泣き虫少女と円堂
合宿所に戻って不動さんにお礼を言ってから食堂に行くと、浦部さんと春奈ちゃんに捕まった。
『な、何ですか…?』
「真雪とは今度ゆぅっくりガールズトークしよか!」
「私もつきあいますよ!」
『え、あ、はい』
何のことかわからないけどガールズトークって事は、浦部さんか春奈ちゃんは気になる人でもできたのでしょうか。
頭の上に?を浮かべていたら秋さんに呼ばれたので夕食のお手伝いをしたのが数日前。
守くんにお祖父さんから手紙が届いたのが二日前。
そして今日は決勝戦の相手が韓国と決まってさっそく必殺技の練習をしようとしなみなさんに久遠監督が止めた。またですか…。
グラウンドはいつの間にか改造されていて泥のフィールドとなっていた。入るのにためらっていたみなさんだけど、豪炎寺さんが一人でボールを持って入りその後に守くんが続いた。
それでもみなさんはまだ入ろうとしないので、
『ご、ごめんなさいぃぃ!』
「「「!?」」」
怒られてもいいので端から順番に背中を思いっきり押した。いや、突き落とした。だって、久遠監督が意味もなくこんな事するはずないじゃないですか。
左端から押していったので右端の人たちは押される前に自分で入った。
「真雪!?」
『ごめんなさい、いっくん…』
「急にどうした?」
『その、久遠監督も意味なくこんな事しないと思います。だから、やってみるべきですよ?』
顎に手を当てて何か考えているいっくんはすぐに真剣な顔になって言った。
「鬼道…」
「ああ、俺たちも行くぞ!」
最初は泥のフィールドでやることを躊躇っていたけど、今では汚れることなんて気にせずに普通にサッカーをしていた。
次の日になってより一層上手になった。
汚れを最小限にするために地面にボールを落とさないようにパスをつなでいく。途中でこけたりしている人も何人かいた。
それにしても今日の守くんと豪炎寺さんは一段と気合が入ってますね。
練習が終わって明日のための休息をとる。みなさんが合宿所に戻って行く中、守くんは一人でどこかへ行ってしまった。
ついて行こうかと考えたけど今から行っても追いつけないし帰ってくるのを地道に待つことにした。
何分かした後に守くんは帰ってきた。門まで走って行くと思いつめた顔をしていて。
『守くん』
「真雪…」
『何かあったんですか?』
「…何もないぜ!」
ニカッと笑った守くんは他の人なら騙せたと思う。他の人なら。
でも私にはその笑顔の裏にある悲しみがあるのはわかった。
『守くんは強いですよ』
「え?」
『でも、その強さが守くんを押し潰すこともあるんですよ?たまには私を頼ってください』
「真雪…。豪炎寺がさ、サッカー辞めないとダメなんだ」
豪炎寺さんのお父さんにサッカーを辞めてドイツへ行く。けどアジア予選の決勝まで待ってもらってそれから辞める、そう約束した。
ずっと待ってもらっていた豪炎寺さんには断ることはできなくて。
「俺、どうしたらいいのかわからなくて」
『…豪炎寺さんの過去は知っていました』
「知ってたのか!?」
『私の情報網なめないでくださいよ?でも家庭の事情とかは知りませんでしたから』
「そうなのか?」
『はい。…豪炎寺さんにとって最後のサッカーになるんですよね?』
「ああ、でも俺はみんなで世界に行きたい!」
『だったら豪炎寺さんのプレーをお父さんに見せつけてやりましょう!サッカーってこんなに素晴らしいってこと、豪炎寺さんがこのチームには必要だってことを!』
「豪炎寺がチームに必要…、そうだな!」
ありがとう!と言って宿舎に戻った。それを確認してから隠れていた彼に話しかけた。
『守くんはあなたとサッカーをしたいみたいですよ』
「…やはり気付いていたのか」
ジャージ姿の彼は汚れまみれだった。
こんな姿になるまで練習をしていたんですね。
『豪炎寺さんはサッカーを辞めるんですか?』
「、ああ。それが父さんとの約束だからな」
『…約束……』
「え?」
『あ、ごめんなさい。でも、豪炎寺さんがそんな気持ちでサッカーをするならそれは試合にも影響しますよ』
「…どう言われても俺に選択権はないんだ」
そう言うと早足で行ってしまった。
豪炎寺さんのその気持ちが試合に影響しなければいいのですが…
韓国戦当日、冬花さんと久遠監督は先にスタジアムへ行っていると連絡があり、私たちはそこへ向かっているところ。
昨日から豪炎寺さんとは一言も話していない。(普段もみなさんとそんなに話さないけど)目が合ってもバッと逸らされてしまう。
キャラバンでそんな事を考えていたら急ブレーキがかかった。
『ぅべ!』
「っ、大丈夫か?」
『はいぃ…』
シートベルトしといてよかった。それと鬼道さんありがとうございます。
秋ちゃんが古株さんに何があったか聞くと前を指さした。そこにいたのは、
「あいつらは…!」
『ひっ!』
いつかの不良たちでした。
守くんと飛鷹さんと綱海さんがキャラバンを降りて不良たちのところへ行った。みなさんの様子を見るとこのままじゃ間に合わないって感じの中、不動さんだけどこか面白がって様子を見ていました。さすがですね。
それより、私以外みなさん全然怯えてないじゃないですか。さっきから震えが止まりませんのに。
「真雪?どうした?」
『わ、私、ああいう人たち、苦手なんです…』
「大丈夫だ」
ゴーグルの中から見える鬼道さんの目は優しくて安心できた。頭の上に置かれている手は吹雪さんのでこちらも鬼道さん同様で落ち着く。
『ありがとう、ございます…』
さっきまでの震えはどこかへいってしまった。
そして飛鷹さんの子分?が相手をしてくれている間私たちはスタジアムへ急いだ。