続き
「改めて紹介するぞ」『名字妃鞠です。よろしくね』
そしてさっきのお見苦しいことは忘れてちょうだい、と付け加える。
それに関してはみんな苦笑いで誤魔化す。
「はい!聞いてもいいですか!」
『なあに?天馬くん』
「サッカーやってるんですか!」
『やってたよ。今はしてないけど』
「さっきのプレー!すごかったです!」
『…円堂みたいで可愛いねえ』
天馬の頭よしよしする。
ここでも母性発揮。
顔を赤くして恥ずかしさで照れる天馬。
『君達の活躍はテレビで見てたよ、よくがんばったね』
いやいや、と照れるみんな。
『ずっと嫌な状態でサッカーして、辛かったよね』
決められた通りのサッカーなんて、何も面白くないし、大好きなものへの冒涜だ。
『その鬱憤を、ぶつけていいのよ』
「どこにですか?」
『豪炎寺』
「おい」
『私も力を貸すね、2チームに分かれて試合なんてどう?』
「良い案だな!じゃあチームは、」
『私は鬼道と一緒で、豪炎寺敵チームであとは任せるわ』
本当は円堂も同じが良いけど、円堂が守っているゴール目掛けてシュートを打ちたくもある。
もちろん豪炎寺はさっきのリベンジもあるため敵。
「負けず嫌い」
『私の方が強いよ』
「負けないさ」
『余裕があるのも今のうちなんだからね』
ふん!と意地で豪炎寺を睨みつける。
その相手は、ああ、可愛いなとしか思ってないため、効果はない。
豪炎寺、円堂、鬼道も着替えるために旧部室へ行ったのを確認してから、妃鞠の視線はずっと一人の選手に向けられている。
本人も気付かないわけがなく、一度目が合い頭を下げてからは気まずそうに視線を合わせようとしない。
「なーに剣城くんのこと見てるんですか?」
『…立襟、エースストライカー、ツリ目、ツンツン頭』
「…なるほど。愛しの人そっくり、と」
『春奈!?』
改めて、リアルで目の前で見ると、豪炎寺のことリスペクトしてるんだなあ、と可愛くて悶える。
「見せつけてくれたもんなあ」
いたずらっ子狩屋も春奈に便乗してにししと揶揄いに走る。
『…ヒロトに言いつけてやる』
「んな!何でヒロトさんのこと、」
『ふふ、何ででしょうねえ』
まさかのラスボスの名前にマサキの警戒度マックス。
そして、もう一人
『君が、零治くんの血縁者ね』
「れいじく、え、えぇ!?あの、叔父とは、どんな関係で、」
『…大切なお友達だよ』
友達??
影山、頭の中が疑問で埋め尽くされる。そこそこ歳の離れている二人が、友達?はて?
そして念願の剣城の近くへ。
「…何ですか」
『ちょいワル豪炎寺だ』
でも敬語ちゃんと使って可愛い。身長高いな。
そうだ、剣城兄弟は豪炎寺のことが憧れて、小さい頃からシュート技を何度もマネしていた気がする。
『同じだねえ』
「同じ…?」
『うん、豪炎寺のこと憧れてるんでしょ?私と同じ』
「…貴方にとっても、あの人は憧れなんですか」
『憧れだよ。豪炎寺がいたらね、どんな試合も勝てるってそんな気になれるの、みんなのヒーローだよ』
「ヒーロー…」
『あ、でも私の方がほんとに強いからね?』
「そこは認めないんですね」
『ほんとだって〜。……ちょっと写真撮って良い?』
「は?」
『ツーショット!一枚だけ!お願い!』
「いや、俺は、」
『豪炎寺の昔の動画見せるから』
「…!、一枚だけですよ」
ちょろい。そこが可愛い。
そうだよね、憧れてる人の過去のプレミア動画なんて手が出るほどほしいもんね、わかるよ。
自撮りしようとしたが、私たちを見た春奈が撮ってくれると。
ちょっと試してみたいことがあったので、剣城くんには普通に立ってもらって、私は後ろに立つ。
ちょっと警戒気味の剣城くんのこめかみを後ろから両手で挟む。そして横から顔を出す。剣城くんの頭の上からは私の顔は出せん。身長高いよこの子。
剣城くんがぎょっとしてる間に春奈に目線で撮るように。
「撮れました!」
『ありがとう』
春奈が撮った写真を見せにきてくれた。
驚いてるこめかみの毛を私の手で隠した剣城くんに、笑顔の私。
やっぱり、
『豪炎寺に似てるねえ』
こめかみを挟んでいた両手を両肩に移動させる。
似てるという言葉に、心なしか嬉しそうな、可愛い。
ショタコンになった覚えはないけどやっぱり顔がいいし性格も可愛いので癒される。
ニマニマして破顔してる自覚はある。
はああ、と幸せなため息を吐いたところで、春奈が何かに気付き、あ、と声をあげた。
「妃鞠」
『あ、豪炎寺。見てみて、剣城くんこめかみ隠したら豪炎寺そっくりだよ』
ほら!ともう一度同じようにする。
『昔の豪炎寺みたい!』
「妃鞠、」
『剣城くんもかっこいいから、どんな髪型も似合うねえ。豪炎寺もね、おろしてもワックスしてても、すごくかっこいいんだよ』
にこにこしながら思っていることを伝える。
あ、円堂!とユニフォームに着替えた円堂が視界に入るとその場を離れる。
「…お二人とも、顔赤いですよ」
「…(かっこいい…)」
「剣城くんに対して、嫉妬しないでくださいね」
「…してない」
「そうですかあ???…あ」
『円堂!ユニフォーム!似合ってる!かっこいい!』
「そうか?ありがとな!」
『も〜!すき!』
「俺も好きだぞ?」
きゃあっと昔から変わらないラブをぶつける。
それを何とも言えない顔で凝視する豪炎寺。
「…いい加減、円堂さんには慣れませんか?」
「無理だ」
ほんと、妃鞠さんに対しては心狭いんだから。
サッカー中、今度はしっかり豪炎寺を抜いて円堂が守るゴールにもシュートを決める。
おお!とどよめく選手たちに鼻が高くなる。
プチ試合も終えて、選手たちは着替えに更衣室へ、円堂たちは旧部室へ。
妃鞠はこの後出かけることもあり、春奈にシャワー室へ案内してもらった。夏未もついてきている。現マネージャーたちはお片付け中。
『豪炎寺と和解しちゃったから、仕返しできなくなったわ』
「何かするつもりだったんですか?」
『ええ、4年ほど音信不通だったのよ?同じ目に合わせようかと』
「え"、私すごく余計なことしちゃいました?」
『まあ、大丈夫。スッキリしたから、誘ってくれてありがとうね』
「すみません、、妃鞠さんはずっと夏未さんのところにいたんですか?」
「そうね、一年ぐらいかしら?」
『そうだねえ、それまでは一人だったり、正剛くんのところだったり…塔子のとこにもいったわ』
「塔子さんのところですか!?」
『そう。あの子ったら豪炎寺にブチギレて、権力と金でフィフスセクター潰してやる!て、冗談でも頼もしかったわ』
「…それ本気だと思いますよ」
『ん?ごめんシャワーの音で聞こえなかった』
「いえ!素敵な友情ですね!!」
『ほんと、恵まれてるよ、私。夏未のところはすごく長く居ついちゃってごめんね?』
「いいのよ。これからも一緒が私は嬉しいんだけど?」
『わあ、それはすごく悩ましい…。でもそれだとずっと甘えちゃうわ、だからまた何かあったら、いいかな?』
「ええ、もちろん。ご馳走用意しておくわね」
『ワーイ』
夏未のご飯、やっぱり芸術的。
でも一年も食べてたらちょっとは慣れてきてる。
選手たちはすでに帰っており、豪炎寺がサッカー棟の前で待機していた。
食事まではまだ時間があるので、どうせなら豪炎寺と時間潰したらいい、と二人が提案してくれた。
改めて二人にお礼を言って、シャワー浴び終えてスッキリした状態で豪炎寺の元へ戻る。
駆け寄ってきた妃鞠を愛おしそうに見つめる。
『おまたせ』
「いや、行くか」
『…ちなみにどこに?』
「…お前は今、どこで生活してるんだ」
『円堂のとこだけど』
「円堂の家以外に、契約してるマンションとかないのか?」
『あー、一応あるよ。中学の頃から住んでるところ、豪炎寺も何回かきたことあるでしょ?』
「あそこか」
『うん、でも最近帰ってなかったから埃とかやばいかも!掃除しなきゃ!』
「…じゃあ、今日はうちに泊まるか?掃除は明日一緒にすればいいさ」
『ほんと?じゃあお邪魔しよっかなあ、円堂のとこにお世話にならなくてすむよ』
「…円堂に頼るのもいいが、まずは俺を頼ってくれないか?」
『頼りにしてるよ、でも最近距離あったから無理だったじゃん』
「…ヴ」
『さっきも夏未たちと話してたけど、私許したわけじゃないからね?本当は最短でも一年は隠れようとしてたから』
「な、」
『それで終わりだったら終わり、で割り切ろうとしてたの』
『でもだめね、きっと私は豪炎寺じゃないとダメなんだよ。君が私から離れても、気持ちがなくなったとしても、君のことを好きな気持ちはずっと変わらない』
重いね、わたし。
と乾いた笑みを浮かべる。
それを辛そうな顔で見つめ、堪らず抱きしめる。
「すまなかった…!俺だって、お前じゃないと無理だ。…だが、サッカーを取り戻すためにお前に寂しい思いをさせた、それは変わらない」
『うん』
「サッカーが俺とお前を繋ぎ合わせた、だから、管理されているサッカーが許せなかった。何も言わずに一人で決めてすまない、」
『…私も豪炎寺の力になりたいから、それだけは覚えていてね』
ぎゅうと抱きしめられている腕の中から力を入れて引き剥がす。
チラチラ周りを確認して、誰もいないことを確認してから、背伸びをしてきゅっと固く閉じられている唇に触れるだけのキスを落とす。
その行動に、あの豪炎寺が、目を見開いたまま固まってしまった。
『ざまあみろ』
べー、と舌を軽く出して挑発する。
それに男としてのプライドを刺激されて腰と頭を抱え込み、離れた距離を再度近付ける。
「…もう一回、」
そして、目を閉じて顔を傾けたところでゴチン!て音と額に激痛が走る。
「いっ!」
『許してないって言ったでしょ』
腕の中から抜け出して先に駆け出す。
反撃を受けた豪炎寺はモヤモヤしたままだが、まあいい、この先時間はいくらでもある、とその背中を追いかけた。
