泣き虫少女と風丸

『お、おはようございます?』

「あ、真雪先輩おはようございます!」

「おはようございます!」


食堂に入って目に映った光景は、春奈ちゃんと目金さんがテレビの前に座って何かしていた。


『あの、何してるんですか?』

「ふっふっふっ、よく聞いてくれました!」

「昨日の夜に撮ったの!」

『?何をですか?』

「見ててくださいねー」


目金さんがリモコンを持ってテレビをつけ、ビデオの再生ボタンを押した。
そして、それはコマーシャルが少し流れてから始まった。


『い…、やあぁぁぁぁああ!!』


朝だというのに思いっきり叫んで部屋の隅へ移動した。

春奈たちがかけた番組は真雪の最新のドラマ。


「きゃー!真雪先輩サイコー!」

「素敵です!」


いつの間にかハッピを着て頭には真雪LOVEと書かれているハチマキを巻いている。

真雪の叫び声で驚いたのか、聞きつけた数人が食堂に入ってきた。


「どうした!」

「また春奈か!?」

「またって何よお兄ちゃん!」


春奈と目金の格好にみんなが呆気にとられている間、二人の視線はまたテレビの画面に戻った。
そして何故か立向居も春奈たちの横に座る。


「で、真雪はどこだ?」

「真雪さんならそこです」


目金が画面から目を離さずに指で居てる場所を指す。そこには、部屋の隅の角で三角座りをして顔を腕で隠していた。

風丸が近付いて真雪の視線に合わせてかがむ。それから頭をぽんぽんした。


『いっくん…』

「その、まだなれないのか?」

『……は、い』

「自信持てばいいと思うけどな。まあ、ゆっくりなれればいいよ」

『ありがとうございます、いっくん』


風丸の優しさに甘えて頭をなでている手をとって、それを真雪自身の頬に当ててすり寄せた。
突然のことで風丸の頬は真っ赤だ。


「え、あの、真雪、さん…?」

『いっくんの手、暖かいから大好きです』


されるがままだった風丸は横から延びてきた手によって真雪から離された。


「吹雪…」

「風丸くん抜け駆けはだめだよ?」

「そんな事してないぞ?」


にっこり笑った吹雪の顔はどこか黒さを秘めていて、周りの人は背筋が凍った。風丸も負けないぐらいに黒く微笑む。

でも空気を読めない人はいるようで、


「真雪おはよう!昨日買ったケーキ食べよーぜ!」

『おはようございます、守くん。ケーキ、ですか!?食べます食べます!』

「どれにすっかなー。真雪も選べよ!」

『は、はい!』


すぐに立ち上がって円堂が座っている横に真雪も座る。
一番の厄介者は円堂なのかもしれない、とみんなの心が一つになった。



それから朝食の時間に新必殺技の話になった。次で決勝だから今までのようには勝てないかもしれない。

吹雪と土方、綱海と壁山で新しい必殺技。
風丸は選考試合の時に、綱海をドリブルでぬいた時の風をもっと磨けば大きな戦力になる。てことで練習はこの五人以外は普通となった。


「で、何で真雪はここにいるんだ?」

『ひっ、ごめんなさいぃ。いっくんの役に立てたらって思いまして…、ごめんなさい』

「え、あ!嫌なわけじゃないから泣くなよ?来てくれて嬉しいから!」

『ほ、ほんとですか…?』

「ああ!」

『よかった…』


目に薄く涙を浮かべて微笑んだ真雪に、風丸は近くの木をいつかの春奈のようにバシバシ叩いていた。
そんな風丸を見てギョッとし慌ててその手をつかんだ。


『だ、だめですよ!そんなに強く叩いちゃ血が出ちゃいます!』

「真雪…(なんて優しい子なんだ)」


風丸がジーンと感動している中真雪は必死に手当をしていた。


仕切り直して、新しい必殺技と言ってもイメージが浮かばなければ考えるのは難しい。
後ろを振り向くと葉っぱが風で竜巻のように舞っていた。


「これだ!」

『舞っていますね。いいと思います!』

「イメージは出来たけど問題はどうやるか、だな」


顎に手を当てて考える風丸の横で真雪も考える。
あ、と声を漏らすと風丸は問いかけた。


『えと、葉っぱを何か物に置き換えてやってみてはどうですか?例えば、ビニール袋に砂を入れてみて、いっくんが風のように舞う、とか…』

「それはいい考えだな!」

『お役に立てて嬉しいです』


日が暮れてきたので明日またここに来ることにして合宿所に戻った。