泣き虫少女の初デート

決勝まであと数日。
乃々美さんがお弁当を持ってきてくれて、冬花さんと一緒にみなさんに配っていると守くんのところに持って行った冬花さんは、守くんがいつも通りじゃない事に気づいて心配そうに見ていた。

そういやさっき久遠監督に何か言われていたみたいだしその事かな。


今日は練習はもう終わりなので午後からは何をしようかな。冬花さん誘って前みたいにショッピングもいいかもしれない。
誘ってみようと冬花さんの方に顔を向けると、浦部さんとどこかに行ってしまった。秋さんと春奈ちゃんは買い出しに行っているし一人とか寂しいな…。


『はぁ…』

「おい、邪魔だ」


食堂のキッチンの前に立っていたら水を飲みに来た不動さんに言われた。


『わ!ご、ごめんなさい』

「どけりゃいいんだよ、どけりゃ」


そう言うと水を飲んでから食堂を出ようとした不動さん。とっさに腕を掴んでしまった。わわわ、どーしよ…。


『あ、の、その』

「あ?」

『ご、午後の予定ってありますか!?』

「何だよ急に」


別にないけど、と言った不動に真雪は顔をぐっと近付けて嬉しそうに言った。


『お、お出かけしませんか!?』

「はぁ?何でお前と」

『…わ、私とじゃ、嫌ですよね、ごめんなさいぃ』

「だから泣くなよ!めんどくせえな」


別に嫌とは言ってないのに泣き出した真雪を見て不動は深いため息をついた。
断られた真雪は顔を伏せたまま食堂を出ようとしたけど、今度は不動が真雪の腕を掴んだ。


『?な、何ですか…』

「どこ行くんだ」

『え…』

「行かねえのか」

『い、行きます!着替えてくるので待っててください!』


さっきまで泣いてたのは誰だよ、と思いながら不動も部屋に戻りジャージに着替えた。
待っててと言われたので食堂で座って待っていると少ししてから息を切らした真雪が入ってきた。


『お、くれて、ごめ、なさい…』

「…っ」


さすがは女優。服のセンスはずば抜けている。自分にどんな服があっているかわかっている。
そんな真雪を見て不動でさえ言葉を失った。


『あの、不動さん?』

「っ、どこ行くんだよ」

『え、と…。稲妻町を回ってみませんか?不動さん、最近こっちに来たみたいですし…』

「まあ、どこでもいいけど」


手に持っていたキャスケットと度なし眼鏡をかけた。
準備ができた真雪を見て不動は足を進めた。その後ろを追うように真雪も足を進めた。
道がわからないのか、はたまた真雪の歩幅に合わせているのか、普通よりも歩くのは遅い不動に真雪は内心微笑んだ。


『不動さん、どこか行きたいところ、ありますか?』

「別に」

『うっ、じゃ、じゃあ、私の行きたいとこ行っちゃいますよ…?』

「へいへい」


腕を頭の後ろに組んで真雪の後ろについて行く。真雪は自分の行きたいところに行くことが出来て嬉しそうだった。

のは、いいけど…


「おい」

『ごめんなさいいぃぃぃ』


頭を勢いよく下げたせいでテーブルに思いっきりぶつけた。コンって音じゃなくてガツって音がした。


『不動さん、甘い物嫌いなんですね…、ごめんなさい』

「嫌いじゃねえけど好きじゃねえ」


真雪が行きたかったのは喫茶店。それもアイスクリーム専用の店。


『甘い物、食べたかったので…。でも不動さん、嫌いじゃないんですね!』

「好きでもないけどな」


そんな不動の言葉は耳に入っていないのか少し気分が良くなった。
真雪は苺がたくさん乗っているアイスパフェと紅茶を頼んで不動はコーヒーしか頼まなかった。


『…何も、食べないんですか?』

「これだけで十分だろ」

『そうですか…』


パクッとアイスを一口食べると真雪の目は輝いた。それはもうキラッキラに。


『あ、不動さん、これすっごく美味しいですよ!』

「それはよかったな。…んぐっ!?」

『どうですか?美味しいですよね!』


適当に返事をした不動の口めがけて真雪はアイスが乗ったスプーンを突っ込んだ。
変なところにはいって咽せそうになったけどなんとか飲み込んだ不動は文句を言ってやろうと口を開くが、真雪の幸せそうな顔を見て何も言えなくなってしまった。


「……まずくはねえな」

『えへへ、不動さんが美味しいなら嬉しいです』


いや、美味いとは言ってないけど。

ふと視線を感じて窓の外を見るけどだれもいなくて気のせいかと思った。


気のせいではなかったけど。
今にも乗り込んできそうな風丸と春奈が暴れていたとか。
それはまた別の話。