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鳴海先生の勧めで、パーマも乃木くんも特力の出し物に参加してくれるみたいで。


ここで、安藤先輩がRPGアラジンと魔法のランプについて説明をしてくれた。

挑戦者が迷路に入り迷路に散らばる私達特力メンバー演じる魔人を倒し、ゴールに行く。

魔人を倒すにあたり、ルールがいくつかある。
一つ目、暴力や相手を傷つける行為は即失格。
二つ目、武器は挑戦者が非アリスの場合はこっちが用意した武器の中から三つ選べる。挑戦者がアリスの場合は武器は一つと、自分のアリスの使用のみ。
三つ目、魔人を倒すためにはその武器と知恵を使って魔人の出す難問をクリアする事が条件。

挑戦者が代わる度に魔人もシャッフルされるので同じ魔人に当たるとは限らず、魔人にまいったを言わせることが出来てもクリアの条件になる。

ちなみにゴールすれば商品として魔人の数に合わせて用意されたランプのうちどれか一つを選べて、ランプの持ち主の魔人を三つ願い事を叶えさせるまで拘束できる権利が貰える。期限は一週間以内。


これでやっと私にも詳しい事がわかったわけだ。


一番手に乃木くんが入って行くのを見送った後、所定の位置に着くように放送された。


「華鈴はウチと一緒にゴール前やで!」

『そんな重要なところでいいの』


どうやら私達はセットになってるみたいで。
蜜柑に迷路の中を案内されながら一番奥まで行った。
そこには用意されている高めのブランコみたいな絨毯が。


「ウチらは無効化やから、それを活かすための問題考えたんや」

『何?』

「ウチに一切触れずに三十秒以内にこの絨毯から下ろしたら相手の勝ち!」

『ふーん、いいんじゃない』


なんて話しながら二人で絨毯に乗って挑戦者を待っていると、二番手の鳴海先生が来た。
どうやら乃木くんは失格したようで。


「僕みたいなフェロモンで相手を意のままにしちゃう人間ならコレすぐゴールできちゃうんじゃあ…」

「フッフッフッ。ウチに一切触れずに三十秒以内にウチをこの絨毯から下ろしたらここ通ってもいいよ!」

「あちゃ〜」

『鳴海先生アウト』


私の宣言通り、何も出来ずに三十秒が経過した。

そして放送で三番手にパーマが入ったと聞こえて来たけど、ここに来ることはなかったので途中どこかで失格になったんだろう。

他のどの能力別クラスとは違い、各々に違った形のアリスを持っている特力系だからできる出し物なわけだ。


そして時間が経ち、私たちの特力系RPGは大好評となり、今では三十分待ち。
最後に来る人なんて滅多にいないから私達も暇になってくるので、持参したお菓子を食べながら挑戦者が現れるのを待っている。
と、どこからかパーマの日向を呼ぶ声が響いてきたのを聞いた蜜柑が会いに行くと言って、行ってしまった。

あんた行ったら私一人になるじゃない。

仕方なし一人で絨毯の上に座っていたら蜜柑が爆発する音と日向の名前を叫ぶ声が。

流石に私も気になったから絨毯から下り、おそらくいるであろう入り口付近へ。
途中安藤先輩に会ってサボるなと言われたけど、サボってる蜜柑を連れ戻しに行くだけと言うと、早く戻ってこいと言われた。

関係者専用の出入り口から迷路を出ると、すぐそばに蜜柑達が。
蜜柑は蛍作のタコスミ弾を構えて日向に向かって撃とうとしてる。


『…何してんの』

「っあ!華鈴〜!!」


タコスミ弾を放り投げ、私の胸元に飛びついて来た片割れ。
また日向に何かされたんだろう。


棗が来た事で変にざわついていたこの場所も、華鈴の登場で更に大きくなるが本人は気にせず。


よしよしと撫でてやると、日向達もこっちに来た。


「華鈴ちゃんもヘソ出しだ〜」

『まあ。気が乗らないけど』

「似合ってるよ〜」


心読みくんに言われ、正直な感想を返す。

私の胸元にいる蜜柑は近付いてきた日向に敵意を剥き出しにしながら威嚇してる。


「なーつーめー!!華鈴にまであんなことしたら許さんでえ!!」

「他人が見てる可能性あるのにしねーよ、どけ水玉」

「いぎゃっ」


あっさり負けた蜜柑。
パーマのところに倒れるように蜜柑の腕を引っ張った日向。蜜柑はなんとかパーマにナイスキャッチされていた。

ここにいるってことは乃木くんを探しに来たのか、まさか特力の出し物をしに来てくれたのか。
後者の可能性は低いだろうけど。

声をかけようと口を開いた瞬間、さっきまで蜜柑がいた私の胸元に違和感が。

むにぃ


「水玉よりはマシだな」

『……!』

「っ棗ー!!!触っていいら言ってないやろ!!!ウチの!!」

「はっ、誰がお前のだ」


びっくりした。びっくりしない方がおかしい。
普通に胸を触ってくる人になんて出会ったことないし。
そもそもあんたらのじゃないし。

顔も少しだけ赤くなるのを感じた。


− 少しでも顔を赤らめるという、普段とのギャップに今までの一連を見ていた周りの人々は華鈴に堕ちるのだった。


蜜柑の怒鳴り声を聞きつけた安藤先輩が未だ戻らぬ私達を連れ戻しに来たけど、その場は収まりがなくなっていた。
いつもより顔が赤い私、怒りの蜜柑、なぜか顔が赤い乃木くんとパーマ、普段と変わらない日向。

とりあえず日向には後で落とし前つけてもらおう。


「翼先輩ー!!ウチの華鈴がー!!」

『………』

「あー、なんかあったわけね」


今は危険な日向から離れ、安藤先輩の後ろに避難する。
さっき見られる可能性と言ってたから、蜜柑はおそらく覗かれたりしたのだろう。それなのに今は私の事で頭がいっぱいいっぱいになってるみたい。

後ろにいた私を安藤先輩はまた腕に担いで、日向に近付く。移動には便利だけど子供扱いされてる気がするのが気にくわない。
蜜柑は後ろから日向に威嚇してる。


「何?うちのRPG試しに来てくれたのか?」

「(まただっこ…)」

「(…何だてめえ)」

「(ん?何だ、今の…)」


翼を無視し、流架に声をかけてこの場を去ろうとした棗だが、もしかしてと何か閃いた翼が華鈴を一旦下ろして、再び持ち上げ腕の中でぎゅーっと抱きしめた。身長差があるため華鈴の足が浮いている。


『ちょっと、』


その瞬間バッと翼と華鈴の方を見る棗と流架。


「(おお、おもしれー。そういう事ね)人気者だねえ華鈴様は」

『離して(何かムカつくその顔)』


顔が冷めたのかいつも通りの無表情で言われた翼は、華鈴をおろす。
一番初めに棗と流架の気持ちに気付いたのは翼だった。

このやり取りをしている間に、心読みくんが日向の分の特力系のチケットも手に入れたみたい。


「まー折角ここまで来たんだし、どうせだからやってけば?うちのRPG、結構ハマるよ」

「誰がハマるかよ、そんなしょーもねーゲーム」


安藤先輩が勧めるが、やはり日向はやる気はないみたいで、日向の言葉を聞いたクリアできていない周囲の人々はカチンと怒りマークが浮いている。蜜柑も。


「だったらそんなしょーもねーゲーム、簡単にクリアできて当然だよなあ」

「………」


まあ、日向もまだまだ子供なわけで。
安藤先輩の軽い挑発に乗ってしまい参加することに。

ルール通り武器を一つ選ぶ日向達。
じゃあ私は持ち場に戻ろうかな、と思っているけど安藤先輩に後ろから覆いかぶさるように抱きしめられている。
その状態で武器を持った日向達が迷路に入っていくのを見送ると、なにやら日向から鋭い視線が安藤先輩に向けられている。


「ベタベタしてんじゃねえぞコラ(俺が勝ったらてめえ、速攻奴隷にしてやっからな)」

「(おっと、こわ…、挑発しすぎたかな)」


どうやら二人は馬が合わないみたい。

スタートの門を通り入って行った日向。まだ怒りが収まっていなくプンプンしてる蜜柑の手を握り、私たちも関係者入り口から入り奥に進む。
普段手を繋ぎにいったりしないからか、蜜柑は嬉しそう。

二人で絨毯の上に乗って、挑戦者を待つ。
おそらく日向の事だ、なんとかしてここまでたどり着けるだろう。
なんて考えながら蜜柑はバナナ、私はいちご大福を食べながら来るのを待つ。


「棗のやつ、絶対許さへん」

『いいじゃない、減るものじゃないし』

「華鈴もなあ!女の子がそんな警戒心なかったらあかんで!」

『普段は警戒してるし、日向があんな事するなんて思わなかっただけ』

「あー!思い出したらイライラしてきたあ!!」


まあ、覗かれた時に他の人に見られていたら確かに嫌だろうし、その分私はまだマシかもね。

もぐもぐ二人で食べていると、前から人影が。


「げーっ棗!あんたもうこんなところに!」

「てめえらかよ、さっさと問題出しやがれ」


さてさて、私達はペアな為どちらかが出題することになっている。その場合出題しない方が観戦となり口出しはしてはいけない。


『どうする?』

「ウチがいく!!」

『りょかい』


よほどさっきの事件が許せないのか、蜜柑自らが日向くんと戦うことに。
なら私は絨毯から降り、端に移動して残りのいちご大福を食べながら二人の様子を伺う事にしよう。

私が移動したのを確認した蜜柑が問題を出す。


「ウチに一切触れずに三十秒以内にウチをこの絨毯から下ろすこと、それがここを通るための条件!」


ここに来た人は数名いたが、みんなこの問題のせいで脱落する羽目になっている。


「言っとくけどウチを前にアリスでどうこうしようとかムリやからな」

「…ちっ(特訓なんてつきあうんじゃなかった)」


日向は一体どうするのかしらね。
そういえば、日向の武器は何か知らない。おそらく武器を使うと思うけど、と見ていると予想通り武器なるものを蜜柑に投げつけた。


『…(うわ、私じゃなくてよかった)』

「何のマネ?ウチはゴキブリなんか怖くありませーん」


田舎育ちだ、よく出てきたけど、私はどうも苦手だ。気持ち悪いし。出てきた時はいつもお爺様か蜜柑に退治してもらっていた。

ゴーキちゃんゴーキちゃん、と歌い出す蜜柑に正直引く。よくあんな物直に触れるわね。

日向も頭の中を巡らせ、この状況をどう打破するか必死に考えている。
すると一瞬、何か閃いた顔をした直後、壁にもたれかかるように力なく座り込む。


「ちょー何のマネ?仮病なんやったらそんな手には…」

「はあ、っはあ…」

「…ちょっと、…棗?」


日向が閃いた顔をしたのを見逃していたのか、初めは仮病と思っていた蜜柑も尋常じゃない状態の日向に本気で焦り出す。

ああ、これは、負けたわね。


「棗っ!!」

「バーーーカ」


飛び降りた蜜柑を日向は引っ張り肩を組み、演技をやめる。


『二十五秒。クリアね』


惜しい、あと少しだったのに。

本気で心配したことへの怒りと悔しさから再び泣き出す蜜柑を慰める。

その後日向がゴールをした事で、祝クリア一人目となった。


「ゴール賞品の授与なワケですが、ランプを選んでもらってそのランプの持ち主の魔人が…」

「さっさとよこせよ」

「(ま、いっか。まだ俺のランプが選ばれるとは限んねーんだし)てか華鈴も出題しろよなあ、棗なら二人掛かりで良かったのに」

『それなら先に言って。私は蜜柑と違ってヘマしないし』


うわーんと泣きつく蜜柑を撫でてやると、私の頭をぐしゃぐしゃ撫でてくる安藤先輩。
だから、それ髪の毛乱れるからやめてって。
睨み付けると冷や汗をかき苦笑いしながら手をどけた。


「…おい、読め」

「げっ、汚い手使いやがって!」


そういえば日向と一緒に来てたのは心読みくんだったから、ランプの持ち主なんて筒抜けだ。

選ばれなかったら良いだろうと思っていた安藤先輩も流石に落ち込む。
可哀想に、一週間も奴隷なんて。


「…これか」

「うん」


一つのランプを手に取り、開けて中を確認すると、

− これは佐倉華鈴と佐倉蜜柑のランプです


「あれ?華鈴ちゃんのランプを選ぶんじゃなかったの?さっき棗くんの心に華鈴ちゃんの顔が見えたもんだからつい。ごめんねー」


日向の手には私と蜜柑の写真付きの紙が。
そもそも私もランプに入ってるなんて聞いてないし、写真も見覚えがない。


「あ、それウチが選んだやつ。可愛いやろ」

『あ?』

「いでっ」


勝手に人を売り物にするな。撫でていた手を止めて軽く叩く。

まあ、私とセットになってたし蜜柑も同じ環境になるって事はまだ良い事だ。
これで蜜柑は奴隷じゃないとかなら日向に蜜柑を売りつけていたところだった。

一週間の間、変なお願いされませんように。



_____

ここは本当に悩んだ。棗に何も手を出さないか出させるか。
結果出させてしまったけど、周りには見られたくない、自分だけが触れたいという欲からてことで。
華鈴も他の人にされたら顔が赤くなるどころかぶっ潰してると思う。棗は少し特別になってきてる。


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