風丸から見た少女

昔からずっと見守ってきた大事な女の子。
気付けば、一般の人には手の届かないところにいて、俺にはたどり着けない存在なんだと思っていた。

それでも、ずるいかもしれないけど、幼馴染という関係があって手の届くうちは、自分の中で思い続ける事はいいだろう。



『いっくんいっくん!』

『いっくんは本当に走るのが速いですね』

『いっくんの走ってる姿、か、かっこいい…』

『いっくんがプロになっても、私が一番の、その、ファンです、よ?』

『いっくん、いつもありがとう』



真雪に名前を呼ばれるのが好きだった。俺の記憶では7割は涙を浮かべている姿を占めているが、その涙は安い涙なんかではない。
嘘泣きでも、気弱なふりをしてるわけでもなく、感受性がすごく豊かで、すぐに顔に出てしまうだけだった。

初めて会った時、もしかしたら俺の方が気弱だったかもしれない。
それがいつからだろう、ある日を境に真雪の涙を見た時、自分がそばにいて守り抜こうと決めた。涙なんかより真雪は優しい笑顔がとても似合う素敵な女の子だから。


俺に向けてではなくてもいい、幸せに笑っている姿が見れるならそれでいい。


『いっくん?』

「…あ、真雪?どうした?」

『ん、と、いっくん、何だか寂しそう、な感じがしたから、』

「そうか?何でもないぞ」


真雪は頭を撫でられるのが好きだ。今も俺が撫でると嬉しそうに頬を緩める。
でも、真雪が辛そうな顔をして俺を見た。


『いっくん、嘘、嫌です…』

「え?」

『皆さんは騙せても、私にはわかるんですから!』


お見通しですから!さあさあ、話してください!
という目をして俺を見てくる真雪。

長い付き合いの円堂でも絶対に気付かないのに、真雪はほんの些細なことでも人の感情に敏感な人だ。

俺が真雪の変化にすぐ気付けるのと同じで、真雪も俺のことをよく見てくれている。



だから、それで充分なんだ。


「真雪」

『はい!』

「ありがとう」

『っえ?いっ、くん?』


そっと抱き寄せると俺の腕の中にすっぽり収まる小さいのに、体から伝わる体温は暖かくて落ち着く。


この温もりが俺のそばから離れるまで、守り抜こう。
それが俺が真雪に返せる、唯一のことなら。



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風丸は気が付いた時から一番見守ってきた大事な幼馴染
切ない…