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約束するんだ棗…

もしお前が敵に捕らわれた場合、そこから逃れる術を全て絶たれたならばその時は、自らの命を断て

もしお前がその力を敵に引き渡し、学園の脅威となる事を選んだら、
君の大事な者達がどうなるか分かってるね…





***

「このままだといつまでたっても膠着状態か。ま、それもお前の体力気力が持つまでの話だけど」


蜜柑達が走ってから、お互いに気を抜かない状態が続いている。
私はひたすら修復される結界を無効化しては、修復されを繰り返している。
ずっと無効化するのはまだ慣れていないから無理みたい。


「俺らがそう簡単にあの二人を逃すとでも思ったか?特にあのツインテールの娘…」

『(…蜜柑)』

「さっき組織と連絡とったし、遅かれ早かれあの二人は仲間に捕まってここに逆戻りだよ。爆発を起こせばあの二人も只じゃ済まない」


くすくす日向の二人を逃した努力が無駄であるように馬鹿にしたように笑うレオ。
確かに、テレポートの人がいたのは事実だし、その人が蜜柑達を連れ戻して来たら逃したのが水の泡だ。


「大体、お前にここを火の海にしてまで学園に戻る理由なんてあるのか?」

「(…あるさ、大アリだ。誰が好きこのんでこんな地を這うような生き方選ぶもんか)」

「大人しく一緒にくればあの二人の処遇を考えてやってもいい」

「(屈辱の沼に頭を押さえつけられるような毎日、大事な者一つ満足に守れず…)」

『バカにしないで。あんた達なんかに大切な人誰一人渡さない』

「(こいつ…)…さっき言ってたな、遅かれ早かれ二人は捕まるって。今なら多分あいつらもまだ捕まらずに、こっから少しは遠くに逃げ切ってる」


私の腕を引きながら、レオの部下達の足元に火をつけ、扉に向かって歩いていく。


「今爆破すれば、吹っ飛ぶのは俺らだけ、無駄な努力にならずに済む」

「…その女を巻き込んでもか?」

「…っ」


日向の本気に焦るレオ達が、苦し間際に言った事で、日向は少しだけ辛そうな顔をした。


『いいわ、どうせ先の短い人生ならいつ死んでも同じよ』

「(先の短い…?)…お前は、少しでも離れろ」

『嫌。爆破した際に私達の周りに無効化使う。タイミング上手くいかなかったら死ぬけど』


腕を離された手を逆にしっかり掴む。
一人だけかっこいいような終わり方させないわ。


「…(南方の、ここから二つ先の倉庫にダイナマイトが)」


「やめて!!!」


火をつける直前、逃げたはずの蜜柑が日向に飛びつき無効化でアリスを使えなくした。
飛びついた拍子に手を握っていた私も巻き添いをくらい、三人で地べたに寝転ぶ形に。


「あほっ!何本気で火つけようとしてんねん!あんた死ぬ気か!?華鈴も見てるだけちごて止めなあかんやろ!目覚ませボケッ!!」


止めてもらった蜜柑には悪いけど、私的に日向とタイミング合いそうな気がしたんだけど。

蜜柑の勢いに呆気無くなってる日向に、私の無効化も切れたのをチャンスと思ったのかレオが制御装置のピアスをくるくるしてるのに気付いたが、遅く。


「力を抜けっ!」


私が周りに無効化を使うよりもレオが声フェロモンを使う方が早かった。
元々無効化の耐性がある蜜柑と私は何もないが、日向は言葉の通り力が抜け私にもたれかかる形に。


「バカだねお前、お前が戻って来たせいでこいつの折角の苦労も水の泡だ」

「ってめ、何で戻って来た…」

「え、だってあんた、うちのパートナーなんやから」

『あんた来た事で色々パアよ』

「華鈴も体弱いのに無理して、ウチ心配やったんやから」


涙は出てないけど、泣きそうな顔でこっちを見られたらちょっと困る。


「おい、こいつらさっさと手足縛って…」

「レオさん、不意打ちっすよ、」


レオの声フェロモンを浴びたのは日向だけじゃなく、不意打ちで耳栓をつけ忘れた部下軍団も地べたに力なく這いつくばってる。


『…蜜柑』

「うんっ」


セメントの粉をレオ目掛けて投げつけ、目くらましになってる間に動けない日向をお互い両側から支えて走るように逃げる。


「逃げたぞ!!」


あんなのほんの目くらましにしかならないけど、力が抜けてるなら今しか逃げる隙はない。
大の大人に私たちが真っ向から勝負して勝てるわけでもないし。

少し距離ができたところで、曲がろうとしたところは行き止まりのさらに下る階段があり、私は気付いて止まったが、蜜柑はそのまま足を滑らさせたので私と日向も一緒に落ちた。


「ご、ごめ…」

「おい水玉、サングラス、お前ら逃げろ。今のあいつらなら何とか逃げ切れる、行け」

「は?あんた何ゆうて…」

『日向を置いて?』

「いいから行けブス、何度も言わせんな」

「いやじゃ!」


今蜜柑じゃなくて私にもブスって言った?
…ムカ。


「行けっつってんだろボケッ!」
「行かへんゆーてるやろドアホッ!」
『どこ見てブス言ってんの、目腐ってんでしょ』


私の場に合わない冷めた目に、蜜柑も日向もぽかんとこちらを見る。


『だいたい何?俺置いて行け?そんな死にかけの体でカッコつけてんじゃないわよ』

「ルカぴょんも蛍も先生もパーマだってみんなあんたが無事に帰ってこれるように頑張ってんのに、それを無視してウチらが諦めるなんて許されるかいっ!」


蜜柑の大声に近くにいた追っ手の人が気付き、足音が近づいて来る。


「…やれるとこまでやってみる、ウチは学園に戻ってまだまだやりたい事沢山あるもん。一緒に帰ろう、学園に」

『蜜柑だけじゃないわ、あんただって。待っててくれる人がいるでしょ、ちゃんと居場所あるでしょ』


蜜柑は落ちていた木の棒を、私は蛍にもらった扇子を取り出す。こんな時のために肌身離さず持ってて良かったわ。


「いましたガキ共!こっちです!!」


近付いてきた男を蜜柑が先に殴りかかり、隙ができた瞬間に私が日向の手を取り走る。後ろから蜜柑もついて来る。
階段を登る途中で、テレポートの人が目の前に現れた。


「逃すか…っ」

『ちっ』


扇子を使い暴風を起こし、蜜柑がまた殴りかかるが、棒を握られて逆に投げ飛ばされた。私の方に飛んで来た蜜柑を避けるのもあれなので、受け止めてそのまま二人で階段から落ち、頭部を強打してしまった。


『、いっつ、』

「うぅ、」

「…!」


蜜柑は意識を失い、私は打った頭が割れそうな痛みに思わず声が出た。
体に傷が残ったらどうしてくれるの本当に。

そんな私達にチャンスと思った部下は日向の腕を捕まえる。


「捕まえたぞ!もう一人の女も…」

「…てめぇ。……てめえ!!!」


何か怒りに触れたのか、日向がいつもと違う目をしていた。
そしてアリスを使おうとしてるのを直感で感じた私は、意識が飛びそうになる中、最後の力で無効化を使った。

その直後、港には壮大な爆発が起こった。





***

…頭がぼーっとする。


『…ん、』

「あ!華鈴目覚めたん!?」


朦朧とする意識の中、夢の世界か現実かわからないけど、蜜柑の声で現実に引き戻された。
眩しい世界が視界に入り、思わず目を瞑る。


「しんどくない?大丈夫?」

『ええ、蜜柑は』

「ウチは大丈夫や!二日前に目覚めて、検査も終わっとるよ!」


それなら良かった。
蜜柑の話だと、あの事件があってから四日間、私はずっと眠ったままだったらしい。蜜柑と日向はは二日前に目を覚ましたとか。

光に慣れてきて、周りを確認すると蜜柑以外居なかった。そりゃ普通に平日だし、みんな授業中だろう。
それにここは、私用の病室のようだ。まさか作ってもらってすぐにお世話になるなんてね。


「ウチ、鳴海先生呼んでくる!」


そもそもあんた学校は?と思ったけど、大事をとって一週間は入院することになったらしい。
パタパタと走って行った蜜柑に病院内は走るなと思ったけど、伝える前に足音さえ聞こえなくなった。
鳴海先生は蜜柑が呼んでくるそうだし、私はナースコールを押す。

数秒後、一人看護師を連れた担当医の先生がノックをしてから入って来た。


「華鈴さん、目が覚めたんだな。一応眠っている間に重傷がないか検査をさせてもらったが、外傷、脳内共に異常無しだ。頭をぶつけた衝撃で気絶して、体調も優れなかったのかそのまま四日間眠ってしまっていたようだ」

『そう』

「とりあえず、起きてからも検査をしたいが、今体調は?」

『平気。少し頭がぼーっとするぐらい』

「そうか、ならまた準備が出来次第呼びに来ることにするよ」


看護師さんは私の腕から点滴を抜き、それを持って担当医の先生と共に病室を出た。アリス学園内の病院だから、忙しいんだろう。
そして、それと入れ違いに蜜柑と鳴海先生が入って来た。


「華鈴ちゃん!大丈夫!?どこか痛いところとかない?」

『ええ』

「よかったあ」


病室内に駆け込んで来た鳴海先生は普段の余裕のある感じとは違い、本気で心配してる顔をしていた。

私の安否を確認でき、ホッとしてる先生は通常時のニコニコした顔で手を差し出して来た。


「実は華鈴ちゃんにも神野先生からプレゼントがあるんだよ」

『プレゼント?』


手を出して、と言われたので出すと、光り輝く一つの星が。


「トリプル昇格おめでとう」

『トリプル…』

「ウチもシングルに昇格したんやで!」


ほらほら!と星なしだった蜜柑が一つの星を見せびらかす。本当に嬉しいのか大事そうに握っている。

星が一つ増えたことで、私のポケットに入れている星と合わせると三つだ。


「瞬時の判断力。そしてあの紫堂の結界を壊し、更に棗君の怒りの爆発からみんなを護った無効化の力。先生方みんな君のアリスを認めていたよ」


そっか、あの時ちゃんとアリス使えたんだ。
アリスの力は見極めると言われていたし、今回の事件でなんとかなったみたい。


「先生方は本当はスペシャルでもいいと言ってたけど」

『嫌、めんどくさい』

「…と思って、僕がうまく話をつけといたよ」

「ええ!?勿体無い!!」


幹部生になんてなったら、絶対忙しいに決まってる。みんなの前に立って統率したり、注目の的になるし。ただでさえ視線浴びるのに、これ以上はごめんだわ。
勿体無い、と嘆く蜜柑に日向の様子を見に行きたいと言うと、ころっと態度が変わった。


「よし!ウチが案内したる!」

『行くわよ』

「え、ちょっと、華鈴ちゃん!?絶対安静…」


ベッドから降りてスリッパを履き廊下に出る。
鳴海先生が仕方なさそうにため息をついていたのが少し子供扱いされてる感じで納得いかないが。

蜜柑に案内してもらわないと、私は日向の病室を知らないし。
少しの距離を歩いてついた病室。開いたドアの隙間からベッドで眠る日向の姿が見える。


「入るん?」

『もちろん』


一応ノックはする。
私と同じで、一人部屋なのか周りには他にベッドはなく広い病室で一人だ。

悪戯でもしてやろうかと顔に手を伸ばすと、布団から出てきた手に掴まれた。


「寝込み襲ってんじゃねーよ」

『狸寝入りしてんじゃないわよ』

「棗起きてたんかい!」


きっとノックの音で起きたんだろう。気付いてたけど蜜柑は知らなかったみたい。
ベッドの横にある椅子に腰掛ける。


「めんどくせーから寝たふりしてただけだ」

「めんどくさいって、きー!!」

『蜜柑うるさい、頭に響く』


ぷんすか怒る蜜柑の声が頭に響く。
ベッドから上体を起こした日向はあの時よりも調子が良さそうで、体に傷跡も見当たらない。


『怪我は?』

「お前よりマシだ」

『そ』


レオに連れ去られる前も入院してたみたいだし、その時の体調の悪さもなくなってる感じで元通りで良かったわ。


「棗あんな!華鈴も星一個増えてトリプルなったんよ!ほんまはスペシャルでも良かったらしいねんけど」

『だから嫌。めんどくさい』

「こーゆー訳で、トリプルで止まってるみたいや」

「…物好きな奴だな」


でしょうね。
誰だって上へ上へと上り詰めるのを目標にしてるだろうけど、私は嫌だ。
でもお小遣いとか待遇が良くなるのは生活に困らないので、ぎりぎりトリプルで良い感じ。


「…お前怪我はもういいのかよ」

『ん。大した怪我してないし』

「そうか」


心配する日向が珍しいのか、蜜柑が面白くなさそうな顔をしてる。


「なーんか棗って華鈴には優しいよなあ」

「燃やすぞブス」

「ほら!ウチには冷たい!!棗なんかに華鈴は渡さへんからな!ウチのや!」

『あんたのじゃないし』


意味のわからないことを言う蜜柑を日向と共に冷めた目で見る。

そういえば私もあの時、日向にブスって言われたんだっけ。
思い出したらムカついてきた。


『…私ブスなんて言われたの初めてなんだけど』

「……お前には言ってねえよ」

『なんだ、蜜柑だけか』


それならいいわ。

今のを聞いていた蜜柑がまたキーキー騒いで、廊下を歩いていて声を聞き覗きに来た看護師さんに注意されていた。
本当に破茶滅茶な人生ね。だからこそ一緒にいて飽きないんだけど。

注意されている蜜柑に気を取られていると、膝に乗せていた手に何かが覆いかぶさった。


『………』

「…お前だって待ってくれる人がいるんだ。簡単に死のうとすんな」

『………そうね』


求めてくれる人が居るなら、私も足掻くわ。

手の上に重ねられた私よりも少しだけ大きな手に、何故か心地良く温もりを感じた。


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