泣き虫少女の本気

木野さんが言うには宇都宮くんは"虎ノ屋"てところに入って行くのを見たとか。


「虎ノ屋?」

「ここに虎丸が…」

「はい、確かに入って行きました」

「そうか…」


入るか戸惑っていると後ろから声をかけられた。


「何かご用かしら?」

「うわぁ!…俺たちは虎丸と同じチームの…」

「虎丸くんの?」

「何騒いでるんだよ、乃々美姉ちゃん。俺今から出前に…。キャプテン、豪炎寺さん…」


私たちがいたことに驚いたのか、びっくりした宇都宮くんだけど出前があるから失礼します、と言って走って行った。

乃々美さんって人に中に入るように言われ椅子に座り宇都宮くんのお母さんと話をした。


「えー!虎丸がこのお店を一人で切り盛り!?」

「ええ、仕込みから買い出し、出前まで頑張ってくれて…」

「練習の後にか…」

「すごいですね、虎丸くん」

「お弁当屋の乃々美ちゃんが手伝ってくれてるから助かってるんですけどね」

「困ったときはお互い様よ、おばさん」

「でも、あたしの体が弱いせいであの子には苦労かけっぱなしで…。本当はめいっぱい練習したいはずなのに…」


そう言って宇都宮くんのお母さんは悲しそうな顔をした。
そして宇都宮くんは帰ってきてお母さんに休むように言った。


「店の事は俺に任せとけって!」

「虎丸!」


守くんの大きな声(普段も大きいが)で宇都宮くんがびくっとして強張った。


「出前だな!よし、任せろ!」


守くんは立ち上がって出前の品を持って出て行った。けどすぐに戻ってきた。


「でー、どこへ行けばいいんだっけ?」


目的地が知らない守くんは苦笑いして言った。


「やるか!」

「ええ」

「先輩、私たちも!」

「うん」

『へ?で、出前なんてむりですぅ』

「出前じゃなくて接客お願いします!」


左右に首を振って思いっきり否定したけど、マネージャー組は接客を任された。
サングラスとキャスケットをとって黒のエプロンをつけた私に守くんが近づいてきた。


『ま、守くん!接客とかむりですよ…』

「大丈夫だ!」

『むりですむりですぅ!』


しゃがんで泣きそうになっている私に、木野さんたちはむりをしなくてもいいのよ、と言ってくれた。それでも守くんは諦めないようで。


「真雪…」

『…?』

「よく聞け。真雪は明るくてみんなを笑顔にしてくれるウェイトレスだ」

『明るい、ウェイトレス…(私とは、正反対の、女の子…)』


守くんは私に暗示をかけるように何度もつぶやく。


「真雪ちゃん?」

「よし!大丈夫だな!」

「え?」


わけが分からない、とでも言いたそうなみんなだけど円堂だけは笑顔だ。


「頼むぞ、真雪!」

『……接客ね!私に任せて!』

「頑張れよ!俺は出前に行ってくるな!」

『気をつけて!さてさて、私もやりますか!』


そう言って、入ってくる人たちに真雪は声をかけた。
豪炎寺たちは驚いて真雪を見ていた。


『いらっしゃいませ!』

「うわ!白露真雪ちゃんだ!」

「うそ!?」

『わぁ!私のこと知ってるの?』

「会えるなんて光栄です!」

『私も会えて嬉しいな!こちらへどうぞ』


お客さんと会話しながら席へ案内する。気を取り戻した豪炎寺たちも自分のやるべき事をし始めた。

お客さんを呼び寄せるために外に出ていらっしゃいませと言う女性群は、その可愛らしさからお客さんがたくさんくる。


「真雪ちゃんじゃない?」

「え?ほんとだ!」

「入ろーぜ!」

「サインとかもらえるのかな!」


真雪目的の人もいていつもよりお店は繁盛した。


「オーダーお願いしまーす!」

『はいはーい!今行きますね!』

「真雪先輩可愛いです…!」

「お、音無さん…。連写は…」


普段見せない笑顔で接客している真雪を、春奈はありえないスピードでシャッターを切っていた。











「今日は来てよかったね、円堂くん」

「ああ!みんなも今日はありがとな!」

「ええ」


疲れたけどとっても楽しかった。それに乃々美さんにはぎゅーって抱きつかれた。

みなさんが歩いて帰る中、私は少し後ろを下を向きながら歩いていた。止まった豪炎寺さんにぶつかってしまったけど。


『ごめんなさい…』

「いや、平気か?」

『私より、豪炎寺さんの方が…』

「俺は平気だ。それよりさっきの事だが…」


さっきの事とは虎ノ屋での私の事でしょうか。守くんに言われたとおりの接客をできたのかな、とか考えてると音無さんたちも話に入ってきた。


「私も聞きたいです!何か雰囲気違いましたよね?」

『う…』

「真雪ちゃんキラキラしてたわ!」


私の心にみなさんの言葉の矢がグサグサと刺さる。
守くんに助けを求めるように腕をつかむと笑われた。失礼ですね。


「真雪はさ与えられた役に成りきるんだ」

「成りきる…。さすが女優…、私の真雪先輩です!」

「それで円堂はあんな事を言ったのか」

「ああ!」


豪炎寺さんに感心したような眼差しを向けられた。木野さんや冬花さんにもすごいと言われたけど、私は役に成りきるのが好きだからすごいかなんてわからない。ただ、演じる事が大好きなんです。