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蜜柑と日向はレオ誘拐事件でのこともあり、一週間大事をとって今日は久々の登校日。
私も二人に合わせて登校させてもらえるように、担当医の先生を脅す、んん、お願いした。

そして学園はあっという間に文化祭直前モード。

教室に入ると久々の登校を出迎えてくれる人達。事件の内容を聞きたいと集まってくるみんなに来て早々独演会を始める蜜柑。その蜜柑を押しのけて話し出すパーマ。
それを無視して自分の席に向かう私。

席に着くと同時に、教室のドアが開いてそこには日向と乃木くんの姿が。

蜜柑の時とは桁違いの人達が二人に集まり、体の事を心配されている。


ニコッと笑う蜜柑の存在に気付いた日向はそのまま無視し、乃木くんは今までとは違い微笑んで挨拶をした。それに返す蜜柑。

あの事件のおかげか、乃木くんやパーマとの仲が以前と違い格段に良くなったと、嬉しそうに話して来た蜜柑は記憶に新しい。

ふと気になった何かを後ろに持ってる蛍。


『蛍何してんの』

「シャッターチャンスは逃さないの」


手に持っていたのはカメラで、見せてもらうと先程微笑んでいた乃木くんが。
金銭面に対してがめつい蛍は相変わらずで。

そして学園の一日が始まるチャイムが鳴り鳴海先生が教室に入って来た。


「今週から文化祭直前という事で授業は二限まで。それ以降は能力別クラスで文化祭準備に当てて下さい」


それだけ言って自分も文化祭の準備があるのかご機嫌そうに出て行った。何しに来たのあの人。
体質系の先生である鳴海先生もパフォーマンス祭のミュージカルでそれに出るとか。
くどそうなミュージカルな予感。

アリス祭は能力別クラス対抗なため、中等部と高等部は更に賞金と名誉もかかっているのでお互いに情報の探り合いに必死になるらしい。

初等部はそんな意識は御構い無しなので自分達の出し物を口々に話す。


「なーなー、みんな文化祭何の出し物担当すんの?」

「あたしは喫茶店とパレード」

「あたしは保険係と発明屋の売り子」


技術系の二人、アンナと野々子が答えてくれ後、蛍の方を向くと、

ドンガン、ガギッ、ギュルル…

自分の発明に夢中で何も知らない私たちからしたら何がなんだか。


「蛍ちゃん技術系の期待の星だから、模擬店祭は彼女ひっぱりだこで超大忙しって感じなの」

『ふーん、人気者は大変ね』

「「「……………」」」

『…なに』


すごく何か言いたげな表情で見られた。
問いかけると四人は首をぶんぶん振って何もないと言い張る。じとーと見つめると怪しく動く目線。

そんな中蜜柑がこの雰囲気を流そうと委員長に話を振る。


「あ、委員長は?」

「僕は模擬店祭でお化け屋敷の担当を。よかったら見に来てね」

「へえ〜!委員長がお化け屋敷!?行く行く!ウチはー…」


みんなの情報を聞いた後に蜜柑が自分のクラスの出し物を話そうとしたら、岬先生が来て蛍筆頭技術系の生徒を呼びに来た。
今まで話していたうちの三人が行ってしまう。

蜜柑が次に目をつけたのは乃木くん。


「なーなー、ルカぴょんは何やんの?」

「え、別に…」

「ルカくんはあたしと一緒にパフォーマンス祭のミュージカルに出演するのよ。ルカくん何と主役よ!?」

「ミュージカルの主役!?」


ミュージカル…
宝塚みたいな感じ?乃木くんがそんな事するなんて想像できない。
想像できない私とは違い、何か想像していた蜜柑は乃木くんに全否定されていた。


「あ、心読みくんは?」

「僕は真実の鏡だよ、嘘ついた人を叩くんだ」

「??えっとねー、ウチはー、」


心読みくんの言った事は理解できなかったのか、自分の出し物を言おうとしたら、またまた先生登場。今度は潜在系の担当のセリーナ先生という人らしい。
そして技術系の時同様、委員長と心読みくんが行ってしまい、乃木くんとパーマも体質系に行ってしまった。

取り残された私たち特力系。


「は!こんな時間っ!」

『はやく。私行った事ないから道知らない』

「そうやっけ?まだ一回もなかった?」

『いつもタイミング悪かったの』


眠気とサボりの。


蜜柑に案内されクラスに入ると真っ先に目に入った安藤先輩。そして文化祭の準備をしてるのか様々な布やハリボテ、ペンキなど。


「おー、チビ来た来た!」

「みなさんごきげんよー、今日からまた張り切って準備がんばりまーす」

「…どーしたんだお前。お!華鈴もいんじゃねえか!ちょーどよかった、紹介するよ!」


ずーん、とあからさまに落ち込む蜜柑に、何か感じ取った安藤先輩だが、私が来てることに驚いた。そりゃそうね、初めて来たんだもの。


「おーい、のだっち!」

「はーい!あ、」

「ぎゃっ!」


安藤先輩が誰かのあだ名らしきものを呼ぶと、その本人が沢山荷物を持ってこっちに来た。そのせいでよろけて蜜柑にぶつかり二人して転んだ。私は避けたわ。


「あーあ、何やってんだよのだっちー。のだっちこれうちのルーキー達。チビズ、特力クラスの担任タイムトリッパーの野田先生」

「よ、よろしく」

『はあ。よろしく』

「君は…」


糸目だからわかんないけど、じっと見られてる気がする。ここの教師は私の顔に興味ありすぎだと思う。自意識過剰とかじゃなくて。


「そうだ!華鈴の事はのだっちだけじゃなくて、みんなにも紹介しねーとな!」

『別にいらない』

「まあまあ!おーいみんな!蜜柑と同じで特力に入った佐倉華鈴だ!」


いらないと言ったのにこの人は。
声が通るのか作業中の人達も手を止めてこちらに来た。
作業音が無くなり静かになった教室。

静止画のような世界の中、真っ先に動いた一人の女の先輩が近づいて来た。


「へえ!この子が!何翼一人だけ仲良くなってんだよ!」

「いて!」


男勝りな女の先輩に安藤先輩は小突かれてる。
思ってるより痛そうだけど。


「あたしは原田美咲。美咲でいいよ、よろしく!」

『…よろしく』

「噂通りのクールビューティだなあ」


誰よそんな事言ったの。心当たりあるけど。
じとりと蜜柑を見るとてへっと舌を出した。ムカついたからほっぺを引っ張っといた。

美咲先輩が言葉を発してくれた事で、みんなも口々に話すけど全部聞き取れない。当たり前だ。


「特力の宝だ!」

「これで特力の株も一気に上がるな!」

「生きててよかった…!」


誰かすごい大げさな事言ってる人いたけど。
さっきの静けさとは打って変わってはしゃぎモードになるクラス。
ここのクラスは変人と言われ少人数だけどみんな仲間意識が高い、と言うのは本当らしい。

私の簡単な自己紹介は終わり、担当ののだっちのタイムトリッパーの話も聞いた。制御できずにいろんな時代に飛ばされては戻るのに必死で、特力の授業どころじゃないとか。

のだっちは親しまれそうな優しい雰囲気の先生で、そしておっちょこちょい。これもまた特力が仲良い訳なんだろうと思う。


「さてと、佐倉さん達。君達には準備には参加せず僕とこちらへ」

「え?」

「学園へ来て一度もまともに能力別授業を受けていないと聞きました。というわけで今日から文化祭までちゃんと能力別授業を受けてもらう事にしようと思って」

「ちゃんとした能力別授業?」

「せっかく自分のアリスを広く人にアピールできる文化祭なのに、このままでは君は不安定な力のままで特力のメンバーとして文化祭に参加することになる」


それは特力のためにも私達のためにもならない、と。
要するに文化祭までの間私達三人はアリスの能力アップのための授業をして、特力の出し物の重要戦力に育てようということね。
私もきちんとアリスを使いこなせるようになりたいし、ありがたいことではある。

のだっちが黒板の前に立ち、私と蜜柑は一番前の席に座る。


「能力アップのためにはまず自分の能力を知る事が大切です。お二人は"能力のかたち"というものを知ってますか?」

「はい!しりません!」

『右に同じ』

「はい、いいお返事ありがとう。能力者には四つのタイプがあってね、」


一つ目、子供の時だけにしかアリスが発生しないタイプ。
二つ目、能力を小出しにしか使えない代わりに細く長く能力を持続するタイプ。
三つ目、一挙にドカッとアリスを使うことが出来るけどその分、アリスの寿命を早めてしまうタイプ。
四つ目、アリスに底がない代わりに能力を使う度にその人間の寿命に影響があるタイプ。

と、全て説明してくれたのだっち。

この四つが"能力のかたち"という。能力の容量は人それぞれであり、これを踏まえた上で星階級が判断されることが多いらしい。

私たちにもその"能力のかたち"があるはずだから、それを見極めていくことが一つの課題となる、と。

一つ目の子供の時だけのタイプは大人になるにつれアリスの寿命を迎えてしまい、途中で学園を去る人がいる事も少なくない。

それを聞いた蜜柑が嫌なことを想像してるのか、恐らく自分たちのクラスメイトの誰かがそのタイプだと寂しいと思ってるのだろう。


「勿論、否が応にも寿命を迎えるタイプは一つ目のタイプだけで、他のタイプは能力容量の個人差か能力の使い方次第でいくらでもその寿命を延ばすことができるんだ」

「でものだっち、四つ目のタイプはちょっと違うだろ。あれは能力に際限ない代わりにその人間の寿命を縮めるんだから」


のだっちの言葉を補足するように美咲先輩が口を挟んだ。


能力に底がない代わりに、人間そのものの寿命を縮める…

それを聞いた私の頭の中は何故か一人浮かび上がった。

発火能力者で絶大な潜在能力をもつ天才アリス
過労による体調不良

…まさか、日向、
あり得ないことではない。少しでも当てはまるなら、頭に入れておかないと。

___ 寿命、ね…


「まあ今いきなりこんな話ばかり聞かされても難しいですよね、そろそろ実践に入りましょうか」

『実践?』

「じゃあまずは、佐倉華鈴さんの方から。今から僕がタイムトリップしますからそれを君のアリスで阻止した下さい」


なるほど、実践ってそういうことね。

無効化の力を使うには相手がいなきゃ始まらないし、その為に犠牲になってくれると。

納得する私と違い、目が点になってる蜜柑。


『なんて顔してんのよ』

「能力アップの方法、そんなんで?」

『まあ、自分たちのアリスだと妥当じゃない』

「うち、もっとこう、機械みたいなんで一気にビューンて大きくしてくれるんかと、」

『…この学園ならあり得なくはないわね』


アリスについて知る前なら、何馬鹿なこと言ってんだこいつ、てなったけど。


「では、始めましょうか」


蜜柑と話していると、伸びをしたのだっちがアリスを使おうとし、体がジリジリ透けたりしている。


「僕を止められなかったらまた過去か未来をさまよって当分ここに戻れなくなってしまう」

『止めればいいんでしょ』

「ええ、よろしくお願いします」


やり方なんてわからないけど、カウントダウンが始まったので目を閉じて心の中で打ち消すことを考える。

消すことに、集中して…


「…さすが、ですね」

『…できた』

「華鈴凄い!!」


目を開けると、消えかけているのだっちではなく、無効化されてちゃんとここに存在している。
まだまだ安定してるわけじゃないけど、今みたいに余裕があってゆっくり出来るなら使えそう。


「さて、次は佐倉蜜柑さん」

「え?」

「よろしくお願いしますね」


同じくカウントダウンが始まるが、急な展開についていけないのか、ゼロに近づくカウントダウン。


「っま、まってー!!」

「…おや、大成功ですね」


のだっちに飛びつき体を張って見事無効化でタイムトリップを阻止した蜜柑。


「先生のアホバカ怖かったやんかーっ!」

「ごめんなさい、でも君にはこういう方法が合ってると思ったので、怖い思いさせてごめんなさい」


ぽかぽか飛びついて倒れ込んだ状態でのだっちを殴る蜜柑と、それを咎めるのだっち。


「昔、君と同じ無効化のアリスを持った人がいてね、いつだってその人はその力を何かを守る時にしか使わない人だったので、もしかして君もそうかもしれないと思って賭けに出てみたんです」


直感は大当たりでした
と、懐かしむように微笑みながら言ったのだっちに、神野先生が無効化の人の話をしてる時の表情と既視感を覚えた。


「佐倉華鈴さん、あなたの無効化も」

『え?』

「あなたの場合、周りに使う無効化なら威力が絶大なんじゃないかと思いまして」

『…それは昔いた無効化の人とは別?』

「そうですね、佐倉蜜柑さんに言った無効化の人とは違う人です」

『…そう』


この学園に、無効化が二人いたってこと?
でも、鳴海先生も神野先生も、いつも話に出てくる無効化はいつだって蜜柑に関係ある事だった。
私に関係のある無効化の人は一切出てこず。
単に問題児じゃなかったとかかしら。

色々考えていると、泣いてる蜜柑を慰めているのだっち。


「文化祭まであと少し、特力の成功の為にもギリギリまで頑張りましょう」

「はいっ!」

『蜜柑が安定してきたら一緒にするわ』


それまで観察。

また席に座り、蜜柑とのだっちのやりとりを見ることに。そして、のだっちがもう一度アリスを使おうとカウントダウンを始め、蜜柑が無効化を使うが、


「ギャー!先生〜っ!!」

『…早速失敗』


のだっちは消えてしまった。
過去か未来かわからないけど、現代にはいないでしょうに。アリス祭までに戻ってくるのかしら。


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