泣き虫少女とカタール戦
カタール代表デザートライオン。それが今日は試合する相手。空は晴天で試合前だというのに、みなさんの体温が少しずつ上がっていっている。
「虎丸くーん!」
「あ!乃々美姉ちゃん!」
手を振ってクーラーボックスを持って近付いてきたのは乃々美さん。でも宇都宮くんは恥ずかしいみたいで。
「今日は大事な試合なんでしょ?はい、みんなの分。お弁当作ってきたのよ!」
お弁当箱をパカッと開いて私たちの目にうつったのは、美味しそうに輝いているお弁当。
「これ食べて今日の試合必ず勝ってねみんな!」
「「「はい!」」」
「えーっと…、いた!真雪ちゃーん!」
『は、はい!』
お弁当を渡した乃々美は帰ろうとする前に、何か思い出したらしく真雪の元へ走って抱きしめた。抱きしめられた真雪はあたふたしている。
「もぉ、かっわいいー!柔らかいし…、お持ち帰りしてもいいかな?」
『え、あの、その…』
「だ、ダメです!真雪先輩は私の…、ごほん、イナズマジャパンのメンバーなんですから!」
言い直した春奈にみんながうなずいて乃々美はしぶしぶ離れた。いつでも会いに来てね、と残して。
力の抜けた真雪に円堂が近付いて抱き上げた。
『ままままま、守くん!?』
「立てないだろ?遠慮すんなって!」
『いや、遠慮じゃなくてですね…。きゃぁぁぁあ!』
そのまま走ってキャラバンに乗り込んだ。あんな風に接することが出来る円堂にみんなが羨ましがっていた。
円堂の横に座って久遠監督からもらった資料を読んでいた真雪を円堂はのぞき込むようにしてそれを見たけど文字ばかりで頭痛がした。
「何見てるんだ?」
『久遠監督にもらった、海外のサッカー選手の情報です』
「すっげー!どんな事が書かれてるんだ?」
『そのチームの特徴とか使う必殺技とかですかね、何しろ情報を得るのは難しいですから』
ぺらっと次の資料に目を通す真雪を見て、円堂は太陽みたいな笑顔で頭をなでた。
急になでられた真雪は不思議に思って円堂の言葉を待った。けど、何も言われずただ笑顔が眩しかった。
「あれ?今日は帽子とサングラスしてるのね」
『あ、はい、暑いしそれに学習しました』
暑いには納得できるが学習とは何のことを言ってるのかわからないマネージャー組。オーストラリア戦で会場前で人に苦戦してしまって入れずに、なんとか裏口を通って入ることはできた。
前半で二点入れてイナズマジャパンがリードしている。
「後半もこの調子でいこうぜ!」
前半であまり動かなかった守くん以外は、みなさんたくさん汗をかいていて息もあがっていた。
体温も上がっていて、日射病になりかけている。十分な水分と氷を用意してもらうように木野さんに頼んで後半が始まった。
攻撃的布陣に変えたデザートライオンにおされていく。
ついに緑川さんが倒れてしまい栗松くんと交代した。
『木野さん、さっき言ったようにお願いします』
「わかったわ!」
十分に水分をとって周りを涼しくしてもらい緑川さんを木野さんに任せた。この調子で試合を続けていれば必ず、他にも体力がもたない人が出てくると思うのでみなさんの体温を観察する。
相手の強烈なタックルを受けた基山さん。それにボールが綱海さんと守くんごとゴールにたたき込んだ。
『基山さん、綱海さん、この二人も交代した方がいいです』
久遠監督が選手交代と言って立向居くん、飛鷹さんが交代した。
シュートを打とうと吹雪さんが上がった。
『だ、だめです!体温が異常に上がっています!』
ウルフレジェンドを打った吹雪さんはフィールドに倒れた。
『目金さん、吹雪さんをベンチに寝かせて体温を下げるようにしてください』
「わかりました!」
吹雪さんの代わりに宇都宮くんが入った。そしてボールをインターセプトしてあがってシュートをしようとしたけど、バックパスをして相手にとられたけど立向居くんがなんとか止めることが出来た。
その後も宇都宮くんはシュートを打とうとする時だけ、何かトラウマがあるみたいでほんの一瞬だけ足の動きが変わる。
『久遠監督。宇都宮くんは過去に何があったんですか?』
「自分を抑えることによってチームでプレーする。本気のプレーに答えてくれるチームが必要だ。わかるな」
『…そういう事ですか』
2対1でロスタイムに入った。このまま逃げ切ることができたら勝ちだけどそう甘くはない。不意をつかれて同点においつかれた。
宇都宮くんがどう動くか、それによってこの試合は決まる。
『このまま延長戦に入れば勝ち目はないですね』
「そんな…」
『延長戦に入れば、ですよ?』
「え?」
『この試合の流れは変わりますよ、見てください』
私の視線を木野さんたちがたどる。丁度豪炎寺さんが宇都宮くんにボールをぶつけたところだった。
そして豪炎寺さん、それに鬼道さん守くんの言葉で宇都宮くんの表情が変わった。
デザートライオンのスローイングで始まって、飛鷹さんの活躍でボールを奪うことができ、宇都宮くんに渡る。
「激しいチャージをかわす体のしなやかさ、崩されても倒れないボディーバランス、特訓して身に付くものではない。あれが虎丸の個性だ」
「あいつの実力を見抜いていてこのタイミングで…」
「そうか。彼を存分に動かすためには敵を消耗させておく必要があった」
『それができるのはみなさんが特訓で鍛えた体力があったからでこそ、ですよね、久遠監督』
「そうだ。選手には活躍する場面がある。チームには勝つべき状態がある。選手たちの能力を結集し出し切らない限り勝ち続けることは不可能。…力を出し惜しんでいける世界はない!」
宇都宮くんが試合の流れを変えた。試合終了ギリギリで宇都宮くんの必殺技でゴールを決めた。
この試合に勝ったことによって決勝への駒を進めることが出来た。
「でも、何でこんな凄い奴がFFに出てこなかったんスかね」
「出られないんですよ」
「何で?」
「だって俺…、まだ小6ですから」
「「「しょ、小6ー!?」」」
『あれ?みなさん知らなかったんですか?』
「知らなかったですよ!教えてくれなかった罰です、真雪先輩!」
そう言って罰に怯えていると音無さんが抱きついてきた。びっくりしているとこれが罰と言われたので、私もおそるおそる音無さんの背中に腕を回すと、ビクッと動いてから苦しいぐらいに締め付けられた。
『く、苦しいです、音無さん…』
「もぉ!春奈って呼んでくださいよ!」
『春奈、さん…ですか?』
「ちがいます!」
『じゃ、あ…。春奈ちゃん』
ちゃん付けなんて滅多に言わないので照れているとベンチを叩く音無…、春奈ちゃんがいた。
「何なんですか真雪先輩!(私を殺す気!?)」
『え、その…。ごめんなさいぃぃ』
「違うわよ、真雪ちゃん」
『木野さん…。違うって、どういう事ですか』
「音無さんは嬉しいのよ」
『そ、うなんですか…?』
「そうよ!だから気にしないで!それと、私のことも…あ、秋って言ってくれたら…」
今度は木野さんが照れて私の様子うかがっている。木野さんのお願いなら私は聞きます。
『秋さん、でいいですか?』
「も、もちろんよ!」
嬉しそうに笑ってくれる秋さんを見ると私まで嬉しくなった。
春奈ちゃんはまだベンチさんを叩いてましたけど。