!」


まず鬼道さんと秋さんと冬花さんが春奈ちゃんを退かして守くんといっくんを先頭にした他のみなさんが私の側に来てくれた。


『ふ、ぇ、ひっく』

「大丈夫か!?何があった?」


いっくんの質問に答えれずにふるふる首を左右に振っていると春奈ちゃんがおずおずこっちに来た。


「真雪先輩!ごめんなさい!」

『はる、な、ちゃん…?』

「真雪先輩見てるとこう、ムラムラっとしてきて、それに真雪先輩可愛かったから」

「「「(ムラムラって…)」」」


理由があまり分からないけど、元の春奈ちゃんに戻ってくれて嬉しかった。


『春奈ちゃん、元に戻ってくれてすごく嬉しいです』


みなさんに迷惑かけてしまって本当に申し訳ありません。
涙を拭いていると吹雪さんがタオルを渡してくれた。


「あんまり泣くと目が腫れるよ?」

『あ、ありがとうございます』

「真雪ちゃんは笑顔の方が可愛いから」

『か、かわ、かわい…!?』

「ほんと、からかいがいがあるなぁ」

「吹雪、あんまり苛めるな」


豪炎寺さんが吹雪さんに言うと、ごめんねと微笑みながら言われた。吹雪さんのこの笑顔には何人の女の子が心を打ち抜かれたのかな。現に私もドキッとしてタオルに顔をうめた。