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「確かに俺は聞いたんだ、アリス祭三日目のイベント祭で、そのメインゲストにアリス出身のあのハリウッドスター"レオ"が予定されてるという事をっ」


超聴覚のアリスの持ち主がB組のクラスの一角で話すと、蜜柑達クラスメイトは朝からどひゃー!と驚いた。


「しかもだ、そのレオが何と今日この学園の付属病院にステージの下見がてら隠密に検診を受けに来るという情報を手に入れたのだっ!!」


ギャヒーンッと驚きどころでは済まず、生徒達はパニックに陥っている。

アリス所有者がある学園で、秘密事などすぐにバレるわけで、それを見越して神野先生は"本日、用もないのに本部付近をうろつく者重罰に処す"と決まりを出した。


「なあなあ、レオって何なん?」

「お前知らずにさっきあんだけ騒いでたんかー!?信じらんねー!!」

「でへっ」


田舎者の蜜柑には、ハリウッドスターなんて知らず、更にノリで先程は盛り上がっていた。


「レオの本名は毛利玲生、赤毛のレオが愛称なんだ」


歌手で俳優で、超大作の主演と主題歌をした日本人のハリウッドトップスターであり、魅惑のミラクルヴォイスと絶賛されている。
声フェロモンのアリスの人らしい、と委員長が説明をする。



「すごーい!!そんな有名人が学園にくるのー!?」

「だからさっきからゆうてるやんけっ」


今になって、レオのすごさがわかった蜜柑はキツネ目に突っ込まれる。

生レオを見たいと騒ぎ立てる蜜柑達だけど、流架が一人で少し寂しそうな表情をしているのに気付いた蜜柑。
近付き、訳を聞くと、


「棗が入院!?」

「過労による体調不良っていってたけど、棗さんここんとこずっと眠れなかったみたいでイライラしてたし」

「ドッジボールの後あたりから何だか様子変だったからなー」


棗の取り巻き達が心配しているが、それとは比にならないぐらい流架の顔は不安でいっぱいだ。


「ねえ流架くん、こんな人達かまってないでそろそろ行きましょ」

「行くってどこに?」

「病院よ。実はあたしと流架くんの二人、棗くんの友人代表として特別に病院へお見舞いに行く事許可されてるの」


自慢気に言ったスミレに、蜜柑はイラっとするが流架が話しかけた事でおさまった。


「佐倉、華鈴は?」

「あれ?流架くん、華鈴のこと名前で呼んでたかしら?」

「う、うるさいなー!」


ニヤニヤと揶揄う蛍に反発するが、顔が赤いため迫力がない。
そういえば、いつもは静かに本を読んでいるか、蜜柑達と一緒にいる華鈴の姿も朝から見えない。
どうりでクラス内の男に活気がないわけだ。


「華鈴も病院や」

「あの子、また」

「華鈴さん調子でも悪いの?」


さっきまでは棗のことでいっぱいいっぱいだったスミレも、華鈴の事になると心配なのか蜜柑に問う。


「あ、えっとー、検診みたいなもんや!」

「そういえば、学園に来てから一度も行ってなかったわね」

「そうそう!華鈴体ちょっと弱いから」


体が弱い、その言葉は流架にとって先日聞き覚えがあった。
蜜柑と蛍は詳しく知っているが、本人の事なので大まかに話すだけにしている。


「まあ華鈴は入院とはちゃうし、すぐ戻ってくるやろ!」

「そう?それなら良いんだけど」


スミレもほっとしたのか、流架と教室を出て当初の目的である棗のお見舞いに行ってしまった。





***

同時刻、東棟病院。


「…はい、初診はこれで終わりだ」

『はあ』

「まったく、もっと早く来て欲しかったものだ」

『…はやく来ても何も変わらないでしょ』


私の言葉にうっと言葉を詰まらせるこれから担当になる先生。
二十代の人で若手だが腕は学園一の名が知れ渡っているらしい。


「ここには沢山の名医がいる。俺達も力の限りを尽すよ」

『…期待しない』

「おいおい」

『まあ、普通の病院よりはアリスの力があるし期待はできそうだけど』


それでも期待はしない。

これから病院へ通う必要があるのか、と面倒くさく思いながら今日の検診は終わったため、病室を出る。

いつでも来て良いと、私専用の部屋も用意してくれるそうだ。あまり入院したくないけど。最悪の場合は借りる時もあるかもしれないし。

ロビー向かうため廊下を歩いていると、ここにいるはずのない蜜柑に出くわした。


『あんた何してるの、こんなとこで』

「華鈴!検診終わったんか?」

『ええ』

「ウチはな、レオってゆーアリス出身のスーパーハリウッドスターに会おう思って蛍と手分けして探してるんよ」


ハリウッドスターのレオ?誰だっけ。
…あの色んなドラマに出ていた人だったか。テレビで見たことあるけど、まさかアリス学園出身だったとは。

耳に蛍発明のパンダのイヤーカフをつけて、背中には羊のリュックを背負っている。


『そのレオがここに?』

「そや!検診に来てるらしくてな。あ、華鈴もこれ、蛍から念のためって」

『相変わらずがめついわね』


蜜柑からお揃いの猫バージョンイヤーカフと指輪をもらう。どうやらイヤーカフは通信用で指輪は録音用と発信機らしい。


「噂によればレオは声フェロモンとか」

『なにそれ』

「ウチもよーわからんけど、とりあえず凄いってことや!」

『そう』


蜜柑は忙しそうなので、ここで別れる。

私は患者でもあるためバレても怒られることはないし、蜜柑はこそこそする必要があるけど。

ロビーに一度寄り、何日か分の薬をもらってから初等部に戻るための道を歩いていると、曲がり角から曲がって来た人とぶつかりそうになる。


「おっと、ごめんね…、!」

『いえ』


そのまま会釈して、通り過ぎようとしたけど腕を掴まれた。

何なんだ一体。


『…何』

「お前、もしかして…」


そこでやっと目線が合う。
なんと蜜柑達が探していたレオ本人とボディーガードらしい人一人。すぐにイヤーカフのスイッチを入れようとしたけど、腕は掴まれているし逆の手は鞄を持っているし、どうしようか。

そのまま、腕を掴んでいる方の逆の手で顎を掴まれてじっとりと顔を見られる。
何こいつ、美女が珍しいか。


「この顔…。おい、こいつも黒猫と一緒にトランクへ入れておけ」

「ですがレオさん…」

「はやくしろ」


何この物騒な会話。誘拐しようとしてるでしょこれ、レオってロリコン?
それに黒猫って…、日向?

危険を察知したから腕を振り払い逃げようとしたけど、時すでに遅し。
薬か何かを嗅がされて、意識を失ってしまった。





***

「どうして、華鈴さんまで…」

「は、はよ!はよ追うで!!」


棗が華鈴と同じように薬を嗅がされてリムジンのトランクにテレポートで連れて行かれるのを見た蜜柑とスミレ。
後を追っていくと、先程別れた華鈴とレオが会話しているのを目撃した後、棗と同じ目に。

二人は走って学園を去ろうとするリムジンの近くへ行くが、周りはレオを見に来た生徒で溢れかえっているために近付くことが出来ずにいる。

その場には生徒を抑えるために先生もいるので、二人はわけを話してレオを止めてもらおうとする。


「先生っ!レオを探してください!!」

「お前ら本部に近づけば罰則だとあれ程、」

「棗君と華鈴さんが誘拐されたんです!!」

「は?お前、何を言って」

「レオが二人を誘拐したのをこの目で見たんです!レオを捕まえて、レオの車を調べてください!」


本気でスミレが先生に伝えるが、芸能人が来たことで浮かれてでたらめを言ってると勘違いする先生。

ここで言い争っている暇はない。
先生を振りほどき、集団の中に入り、押し込むように進んで行くとその中に蛍と陽一を抱っこした流架の姿が。


「蛍!!」

「蜜柑、あんたどこに…」

「あの車を止めて!!あの車のトランクに棗と華鈴が入ってる!二人がレオに誘拐されたの見てんっ!お願いっ、何とかして!」


蜜柑の必死の願いに、考える間も無く蛍は煙玉を地面に投げつけた。
それにより周りや先生が混乱している間に、蜜柑とスミレは門の外に。


「おい!お前達っ!!」


先生の制止も聞かず、二人は無我夢中にリムジンを追いかける。
運良く渋滞に巻き込まれてるのか、見失わずにすむが車と人間の足では距離が縮まらない。
それに、先生も追いかけて来ている。


「佐倉さん、あんたこのまま先生に捕まって事情説明してきてちょうだい!その間に私が車追いかけるから!」

「何やそれっ、おとり!?あんたが捕まればいいやろ!」

「いいからさっさと捕まってきなさいよ星なしっ!あんた年下のくせに生意気なのよ!」


二人が走りながらも言い合っていると、瞬間移動のアリスの持ち主である槙原先生が二人を捕らえた。


「そこまでだ、いい根性してんなお前ら。罰則は覚悟できてるんだろうな」

「あ、あの先生っ、ウチら棗と華鈴が捕まったのみて、」

「そんなたわごとは後だ!」

「先生聞いて…っ」


先生に捕まり絶体絶命の時、槙原先生だけを狙ってカラスが頭をズコーンと攻撃した。
それから大量のカラスが追いかけてきた先生達だけの邪魔をするように飛び回る。


「(カラス?…ルカぴょん!蛍!)」


流架の動物フェロモンのアリスのおかげで、遠くからでも二人を蛍と流架も学園内からサポートする。

その隙に、先生達から距離を取り、まくことはできたが車を見失ってしまう二人。


「あんたがさっさと捕まっとけばこんな事にはならなかったのよ!」

「あんたこそ言い出しっぺのくせに自分が捕まればいいやんけー!」


焦る蜜柑と、冷静に考え出すスミレ。
生徒手帳に収納されている発信機のせいで自分達の居場所は先生に筒抜けだから、それでレオの元まで行き車の中を見てもらうのが一番手っ取り早いが、そのためには車を見つける必要がある。

悩んでる暇なんてないと思ったスミレは、こめかみ辺りをぐりぐりとしてアリスを使う。


「ちょ、何やってんの!?はよ車見つけて、先生らもう追ってくるって…」


スミレの姿を見て言葉を失う蜜柑。
猫のようなヒゲが生え、四本足走行、そして超嗅覚に直感力、


「南西方向真南より三十度付近から棗君達のにおいが…、約1.5キロメートル程先ね、行くわよ!ぐずぐずしてたらおいてくわよ!!」

「(犬猫体質!?)」


スミレのアリスのおかげもあり、見失った車を何とか見つけ出すことが出来たが、スミレの格好は目立つため四本足走行はやめたため、二人とも走っている。
ちなみに蜜柑は蛍にもらった筋肉活性湿布を貼っている。


「なあ、あんたお金持ってへんの?」

「持ってきてないわよ」

「じゃあそこらへんの人にお金借りるとか、ヒッチハイクで車追ってもらうとかさー」

「ダメよ」


蜜柑が足に限界を感じているのか、追うために他の方法を考えるが全部スミレに却下される。


「あーいえばこーいうー!!」

「あんたいい加減、アリスとしての自覚を持ったらどうなの!?レオ達が十分怪しいってことはあんたも分かったんでしょ!相手がどんなアリスを持ってどんだけ危険かもわからないのに、一般人を巻き込むなんて許されないわ!」

「っ、」

「言ったでしょ、私たちはアリスなのよ!普通の人間より選ばれた立場にいる分、おった責任も違うのよ!」


転入してきた頃の、バカにしたような言い方とは違う、筋の通った責任感のある言い方のスミレに蜜柑は返す言葉もない。


「今はとにかくあの車を見失わない様にするしかないのよ!先生達に一刻も早くここにきてもらって二人を…」


そこで違和感に気付くスミレ。
あのカラスが遮ってから、先生が一度も追ってこないことに。

曲がり角を曲がった車と同じように曲がり角を曲がると、車は停車していて、外にはボディガードの人達が。


「「!!」」


華鈴達同様に二人を気絶させ、生徒手帳を地面に落とし、蜜柑達も車に乗せた。


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