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酔いどれ炎柱


任務明けの朝方。疲れた体を引きずりながら、帰路に就こうと思った矢先、「伝令ィ!」と叫びながら鎹烏が飛んできた。

正直、今は勘弁してほしいが、私の上を旋回しながら叫び散らす鎹烏を、さすがに無視できない。

「伝令ィ!音柱ヨリ雨宮深月ヘ!今スグ来イ!」

そんな乱暴な伝令があるだろうか。
でも柱に逆らえば、命がいくつあっても足りない。

鎹烏が方向転換したので、渋々それに着いていった。


*****


鎹烏に案内されたのは、何故か飲み屋だった。そこそこ嫌な予感がする。

「本当にここで合ってる?何かの間違いじゃない?」
「合ッテル!早ク入レェ!」

一応、鎹烏に確認してみたが、容赦ない返事が帰って来た。

朝方から飲み屋に呼ぶなど、音柱様は一体何を考えているのだろうか。
私は今すぐ布団に飛び込みたい気分を抑え込み、飲み屋の戸を開けた。

奥から大きな声が聞こえる。音柱様の声だ。
店の人に会釈をして、音柱様の声がする方へ足を進める。

軽い仕切りの向こう側、座敷席を覗きこむ。

そこには音柱様と、私が尊敬している炎柱様──煉󠄁獄さんが居た。

…………よし、見なかったことにして帰ろう。

「遅えぞ!」

見つかってた。そりゃそうですよね。
私は座敷に上がり、畳の隅で正座する。

「お早う御座います。音柱様、炎柱様。遅くなりまして申し訳御座いません」

任務帰りにわざわざ呼びつけられた私のどこに非があるのかわからないけど、とりあえず頭を下げる。

顔をあげる前に、ふっと視界が暗くなった。
影の大きさと気配からして、煉󠄁獄さんだろうか。

恐る恐る顔を上げると、煉󠄁獄さんはべろんべろんというか、ふにゃふにゃになった顔で、私の前に座っていた。

「煉󠄁獄さ──きゃああ!!」

煉󠄁獄さんが無言で抱き付いてきたので、私は思わず悲鳴を上げてしまった。悲鳴を上げるなど、何年ぶりだろうか。鬼殺隊に入ってからは、悲鳴をあげる前に鬼を切り伏せていたからなあ。

煉󠄁獄さんがぎゅうぎゅうと私の体を締め付けてくるので、疲れや眠気など吹っ飛んでいく。嬉しいけど恥ずかしい。どうするのが正解なのかわからない。

煉󠄁獄さんの肩越しに、音柱様が爆笑しているのが見える。

「煉󠄁獄さん、離してください!音柱様、これはどういうことですか!?」

煉󠄁獄さんはむにゃむにゃ言ってるだけだし、音柱様は腹を抱えて笑っている。
ここに私の味方はいないらしい。

ひとしきり笑った音柱様が、ひいひい言いながらこの状況を説明してくれた。

音柱様は煉󠄁獄さんから何かの相談を受け、「ならば酔った勢いで行けばいい!」と助言したらしい。その後の結果は見た通り。とりあえず、煉󠄁獄さんにしこたま酒を飲ませたらしい。

ちなみに、何の相談だったのかは教えてくれなかった。

柱はそんなに暇じゃないだろうと思ったが、なんと日の出から飲み始めたとのこと。
机には、夥しい数の酒の容器が転がっているが、たった数時間でこんなに飲んだのか。

「深月……」

煉󠄁獄さんが耳元で私の名前を囁いて、頬擦りしてきた。
今、私の顔は真っ赤だろう。

「後は頼んだ」

音柱様は、そう言い残して去ってしまった。引き止める暇もなかった。

「れ、煉󠄁獄さん、とりあえずお家に帰りましょう」

上擦る声でそう言うと、煉󠄁獄さんは小さい子がイヤイヤをするように首を振った。
煉󠄁獄さんの髪が、首の動きに合わせて、私の首や口元をくすぐる。変な声が出そうだったが、歯を食い縛って耐えた。

「深月、俺は、君のことが……」

私の肩に顔を埋め、もごもごと話し出す煉󠄁獄さん。
早くこの状況をどうにかしなければいけないのに、その言葉の続きを期待してしまう自分がいる。

しかし、続きはいつまで経っても聞こえてこず、煉󠄁獄さんはずるずると私の肩を滑り落ちていった。

「煉󠄁獄さん!」

危ないと思って受け止めようとしたが、煉󠄁獄さんは自力で止まった。だが、その位置が最悪である。

なんで私の胸に顔を埋めて止まっちゃうかな……

煉󠄁獄さんの屈強な両腕は、私の腕を押さえ付けた上で背中に回されているので、煉󠄁獄さんを動かすこともできない。

心臓が、かつて無いほど早く動いている。これ、煉󠄁獄さんに聞こえてるんじゃないだろうか。
そう心配したのも束の間。煉󠄁獄さんは穏やかな寝息を立て始めた。

「そんなとこで寝ないでください!」


*****


その後、数十分かけて煉󠄁獄さんを起こすことには成功したものの、酔いが多少抜けた煉󠄁獄さんは大慌てになった。
御勘定も忘れて帰ってしまったものだから、私が立て替える羽目になった。

もちろん、御勘定については後日音柱様に請求した。

煉󠄁獄さんから話を聞いたらしい音柱様は、「まあ、悪いとは思ってる」と全く悪びれる様子もなく言っていた。




今後どのように煉󠄁獄さんと接すればいいか、私は日々頭を悩ませることとなった。







 




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