泣き虫少女と緑川とヒロト
夜になってジャージに着替えて寝ようと窓を開けると、グラウンドで緑川さんと基山さんがサッカーをしていた。
こんな遅くまでご苦労様です。
おやすみなさい。
なんて、気になって出来ないので二人の元へ向かうことにした。
私が着いたときは緑川さんが息切れをしていて膝に手をついていた。
「いいよもう!どうせ俺なんてこれ以上やったって…!」
『っな、なんですか、それ…』
「真雪!?……だって…、そもそもエイリア学園のセカンドランクチームにいた俺なんかが選ばれたのが間違いだったんだ」
『どうしてそんな事言うんですか!選ばれたのは間違いなんかじゃないです。それなのに無理して、自分で限界を決めて…、苦しんでますよ!』
「っ、サッカーをやってない真雪には関係ないよ!」
「緑川、それは…」
『確かに、関係ないですよ!…でも、緑川さんの気持ちはわかります』
いつもは何も言わない真雪がハッキリと告げた。それには二人ともびっくりした。ムキになった緑川に負けじと言い返して目そらして伏せた。
『サッカーはやったことないです。でも、楽しまずに苦しんでむりをしている。上手くいかないのも当然です』
「真雪…」
「真雪ちゃんの言うとおりだ。エイリア学園がなくなってから心からサッカーを楽しんでいた。無心でボールを追いかけて何度転んでも立ち上がって…。だからイプシロンやジェネシスだった奴らとも互角に戦えるようになったんだろ」
『緑川さんは選ばれてここにいるんですよ』
「大丈夫さ、緑川なら。少しは信じろよ、自分のサッカーをさ」
「……うん」
「よし、じゃあもう一度だ!」
「ああ!」
二人の邪魔にならないようにそっとぬけて帰ろうとすれば緑川さんに止められた。
ま、まさか…、怒られる…!?
『ご、ごめんなさい!』
「え!?」
「…緑川、真雪ちゃんを泣かせたな」
「違う違うちがーう!」
『…?』
何が違うのかわからないので緑川さんの様子をうかがうと笑顔で頭をなでてくれた。
「その、ごめん」
『え、え?何で私、謝られて、ぅえ?』
「キツい事言ったし…」
『私こそ、あんなに失礼なこと…、ごめんなさいぃぃ』
「緑川…」
「俺のせい!?」
今度は基山さんが頭をなでてくれた。顔を上げるとニコッと微笑んで言った。
「緑川の事は気にしなくていいよ。真雪ちゃんの言った事はあっているよ」
『…私、あんな事言ったけど緑川さんのような時があったんです』
「そうだったの?」
『なんだか、昔の私を見てるみたいで言いたくなっちゃったんです』
女優になりたての頃、周りのプレッシャーに負けてもっと早く上手にならないといけない。その気持ちが演技に出てマネージャーさんにどれだけ怒られたことか。
「真雪ちゃんの言葉は緑川に伝わったよ」
「ああ、ありがとう!」
『へ?あ、ぅ…』
真っ赤になって顔を伏せる真雪を見て何この子可愛い、と二人は心の中で思った。
昨日の事があってから緑川さんの調子がよくなったらしい。
そして私はいっくんの新必殺技の特訓を見ていた。ビニール袋を地面に置いていっくんがその周りを走る。
「まだ回転力が足りないか…」
『少し必殺技に入る前の踏み込みが足りてないですね、右足で踏み込んで、んーっと…、走る感じではなくて飛ぶようにしてみてはどうですか?』
「飛ぶように…」
余計なお世話かな、と思っていたけどいっくんは私が言ったとおりにやっているからよかったかな。
いっくんの特訓を繰り返していくうちに、必殺技が出来かかってきたと思う。
でも今日は個人で練習ではなくて実践形式の練習なのでみなさんがグラウンドに集合している。
「んもぅ!ほんま可愛いわ!」
「リカばっかりずるいぞ!」
「塔子はあとでなー」
何故かこの二人もいるけど。
浦部さん曰く、大阪から決勝戦を観に来るのはめんどくさいから財前さんの家に泊めてもらっている、とのこと。
「それでは、チーム分けを発表する」
その瞬間サッカーボールがどこからか飛んできた。それを守くんはキャッチする。
飛んできた方向を見ると、ユニフォームを着た数名。ボールを蹴った人は守くんの知り合いらしい。そしてその人のチーム、ネオジャパンとイナズマジャパンが勝負をして勝った方が日本代表となる。
その勝負を久遠監督は受けた。
最初はイナズマジャパンが攻めていたけど相手のディフェンスを突破できなくなった。
『久遠監督、このディフェンスを破るには…』
「…風丸」
「?はい」
久遠監督がいっくんに耳打ちをすればいっくんはどこかへ行ってしまった。
いっくんが戻ってきた頃には一点入れられた。そして宇都宮くんといっくんが交代した。
いっくんが新しい必殺技、風神の舞でディフェンスを突破したことによってボールが繋がり一点を取り返した。
前半が終わって後半に突入する。
やっぱりいっくんを危険と見なしたのかマークがつく。
でも緑川さんも新しい必殺技で相手をぬく。勢いはとまらなく豪炎寺さんが爆熱ストームをうって一点手に入る、と思えば相手の技で止められてしまった。
それから吹雪さんも基山さんも緑川さんも止められてしまう。
攻められて守くんが必死に死守する、すると守くんの必殺技が進化した。それでも点が取れなかったら意味がないので。
『攻撃型に変えませんか?…そっちの方が彼の力も発揮できるかと…』
「…よし、選手交代だ!緑川に変わって飛鷹。木暮に変わって立向居。……円堂!」
守くんが攻撃に加わり立向居くんがキーパーに入る。
相手はそれを見抜いていたのか全員で攻撃にはいった。守りが弱くなったこのチームでは止めることは難しい、けど…。
「くっそぉ!」
ボールを止めようとした飛鷹さんだけど、足が届かなくて悔しさで足を振り上げると空間に歪みが起こり、そのボールは立向居くんの腕にすっぽりはまった。
何が起こったのか本人も受け止めた立向居くんも把握できていないようだ。
守くんにボールが渡りあがっていく。全員で攻撃していた相手は追いつくことが出来ず、守くんと豪炎寺さんと鬼道さんの三人の必殺技でネットを揺らした。
2対1で私たち、イナズマジャパンが勝った。
日本代表をとられなくてよかったです。