円堂との出会い
運命の出会いをしてしまいました。「すっげえええ!!!なんだ今のボール!こんなボールを蹴る人がいるなんて驚いたぜ!俺もサッカーやってるんだ!ゴールキーパー!すっげえなあ!!あ!俺円堂守って言うんだ!よろしくな!!」
「よ、よろしく?」
正剛くんの家での生活にもだいぶ慣れてきて、朝は買い出し、昼から店のお手伝い、夕方はジョギング帰ってから後片付けが日課となっていた。
そんな日常が一週間続いた今日、正剛くんがサッカーボールをプレゼントしてくれた。「名字が持っていたサッカーボールは大事に置いておけ」と。
嬉しくて早速もらったサッカーボールで誰もいない道を走りながらドリブルしたり、人通りが多いところでは手に持ってウォーキングしたり。いつもより長い時間外を走っていたそうで、初めの頃は道を覚えるので必死だったのに。
日が沈み出したからか、誰もいない河川敷があったのでそこに備え付けられているサッカーゴールに向かってシュートを決めた。
向こうの世界では毎日ボールを蹴っていたから、久しぶりに蹴るこの感覚が全身を巡り、改めてサッカーが私の一部になっていた事に気付かされた。
嬉しくなって何度も何度もシュートを決めたりドリブルしたり、リフティングしたりとしていると、この世界はイナズマイレブンなのだから、もしかしたら私にも必殺技が打てるのではないかと思い、ボールを思いっきり蹴った。
まあ、必殺技なんて出来なかったけど。
ちょっと期待して恥ずかしくなった気持ちを隠すように、ゴール内に転がっているボールを取りに行く途中に声をかけられたのだ。
彼と目が合った瞬間、私の鼓動がドクンと高鳴った。
オレンジのバンダナに茶色の髪、キラキラした丸い目に眩しい笑顔。
服は私服なのか、ラフな格好で雷門中のジャージかユニフォームを見慣れていた私にはそれが珍しく感じた。
そう、この物語の主人公、円堂守との出会いをしたこの日のおかげで、私の人生は沢山の様々な出会いをすることになるのだ。
円堂守のサッカーへの思いと、私への興味、自己紹介の圧がすごくて、私は名乗っていないことに気付いた。
「あ…、私は名字妃鞠」
「名字か!なあサッカーやってるのか?」
「えっと、うん、サッカー大好きなの!」
「ほんとか!?」
未だに転がっているサッカーボールを取りに行きながら彼と話をする。
一応、世界のプレーヤーと試合をしてました、なんて言っても、こんな小さい子が代表?何言ってるんだ?となるし、この世界は必殺技という強力な切り札がある。私の世界のサッカーはいたってシンプルで、炎が出たり氷が出たりボールが分身したりとかはなかった。
ここで調子に乗ってたら返り討ちにあうかもしれない。
ほんと、と声に出し頷くと、すごくキラキラした目を向けてくれるので、私に興味を示してくれている事は明らかだ。
「なあ!一緒にサッカーやろうぜ!」
ああ、私のチームメイトたちごめん。
あのサッカーやろうぜ!を生で聞いてしまった。
それを言われた私の心に暖かい何かが広がって行く感じがした。自然と私はうん!と元気よく返事をしていた。
「あ、でも暗くなってきたからまた今度かな?」
「そっか、残念だな〜」
さっきまでのキラキラ目は何処に。
しょんぼりオーラを出しながら、顔を伏せてしまった円堂がすごく可愛く感じる。何しろ私は成人済みだ。これがショタコンってやつなんだろうか恐ろしい。
そんな円堂を放置するわけもなく、慌てて弁解する。
「私よくこの辺りでジョギングとかしてるし、ここ気に入っちゃったからまた来るよ!円堂とサッカーしたいから!」
「名字…!俺も一緒にやりたい!昼とかよくこの河川敷で練習してるから、名字も良かったら来てくれよ!」
「うーん、お昼はちょっと用事あるけど、絶対行くね!」
「おう!約束だ!」
「約束!」
子指を円堂に向けると、応えるように笑って私の指に円堂が絡めた。
指切りげんまん嘘ついたら針千本のーばす、指切った!
「ふふっ、指切りなんていつぶりかしら」
「俺も!」
「じゃあ私、そろそろ行くね。またね!」
「絶対サッカーやろうぜ!」
河川敷を駆け上がって、橋の上からまだ私の方を見ている円堂に手を振ると、太陽のような笑顔を見せながら、振り返してくれる円堂。
浮かれた気持ちを抑えきれず、家に戻った時も顔がにやけていたのか、正剛くんに引き気味の心配された。
「新しい友達ができたの!その子とね、今度サッカーやろうって!」
「そうか、良かったな」
「うん!正剛くんがボール買ってくれたおかげよ!ありがとう!」
手に持っているボールを見せながら言うと、一瞬呆気にとられていたが、すぐにいつも通りのニヤリとした表情に。
「ふっ、ほら皿洗いが残ってるぞ」
「はーい、手伝いまーす!」
私はこの日を絶対に忘れない。
円堂守と出会ったあの場所、あの空、あの気持ち。
私の中に深く刻まれた思い出になる。
