泣き虫少女と外出禁止令
不動さんに言われたことが思ったより自分の中で大きかった。思い出しては顔が赤くなる。
今日も練習でグラウンドに向かう途中に守くんを見つけた。
『守くん、おはようございます』
「お!おはよう!」
『どうしたんですか?』
「あー、壁山がな部屋から出てこないらしくて」
『壁山くんが?でも守くんなら大丈夫ですよ』
「そうか?真雪に言われるならきっとそうだな!」
壁山くんの部屋に向かった守くんの背中を見ながら思った。守くんには不思議な力があるから。
私もみなさんをサポートするためにマネージャーさんたちの横で全体を観察するのが私の役目。
守くんが壁山くんを連れて戻ってきた。やっぱりすごいや、守くんは。
それから壁山くんはみなさんより頑張っていた。サッカーが大好きだから。
今日もみなさん久遠監督の厳しい指導を受けていた。
壁山くんは無理をしてるように見えない。でも緑川さんは無理をしてるようで身体への負担が少しかかっている。これは監督も理解してることだけど。
「真雪先輩のジャージ姿…!」
横からすごい勢いで写真をとってくる音無さんは気のせいだと信じたい。
夕方、練習が終わってすぐに監督は組み合わせ抽選会へ行った。その様子を私たちは食堂で見ていた。
くじを引いていく中全てが埋まった。イナズマジャパンは1−Aで相手はオーストラリア代表ビッグウェイブス。相手が優勝候補だけど、それがかえってみんなのやる気を出させた。
けど、そのやる気は久遠監督の発言でなくなった。
「オーストラリア戦までの二日間合宿所から出ることも許さない」
もっと言葉を選べばいいと思います。
資料で調べたけど手強そうな相手だった。必殺タクティクスってのが重要らしくて。
みなさんの批判を無視して、命令には従えと言う監督だけどオブラートに言ってほしいな。
個室に戻ったみなさんの監視役の久遠監督は玄関前で椅子を用意して読書を始めた。
守くんの事だから絶対に外に出ようとすると思う。
『あの、私も部屋に戻っていいですか?』
「すきにしろ」
頭を下げて階段を上ると下りてくる守くんたちと目が合った。
「真雪、監督には黙っといてくれ」
「頼む」
『え、でも…』
私の言葉も聞かずにそのまま下りて行く守くんたち(何故かわからないけど基山さんと緑川さんにすっごくいい笑顔で手をふられた)。だけど久遠監督がいたことに驚いていた。
二階へ行きみなさんが不満を抱く中、聞こえてきたのは不動さんの声。
「たった二日、練習ができねえくらいで自信をなくしちまうんなら代表を辞退するんだな」
そう言って部屋に戻った。
不動さんの体温がかすかにあがっていたので、部屋の中で運動していたにちがいない。
お昼になって昼食をすませてから、目金さんが見つけたというオーストラリア代表の情報が入っているDVDを見る。
カウントダウンが始まり選手の姿が映される。
試合が始まりキックオフした瞬間、画面が砂嵐になって映ったのは海で遊んでいるシーン。
国と国との戦いのため情報を手に入れるのは難しいけど、目金さんは自信満々に言った。
「プレーはむりでも海で遊ぶシーンを手に入れてきました!」
「見る意味ねえじゃん」
「それって役立たず?」
さすが親子。オブラートに言わないとか冬花さんが怖く思えた。不動さんは相変わらずですけど。
「映像ではないけど私たちが見つけた情報もあるの」
「ビッグウェイブスは海の男たちらしいんです」
「海?」
「海で心と体を鍛えぬいたチーム。特に守備が高く相手の攻撃を完全に封じてしまう、未知の戦術があるそうです」
それを聞くと守くんはじっとしていられなくなって食堂を出たけど久遠監督に捕まった。おつかれさまです。
部屋にみなさんが戻ったのを確認して、スポーツドリンクを二つ持って飛鷹さんと不動さんの部屋に向かう。きっと今練習してるのは彼らだけだと思う。
飛鷹さんの部屋をノックをするとすぐに出てきてくれた。汗をかいていてやはり練習していたみたい。
『こ、これ…』
「…すいません」
私が来たことに驚いたのか、お礼を言ったけど動かない彼に首を傾げながらも、手を顔の前に持っていき左右にぶんぶんふると正気に戻り、頭を下げて部屋に戻った。
大丈夫、かな。
不動さんの部屋に行きノックをしようと思ったけど、中からボールを蹴る音が聞こえてきたので邪魔になるだろうと思い、一度食堂に戻ることにした。
「きゃぁぁぁあ!!白露真雪やん!!」
「うわ!本物だ!」
『ひっ!…えっと、どちら様ですか?』
しゃべった!いやいや私は人間ですからしゃべりますよ?
「ウチはリカ!浦部リカや!」
「あたしは財前塔子!」
『白露真雪です。その、よろしくお願いします』
財前さんは総理大臣の娘で、浦部さんもキャラバンで守くんたちとサッカーをした仲間。女の子なのにすごい…。
「テレビと性格違うんやなー」
『な、なんか、ごめんなさい』
「何で謝るねん!ウチはこっちの方が妹みたいでかわええと思うで?」
「あたしも!」
『わあ…、ありがとうございます!』
不動さんに言われたときとは違う嬉しさが込みあがってきた。
その後二人は用があるらしく帰った。先程から皆さんの部屋からボールを蹴る音が聞こえてきたので、人数分のドリンクを作り、タオルと一緒に何回かに分けて運ぼうと考え、まず私は最初に行こうとしていた不動さんの部屋に再び戻った。
ノックしても返事がなくて、少しドアを開けるとベットで寝ていた。壁にはボールで汚れた跡があった。
寝ている部屋に勝手に入るのは悪いと思ったけど、せめてスポーツドリンクだけでも置いておこうと彼が寝てる横にそれを置いた。
『汗、かいたまま…。このままだと風邪をひいてしまうかもしれません。あ、でも肩治ってます…』
体温が急激に下がったり上がったりすると熱を出しやすいので、タオルで拭いてから寝てほしかった。持ってきたタオルをスポーツドリンク同様に横に置き部屋から出ようとすれば、ボールを蹴る音や何かが壊れる音が聞こえてきてびっくりした。
この音に起きるかと思い不動さんを見てみるけど、目は閉じたままだった。
『よかった…』
「何が」
『ひぅぅぅう!!』
聞こえてきた声のせいで情けない声が出てしまった。不動さんは片目だけ開けて私を見ていた。
『勝手に入ってごめんなさい!』
「俺と話すとき最初に謝るよな、お前」
よっ、と不動さんは起き上がりタオルで顔拭いた。それからスポーツドリンクも飲んで改めて私の方を見た。
「これでいいのかよ」
『え?』
「さっき言ってただろうが」
『あ、生意気言ってごめんなさい』
不動さんは私が来てから起きていたらしく、めんどくさいから寝たふりをしていたみたい。め、めんどくさいって…。でも聞こえてきたうるさい音で寝れなくなって起きることにしたとのこと。
「何で来たんだよ」
『それは、水分補給できてるか、心配で』
「よけいな心配はするんじゃねえよ」
『よ、よけいじゃないですよ!体こわしちゃったら、大変です!』
訴えるように言えば目を見開いて呆れられた。
「勝手にしろ」
それは私には嬉しい言葉だった。