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アリス学園の生徒には毎月星階級別にお小遣いが支給される。
スペシャルは三万円、トラプルは一万円、ダブルは五千円、シングルは三千円、そして星なしは五百円。

お小遣いをもらえるこの時期はクラス中が買い物モード一色らしく、セントラルタウンなる所へ行く人が多い。
周りがセントラルタウンセントラルタウンと口々に言うのを蜜柑と首を傾げて疑問に思う。


「セントラルタウンて何ー!?」

「セントラルタウンてのは学園敷地内にある商店街みたいなもんよ」

「すべてがアリス職人による店ばかりでね」


普通の商店街とは違い、アリス能力者が経営してるお店で、雑貨だけじゃなく、食べ物も全部職人製らしい。
蛍も文化祭の買い出しがあるため行くから蜜柑も行けば?と誘うと、デートに誘われたと喜ぶ蜜柑。勘違いも甚だしいわ。

とにかくテンションがマックスになる蜜柑に、たまたま近くを通りかかった神野先生がどん底に突き落とした。


「星なしのお前がセントラルタウンに?却下」

「何でー!?」

「星なしの上にお前のような問題児、セントラルタウンに行けばきっと騒ぎでも起こすに違いない」


あながち間違いではない。星なしじゃなくても蜜柑が行けば何か起こりそうで怖いもの。
でも行った事ないところ、私も行ってみたいな。


「まあまあ神野先生、彼女はまだ一度もセントラルタウンに行ったことないし、どうでしょう行かせてあげてみては」

「鳴海先生っ!」


思わぬ助け舟の鳴海先生に抱きつく蜜柑。
それを眺めていると、神野先生からの視線が。


「…お前も行くのか」

『まあ、興味はある』

「そうか。…よかろう、ただし条件付きだ。お前のパートナーの同行をもってのみセントラルタウン行きを許可する」


パートナーとは日向のことで。
よかったね、と言う鳴海先生と違い、頭を抱えて本気で悩み出す蜜柑。

普通に日向を誘っても断られるのが目に見える。


「…何のマネだこいつ」


そんな蜜柑のとった行動は、"セントラルタウンへ一緒に行って下さいよろしくお願いします"と書いた旗を掲げて土下座をすること。
ちなみに委員長も一緒になってしてる。

蜜柑が日向をデートに誘ってると騒ぎ立てるクラス内。放置して席に座ろうとすると、一人の存在に気付いた。


「………」

『………』

「かわいーっ!何その子!?あんたの子?」

「燃やすぞてめえ」


日向の膝の上に座っている小さな男の子。蜜柑も気付いたみたいで、早速ボケをかますが日向には通じず。


「聖陽一、三歳。A組の子で棗に懐いてて時々B組に遊びにくるんだ」

「よーちゃんゆうんや!こっちおいでー!」

「ダメよこんな人のとこいっちゃ、おねーさんとこおいでー」

「棗と同じ危険能力系で、だから棗もあの子の事は気にかけてるっていうか…」


乃木くんが説明をしてくれたけど、危険能力系って。こんなに小さい子なのに。

蜜柑とパーマが手を出して、よーちゃんにこっちに来るように言うが、見た目に反して口から出る言葉は日向譲りなのか。


「バーカ」

「ブース」
「ブーシュ」

「寄るなサル共」
「よりゅなサリュろも」

「なかなかいいコンビね」

『同感』


日向の言葉を復唱するように続けるよーちゃん。
そんな言葉を教える日向に蜜柑が怒り、よーちゃんに再度こっちに来るように言う。


「あかんでよーちゃん、こんな奴んとこおったら!」

「言い忘れてたけど…、その子のアリス悪霊使いで」
「「ギャー!!!」」


言葉の通り、蜜柑達に悪霊のアリスを使う。
こんな可愛い子がそんなアリスを持ってるとは思っていなかったのか、怯えて逃げ回った後地面にばたりと力なく倒れている。
毎日毎日忙しい人ね本当に。

でもよーちゃんを抱っこしてる日向の横に座るのは何だか気が引けるので、乃木くんの横に座ろうかと離れようとしたら、制服の裾を引っ張られる感覚。


「………」

『………』

「も、もしかして華鈴ちゃん、小さい子苦手なんじゃ」
「あー、大丈夫や」
「え?」


ぼそぼそ近くで委員長と蜜柑が何か話してる。
引っ張ったのはよーちゃんで、小さい子特有のキラキラした目でこっちを見てる。


「…ねーちゃ」

『…なあに?』

「ここ」


目線を合わせてしゃがむと、ここ、と日向が座ってる横を叩きながら座るようにお願いしてくる。
それに応えて、座ると膝の上に乗ってきたから頭を撫でると、胸元に擦り寄ってきた。


「華鈴ちゃんが、優しい…」

「華鈴は昔から小さい子には優しいし、懐かれるからなあ」

「華鈴の胸元に擦り寄るなんて、この子一生物の思い出よ」


蜜柑達が何か話しているけど無視だ。

擦り寄ってきたよーちゃんは顔を上げると、蜜柑が先程掲げていた旗に気付く。
それをじっと見つめた後、私に顔を向けた。


「ねーちゃ、いく?」

『うん、行く』

「………」


私の返答を聞くと、今度は日向に視線を向ける。


『行きたいみたいよ』

「………」


ほら、やっぱり優しい。





***

よーちゃんのおかげで、日向が同行してくれることに。もちろん乃木くんも。
蜜柑はパシリで移動中のバスではアイスを売る羽目になってたけど。

セントラルタウンに着くと、そこは煌びやかな世界で。
文房具屋、お菓子屋、おもちゃ屋、全部が一般的な物ではなくアリス所有者が作り出したもの。

蜜柑がギャー!と興奮してる間に、蛍は委員長を連れてバイヤーに売りつけに行ってしまった。

私も蜜柑といるのは恥ずかしいので、一人で街中を歩く。


「お!お嬢ちゃん超可愛いね!よかったらこれ持っていきな!」

「まあまあ、こんなに可愛らしいお客さん初めてよ〜、これ貰ってちょうだい」

「これが欲しいのかい?よし!おじさんの奢りだ!」

「あ、新入生の佐倉華鈴さんですよね!?あの、よかったらこれ!僕いらないんで!」
「俺もこれどうぞ!」


…一人で歩いてたら、いつのまにか両手にたくさんの紙袋が。

行く店行く店で、袋をまとめてもらい安くしてくれたり奢ってくれたりした。
たまに出会う学園の先輩やおそらく同じクラスの人(顔覚えてない)にもお菓子やら飲み物やらを何も言わずに奢ってもらった。
ちなみにドッジボールでアリス使った奴らもいたので、一番美味しいと言われている和菓子を奢ってもらった。

今はマシュマロソフトを食べながら街中を歩いていると、アクセサリー屋の前でヘアピンを見つめている日向。


『興味あるの?』

「うっせ…、なんだその荷物」


ヘアピンからこちらに視線を移す日向は私の両手の大量の荷物が気になったみたい。


『街歩いてたらいろんな人がくれた』

「危ねえ奴」

『大丈夫よ。…はい』


手荷物の中から唯一自分で買った物を取り出す。


「…何だよこれ」

『さあ?なんか安らぎの香みたいなやつ、ゆっくり寝れるみたい。あげる』

「貰いもんはいらねーよ」

『実費よ。外で寝た時のお礼』


よくイライラしてるし、寝不足のせいかもしれないからと思って買った。特に意味はないけど。

袋を差し出したままのため、腕がプルプルしてきた。両手で持ってた袋を片方で持つのはなかなか厳しい。早く貰ってくれないかしら。


『腕痛い、はやく』

「…ちっ」


感謝はされても舌打ちはされることしてないんだけど。少しイラッとしたけど、何も言わずに袋を手に取ってくれたおかげで、また荷物全部を両手で持ち直すことができた。

一旦全部地面に置き、持ち直そうとすると私より先に袋を持つ日向。


『…何』

「赤くなるまで無理してんじゃねーよ」


そう言われ、自分の腕を見ると袋の持ち手の型が付き真っ赤になっている。言われるまで気付かなかった。
日向くんは私の荷物を持ったまま先々歩いて行くから、同じように後ろからついて行く。


『どこ行くの』

「………」


行き先を決めてるのか、確認すると不意に止まる足。
決めてなかったのね。


『足疲れたし、その辺に座らない?』


返事を聞く前に、近くにあったベンチに座った。
同じように日向も腰掛ける。


『さっき、誰のこと考えてたの』

「は?」

『アクセサリー。自分に使うとか?』

「はっ倒すぞ」


まあ、そんなはずないわよね。本気でそうなら正直引く、気持ち悪い。いやでも鳴海先生ならやりかねないわね。
なんて考えてると、日向がぼそりと聞き逃しそうな声で言った。


「…妹」

『へー、妹いるんだ』

「お前にもうっせー水玉がいんだろ」

『蜜柑は妹みたいだけど、実際妹じゃないし』


何言ってんだこいつ、みたいな目で見られても。
ああ、そうか、名字同じで一緒に転入してきたから普通は姉妹か双子と思うものね。


『私と蜜柑、本当の姉妹じゃない。もちろん双子でもないわ』

「………」

『記憶のある時から一緒に育っただけ』

「でもお前、片割れって」

『片割れみたいだし。日向と乃木くんだってそんな感じでしょ?』


私も蜜柑も、本当の姉妹のように双子のように育ってきたけど、実際は違う。
同じお爺様に育てられて、私たち二人とも親の記憶なんてない。一番古い記憶の中には既に蜜柑は一緒に居た。

それにしても一緒に育ったにもかかわらず、蜜柑のあの破天荒な性格、


『育て方間違えたかしら』

「親ポジかよ」

『まあ。お守り役』


なんて日向と話していたら、近くで蜜柑達が何やらイベントをしてるみたい。
マッチ売りの少女みかん、と看板を持った顔を真っ赤にした乃木くんとよーちゃん。

委員長や蛍も巻き込んで自力でお金を稼ぐことにしたようだ。
度胸だけはあるんだから。

蜜柑達の劇がおもしろいのか、一本、また一本と売れていくマッチ、もとい木の枝。

売れる流れが止まらず、とうとう完売したのか蜜柑は飛んで喜んでいた。そのお金でホワロンを買いに走る蜜柑。ちなみに私は同じ学園の生徒たちからホワロンは山ほどもらった。あとで食べよう。


「あいつ馬鹿だな」

『昔から』


さて、そろそろ私も蜜柑達のところに行こうかな。腰を上げようとしたが、日向を一人にしてしまうことに気付き、手を取り引っ張った。


「おい」

『何』

「離せ」

『はやく行くわよ』


離そうと思えば簡単に振りほどけるだろうに。
無視して、バスに駆け込むみんなと同じように私達もバスに乗った。

一緒に乗ったことでみんなの視線は私と日向が繋がっている手に。


「いやー!!華鈴何棗と手繋いでんの!?」

『うるさい』

「ちっ」

「早よ離れやな!性格悪いんうつるで!っぎゃー!!」


馬鹿だわ。
文化祭準備の時と同じく、髪の毛を燃やされた蜜柑。学習能力ないんだから。
そのままバスに乗り、降りるときも荷物を持ってくれた日向は私の部屋の前までちゃんと運んでくれた。

ちなみに、バスを降りる時私の荷物に気付き、またまた蜜柑が悲鳴をあげ、蛍にバカン砲を撃たれていた。

今日は日向の優しさを感じた一日だった。
袋の中に見覚えのない物が入ってたけど、街で出会った人の誰かからの貰い物かしら。髪留めなんて滅多に使わないけど、おろした時に使わせてもらおう。


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