新しい居場所
他人の空似かな、と無理矢理に思うこともできたけど、目の前の男性から名前を教えてもらって確定した。響正剛。ラーメン屋の店主。
同姓同名、見た目も似てる人が私のいた世界に存在しているなら話は別だけど、そこまで熱狂的なファンはいないと思う。仕事も同じだなんて。
そもそも今がどんな状況なのか頭が回らない。
これも、もしかして夢?夢と思えばなんとなく受け入れられる気がする。よく見ていた、イナズマの夢の中にまた紛れ込んでしまった。
起こした上体が、頭がくらりとして再び布団に戻る。
一体私の身に何が起こった?死んでしまったのではないのか?生きてる?それにしては身体に少し違和感がある。
「お前、、名前は?」
「名字妃鞠です」
「…名字妃鞠、だと?」
『はい、あの、ここは、』
とりあえず夢の中だとしても、どんな状況なのか確認したい。響監督とも会ったのは若い頃、つまり何十年も前の話だ。私のことを認識できるのかも危うい。そもそもあの頃見ていた夢の続きとも限らないし。
いつもの夢はちゃんと一人でスタートして、ばったり誰かと出会う、という流れだったので困惑する。
私の名前に反応してくれた、ということはもしかして、この夢はいつも見ていた夢の続きではないだろうか。
『あの、違ったらごめん、、正剛くんだよね、私のこと、わかる?』
「今わかった、わかったが…ちょっと待て、整理させてくれ」
『やっぱり!よかった、続きで…』
「続き?」
正剛くんは私の夢にいた正剛くんだった、よかった。
じゃあ今は夢の中ってことで、事故にあってそのまま眠っているのかな、今回はどのぐらいしたら目が覚めるのだろうか。
『夢だよ、夢』
「夢だと?」
『ここは私の夢で、昔見てた正剛くんがまた現れてくれたってこと!て言っても夢だから何言ってるかわかんないか』
私も説明してて分からなくなってきた。
私の説明に正剛くんは眉を顰める。説明不足で申し訳ないけど、これ以外に説明しようがないしなあ。
「現実だ」
『ん?』
「…夢なんかじゃないぞ。ここは正真正銘現実で、今を生きている」
『…ええ?何を言って、、ほんと、私にとって都合のいい夢だなあ』
あははって笑ったのに、目の前の正剛くんは微動だにしない。おかしいな、何だか、いつもと何かが違う感じがする。
「妃鞠、よく聞け」
『…うん』
「俺はオマエと最初に会ったのは、何十年も前の話だ。あの頃のオマエと同じ姿の妃鞠が目の前にいる。…夢と思いたいのは俺の方だがな」
『ちょっと、まって、。私は、ずっと夢見てて、夢でしか正剛くんに会えなくて、だから今回も夢で、でも成長してて、でもこれが見慣れてる姿で、』
心臓の音が、ドクドクと、リアルに伝わる。
私自身、何を言ってるか分からないけど、説明するのが難しくて、うまく伝えれない。
アニメやゲームでよく見てた響監督は今目の前に存在して、私が過去に夢で見ていた正剛くんは私が夢で作り出していた人物のはず。
「落ち着け」
『あ…』
私の片手を正剛くんが両手で包んでくれる。
これは、昔私が夢の中で正剛くんを安心させるためにやったおまじないみたいなもので。
「まじない、だったか?…今じゃあの頃より手の大きさが違うがな」
やっぱり、今目の前にいる響監督は間違いなく、私が夢で出会った正剛くんだ。
『わ、わたし、ね』
包んでくれる手の温もりが私を落ち着かせてくれる。
『昔、夢見てて、夢の中で正剛くんに会って、起きたら普通に学校行って部活して、、また夢の中で正剛くんに会ったりして、だから、その正剛くんは私が作り出したんだって、』
「ああ」
『、、でも、ここは現実なんでしょ?』
夢であってほしい、そう思いながら正剛くんをサングラス越しに見つめると、逸らすことなく突きつけた。
「現実だ。」
認めざるを得ない。
手の温もりもリアルに感じられるし、心臓の音も、目が熱くなる感覚も。こんなの全部、夢で感じたことがない。
「とりあえず、ゆっくり考えればいい、落ち着いたらまた話をしよう」
そう言って正剛くんは奥の部屋へ案内してくれた。
正剛くんの言葉通り、畳の上の座布団に腰を下ろし、少し落ち着いてきたところで今の状況を考える。
事故にあった、と思う。あの感覚は忘れない、恐怖と痛みが押し寄せてきて、気を失って目を覚ませば見覚えのないところで。
夢ではないのか考えて、試しによくある、ほっぺを叩いたりしたら普通に痛かった。
さっきは取り乱してしまったけど、静かなこの空間が落ち着かせてくれる。
…よし、くよくよしてても何も始まらない!
涙はもう流さない。
気持ちを入れ替えたところで、襖を開けて店の方へ行くと、正剛くんが新聞を読んで椅子に座っていた。
私に気がつくとゆっくり視線が合う。
『さっきはごめんね』
「大丈夫か」
『…うん、もう切り替えた!』
おそらく赤くなった目元と鼻先のまま、にひっと笑う。本当に、気持ちの切り替えはできた。
だから、次は今がどうなって、目の前の正剛くんはあの頃の正剛くんとどう変わったのか、今がいつなのか、色々確認したい。
『夢みたいな話、聞いてくれる?』
「当たり前だ」
『さっきも言った通りなんだけどね、』
全てを話してみた。
ただ、アニメとかそういうのは省いて、私の世界での話。
普通の学生であったこと。正剛くんとは私が見る夢の中で会っていたこと。それは本当に私が作り出した夢だと思っていたこと。
そして、事故にあった私の最後…
私の事故のことを聞いた時は、さすがの正剛くんも動揺していたけど。
『てわけで、私が1番混乱してるんだけど』
「オマエは今、生きてるんだろ?」
『え?生きてるよもちろん』
「なら、それでいい。大事な友人が、生きてるなら」
なんてことを言ってくれるんだ正剛くん、泣いちまうぞ。
「俺だってなあ、あの頃のことは全て夢かと思っていた」
『正剛くんも?もしかして夢で会ってた?』
「いや、一度だけ、オマエが目の前で消えたことがあった。それが最後だったな」
『ええぇ、私そんなホラーなことしたの、』
それから会わなくて、再び会えたのが今、というわけらしい。
お互いの状況を大まかに把握できたところで、正剛くんが爆弾発言を。
「で?さっきも言ったが、オマエの見た目があの頃と変わってないのは何故だ?」
『あの頃?』
「中学か?もっと若いか?」
『は?ちょっと鏡!手鏡!貸して!』
そんなものは無い、と言われて、慌てて洗面台を探しなんとか見つけると、そこに映るのは垢抜けていない、幼い私の姿。
なんじゃこれ〜!!
『正剛くん!!!私今24だよ!?なんか記憶的に10歳ぐらいなんだけど!?』
「だからそう言ってるだろう」
ちょっと待って、何で私若くなってる!?
この見た目は夢をよくみてた時の私だ。てことは、11?12とかかな。
『あ!鞄!』
私と一緒に鞄が落ちていて、それも保管してくれていると言ってたのを思い出し、急いで少し大きめのそれを確認する。
中身は、ほぼ空っぽみたいなものだったが、財布と、写真らしきものと、通帳と、ポーチと、手紙、そしてサッカーボールが入っていた。ボールが入ってたから大きな鞄なわけだ。
一つずつ、まずは財布を確認するとこちらの世界の身分証明書てきなものもあって、生年月日を確認してから正剛くんに見せるとちょうど今11歳で、もうすぐ中学生になると教えてもらう。小6まじか。
通帳は見覚えがないが私の名義で、中身を確認すると恐ろしいぐらいの金額が入金されていて、思わず正剛くんに投げつけてしまった。
ポーチの中には夢の中で出会った人たちとの思い出の品だったり、それはまあ後ほど。
それから、写真はなんと、私の向こうの世界でのサッカー仲間と優勝した時の集合写真だった。思わず涙ぐんでしまったが、泣かないと決めたのでなんとか涙を流さずに我慢した。宝物にする、これはこれだけは私が唯一、向こうで生きた証なんだから。
そして、最後の手紙…
背景 名字妃鞠様
新たな人生を、こちらの世界で。
生きていくためのお手伝いは致します。
のみ、書かれていた。
なんかもう、あり得ない話だけど神様とかそういう存在からの手紙なんでしょう。諦めて受け入れてる私がいる。
とりあえず、このお手伝いってのが通帳のお金と身分証明書なんでしょうね。
その身分証明書を正剛くんに渡して確認してもらうと、
「妃鞠、俺の親戚になってるぞ」
まじか。
そして一段落したところで、私がこれから住む家は?となって、色々書類やらを確認したところ、
私の住処はここからすごく近いマンション。正剛くん曰く、外見が綺麗なとこでセキュリティもきちんとしてる場所らしい、やったね。
ただ幼い学生が一人暮らしは世間的に心配とのことで、本当の家はそこだけど、正剛くんがここに居座ってくれても良いと言ってくれたので、私のお部屋も作ってもらった。本当ありがとう…!
まあ、中身は成人してるし、一人暮らしも経験済みなんだけどね。
一応、神様からもらったお金はあるしなんとかやっていけそうだけど、正剛くんのお手伝いもすることにした。バイトという名の居候代。
こうして、私の第二の人生が新しく始まった。
